悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第6話

 

 <通話>(コール)でマラコーダと繋がっているバァル・ゼブルは考える。どうするべきか。

 自分の無い頭で考えても結論は出ない。ならば他者に相談するのが正解だとバァル・ゼブルは考える。

 会社でも分からないなりに知ったかぶりをすると痛い目を見ると同僚を見て知っている。だからこそ迷うことなく他者への相談をする。

 

「しばし待ってくれ。──アガレス、森で森妖精(エルフ)の集団と遭遇したらしいがどうしたらいいと思う?」

 

 バァル・ゼブルは即座に背後に控えるアガレスに問いかける。

 アガレスの設定に博識というものがある。オロバスには及ばないまでも知性が高いという一文が書かれている。

 その設定が生きているならば相談役として使えるはずだとバァル・ゼブルは考える。

 

「──どのような状況で遭遇したのでしょうか?」

 

 アガレスは少し考えてからバァル・ゼブルに問いかける。

 

「ふむ。マラコーダ。どのような状況で遭遇したかわかるか?」

 

 今でも<通話>(コール)は繋がっている。

 

『そうですね。森でモンスターに襲われていたところを山羊頭の悪魔(ゴートヘッド・デーモン)が助けた、という事になります』

山羊頭の悪魔(ゴートヘッド・デーモン)が? 何故助けたのだ」

『本人は情報源になりそうなものを助け恩で縛るつもりだったと』

「なるほどな。──アガレス。森でモンスターに襲われていたところを助けたらしい」

「なるほど。でしたら城に招待するのはどうでしょう? そのまま城で歓待して帰って貰うもよし。あるいはバラシて解体してもよし。使い道は幾らでも出来るかと」

「そうか。──マラコーダ。城に招待してくれ。必要なら其方が<異界門>(ゲート)を使っても構わん」

『畏まりました』

 

 そう言うと<通話>(コール)の魔法が切れる。

 

「よし。アガレス。其方はオロバスに森妖精(エルフ)の集団を歓待すると伝えてくれ」

「畏まりました」

 

 アガレスは一礼すると行動を開始するために動き出した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 アリシャは神聖王国にて冒険者として活動していた事がある。

 森妖精(エルフ)という身で冒険者をするのは危険極まりない。見つかれば良くて殺されるか、性奴隷として飼い殺しにされるかだ。

 だがそれでも冒険者として活動する事を選んだのは、同族の身を案じての事だ。

 年々拡大していく神聖王国の領土。不幸なことにアリシャ達の一族が身を潜めている森の近くに神聖王国の街が出来てしまった。

 風のうわさで神聖王国は人以外の種族を虐殺して回る国だと知ってしまった以上、隠れ潜むのは難しい。

 森妖精(エルフ)の感覚で最近占術で見つけ出された獣人の集落が襲撃にあったという事も聞いたアリシャは行動しなければ殺されると確信する。

 何故街が出来たのか。偶然か否か。ここから逃げ出したとして何処に逃げればいいか。情報を得るために人の街での活動を決意した。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。結果アリシャは一定の情報を得、逃げ出す先が終わりの森しかないと悟った。

 終わりの森以外の地域は順次制圧が進んでおり、神聖王国の勢力は拡大していくばかりだ。

 だからこそ最果てと噂される終わりの森に逃げ込んだ。ここ以外の何処に逃げても無駄だと悟ったから。

 

 そんなアリシャは今、目の前に居る異形を前に恐怖していた。

 

 どう見積もってもレベルは自分より圧倒的に上だろう。

 山羊の頭に人の胴体。羊の足に蝙蝠の翼。自身を優に超える三メートルはある巨体。

 そんな異形を前にアリシャは考える。どうするべきか。森妖精(エルフ)が生き残るにはどうしたらよいか。

 

「"しばし待ってくれ。今判断を仰いでいる"」

「"か、畏まりました"」

 

 アリシャは戦々恐々としながら一歩下がる。

 下がったアリシャに仲間が問いかける。

 

「どうする?」

「……向こうの出方を待つしか無いでしょう。ここは相手の言うとおりにした方が良いわ」

「……この森から出ていく事になるかもしれないぞ」

「そうは成らないかもしれないわ。きっとね」

 

 アリシャは今。希望的観測を元に一つの事を考えていた。

 もし可能ならば、この異形の傘下にでも入れないか、と。

 流石に奴隷となるのは勘弁だが、そうでなければ多少待遇が悪くても傘下となるのも悪くないかもしれないと考える。

 何故ならば相手もまた異形だからだ。明らかに人間ではない。

 そして神聖王国の勢力内では異形の人権は無く、見つけ次第殺される。

 だからこそ同じ異形──と言っても森妖精(エルフ)は人に近く異形成分は少ないが──協力し合えるのではないか、そう考える。

 それに相手は何かを求めている。それを提示、差し出す事が出来れば待遇もそう悪くないだろう。

 そうでなくとも森に勢力を築いている以上この森以外に行き場所の無い森妖精(エルフ)としては関わらずにはいられない。

 

「何があっても全責任は私がとる。だから心配するな」

 

