悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第19話

 

 バァル・ゼブルが終わりの森に作り出した首都、ヘブルには多数の種族がひしめき合う。

 森妖精(エルフ)洞窟小人(ドワーフ)。翼人族に吸血鬼(ヴァンパイア)。獣人に蜥蜴人(リザードマン)

 多数の種族が住まう都市は、混沌としている。

 

 まず第一に目に着くのは木々の領域だ。

 巨大な太い木々にはツリーハウスが建てられており、家々が並ぶ。

 かと思えば、すぐ隣の地区では人間サイズの家々が並ぶ。

 家の作りも神聖王国の物に近い──日本に近しい作りの家々だ。

 森の木々をなぎ倒し、地面を平らにし、材料を森司祭(ドルイド)の魔法で作り出して建築した家々だ。

 そうした家々が並ぶ場所の奥に、酒場が一軒建っている。

 

 作りはよくある平凡な作りである。

 中が少々他と比べれば広い程度であり、大したものではない。大衆酒場の一つである。

 

 その奥のテーブル席で、多種族が酒を嗜んでいた。

 

 森妖精(エルフ)の男に洞窟小人(ドワーフ)の男。最後に狼の獣人の女の三人だ。

 三人はエールを手に乾杯! とグラスをぶつけ合う。

 

「しかしここは良いな! 飯も美味いし酒も美味い!」

 

 洞窟小人(ドワーフ)の男、ツガルが酒を口にしながらそう叫ぶ。

 

「まったくだ。飯が美味いのは最高だ」

 

 うんうんと返事を返すのは狼の獣人、名をガルド。

 

「しかし、神聖王国に追いやられていた我々が今やこうして都市を持ち、堂々と日の元を歩けるとはな」

 

 これまで洞窟小人(ドワーフ)も獣人も森妖精(エルフ)も表を堂々と歩けるような者では無かった。

 洞窟小人(ドワーフ)は地下に隠れ、獣人もまた森に隠れ潜む。そうするしかなかった。

 隠れ潜む生活は惨めなモノだった。だが今やそれはなく、どうどうと太陽の元を歩いて行けるのだから人生何があるかわからないと笑う。

 

「……ここなら、神聖王国を滅ぼせるんじゃないかな」

 

 ポツリ、と森妖精(エルフ)、アランが呟いた。

 

「おい、それは……」

「過ぎた考えだぞ」

 

 ツガルとガルドが諫めようとする。

 

「だが思わないか? 我々はこれまで狩られる立場だった。今度はこちらが狩る番だと」

「……そう思わないと言えば嘘になる。我らも知っている部族が神聖王国に滅ぼされた事は多い」

 

 獣人は神聖王国の裏ではペットとして飼われる事がある。その為に好事家が裏で狩りをする事も多々ある。

 そう言ったことで被害を受けた部族など数えれば百を超えるだろう。

 

「だからこそ、この都市、国だ。バァル・ゼブル様なら、悪しき神聖王国を打ち破ってくれるのではないかと──」

 

 

 

 

 ■

 

 

「つっかれた! マジ最悪!」

 

 バァル・ゼブルは自身の部屋に転移するなりそう叫んだ。

 部屋に居たメイドが驚くが、バァル・ゼブルは気にしない。

 特殊能力(スキル)で早や着替えを行い装備を女ものの服から普段装備のレベル七の装備に切り替え、特殊能力(スキル)で本来の姿、第二形態に戻る。

 二百二十センチの長身。縫い付けられ閉じた両目に額に縫い目。こめかみから黒い結晶にも似た角が生え、王冠を被り宝石の付いた服を着た異形の悪魔。

 バァル・ゼブルの普段の姿に戻ると同時に魔法を行使する使う魔法は<通話>(コール)だ。

 

『オロバスか? 話したい事がある。直ぐに自室まで来てくれ』

『畏まりました。バァル・ゼブル様』

 

 バァル・ゼブルはメイドに茶菓子とコーヒーの用意をさせ、椅子に座ってオロバスが来るのを待つ。

 数分も待てば部屋にノックがかかり、メイドがドアを開ければオロバスが入って来る。

 

「まずは座ってくれ。神聖王国であった事を放したい」

「畏まりました」

 

 オロバスは大人しく座り、バァル・ゼブルの話を聞く。

 話すのは勇者とあった事と、勇者と話した事だ。

 

「……随分と大変な事をしてくださりましたね」

 

 はぁ、とオロバスは溜息を吐く。

 

「仕方がないだろう。こちらの正体を見抜ける者が居るとは想定していなかったからな」

「仕方のない事ではありますが。その後の対応はもう少しやりようがあったのではないですか?」

「……すまない。以後気を付けよう」

 

