悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第15話

 

 

 バァル・ゼブルが異世界に転移して二ヵ月が経った。

 その間、バァル・ゼブルは順調に勢力を拡大していった。迫害される種族を取り込み、勢力に加え入れる。

 少しづつ。だが確実に悪魔の軍勢は力を増していった。

 

 

 

 

「王都の依頼~?」

 

 バッケンの街の冒険者ギルド。そのテーブルの一席で見眼麗しい少女──に見える男が依頼書を前に顔を顰めていた。

 顔を顰めているというのに実に絵になる。ある種の肖像画にも見えなくはない美しさを前に依頼書を持ってきた人間は後ずさりしかける。

 

「ふむ。どういった依頼です?」

 

 そう声を出すのはこれまた美しい女だった。

 容姿端麗という言葉がこれ以上無い程に似合う外見。和服を纏った麗人であり、刀を腰に差している事から戦士だとわかる。

 肌は人形のように白く、シミなど無い。黒髪を靡かせる姿は男を虜にして止まないだろう。

 

 言うまでもなくシュヴァルツ=イルディッシュとパイモンである。

 

 受付嬢が持ってきた依頼書を眺めているパイモンにひょいと顔を覗かせてシュヴァルツも依頼書の内容を見る。

 

「何々? 王都でのパーティへの参加依頼……? 護衛とかではなく?」

 

 その依頼書を見たシュヴァルツは真っ先に疑問を口にする。

 

 シュヴァルツ達は冒険者であり、戦いを生業とする者だ。その人物への依頼がパーティへの参加とはどういうことか。

 パーティの護衛ならばまだわかる。だが参加となると意味が分からない。

 

「そりゃ、貴女達はこのバッケンでも有数というかたった一つの最高位パーティなんですから、パーティへの参加状も来ると思いますよ? まぁ依頼としてくるのは確かに珍しいですが」

 

 シュヴァルツ達は冒険者として活動し、その勢いは正に破竹の勢いだった。

 あっという間にランクを上げ、今のランクは最高位のAだ。

 これには多少運も絡んでいる。普通遭遇する事の無いはずのモンスターと出会い、戦い、ちょっとした盗賊団とも戦い……等などだ。

 一部にはゴエティアから勢力呼んでモンスター呼び寄せてのマッチポンプもあったが、二人は問題なく最高位のAランク冒険者に成れていた。

 

「まぁ、最高位になればこんな依頼も来るか」

 

 へぇ、とパイモンはそれで納得した様子を見せる。

 

「で、この依頼受けます?」

 

 ワクワク、とシュヴァルツは興奮を隠さずパイモンに問いかける。

 

「──受けよっか。面白そうだし」

「よし、そうと決まれば王都までの準備をしなくては!」

 

 旅の支度をしなくては、とシュヴァルツはさぁ準備だと立ち上がる。

 それを諫めたのは受付嬢だった。

 

「いえ、準備はそこまで必要ありません……依頼主の意向で、なんと転移ポータルを使わせてもらう事になってるんです」

「転移ポータルを? そりゃ景気がいい……なんてものじゃないね」

 

 転移ポータルとは国中に張り巡らされた転移魔法のサービスの事だ。

 転移魔法事態はレベル三からあるが、実用性のある──長距離の転移が可能なのはレベル五からになる。

 一般的にレベル三の魔法が使えれば一人前とされるこの国で、レベル五の魔法を前提にしたサービスというのは非常に貴重になる。

 勿論単にレベル五の魔法が使える魔法使いを使っている訳ではない。IOOには無かった装備品や儀式魔法によってそのレベルに達してない者でも高位の魔法を仕える様にする術があり、転移ポータルもそれに属する。

 だからと言ってただという訳ではなく、時間も多少かかり貴重な触媒を使う為に金もかかる。

 

「料金はこっちもちとかじゃないですよね?」

 

 ゴエティアに資金を送ったり現地調査の為色々と買っているシュヴァルツが不安そうに尋ねる。

 

「そもそも個人で使えるものでもないですし、ちゃんと使用料金は今回の依頼主である藤原秀彦様が支払いますよ」

「ならいいですね! さぁ行きましょうすぐ行きましょうほら行きましょう!」

「お前なんかキャラ変わってない?」

 

 ワクワクが止められない、という風のシュヴァルツにパイモンは引きずられるように依頼の受注をさせられた。

 