 アリシャがそう断言すると仲間の男は黙り、一歩下がる。

 

「"彼らですか"」

 

 其処に。声がかかった。

 この場の全員が声の方に顔を向ける。

 其処に居たのは異形だった。何時からいたのかわからぬ異形は居て当然という雰囲気で空に浮いている。

 

「"あなた方が森妖精(エルフ)ですか。成るほど"」

 

 アリシャはその身から発せられる威圧感を前に膝を屈しそうになるのをどうにか耐える。

 

 蟷螂と人を融合させたような姿。割合としては人の方が多い。

 異様に長く鋭い人差し指の爪を有し、頭部は髑髏に皮が張り付いたような生気の無い顔。

 眼孔には青い炎が灯っている。

 ボロのローブを纏った姿は正しく邪悪な魔術師といった風貌。臀部からは蜥蜴の尻尾が生えている。

 

 くつくつと笑う様は正しく邪悪の権化といった風貌。

 

(これが主とやらで間違いない。これほどの強者。勇者以外で見た事が無い!)

 

 一定以上の実力を持つ者は相手の気とでも言うべきか。兎も角気配から相手の力量をある程度把握できる。

 勿論そういった探知系に対策を持っている者には通じないし、特殊能力(スキル)や魔法で偽装している者もいる為一概にあっているとは言えない。だがそれでも多少の指針には成れる。

 そもそもとしてここは終わりの森。そこに居る者が普通の者の訳が無い。

 

「"さて皆さん。我らが主、バァル・ゼブル様があなた達を持て成したいとの事。如何でしょうか。我らについてきてもらうというのは? "」

 

(──なんだと?)

 

 アリシャは異形の言葉に一瞬頭が真っ白になった。

 山羊の頭の異形を従える者が主ではない。つまり最低でもこれと同格か上の者が一人入るという事。

 

(──今更逃げ出す事も出来ない。臆せば死ぬだけ。行くぞ!)

 

 アリシャは自分を鼓舞し一歩前に出る。

 

「"了解した。こちらも色々と知りたい事があるので、着いて行きましょう。──その前に自己紹介を、私は森妖精(エルフ)の族長アリシャと申します"」

「おやこれはご丁寧に。私は四天王の地位に付かせていただいているマラコーダと申します。以後よろしくお願いしますね」

 

 異形──マラコーダは丁寧に頭を下げる。その姿勢にアリシャは恐怖する。

 

(これほどの強者が頭を下げることも厭わないのか、智慧も回るタイプか)

 

 敵であるとは限らないのに思わず警戒するのは森妖精(エルフ)という弱者であるが故。

 何処に行っても狩られる側の立場の者は相手が異形だろうと警戒せざる負えない。

 アリシャは考える。四天王とは何か。

 

「"徒歩で行くのもなんですし、転移魔法で行きましょう。<異界門>(ゲート)"」

 

 マラコーダがそう唱えるとマラコーダの背後に黒い渦が生じる。

 黒い靄が集まり渦上の形を形成しているそれは、闇が実体化したかのように暗かった。

 レベル十の転移魔法だ。一度に大人数を転移できる魔法は<異界門>(ゲート)しかない。

 

「なんだ……これは……」

 

 その光景に一人の森妖精(エルフ)が絶句し、言葉を漏らす。

 見た事の無い魔法。聞いたことの無い効果に恐怖する。

 相手が異形であるのも相まってこの魔法で此方を殺しに来るのかと疑ってしまう。

 

「行くぞ」

 

 アリシャは怯える森妖精(エルフ)を前に一歩勇敢に前に出る。

 

「……"行きますよ? "」

 

 そして何に怯えているのかわからないマラコーダは森妖精(エルフ)の動揺が本当にわからぬといった感じで先に<異界門>(ゲート)の中に入る。

 

 

 アリシャが渦の向こうにつくと、其処は平坦な場所だった。

 取り合えず大地がある事に安堵してから、アリシャは見上げる。

 

「すごい……」

 

 思わず、といった風に言葉が漏れ出た。

 

 アリシャが転移したのはゴエティアの内側、居館前の門前だ。

 其処には優秀な庭師の悪魔が剪定した木々が並び、景観を彩っている。

 

 遅れて<異界門>(ゲート)から続々と森妖精(エルフ)が出て来て、皆一様に城に畏怖する。

 

「"さて。皆さん来たようですし行きましょうか。遅れる事無いように"」

 

 マラコーダが先導し、森妖精(エルフ)たちは着いて行く。

 マラコーダは正門を潜ることは無く、横にそれる。

 何故正門を通らないのか。全員が疑問を抱くがそれを問いかけることは無く、大人しく着いて行く。

 

 優雅な庭には似つかわしくない、禍々しい鏡があった。

 非常に大きい鏡だ。人一人覆っても尚余る、二メートルはある鏡。鏡には色とりどり宝石が付いており、美術的価値も単純な金銭的価値も高いように思える。

 これは異界門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)という魔法道具(マジックアイテム)であり、レベル十の転移魔法<異界門>(ゲート)と同じ効果を持つアイテムだ。

 