 バァル・ゼブルはカップに口を付け、コーヒーを飲む。

 

「それで、今後どうしたらよいと思う?」

「指針は変えずによろしいかと。このまま撤退で問題ないと思われます」

「そうか」

「ですが……ヘブルの方で少々問題が生じまして」

「問題だと? 何があった?」

「はい。一部の民の間で『神聖王国へ侵攻すべきだ』という考えが吹聴されるようになったのです」

「……いい事だな、それは」

 

 バァル・ゼブルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「こちらから情報操作をする必要が無くなった分楽だ。民から志願兵を集い、訓練を開始させるぞ。最短で一年後に神聖王国に侵攻を開始する」

「それは早計ではないでしょうか? まだ戦争を起こすべきではないと考えます」

 

 オロバスは苦言を呈す。

 

「逆だ。時間こそ奴らの味方だぞ。時間が経てば神聖王国とソロモンの間に越えがたい技術の壁が生まれる。今の段階で侵攻しこちらから技術を奪いに行かねばならん」

「……せめて二年後です。配下の悪魔を使い技術を収集してからでも遅くないでしょう」

「わかった。なら二年後だな」

 

 

 悪魔の主とその配下の会話は着々と進み、悪事の計画が進んでいく。

 

 

 

 

 ■

 

 それから数日が経った。バァル・ゼブルは変わらずゴエティア内で過ごしている。

 そんなある日、バァル・ゼブルの耳に新しい事が入る。

 

「翼人族の集落に招待?」

 

 バァル・ゼブルは自室で座りながらそうオウム返しをする。

 話して来たのは近衛騎士であるブエルだ。

 ピンク色の髪に赤い瞳を持ち、二百センチの巨女だ。

 身長もデカければ胸も尻もデカいというデカければいいというのを極めつけたような容姿の女である。当然美人でもある。

 

「はい。翼人族の長、ブレンダンが是非一度里に来て欲しいと」

「ふむ……」

 

(翼人族か。確か首都にもいくらか着てるけど数は少ないんだよな。招待するってことは何か話したい事でもあるのか? まぁ面白そうだし乗っていいか)

 

「良いぞ。日程は?」

「いつでも良い、とのことです」

「そうか……ならば使者を送るか。使者に三日後に来るとでも伝えさせろ」

「畏まりました」

 

 

 

 ■

 

 

 翼人族の里、あるいは都市に新しい風が吹いていた。

 ソロモンと名乗る悪魔の者達からの勧誘。

 

 曰く、「国を作るので、そこで民と成らないか」というもの。

 これに対する意見は真っ二つ。悪魔等という知らぬ者達の言葉に耳を貸す必要はないというのと、面白そうだからいいじゃないかというものだ。

 前者は主に老人から。後者は若者からの言葉である。

 翼人族にとっては自分たちが全ての世界で生きていた。自分たち以外の──翼人族以外の種族、知的生命体というものを知らずに生きて来た。

 だからこそ、未知なるものに恐れると同時に歓喜を得る。

 

「まったく。最近の若い者とくれば……」

 

 はぁ、と男。ブレンダンは溜息を吐く。

 まだ若く見える男だ。外見年齢は三十台程度だろう。

 だが既に六百歳にもなる者であり、数百年の時を生きる者だ。

 青い髪に青い瞳の男であり、背中からは純白の翼が生えている。

 ズボンを履き、上半身にはケーブだけを付けている。

 自宅のリビングで茶を嗜みながら、ブレンダンは考える。

 悪魔騎士(ゴエティア・デモンナイト)と名乗る者の誘いに乗り、五十名近い翼人族がソロモンの首都、ヘブルに行ってしまった。

 時折帰って来るので無事だとは分かるが、それでも未知なる者に勝手に行くのはどうかとブレンダンは思ってしまう。

 だからこそ、今回の会談だ。ソロモンの主とやらがどのような者なのか、翼人族の長として見極めねばならない。

 

 そうしてこの都市で取れる茶葉を飲んでいると、羽ばたく音が聞こえてくる。

 これは家に来るなと思えばすぐに家の二階に少女が入って来る。

 

「おとーさん。もうすぐ来るってー!」

 

 入って来たのはブレンダンの娘であるエミリーだ。

 父と同じく青い髪に青い瞳の美しい少女である。年齢は外見年齢と同じく十七歳。

 翼人族は二十代までは人と同じ速度で成長する。その後は非常に緩やかになり、九百歳頃で人と同じ速度で老化するようになる。

 

「ああ。わかった。向かうとしよう」

 

