「これが調査部隊か」
「はい。総勢四つの部隊を放つ予定でございます」
ゴエティアの庭に幾つもの異形が揃っていた。
五メートルはある巨躯。人の体に猛禽類の頭部。腕は二メートルを超えるカラスの翼になっている。
足は片足。カラスの足で一本で立っている。
レベル四十の
山羊の頭部を持ち、人間の肉体と腕を持つ。足は羊。背中からは蝙蝠の翼が生えている全長三メートルの大男。
その手には己の体程もあろうかという程の戦鎚を片手で握っている。レベル六十六の
蛙に無理やり人の要素を合わせたような悪夢のような外見を有する。緑色の皮膚を持ち毒の体液が滴っている。
レベル三十八の
蜘蛛の体を持ち、蜘蛛の頭部があるべき場所からは巨大な蟻の上半身が顔をのぞかせる。
八つの足を持ち蟻の体からは三つの手が生えている。
合計九対の悪魔の部隊こそがオロバスが提案した調査部隊だ。
これを一セットとし四方に放つ。その為四つの部隊が城から出ていく訳になる。
仮にこれらの悪魔が全て倒されても損害は少ない。
この二体も召喚用の
逆にレベル七十に近い悪魔が撤退も出来ず死亡した、とわかればそれはそれで情報となる。
「よし。行け。吉報を持ち替えれ」
バァル・ゼブルは上位者らしく、悪魔たちにそう命じた。
■
転移魔法を唱えたバァル・ゼブルの視界に黄金の山が目に入る。
バァル・ゼブルの背丈──二百二十センチ等よりも余程高い黄金の山だ。
中身は金貨と金塊が多い。金貨には剣を掲げた戦乙女が掘られている。
この金貨はIOOにて使われている大陸共通通貨という設定だ。一部地域や秘境では使えないが、ギルドのトラップ発動などで消費する金貨はこの大陸共通通貨で統一されている。
黄金の山は数えるのも馬鹿らしく成るほど乱立している。こここそがソロモンの心臓部とも言える宝物殿だ。
今更だが、ゴエティアは全八階層に分かれている。
ダンジョン、迷宮区となっている第一層と第二層。
迷宮区は縦横五メートル以上の広さを持つ迷宮でありレベル六十以下の自動湧きする悪魔とバァル・ゼブルらギルドメンバーが配置した召喚NPCの防衛設備がある。
第三層からは特殊領域となり、言ってしまえばボス部屋となる。
第三層からは四天王の領域だ。
第三層はリリスの領域。幻術や幻惑に特化した悪魔やモンスターが配備されている。
リリスとその配下と戦う事になる。
第四層はマラコーダの領域。悪魔は出ず代わりにアンデッド系モンスターが多数配備されている。
第五層はファレルロの領域だ。ファレルロ直轄の悪魔ボディスとの連携戦となっている。
第六層はオロバスの領域。オロバス直下と設定した七曜の悪魔と戦う事になる。
七曜とは五行に日と月を足した事であり、火星の悪魔、水星の悪魔、木星の悪魔、金星の悪魔、土星の悪魔、日星の悪魔、月星の悪魔の合計七体の悪魔だ。
平均レベルは百六十と高レベルであり一番戦闘力の高い部隊となっている。
これら防衛設備の上に第七層、生活用の階層が存在する。
バァル・ゼブルの自室も第七層に存在するし、それ以外にも客が来たことは無いが客人用の客間もまた存在する。
大図書館も第七層にある。言わば防衛設備以外の何でもある階層だ。娯楽施設として温泉や卓球、麻雀が出来る部屋もある。
第八階層が最終であり、玉座の間となっている。
そういった各階層には階段や転移門によって繋がっているが、そういった移動手段の殆どを禁じられている場所が宝物殿だ。
存在を知るには第三層の幻術の部屋から最高レベルの幻術が施された通常手段では見破る事の出来ない転移阻害の結界石がある部屋を探し出し、その結界石に最高レベルの解析系魔法を当てる事で転移可能となる。
転移阻害の結界石こそがゴエティアの防衛の要と言って良いだろう。解析されれば敵が侵入し放題になるのだから。
こういった防衛設備が存在するのはIOOにてギルド間の戦争、GvGのシステムがあったからだ。
ダンジョンとして設定したギルド拠点は他者からの侵入を拒む事が出来ない。勿論設定で拒む事も出来る為GvGがやりたい人向けの設定だ。
ソロモンではゴエティアを常時開放し、ダンジョンとして展開し続けていた。と言ってもゴエティアに来た者はごくわずか、両手の指より少し程度だ。
これにはそもそもゴエティアがあるのが最難関フィールドの最奥という見つけづらい場所にあるうえ宣伝など一切してないからだ。更に上位ギルド等も似たような事をしている為ギルドとしては下位なソロモンに来るもの好きが少ないというのもある。
バァル・ゼブルは黄金の山の間を縫うように歩いて行き、一つの小さな扉を見つけ出す。
バァル・ゼブルは軽くノックをする。
「どうぞー」
気楽な声がドアの向こうから漏れ出る。バァル・ゼブルは気にせずドアを開けて中に入る。
「──バァル・ゼブル様! よくぞいらっしゃいました」
ソファーから立ち上がり男が歓迎の声を上げる。
背丈は百七十五センチ程だろう。金髪碧眼の眉目秀麗な外見をしている。
白いスーツを纏った姿は様になっており、敏腕サラリーマンと言っても過言ではない恰好だ。
これでもレベル百四十の最上位悪魔。であるが職業は商人という見た目に相応しい職業についている。
「ささ。どうぞこちらへ」
バァル・ゼブルは案内されるがままソファーに座り、机を通して対面する。
(──いつ来ても落ち着かない部屋だな)
バァル・ゼブルはちらりと部屋を一望してそう思う。
