悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第14話

 

 

 ソロモンの拠点、ゴエティアから見て北東の方角。城から三百キロは離れた地点に其処は存在する。

 非常に高い山だ。標高は三千メートルを超えている。

 山ではあるモノの木々は無く、岩肌が露出しているその山には、人工物が多数あった。

 それは家だ。四角い、岩を切り抜いたような家々が並んでいる。

 だが家にしては──人が使う家にしては奇妙だ。

 まずどの家も最低三階まで作られている。それだけならまだしも入り口が一階部分に無い。

 次に妙なのはどの家も大きいという事だ。縦に、ではなく横にである。

 更に言えば入り口も大きい。大男が二人は並んで通れる程には横に大きい入口をしている。

 そんな家が千件以上並ぶ妙な山には、当然人以外が住んでいる。

 

 その山の少し離れ、距離にして五キロは離れている平原に一人の女が居た。

 

「今日も変わらない一日かぁ~」

 

 等と呟くのは、一見すると非常に人間に近かった。

 だが明確に人間と違う部分がある。それは背中から大きな翼が生えている点だ。

 片翼は一メートル近くある大きな翼であり、純白の鳥の翼だ。

 

 服装もまた変だ。下半身部分──ズボン等は人のそれと同じだが、上半身は違う。

 女性である為に胸をサラシのような布で巻いて隠している。これは普通の服を着られないからだろう。背中──正確には肩甲骨の少し下あたりから生えている翼は衣服を着る際に非常に邪魔になるだろう。

 

「……どうしよっかな」

 

 などと女──名をエミリーは呟く。

 

 エミリーは翼人族の少女だ。

 

 翼人族は人に翼の生えた外見をした種族であるが、人と違う点が幾つもある。

 一つは言うまでもなくその翼だ。この翼は飾りではなく、実際に空を飛ぶ事が出来る。

 次に寿命。平均して千年の寿命を有する翼人族は人等より長生きだ。

 更には魔法の才も有している。優れた者ならばレベル七の魔法すら行使するそれは、人より優れていると言っていいだろう。

 

「……なんだあれ」

 

 そんな種族であるエミリーは空を眺めていると不意に何かを見つける。

 エミリーの視力は非常に良い。だから気づけたナニカ。

 

「……ワイバーン?」

 

 ワイバーンとは、蜥蜴の前足が被膜の付いた翼に変わっているモンスターの事だ。

 サイズは平均して五メートル程であり、エミリーが見つけたそれは平均より上の八メートルを誇る。

 

 漆黒のワイバーンだ。鱗は黒いが、腹は真逆に白い。

 大きな翼をはためかせるそれは、背の上に人を乗せていた。

 甲冑鎧を着た騎士らしき人物だ。鎧によって性別は分からない。全身ガチガチに固められており、鎧の隙間など見当たらない。まるで鎧がそのまま動いてるかのような印象を受ける。

 鎧もまたワイバーンと同じく漆黒で染め上げられ、所々に金のスリットが入っている。

 

 ワイバーンは悪魔飛行蜥蜴(ゴエティア・デーモン・ワイバーン)というゴエティアからポップするレベル四十五のワイバーンの姿をした悪魔。

 全身鎧の騎士は悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)。こちらもゴエティアからポップする悪魔であり五十レベルになる。

 悪魔飛行蜥蜴(ゴエティア・デーモン・ワイバーン)はゴエティアの周辺を飛び回る悪魔だ。能力は左程高くないが長射程のファイアブレス能力を持つ。

 

 そのワイバーンと騎士の一組はエミリーの眼前まで飛翔し、ゆっくりと下降してくる。

 

「わ、わ」

 

 エミリーは咄嗟に逃げるかどうか判断に悩んだ。

 

 生まれて初めての翼人族以外の人型生命体を前に、エミリーの判断力ではどうすればよいかわからなかった。

 

「失礼。ここいらに住んでいる者とお見受けする」

「え、あ、はい」

 