「それと、今回の依頼必要な物は全部藤原様が用意するらしいですよ。太っ腹ですねぇ」

「必要な物というと?」

「そりゃパーティドレスとかですかね? こういうパーティに縁がないのでわかりませんが……」

「まぁ何もいらないってのは楽でいいね」

 

 

 

 ■

 

 冒険者ギルドで依頼を受けた二人は依頼にあるパーティの日にある建物までやってきていた。時刻は午後二時である。

 其処にあるのは大きな建物だ。三階建ての建造物であり横に大きい。

 中に入るとシュヴァルツは受付に進み、懐から紹介状を受付嬢に手渡す。

 紹介状を閲覧した受付嬢は「シヴァ・イルデ様とペイル・ルル様ですね。どうぞこちらへ」と奥の部屋へと案内する。

 

 案内された部屋は妙に暗かった。

 壁には魔法の灯りである<光>(ルーメン)が込められた魔法道具(マジックアイテム)であろう灯りがあるが光量が下げられているのか部屋が嫌に暗い。

 暗視能力を持つパイモンと魔法的手段で感知し視界を持って動いている訳ではないシュヴァルツの人形には関係ない事だが、人にとっては暗くて使いにくいだろうとパイモンは妙な事を思う。

 部屋の床には黒い塗料で魔法陣が描かれていた。

 円に七角形を描き最期によくわからない言語で円を描いている魔法陣だ。

 魔法陣の奥にはこれまた黒いローブを纏った男が捻じ曲がった杖を手に座って居る。

 

 シュヴァルツとパイモンが部屋に入ると受付嬢は其処で終わり、部屋には入らない。

 

「えーと、これで転移して貰えるってことでいいのかな?」

 

 パイモンは恐る恐る奥の男に話しかける。

 男は椅子から立ち上がり、「そうです」と短く返した。

 

「魔法陣の中心に立ってください。魔法を行使します」

 

 シュヴァルツとパイモンは言われるがまま魔法陣の中心に立つ。

 男は魔法陣の外から動かない。

 

「では、魔法を行使します」

 

 一拍おいてから、男は魔法を唱えた。

 

<超越(トゥランセンド)下位転移>(レッサーテレポーテーション)

 

 魔法陣が光り輝き、シュヴァルツとパイモンは光に包まれた。

 

 光は直ぐに消え、パイモンは思わず閉じた目を開く。

 其処は変わらず魔法陣が描かれた暗い部屋だった。

 

「ようこそ。王都へ」

 

 違うのは、黒いフードを被った人物だ。声からして女だとわかる。

 

 シュヴァルツとパイモンは女に一礼してから部屋を出る。

 部屋を出た先は、微妙に入って来た建物と配置が違った。

 案内板に従い入口まで行くと、其処もはやはり微妙に違う。

 

 入口から外に出ると、一目見て違うとわかった。

 

「へぇ……」

 

 思わずパイモンの口から感嘆の声が上がった。

 

 まず眼に映ったのは巨大なタワーだ。

 パイモンの目からはわからないが、それでも百メートルは優に超えている赤い建造物が目につく。

 

「先ずは屋敷に向かいましょうか」

 

 シュヴァルツはそう言い、建物から出て道へと進む。

 

「これは……」

 

 その道は、シュヴァルツとパイモンの知識に無い物だった。

 

 歩道と車道で別れているのはバッケンと同じだが、車道と歩道に見慣れない物があった。

 

 車道側には長いポールの横に板がついたそれには蓋が三つ程付いている異様なフォルム。

 時折蓋が開き、魔法の輝きで赤、青、黄色の光を出している。

 

 歩道側にも似たようなものがあり此方は蓋は二つであり、色も赤と青の二種類だ。

 歩道側には青い方に歩く人の絵のようなものが、赤い方には止まる人の絵のようなものが付いている。

 

 シュヴァルツとパイモンの知識に無い物──信号機である。

 

「え、なにこれ」

 

 パイモンは車道を走る見知らぬ物に驚愕した。

 

 バッケンで車道を走るのは基本人か馬車だ。

 人と言っても移動速度を上げた冒険者などの代わり者だけであり、基本は馬車だ。

 

 だがここには馬車は一台も走っていない。

 

