戦争から一か月が過ぎた。
ソロモンが有する悪魔は無限だ。これはポップするモンスターの仕様が悪さした。
ゴエティアでポップしたモンスターは基本数に制限がある。一定数以上は出現せず、倒された場合にのみ出現するはずだ。
だが、この世界に来て自由になった弊害が城からポップしたモンスターが一定以上距離を取ると倒された物とみなされ再度出現するのだ。
故に軍を展開すればするほど悪魔は無限に湧き出る仕様になったのだ。
それにより、人間の都市の八割は陥落。悪魔がむさぼる楽園と化した。
そして、人間牧場を作り出し人間を家畜化する試みも行われている。これに歓喜したのは
さんざん自分たちをいたぶり殺し、獣のように扱ってきた相手を今度は家畜のように扱う。その快楽に染まったのだ。
バァル・ゼブルは落とした街の一つ、リモウスの街を歩く。
勿論悪魔の姿をさらした状態で、だ。
この都市はバッケンの次に落とした都市であり、街並みは侵略で多少壊れたものの修復が進んでいる。
街を歩けば、そこには全裸にされ首輪をつけられ四足歩行させられている人間とその飼い主である
「平和な都市だ」
うんうんと平和をバァル・ゼブルは堪能する。
人間が奴隷として働かされ、他の上位種族はそれを当然のこととして受け入れている。
(ま、人間もこれまでやってきたことが帰って来ただけなんだから、受け入れろよな)
バァル・ゼブルが調べた限りでは人間も人狼の牧場なんてものを経営していた。
生まれた子供を奴隷として洗脳教育し出荷していたのだ。そう言ったことをしていたのだから己がされても自業自得である。
最終決戦が近づいている。あと二週間もすれば神聖王国の神都での決戦が始まる。
さて、これに対し勇者はどう動くのだろうか、とバァル・ゼブルは楽しみにしていた。
■
神聖王国の神城、その会議室で勇者と五代公爵家のうち残った二家が会議をしていた。
「いったいどこから現れたんだあの悪魔どもは! 人間を紙屑のように殺しおってからに!」
柊和沙がそう叫んだ。
残るもう一人、ニコラス・カミングスも同意する。
「確かにな。だがここは愚痴を吐く場ではない。現実的な対処法を考えるべきだ」
「と言ってもどうやって? 奴らは知恵も回るぞ」
これまで神聖王国もただ指をくわえてみていたわけじゃない。
勇者パーティを使い悪魔たちを掃討しようと動いたが、どれも後手に回っている。
更に言えばソロモンは神聖王国の国土の外周全てを被うように軍を展開することで勇者が来て軍が破られても他の軍が侵略することで侵攻を成功させてきた。
故、侵略は当初の予定通り進んでいる。
これは、勇者の弱さだ。
この世界は個が数を上回れる。
極端な話をすれば勇者ならば十万の軍にも勝てるのがこの世界だ。
だが、百万の軍が分散し十万の軍が十個になれば、勇者の手が足りなくなる。
これが勇者がもっと強い……レベルカンストしそれにふさわしい装備を身につけれればまた違ったのだろうが、シュナイトのレベルは百八十である。
力が、足りなかった。
シュナイトが口を開く。
「悪魔たちはこの神都に向かっています。神都に戦力を集め、奴らを向かい打ちましょう」
シュナイトのその台詞に、同意するしかなかった。
■
神都の前に悪魔の軍勢五百万が展開される。
神都の人口は二百万。そのうち戦えるのは四十万ほどだろう。
これは警察や貴族の騎士団、軍全て含んだ数だ。
籠城戦となれば神都に被害が及ぶことを懸念し神聖王国は平原での決戦を選んだ。
どちらがマシか、と言えばどちらもクソとしか言いようがない。
そうして王国の最期の戦争が始まった。
「いやだ! いやだ!」
「ゆうしゃさま! たすけて!」