 エミリーは悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)の言葉にしどろもどろになりながら対応をする。

 

「私はこの近くに城を構えるソロモンより参りし使者、個体名は無いが、悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)と申す。ここいらの者に挨拶をしたく参った」

「は、はい」

「出来ればここいらの王……そうでなくとも頭目らしき人物に挨拶をしたい。構わないだろうか?」

「──えっと、大丈夫です! わかりました、今から案内しますね!」

 

 エミリーは活発な笑顔でそう返事すると飛び上がる。

 

「このままついてきてください!」

 

 そう言うとエミリーは飛び始める。

 バサバサとはためき、真っすぐと飛んでいく。

 時折後ろを見て悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)が付いてきているか確認しながら十分程飛行すると、山の崖に家を次々おったてた様な奇妙な建築様式の場所──エミリーの故郷に辿り着く。

 

 翼人族の飛行能力は非常に高く、一般的な者でも時速四十キロ程で飛ぶ事が可能だ。

 その翼人族の中でもエミリーは飛行能力に優れており、時速百キロまで出す事が出来る。

 悪魔飛行蜥蜴(ゴエティア・デーモン・ワイバーン)はエミリーの最大速度には若干劣る程度であり、意図して速度を下げているエミリーには追従できる。

 

 悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)悪魔飛行蜥蜴(ゴエティア・デーモン・ワイバーン)は集落に居るほかの翼人族から随分と注目を集めるも、エミリーも悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)も気にはしない。

 

 そのまま少し飛び、他の家とは少し違う。豪華で大きな家にエミリーと悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)はたどり着いた。

 家の前の広間に二人は着地し、悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)はワイバーンから降りる。

 同じように着地したエミリーは翼を閉じ、ドタドタと走りながら家の門をくぐり、叫ぶ。

 

「おとーさん! 客人! なんかすごい人が来たよ!」

 

 エミリーに遅れて悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)が中に入ると、丁度家長らしき人物が奥からやって来た。

 

「なんだエミリー、騒がしくして……誰だ、そいつは」

 

 家長──エミリーの父親は悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)を見て訝しんだ。

 翼の生えていない悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)を見て、エミリーの父親は警戒する。

 

「始めまして。私はソロモンより来たりし使者。悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)と申す。この周辺に国家を築くべく来た者である」

 

 その言葉にエミリーの父親は目を点にした。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「国家造り、か」

 

 魔城ゴエティア、その第七層のバァル・ゼブルの私室で。バァル・ゼブルは椅子に座り優雅にコーヒーを飲みながら計画書を読んでいた。

 

 計画の内容はこうだ。

 

 ゴエティア周辺に存在する人間以外の各種族を集め、国家を樹立させる。そしてその国家──国家ソロモンと神聖王国の間で全面戦争を起こす。

 それこそがオロバスが提案した計画であった。

 

 その計画に入れる種族は多数いる。

 

 地下に暮らす洞窟小人(ドワーフ)。森の森妖精(エルフ)

 闇に住まう吸血鬼(ヴァンパイア)。空に住まう翼人族。大地をかける獣人。

 

 これらはゴエティア周辺で発見された種族だ。見つけたのは主に影の悪魔(シャドウ・デーモン)だが。

 

 それらを一纏めにし、現在森妖精(エルフ)の集落と化している場所に巨大な都市を建設。

 其処を首都にし、異種族国家を形成。神聖王国対異種族の図を描き、背後で悪魔たちが嘲笑う。

 

 それこそがオロバスが提案した計画の全て。悪魔の策謀。

 

 

「さて。オロバスの予想通りならそろそろ捜索隊と悪魔が戦っている頃か?」

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 まだ日が昇り始めた時刻。太陽がらんらんと輝く中、其処に太陽の光は無かった。

 鬱蒼とした森の中。木々が密集しすぎて太陽の光が正しく地面に届かない場所に三十人近い人間が集まっていた。

 

 特徴的なのは二人の人間だ。

 