 見た事の無い長方形型の形、四方にゴム製のタイヤが付いている。正面にはガラスで視界が確保出来るようになっている。

 ガラスが着いた四角い箱と形容できそうなものであり、それが自走して走っている。

 それの前方にはやはり蓋が付いているパーツもある。

 此方もまたシュヴァルツとパイモンの知識に無い物であり、IOOには欠片も無かった代物──車である。

 車の形としては地球の日本の昭和の物に近い。

 

「おや、貴女達は王都に来るのは始めてですか?」

 

 そんな驚愕に固まる二人に声をかける者がいた。

 

 青い服を纏った男だ。腰には棒が一つ、拳銃が一つ付いている。

 青い帽子を纏った好青年、という雰囲気だ。

 

「警察の方ですか? あれはいったい……」

 

 シュヴァルツは男の恰好から警察と判断し、素直に問いかける。

 

「あれは車というもので、この王都では一般的な乗り物ですよ。王都以外じゃ五代公爵都市ぐらいでしか見かけませんからね」

 

 警官は微笑む。

 

「ほへー。車っていうのか、凄いな……」

 

 パイモンは素直に人が作った代物を褒める。

 

「あれって誰でも乗れるものなんですか?」

 

 ワクワクとシュヴァルツは警官に問いかける。

 

「いえ、乗って操るには免許が必要です。専用の技能講習を得た後でないと乗車は出来ません」

「そうですか……」

「ですが、単に車に乗って移動するだけならばバスやタクシーという物があります。あ、ほら丁度あそこに」

 

 警官が指さした先には車の上に王都タクシーと書かれた車が走っていた。

 

「あれはタクシーで、料金を払う事で目的の所まで運んでくれるんです……お二人は冒険者ですよね。失礼ですがランクは?」

「Aランクですが」

「Aランクですか! でしたら王都タクシーなら最大料金五千ゴルドまでで何処にでも行けますよ」

「それはそれは、ありがとうございます。乗ってみます! ──どう乗れば?!」

 

 シュヴァルツは早速次に来たタクシーに乗ろうと決意するが乗り方がわからない。

 

「タクシーの前で手を上げてください。それが乗車したいという意志表示になります」

「なるほど。ありがとうございます!」

 

 シュヴァルツは早速タクシーが来たので歩道から少し身を乗り出しながら手を上げる。

 それを見たタクシーはシュヴァルツの前で止まる。

 ワクワクとタクシーに乗ろうとしたシュヴァルツだが、どう入ればいいのか分からなかった。

 それを察した警官がタクシーにより、ドアを開ける。

 

「ありがとうございます!」

 

 ペイルも早く、とシュヴァルツはパイモンをせかし、車に乗り込んでいく。

 シュヴァルツは刀を腰にさしたままだと座れないので抜いて手に持つ。

 

「良い観光を」

 

 警官はそう言うとシュヴァルツ達から離れ、見回りに戻っていく。

 

「お客さん、どちらまで?」

「えっと、藤原邸宅までお願いします」

 

 今回のパーティが行われる場所は藤原秀彦が王都に有する屋敷で行われる。

 

「わかりました。シートベルトをお願いします」

「しーとべると?」

 

 ありゃ、と運転手の男はシュヴァルツとパイモンを見て納得したかのように頷いた。

 

「外から来た冒険者ですかい? シートベルトってのは席の横に付いている紐です」

 

 運転手に言われるがままシュヴァルツとパイモンはシートベルトを取る。

 

「うわなにこれ面白」

 

 パイモンは伸びるシートベルトを面白そうに弄る。

 

「んでそれを下にある差し込み口に差すんです」

 

 シュヴァルツとパイモンは同時に差し込み口に差し、シートベルト着用が終わる。

 

「では、行きますよ」

 

 そう言うとタクシーは出発する。

 

 タクシーは藤原邸宅まで進んでいく。

 

 ファンタジーに似つかわしくないこの車は何なのか、と言うとゴーレムだ。

 IOOにおいては雑兵として扱われるゴーレムであり、知性も左程高くないゴーレムだが科学知識と合わさった結果生まれたのが車型のゴーレムである。

 より正確に言うならば子型ゴーレムの群体というのが近いだろう。魔法道具(マジックアイテム)とゴーレム技術の合わせ技であり、半分バグ技に近い。

 車にはCDレコーダーやラジオチャンネル等は無いがそれでも日本の車と同等の最高速度を出す事が出来るし、魔法道具(マジックアイテム)で夏場は涼しく冬は暖かく出来る。

 勿論値段はそれなりにというか非常に高い。だがローンが聞くうえ、これは魔法道具(マジックアイテム)である。

 一度購入してしまえば経年劣化や破損をせず、正常に使い続ければ例え千年だろうと持つのが魔法の理不尽な所である。

 車型ゴーレムが開発されて五十年近くたち、誰もがローン等で購入していった結果が車の溢れた時代の突入という訳だ。

 