「おかぁさん! おかぁあさん!」
戦場に兵士たちの悲痛な叫びが響く。
悪魔に食われ、犯され、生きたまま内臓をえぐり取られる。
兵士たちの平均レベルは二十程度。それに対し悪魔たちは倍の四十だ。
中には低いのも居るがだからどうしたというばかりの数の暴力だ。
戦場で血の匂いが充満する。
その戦場をバァル・ゼブルはただ一人歩く。向かう先は神都だ。
肉が焼け、目が焼け、肉が焼けた少しいい匂いがする。
この
炎に対し五十パーセント以上の耐性を持っていないとなかなかにきつい持続ダメージを与える
それを持って武器も魔法も振るわずバァル・ゼブルは歩く。向かう先は神都の奥、神城。
戦場の悲鳴をBGMに気分を良くしながらバァル・ゼブルは歩き、門の前に辿り着く。
適当な破壊魔法で門を破壊し都市の中に入り、十分ほど歩く。
そして、そこには勇者が居た。
青い鎧を纏い、ヒヒイロカネの剣を抜いた金髪碧眼のまさしく勇者がそこにはいた。
「あなたは……何故、こんなひどいことが出来るんですか!」
そう悲痛な叫びと共に勇者は問いかけた。
「何故か、だと? ふむ。それにはこう答えよう──余は悪魔の王だからだ」
その答えに勇者は悲しそうな顔をする。
「……あなたも、元は人間だったはず。なのに、どうして」
「ほう、余が人間であったことを知るか。いや、当然だな。神聖王国がかつてのプレイヤーが作った国ならばそう言った情報があってしかるべきか」
納得がいく、とバァル・ゼブルは左手を顎に当てる。
そうしていると勇者は剣を構える。
「貴方を、止める。止めて、世界に光を取り戻す」
「それはこちらの台詞だ、勇者よ。人間に虐げられてきた多種族の痛みを、苦しみを人間に返そう……正義は余の方にある」
「正義など、世界のどこにもない。それは勝者の台詞だ」
「勇者である其方が言うか……そうか……」
その言葉にバァル・ゼブルは一気に機嫌を悪くし顔をしかめる。
「論 外」
怒りの形相でバァル・ゼブルはそう言うと右手の王酌で地面をトン、とついた。
無詠唱化した魔法が勇者を襲う。地面から炎が飛び出した。
それと同時に勇者は駆け出す。体が多少炎で焼かれたが気にせず突撃だ。
バァル・ゼブルは更に壁の魔法を唱える。
マグマの壁が生まれ勇者がそれを切り払った。
それを読んでいたバァル・ゼブルは無詠唱化し四重化した炎の槍の魔法を発動。
四つの炎の槍が勇者に向かって飛んで行く。
勇者は迫りくる炎の槍の内二つを切り払うも残る二つを受けてしまう。
ダメージを受けつつ勇者は接近する。
想定より移動速度が速くバァル・ゼブルは勇者の接近を許した。
勇者が聖剣で斬りかかる。それに対しバァル・ゼブルは王酌を構えることで聖剣を受け止めた。
剣と王酌、普通に考えれば王酌の方が負けそうだがここはファンタジー。
さらに言えば王酌の方はレベル七の
バァル・ゼブルは爆発の魔法を無詠唱化し唱え自身を中心に爆発を起こした。
爆発によって勇者は吹き飛ばされるも空中で体勢を直し着地する。
「
バァル・ゼブルはレベル十の召喚魔法を行使する。
レベル百四十のモンスター
炎の化身そのものだ。燃え盛る溶岩が人の女性の形をしている。二メートルほどの大きさを持つ。
ステータスは前衛軽戦士系統だ。右手には燃え盛る剣を持っているがこれは体の一部判定を受ける。
種族は精霊の最高位である。
炎のダメージを与える
バァル・ゼブルは炎系に特化したエレメンタリスト。炎系のモンスターも当然召喚出来る。
勇者が
魔法使いの戦闘力はバフの有無で大きく変わる。それを勇者も知っている為早くバァル・ゼブルに攻撃をしたいが
そしてありったけのバフを終えたバァル・ゼブルが突撃する。