 他の者達が思い思いの恰好──例えば無地の黒服だったりビキニアーマーだったり森だというのに半裸という自然を舐めている格好をしている者が多いのにも関わらず、二人は決まった服を着ていた。

 緑色の迷彩服であり、ヘルメットもまた迷彩柄である。その格好はバァル・ゼブルが良く知る地球の日本の自衛隊の格好に非常に酷似していた。

 その背中にはファンタジーらしからぬ武装──小銃を背負っている。

 

 IOOにも、銃という武器カテゴリーは存在する。

 専用の職業もあり、ガンナーという職業だってある。

 だがその扱いとしては微妙な所だ。

 ダメージが出にくい、や使いにくい等という事は無い。単に金食い虫なのだ。

 

 IOOにて物理耐性を持つ敵は多く存在し、ゴーストなどの非実体型──アストラル体のモンスターは物理干渉の一切を無効化する等物理無効の敵は多い。

 それにレベル百を超えてくると魔法効果の籠っていない物理攻撃の一切を無効化する敵も多いし、ゴエティアにも多数いる中位悪魔なんかは単なる物理攻撃だけは無効化出来る。

 そういった敵に対処するには当然武器を魔法道具(マジックアイテム)化しないといけない。

 

 そして、銃は当然弾丸を放つ武器である。

 

 実に面倒なことに、大きなダメージ──高レベル帯で通用する武器を作る場合銃弾も魔法道具(マジックアイテム)性にする必要がある。

 更には弾丸事態も高レベルの金属で作る必要が出てくるなど。結構手間暇かかるのである。

 無論別に銃そのものに放つ弾丸に疑似的な魔法道具(マジックアイテム)化させる効果を持たせることも出来る。だがそれだと露骨にダメージが下がる。

 勿論それは銃だけでなく弓にも同じことが言えるし、遠距離攻撃を放つ際に弾道予測などの補助も乗らずプレイヤーの素の実力での遠距離戦を強要されるためガンナーやアーチャーはIOOではマイナー扱いされていた。

 無論きちんと装備を整えプレイヤースキルを高めれば大ダメージを出す事も不可能ではなく、有名な弓使いの高レベルプレイヤーというのもいるにはいる。だがそれでも玄人向けなのは変わらず、IOOでは近接プレイヤーの方が多い。

 

「しかし隊長、ほんとにいるんですかね?」

 

 緑色の服を着た男は、隣の自身より少しばかり背が高い男に問いかけた。

 

「わからん。いるかどうかを調べるのが我々の任務だ」

 

 男は油断なく、森を見据える。

 

 少し待てば森の奥から一つの集団がぬるりと現れる。

 気配一つ無く、足音どころか呼吸音すら立てずに四人組が現れる。

 四人組は全員が黒装束であり、顔も布で隠している為性別すらわからない。

 

「この先を見てきましたが何もありませんでした」

「……本当に何も無かったのか?」

「はい。モンスター一匹見かけませんでした」

 

 その報告に隊長と呼ばれた男は有り得ない、と心の中で言葉を零す。

 

 ──ここは終わりの森。高レベルのモンスター犇めく魔境のはず。それなのに調査して三日経ってもモンスター一匹見つけない。

 

 一体どういうことなのか、と隊長は疑問を抱く。

 

 他に連れて来た者達──冒険者達などモンスターが出ないことをいいことに警戒を薄める者すら出始める次第だ。

 全員がそうでなく、中には一切モンスターが出ない事に警戒心を強める者もいる。

 

「よし。全員傾聴! このまま先に進む。先陣は我々軍が請け負う。冒険者は周囲にパーティで固まり進軍!」

 

 隊長の言葉に冒険者達は勢いよく返事し、態勢を整える。

 