 

 パイモンとシュヴァルツは窓の外を興味深そうに見つめながら走る事三十分近く。目的地に到達する。

 

 非常に大きい邸宅だ。屋敷の大きさもさることながら庭まで広い。

 その門の前でタクシーは止まり、シュヴァルツが支払いを済ませた後降りる。

 門の前には警備兵らしき男が二人組いる。

 

 片方の男にシュヴァルツは紹介状片手に近づく。

 

「今晩のパーティに参加する方でしょうか?」

 

 と警備員は規律よく声をかける。

 

「はい。招待状を持ってきました」

 

 シュヴァルツは紹介状を警備員に渡す。

 

「確かに拝見しました。ですがパーティ開始までまだ時間がありますがどうしますか?」

「と。言うと?」

「まだ二時間程パーティまで時間があります。それまで外で待っていただく事も出来ますが、中でお待ちいただく事も出来ます。中でお待ちいただく場合は軽食の用意と多少の娯楽品がありますが」

「うーん。中で待とうか。外でぶらつくと迷子になりそうだし」

 

 無論実際に迷子になる事など早々ない。

 シュヴァルツには探知能力がある為迷子などとは無縁だし、パイモンも記憶力は良い方だ。

 

 二人は門を潜り抜け、庭へと入る。

 

 警備員が先導し、屋敷の大扉に着くと警備員は扉を開ける。

 

「どうぞ。お入りください」

 

 シュヴァルツとパイモンは一礼すると屋敷の中に入る。

 

 屋敷の中は妙に明るかった。

 

 天井からは<光>(ルーメン)の魔法効果が着いたシャンデリアがぶら下がり、正面には螺旋状の階段が広がっている。

 左右に分かれている階段の壁には剣を掲げた男の肖像画が置かれている。

 

「シヴァ・イルデ様とペイル・ルル様ですね」

 

 と、其処にメイドが声をかけた。

 年老いた、老年と言える年齢の女性のメイドだ。

 

「へぇ。よくわかったね」

 

 パイモンは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「私は藤原家に仕えるメイドでございます。お客様の名前と顔を覚えるのは当然の事でございますから」

 

 ふぅん、とパイモンは軽く感心する。

 

 メイドとして外見は兎も角技量はうちの──ゴエティアのメイド悪魔に匹敵するかもしれないと多少警戒をする。

 

「さてお客様。どちらに行きましょうか。遊戯室や図書室でお待ちいただく事も出来ますが……」

「あ、なら遊戯室ってのに行きたいです。ゲームがあるんですよね?」

「えぇ。この王都の流行りの物は勿論、昔ながらのも多数取り揃えております」

「じゃあ其処にいこっか」

 

 パイモンとしても断る理由もないため三人は遊戯室に向かう。

 

 左の階段を上り、廊下を少し歩くと大きなドアの前に着く。

 

「どうぞこちらへ」

 

 メイドがドアを開けると、其処は多少ごちゃ付いている印象を受ける部屋だった。

 

 最初に目に付くのはビリヤード。入口近くの扉に置かれている。

 次にダーツ、そして奥にはもっと多数のゲームがある。

 そして部屋にはいくつか机やテーブルがあり、其処には豪華な服を纏った者達がいる。

 誰も笑顔でテーブルの上のゲームに夢中になっており、新しく部屋に入って来たシュヴァルツとパイモンに見向きもしない。

 

 シュヴァルツは部屋を歩きながら、一つのテーブルに眼が行く。

 

「お、将棋ですね」

 

 其処にあったのは将棋盤だ。

 将棋ならばシュヴァルツとパイモン両方が知っているし、ゴエティアにもある遊戯だ。

 

 二人は席について将棋を始める。

 

「あ、これ説明付きですね」

 

 そして将棋を始め、駒を手に取ると駒の行き先がホログラムで表示される。

 これはIOOにもあったものであり、現地で買った将棋には無かったものだ。

 やはり大貴族が持っている物の為質が良いのだろうとシュヴァルツは辺りを付ける。

 