 ブレンダンは椅子から立ち上がり、二階の入り口に向かう。

 

 エミリーが飛び立つと同時にブレンダンも飛び立つ。

 

 向かう先は都市長の総合会議所だ。翼人族内で何かあれば使われる市役所のようなものである。

 そこにエミリーと共に飛んでいく。

 家から近い所にある為十分も経たず着く。

 会議所は非常に大きな作りだ。三階建ての建物であり、非常に横に大きい。

 日本で言う体育館程の横の大きさを持つ。それがそのまま三階分あるのだ。

 当然のようにドアは無く、門があるだけである。

 

「私は外で待つから、エミリーは中で準備しといてくれ」

「わかったー」

 

 エミリーは中に入って行く。

 

「さて……」

 

 ソロモンの主とはどんな人物なのだろうか、とブレンダンは考える。

 外見だけは聞いているので知っているが、人格面についてはまるで知らないと言える。

 温厚なのか冷酷なのか。何もわからない。

 

 そうして待っているとまたしても羽ばたく音が聞こえてくる。

 今度は空の上からだ。ブレンダンは空を見上げる。

 

「ワイバーン……なのか?」

 

 やって来たのはドラゴンだ。だがブレンダンの知識にドラゴンが無いためワイバーンだと判断してしまう。

 二十メートルはある巨体の蜥蜴の体。漆黒の鱗に覆われた体。長い首に漆黒の角が二対生えており、黄金の瞳をしている。

 背中からは蝙蝠にも似た被膜の付いた翼が生えている。その背には男が乗っている。

 器用に男は立ったままであり、その状態で体勢は安定している。

 

 ゆっくりとドラゴン──シュヴァルツが下降していき、ブレンダンの前で止まる。

 背に乗っている男、バァル・ゼブルが背から飛び降りる。

 

(この者が、バァル・ゼブル殿、か)

 

 ブレンダンは初めてバァル・ゼブルを直に見る。

 二百二十センチの長身。筋骨隆々の肉体。豪華絢爛な衣服を纏った姿。

 人型であるが眼は縫い付けられている。額には縫い目が存在しているが王冠によって一部隠されている。

 髪は黒いが先端が朱く染まっている。頭部、こめかみからは黒い結晶にも似た角が生えている。

 

 思ったよりも異形であり、一瞬ブレンダンは臆する。

 

「さて。初めまして、だな。翼人族の長ブレンダンよ。余はバァル・ゼブル。ソロモンの主にして悪魔の王である」

 

 バァル・ゼブルの名乗りにブレンダンは一歩臆する。だが長としての矜持で持ちこたえる。

 

「は、初めまして、バァル・ゼブル殿。私はブレンダン。どうぞ中へ。話したいことがあります」

「うむ」

 

 バァル・ゼブルは仰々しく頷き、ブレンダンの案内の元中に入って行く。

 たった一人に思えるが、バァル・ゼブルの影の中には当然のように影の悪魔(シャドウ・デーモン)が二体入っている。

 

 市役所の中は明るい。<光>(ルーメン)の魔法を使った灯りが照らしている。

 整備も当然されており、石を削り出して作ったとは思えない創りをしている。

 

 一介を歩き、奥へと進み会議室に入る。

 ドアを開けて入ると、そこは翼人族が十人は入れそうな広さを持つ部屋だ。椅子と椅子の間は翼を持つ者として充分な間がある。

 

 向かい合うようにバァル・ゼブルとブレンダンは椅子に座る。

 

「さて。率直に聞きたい事があります。貴方の言う国とは、いったい何なのでしょうか?」

 

 ブレンダンに国という概念はよくわからない。これまで集落や都市単位でしか動いていない。

 そもそもの話この都市以外に翼人族が住まう場所が無いのだ。

 

「うむ。国とは多種族を持って構成される組織だ。いわば都市を巨大化させたもの、として認識してもらえばいい。そして国はあらゆる種族と共に発展していく物だ。技術、産業、文明。全て多種族間において足りぬ物を補い合い、支え合って生きていく」

「なるほど……それに翼人族を加えたいと」

「そうだ。既に吸血鬼(ヴァンパイア)森妖精(エルフ)洞窟小人(ドワーフ)、獣人は国民、国に住まう者となっている」

「……今までの暮らしを捨て、新しきものに慣れろと言う事でしょうか?」

「そうではない。今のままでも構わない。故きを温ねて新しきを知るというものだ」

「なるほど。では──」

 

 

 バァル・ゼブルとブレンダンの話は続き、三十分以上話し合った。

 最終的には翼人族は正式にソロモンの国民と成るのだった。

 

 

 

 

 




後二、三話で完結します
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