 円形上に森に広がった冒険者達は各々何かしらの手段──魔法や特殊能力(スキル)魔法道具(マジックアイテム)で全員の位置を把握しながら真っすぐと進み始めた。

 隊長と呼ばれた男は森だというのに真っすぐ進む。

 本来人は森という環境で真っすぐ歩けるような生物ではない。

 真っすぐに進もうと身体が左右どちらかに傾き、ほんの少しずつずれてしまうものだ。

 だが隊長にそれは無い。特殊能力(スキル)を習得する事で真っすぐ歩くという行為を可能にしている。

 

 かくしてこの集団が歩き始めて三十分が経った頃。冒険者の一グループから声が上がった。

 

『モンスターの接近を確認。判断を求めます』

 

 使われたのはレベル三の魔法<全体通話>(マス・コール)

 これは<通話>(コール)の魔法を複数人で繋げた魔法であり、一度に繋げられる人数は術者の技量に依存する。

 隊長はそれを魔法道具(マジックアイテム)化したものを所持しており、これを事前に全員と繋げていた。

 ここに居る人間は総勢三十二名だが作った人間が高レベル──あくまで人の世界での話──だったため三十人強は繋げられる。

 

『全員その場で抜刀して待機。モンスターを発見次第攻撃』

 

 隊長が指示を出すと冒険者達から了解の返事が返って来る。

 

 その場で待つ事五分、隊長の耳にもモンスターの足音が聞こえてくる。

 

 大きな足音だ。大地を踏み潰すかのような重厚感ある音。

 

『モンスター発見、戦闘に移ります!』

 

 

 

 

 

 ■

 

「なんだ、あれ」

 

 そのモンスターを最初に見た冒険者はわけがわからない、と呟いた。

 

 出て来たのは奇妙なモンスターだ。

 蛙に無理やり人の要素を合わせたような悪夢のような外見を有するモンスターだ。

 サイズとしては五メートル程。大きな口を開けており、口には黄色く濁った歯が付いている。

 緑色の皮膚を持ち何かわからない体液が滴っている様は気味が悪いの一言に尽きる。

 二足歩行で動く姿は何処か人らしさを見せ、気色悪さを増している。

 

「げへへへ」

 

 下品な男のような笑い声を上げ、モンスター……蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)が攻撃態勢に入る。

 

 それを見た冒険者達は<全体通話>(マス・コール)で連絡してからこちらも攻撃態勢に移る。

 

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は大きく口を開ける。

 

 すわ吐息(ブレス)系の攻撃かと全員が回避行動をとる。

 

 次の瞬間蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は長くて太い舌を伸ばして攻撃する。

 ベタベタした液が付いた気味の悪い紫色の舌だ。それによる遠距離攻撃。

 

 冒険者達四人は散開し回避。

 すかさず冒険者のうちの一人──弓を持つ者が矢をつがえ蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)に向かって放つ。

 

 矢は問題なく蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)に命中する。だが、皮膚に当たった途端矢は力なく大地に落ちた。

 

 ゴエティアに所属する悪魔の大半が持つ魔法効果の伴っていない物理攻撃の無効化。それに矢は阻まれたのだ。

 

 それを知らない冒険者は遠距離攻撃は効果が薄いと判断し近接戦を仕掛ける。

 

「ウォォォ!」

 

 真っ先に動いたのは大剣を持った冒険者だ。

 己の身長ほどもあるのではないかと思える大剣を持ち上げ蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)に接近する。

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は防御行動をとる。両手をクロスし防御の構えだ。

 

 そして衝突。剣と腕がぶつかり合う。

 ギャリギャリという金属同士がぶつかったような硬い音が鳴り響く。

 

「オオオ!」

 

 冒険者は叫び、大剣を力を込めて振り落とす。

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)の腕に深くない傷を残す。

 瞬間蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は大口を開け紫色の霧を吹きだす。

 それを浴びた冒険者は即座に目を閉じバックジャンプ。後方に跳ぶ。

 

「大丈夫か?!」

「毒だ! だが問題はない!」

 

 一定以上の実力者は毒や疫病に対し耐性を持つ。無論それらの耐性以上の攻撃をしてくる者には無意味だが、蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)の毒能力はそこまで高くはない。