王酌の下の方を持ち、上の部分は炎で出来た斧となっている。
レベル十の魔法
悪魔は膂力にも優れる。それを持って斬りかかる。
勇者は聖剣で受け止める。ステータスではバァル・ゼブルの方がしただ。余裕で受け止められる。
だが問題はそこではない。
そこから更に無詠唱化した炎の爆発魔法を王酌から飛ばす。
ゼロ距離発射により勇者は魔法を受け爆発によってダメージを負う。
ダメージを受けつつ勇者は後ろに飛び引く。接近すると高火力の魔法が飛ぶと察し遠距離戦を選んだ。
「それは悪手だろう」
バァル・ゼブルはそう言いながら七種類の別の炎系攻撃魔法を同時に唱えた。
螺旋状に飛ぶ火球。炎の剣と槍、バズーカ砲に似た弾丸。炎で出来た飛ぶ斬撃などが勇者に向かって飛ぶ。
勇者は飛行魔法を行使し空に逃げようとするが全ての魔法に追従の効果を持たせた為空に飛んだ勇者に向かう。
勇者は遠距離攻撃
(このまま遠距離で追い詰め──)
バァル・ゼブルがそう思ったのも束の間。バァル・ゼブルは胸、心臓の位置を貫かれた。
「ちっ」
痛みはある。だが動けないほどではない。
勇者はあらゆるクラスや制限に関係なく五つの魔法を習得、行使できる。
使われたのは高位の転移魔法だ。着弾と同時に転移したのだ。
無論着弾したのでダメージを受けている。だがバァル・ゼブルに確実にダメージを通すための作戦だった。
「煩わしい!」
再度バァル・ゼブルは爆発するもその時には勇者は引き、爆発の範囲外に居た。
「これならばどうだ!」
バァル・ゼブルは王酌で地面をとん、とつき広範囲の魔法を唱える。
地面が火山の噴火口のように変わる。
その範囲実に百メートル。
行使するのはレベル十一の魔法
地面が大爆発する。炎が空へと上がる。
当然バァル・ゼブルもその範囲に巻き込まれるが炎吸収の特性を持っている為ダメージにはならない。
数秒たち魔法の効果が終わる。そこには焦土と化した地上があった。
「まだ生きているか」
そして、まだ体が焼け、皮膚が火傷で重症化した勇者が居た。
「瀕死だな……今楽に──」
止めを刺そうとした瞬間。勇者が光輝いた。
「馬鹿な……クライマックスの
勇者が持つ固有
使用条件は自身のHPが一割を切る事。効果はHPとMP全快に加え一定時間全ステータス
まさかの二倍である。IOOのバフ魔法はだいたい二パーセント上昇や大きくて十パーセント上昇程度なのに対しまさかの百パーセントのバフである。
(勇者のクラスがレベル九十の時に習得できるクラスのはず。第一クラスが勇者だったのか!)
これは不味いと撤退しようかと動くが、それよりも勇者の方が速い。
真っすぐ飛んできて斜めにバァル・ゼブルは斬られる。
再度自爆するも爆発ダメージを殆ど受けず勇者がめった斬りにする。
「──人間風情が!」
瞬間、大爆発を起こす。
炎ダメージと共に周囲に強力なノックバックを発生させる爆発だ。メインはどちらかというとノックバックの方である。
バァル・ゼブルの体が膨れ上がる。
腕がのび、顔が伸び、肉体が肥大化していく。
背中から蝶の羽が生える。
天使の輪の様なものが頭上に浮かびあがり、体は蠅の様に歪に変貌する。
蠅の頭の横には肥大化した人の腕が生えているが火傷で腫れたかのように歪んでいる。上下に四つ生えている。
下半身には足の代わりに蜂の針が生えている。
全長百メートルの圧倒的巨体。
これこそがバァル・ゼブルの第三形態。追い詰められた時のみ変身することを可能にした真の姿。
強力な熱をバァル・ゼブルは放つ。
熱と共に炎を発し、周囲の酸素を奪いつくす。
周囲二百キロが燃え盛り始める。強力な熱だ。
バァル・ゼブルの口が開く。
「
言葉にならない声と共にバァル・ゼブルは