 二人は集中して一局を差す。

 

 シュヴァルツはエンシェントドラゴン。パイモンは上位悪魔。

 互いに高レベル故の高速思考能力を持ち、一手討つ間に何十手先の未来を見る。

 

 そうして十分程経てば人が寄って来て勝手に観戦を始める。

 

 それを二人は気にせず将棋を指していき、二十分程経った頃に決着はついた。

 

「……負けました」

 

 将棋のルールにのっとりパイモンが頭を下げるが、顔には隠せない悔しさがにじみ出ている。

 

 おお、と観客から歓声が湧き出る。

 

 其処に、一人の男が拍手をしながら躍り出て来た。

 

「いやー、実に良い対局でした。そこの貴女。どうでしょうか、私と一局やってみませんか?」

 

 出てきたのは軽薄そうな男だ。だが服は豪華だとシュヴァルツの探知能力でわかる。

 青い髪と同じく青い瞳を持つ好青年といった雰囲気であり、カラカラと笑っている。

 

「ふむ。貴方は?」

「これは失礼。私はハンス・シュミット。しがない貴族だよ」

 

 シュヴァルツの聴力──というか探知能力──でシュヴァルツは周囲の人間の反応をうかがう。

 

 大貴族の方だ。ゲーム好きとして有名な方だよな。あの美女のぱいもつ揉みてぇ。プロの将棋棋士の方じゃないか。

 藤原様が招待したのか──等など。

 

 それらの反応からシュヴァルツは有名人だとわかり、対局を避けようかと一瞬考えるもこれで縁が出来たらそれはそれで都合が良いと対局を受けることを決意する。

 

「……私はシヴァ・イルデです。良いですよ。一局さしましょうか」

 

 パイモンが言われるまでもなく席を立つ。

 ハンスはパイモンが座って居た席に座り、対局が始まる。

 

 暫くの間、パチ、パチと駒を差す音だけが成る。

 

 この一局を周囲に人間は黙って見守る。見守るしかない。

 対局は恐ろしい程に高速で行われる。相手が一手差したら即座に差し返す。

 いや、シュヴァルツは止まらないがハンスは時折手が止まるがそれも数秒だけだ。

 

 

「……」

 

 シュヴァルツは思う。強いな、と。

 シュヴァルツの将棋経験は正直な所殆どない。精々が人の世界に来てから暇つぶしでパイモンと差したのが数回と人付き合い──主に老人相手にしたのがあるだけだ。

 だが、シュヴァルツはエンシェントドラゴンだ。高レベル故に脳機能が人外の域に達している。

 意識的にタキサキア現象──死の間際に全てがスローに見える現象──を起こすことも出来るし、スーパーコンピューター並みの高速計算だって出来る。演算は出来ない。

 正し地頭敵にはそこまでよく作られていない。智者として生み出されたオロバスなどはスーパーコンピューターより正確な未来予測だって出来るだろう。

 

 その頭脳を持ってして思う。強いと。

 

 対局して三十分が経った頃。シュヴァルツの手が五秒ほど止まる。

 

 一手に悩んだのだ。そして直ぐに手を打つ。

 

 こうした対局は長時間続いた。

 

 其処に、新しく部屋にやって来る者がいた。

 メイドだ。シュヴァルツとパイモンを案内したメイドが部屋に来る。

 

「皆さま。パーティ開始まで残り二十分となりましたのでご準備の方をお願いします」

 

 メイドの言葉に部屋に居る者達は次々に部屋を出ていく。

 

「し──ヴァ、そろそろ準備しろだって」

「先に行ってください。私は後で行きます」

 

 パイモンが部屋を出ようと提案するもシュヴァルツは一瞥する。

 

「……じゃあ先出て準備してるね」

 

 パイモンは何ハマってんだという目でシュヴァルツを見てから部屋を出る。

 

 シュヴァルツとハンス以外の全員が部屋を出た後も対局は続く。

 

 そうして二十分後──シュヴァルツは投了した。

 

「いや、良い対局でした。ありがとうございます」

 

 ハンスは立ち上がり、右手を差し出す。

 

「こちらこそ良い試合でした」

 

 シュヴァルツもまた立ち上がり、右手を差し出し握手をする。

 其処に部屋にまたしてもメイドが入って来る。

 

「あの……パーティの時間なのですが……」

 

 その言葉に二人は「あ」と間抜けな声を漏らしたのだった。

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