 そもそもレベルも三十八と冒険者達より若干上程度。そこまでの差はない。

 

 軍の隊長のレベルが四十。副隊長が三十五。

 冒険者達は平均すれば三十程度だ。この戦士に至っては三十二はある。

 誰もが熟練の冒険者達。終わりの森に向かうのに半端な実力者を連れて来ている訳がない。

 

 ぐっと、蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)が足に力を籠める。

 そしてそのまま跳躍。斜め上に飛び跳ねる。

 森の木々──最低五メートルはある木を超えての跳躍。森の上まで飛び上がった蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は重力に任せ先程遠距離攻撃を放った弓使いに向かって落下する。

 勿論それをただ見ている訳が無い。弓使いの男は走り蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)から逃れようとする。

 

 着地──あるいは着弾。男が走ったのが少しだけ早く、蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は誰にも当たる事無く地面に落ちた。

 

「ヌゥン!」

 

 すかさず大剣を持った冒険者が斬撃を見まいする。

 落下直後で防御も出来ない蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)はその身体に大剣の斬撃をただ受け止める。

 

「ギィィィィヤヤヤ!」

 

 身体を縦に割かれた蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は悲痛の叫びをあげる。

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)の能力は高くない。三十二レベル程度の攻撃でも大ダメージとなる。

 

<雷撃>(ライトニング)!」

 

 仲間のフードを被った冒険者が魔法を唱える。

 放たれる魔法はレベル四の攻撃魔法<雷撃>(ライトニング)だ。

 

 大剣を持った冒険者は横に跳び魔法の射線から逃れる。

 

「ギギギギ!」

 

 電撃のダメージを受けた蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)が悲痛の叫びを上げた。

 

 すかさず大剣の冒険者は特殊能力(スキル)を込めた斬撃を放ち、弓使いは今度は特殊能力(スキル)で強化した矢を放つ。

 魔法使いは再度攻撃魔法の詠唱に入る。

 

 

 五分も経てば、蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は地に伏し、倒れた。

 

「やったか?」

「待て。様子が可笑しいぞ」

 

 倒れた蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)から黒い靄が生じ始める。

 一帯何事かと全員が警戒し、距離を取る。

 

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)から生じる靄は量を増していき遂には蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)の全身を包む。

 かと思った数秒後、蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は靄と共に消えてしまった。

 

「……召喚されたモンスターだったのか?」

 

 IOOにも召喚魔法が存在し、当然この世界にも召喚魔法は知られている。

 召喚魔法でしか呼べない特殊なモンスターや普通に呼べる一般的なモンスター等がいるが、召喚されるモンスターに共通する事項がある。

 経験値を持たず、一度に呼べる数に制限があり、基本的には術者より弱い等だ。

 そういった特徴の中で召喚されたモンスターは死ぬと何も残らないというのがある。全員がそれではないかと思案する。

 

 其処に、物音がした。全員が音の方を向く。

 

「……これはちょっと聞いてないんだが」

 

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)と冒険者達の戦いは拮抗していた。

 特殊能力(スキル)を使用し、ポーションを使用し魔法まで使った戦いだ。

 当然、人の体力は無限などではないから疲れるし消耗する。

 

 森の木々の向こうから蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)が六体、顔を覗かせていた。

 

「……援軍妖精!」

 

 冒険者達は迷わず<全体通話>(マス・コール)で仲間を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、調査隊の目的は果たせず終わった。

 無限にいるのではないかと思われた新種のモンスター……蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)を前に調査隊は撤退を余儀なくされたのだ。

 人とモンスターの戦いは人が圧倒的優位に立てて初めて戦闘が成り立つ。調査隊の平均レベルと同等以上のモンスターの戦いは消耗が激しすぎた。

 蛙の悪魔(フロッグ・デーモン)は命令された通り逃げる者は追わず、立ち向かってくる者だけを襲った。

 

 今回の出来事による死者は二名。負傷者多数という損害は軽微なれど無視は出来ぬ損害を与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

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