太陽の表面温度にすら匹敵する炎の息が放たれる。
流石に直撃は不味いと勇者は判断し上に飛ぶ事で回避を試みる。
だが、範囲が桁違いだ。本来の姿になったことでバァル・ゼブルもあらゆる能力が上昇している。
正面約二キロを焼き尽くす炎は上に飛んだ程度で回避できる物ではない。勇者の体が焼けただれる。
だが、死にはしない。二倍のステータスとなったのだ。
しかし装備は耐えきれず聖剣以外は融解しどろどろに溶け勇者の皮膚を焼き始める。
勇者は気にすることなくバァル・ゼブルに斬りかかる。
バァル・ゼブルは四つの手で殴打に入る。王酌はアイテムボックスに仕舞われた。
「
バァル・ゼブルは
一つの剣に対し四つの拳だ。バァル・ゼブルも斬られるがそれよりも相手に与えるダメージの方が多い。
バァル・ゼブルは口に炎の魔力を貯め、放つ。
炎のレーザーとなり勇者を吹き飛ばした。
バァル・ゼブルは勇者を吹き飛ばした間に<上位悪魔創造>の
更に制限を加え召喚数を十二体から六体に減らすことで本来召喚できないレベルの悪魔を創造する。
創造するのは炎系悪魔の最上位であり、七曜の悪魔の一体、火曜の悪魔だ。
名はマーズと言い外見は鉄が錆びたような赤い色をしている。岩が人型になったように見えるが背中には燃え盛る悪魔の翼を持っている。
顔は悪人顔の強面の岩男だ。
見た目はゴリゴリの戦士系だがその実能力系統は魔法使い系である。
マーズはバァル・ゼブルに標準を合わせ魔法を唱える。
放つのは炎系の魔法だ。
それにより減少したHPと魔力をバァル・ゼブルは回復していく。
更に<下位悪魔創造>と<中位悪魔創造>を行使する。
合計七十二体の悪魔が出現する。
それらを勇者にぶつける。
蝶々の羽で羽ばたき音速を超える速度で勇者に接近。
四つの拳に超高温、三千度を超える炎を纏わせ勇者に殴り掛かる。
勇者も聖剣で防御するが手数で負けている。
勇者はその体にダメージを負う。
だがステータスが二倍になっており当然防御力も二倍になっている為そこまでダメージは入らない。だが蓄積すれば死に至るダメージだ。
それに勇者はアダマンタイトの鎧を失った。防御力は大幅に下がっている。
バァル・ゼブルは下の二つの手で勇者の腰を掴む。
そのまま蠅の口を大きく開け、捕食の構えだ。
それに対し勇者は切り上げで攻撃し捕食させない。
更に蹴りを入れバァル・ゼブルを吹き飛ばす。
バァル・ゼブルが強力なノックバックで飛ばされる代わりに多数の悪魔が勇者を襲う。
勇者は聖剣で空を飛びながら切り払う。全て一撃死させられるほどの差がある。
悪魔を盾にしながらバァル・ゼブルは空へと飛び上がる。
勇者は追撃しようとするが悪魔たちが肉壁となって邪魔をする。
「光爆消波!」
勇者としての
周囲百メートルの相手に聖属性の大ダメージを与える
召喚された悪魔は基本カルマ値マイナス五百の為大ダメージを悪魔たちは受け消滅する。
高度約六千メートルまで上昇したバァル・ゼブルは炎の化身となって落下する。
その速度脅威のマッハ五。勇者でも出せぬ速度だ。
更に追加で
結果──炎の塊となったバァル・ゼブルが勇者に突撃し、そのまま神都のタワーの頂点から地面まで融解しながら着弾した。
着弾と同時に半径百キロに及ぶ大爆発が起こる。
神都全域が焦土と化し、神城も崩壊する。
だが、勇者は生きていた。
二倍となったステータスの高さ故だ。バァル・ゼブルの切り札の一つを受けても原形をとどめている。
バァル・ゼブルは左の上の手で勇者を持ち上げた。
「終わりだ、勇者」
「……どうか、世界に救いを──」
バァル・ゼブルは勇者の頭を右の上の手でつかみ──そのまま握りつぶした。
こうして勇者は死に、人類は敗北した。