部屋はそこそこ広い。現実のバァル・ゼブルの部屋以上には広い。
バァル・ゼブルのスイートルールの一室程度には広く、三十人は部屋に入れる程度の広さだ。
そんな部屋の壁には、一面に武具が飾られている。
色とりどりの宝石が付いた実用性の低そうな剣。黒檀の杖。宝石が付いたネックレスや指輪。多種多様な武具が飾られていた。
ルキフグスは珍しくバァル・ゼブルが作ったNPCではない。外見から設定までBL@腐女子というギルドメンバーが作った物だ。最後に宝物殿の管理者であり金銭的な管理を任されているという一文をバァル・ゼブルが追加はしたが。
それ以外には
「それで。バァル・ゼブル様。私に何の御用でしょう?」
「ああ。其方が管理している
ルキフグスの役目は宝物殿の管理だ。
最初に入った黄金の山が陳列する部屋以外にも宝物殿には部屋がある。
各種武器事に部屋を分けた武器の収納部屋。鎧。杖系を収めた部屋などだ。
それ以外にもソロモンの支出する金貨の管理を任されている悪魔という設定も書き込まれている。
「ふむ。具体的にはどういった
「探索系の
「でしたら……そうですね。
空間系に属する魔法であり、使用すると一定範囲内の設定したインベントリを持つアイテムに接続できる魔法。
便利系の魔法であるがバァル・ゼブルが習得していない魔法でもある。
本来ルキフグスが習得できるレベルの魔法ではないが装備している指輪──課金で見えなくしている──で発動している。
余談だがバァル・ゼブル含めソロモンに属するNPC系の悪魔は指輪を装備している。単純なステータス増加から耐性系の指輪まで様々だ。
正し一部の悪魔以外は外見的に似合わないや趣味等の理由で課金アイテムを使う事で表示されないようにしている。
「こういった物はどうでしょう?」
ルキフグスはそう言うと机の上に
一見するとそれはよく磨かれた水晶だ。水晶用の小さな座布団の上に置かれている。
「これはレベル九の魔法
「占術系の魔法か。確かに今なら使えるな」
IOOには幾つか魔法の種類が分けられている。
炎や氷、雷などの属性系魔法。物理的なダメージを発生させる物理魔法。無機物を操作する操作系魔法。
その中でも特殊な魔法が占術系の魔法だ。
相手のステータスを調べたり遠い場所を見通す等占いっぽい魔法があてがわれている。
占術系の魔法は厄介で一目見るだけで相手のステータスを丸裸にするだけでなく習得している
その為pvpをしている者にとっては対策は必須の魔法だ。バァル・ゼブルもpvpをするわけではないが何となく対策を積んでいる。
ソロモンに属するNPCで対策しているのは一名だけであり、四天王などの主要なNPCは対策していない。
これはバァル・ゼブルが「ボスのステータスはばらされてなんぼだろ」という思いから意図的に対策していないのだ。今となっては──異世界に転移するとわかっていれば──対策しておくべきだったと後悔している。
効果としては消費するMPに応じて遠くまで見ることが出来る。ドローンを飛ばして映像を繋げる様な魔法だ。
勿論見えない所もある。占術系に対策を積んでいる存在が居ても画面には映らないし、ゴエティアの様に対策を積んでいる拠点等は映らない。
酷い時には攻勢防壁という対占術系の魔法もある。それによって爆破されたり嫌がらせ用のモンスターを召喚されるなどされる。
そして余談だが、
「感謝する。ルキフグスよ」
「感謝など勿体無い。我らソロモンの悪魔はバァル・ゼブル様に仕える事こそが喜び。主の為に働くこそ事が全てなのです」
バァル・ゼブルは水晶を受け取り、転移魔法で自室に戻った。
■
転移魔法で自室に戻ったバァル・ゼブルはソファーに座る。
それと同時に水晶を使う。
(──そういや
異世界に転移してから
水晶の上に周りが結晶で覆われたテレビサイズのモニターが浮かび上がる。モニターには城より少し離れた森が映されている。
「問題ないな」
バァル・ゼブルが呟くと同時に部屋のノックがかかる。
「入れ」
バァル・ゼブルが入室の許可を出すとドアが開けられ、メイドが入って来る。
「バァル・ゼブル様。今までどちらに行かれていたのでしょうか?」
「ルキフグスの所にこれを取りに行っていただけだが……」
バァル・ゼブルはメイドの剣吞な雰囲気を感じ取り自分が何か不味い事でもしただろうかと疑問を抱く。
「バァル・ゼブル様。出来れば今後行動する際は何処に何をしに行くか我らに教えてくださると幸いです。でなければ無用な混乱を招きますので」
「……そうか。以後気を付けるとしよう」
(まぁ、上約が勝手にどっか行ったり何かしてると部下は不安に思うか。俺も上司が何も言わずどっか行ってたら困るし)
バァル・ゼブルは納得し、頭を下げる。
「そうだ。どうせなら一緒に見てくれ。配下の意見も聞き入れたい」
「畏まりました」
メイドはバァル・ゼブルの背後に立つように移動し、バァル・ゼブルは困惑する。
「その位置だと見ずらいだろう。ソファーに座って良いのだぞ」
「とんでもない! 御身と同じ席に座るなど!」
メイドが固辞し、バァル・ゼブルはえぇと思いながら再度提案する。
「余は其方の意見も聞きたいのだ。きちんと見れなくて意見をも言えなく成ればどうする?」
バァル・ゼブルが説得すると、メイドは渋々と言った様子でバァル・ゼブルの向かいのソファーに座る。
「では、見ようか」