 マラコーダが先導し、鏡を潜る。

 その姿を見て決心し、森妖精(エルフ)たちは鏡を潜っていった。

 

 

 

 ■

 

(なんだ、ここは)

 

 鏡を通り抜けた森妖精(エルフ)達は今いる場所が何なのか把握できなかった。

 左右に並ぶ屈強な巨象。ふかふかで足が沈みそうな真紅のカーペット。釣り糸も無いのに宙に浮いているガラスのシャンデリア。

 あからさまに光源が足りていないのに妙に明るい空間は神聖ささえ感じさせてくる。

 

「"バァル・ゼブル様。森妖精(エルフ)一同が到着いたしました"」

 

 マラコーダの言葉に森妖精(エルフ)たちは周囲ではなく正面を向く。

 其処に居たのはやはりというべきか、異形の者であった。

 長身。二百二十センチの体躯。ボタンに宝石が付いた豪華絢爛な服。頭部は異様。額には一周するように縫い目が存在し、こめかみからは黒い結晶にも似た角が生えている。

 眼は異様だ。両目とも縫い付けられ閉じられている。

 頬を着く様は正しく王者。

 

 その姿を前に、アリシャは安堵と同時に恐怖を抱く。

 何も感じない、という事に恐怖を抱いた。

 かの異形──マラコーダや山羊頭の異形を従える以上弱者であるはずがない。出なければ何らかの手段で隠蔽していると考えた方が自然だ。

 何故隠蔽しているのか、という事が問題だ。人の世界ならば隠蔽する理由は山ほどあるが異形の世界で隠す理由はアリシャには思いつかなかった。

 

「"さて、其方らが山羊頭の悪魔(ゴートヘッド・デーモン)に助けられたという森妖精(エルフ)か"」

 

 異形──バァル・ゼブルが口を開いた。

 その姿を前に森妖精(エルフ)たちは自然と膝を屈していた。というより屈するしかなかった。

 自分たちを片手で皆殺しに出来る強者を従える存在を前に無礼な態度など取る事が出来ない。そもそも恥も外聞もなく逃げ出した身である以上膝を屈する事にいなやは無い。

 

「……どうした?」

 

 そしてその姿を前にバァル・ゼブルは混乱する。何故膝を付いたのか、と。

 一分程待っても動かぬ森妖精(エルフ)を前にバァル・ゼブルは諦めた様に口を開く。

 

「"まずは自己紹介といこう。余はバァル・ゼブル。ソロモンの王であり、幾多の悪魔を従える主君である"」

 

 バァル・ゼブルは仰々しく名乗ると、顎で森妖精(エルフ)達に名乗るよう促す。

 すぅ、とアリシャは一息吸うと名乗りを始める。

 

「"自己紹介、感謝いたします。私はこの森妖精(エルフ)のリーダー、アリシャと申します」

 

 アリシャは失礼に成らないように気を付けながら自己紹介をする。

 

「"さて。余が其方らを招待したのには訳がある。幾つか聞きたいことがあるのだ"」

 

 バァル・ゼブルは上位者としての振る舞いで森妖精(エルフ)たちに対応する。

 バァル・ゼブルの本心としては普通に──一般人らしく対応したいものだがそうは行かない理由がある。

 曲がりなりにもソロモンの主と名実ともになった以上主らしく振る舞わなければならないのは当然だし、下手に出て舐められるのも問題だ。

 最低でも相手に舐められることなく、情報を得なければならない。

 ならばもう最悪城の戦力で皆殺しにするかバラシて情報だけ会得出来ればいいかの考えでバァル・ゼブルは魔王ロールプレイを続ける事にした。

 既に思考が悪魔のものに染まりつつあることに、バァル・ゼブルは気づいていなかった。

 

「"まず第一に。我々はこの世界に正当なる者ではない。何処か異邦の地から分け合ってこの地に降り立った者だ"」

 

 バァル・ゼブルは一言いい終えると、どう言ったものか悩みながらトントンと肘置きを突きながら考える。

 バァル・ゼブルが本当の事を言う理由は単純だ。下手な嘘を言うよりは真実を言う事で話の矛盾などを無くし、問題点を出さないようにしている。

 あるいは、悪魔となった身では虚実を言うという事を本能的に忌避しているからかもしれない。

 

「"故にこの地に関する知識が一切ない。その為に其方らの知恵が欲しい。無論此方が差し出せる物ならば出そう。限度はあるがな"」

 

 その言葉にアリシャは希望を抱く。

 相手は城という拠点を持っている。だからこそ願える事。

 

「"でしたら、安住の地が欲しく思います"」

 

 アリシャは意を決して口に出した。ここからが正念場だとアリシャは自身を鼓舞する。

 

「"ほう? "」

 

 バァル・ゼブルは興味深そうに一息つく。

 

「"我ら森妖精(エルフ)は人の世界では住めない身。どうか御身の領地で暮らす事を許可頂けないか、と"」

 

 バァル・ゼブルは混乱する。なんか急に変な事言い出したな、と。

 そもそも領地など持っていない。いやあえて言うならば城が領地と言えなくも無いが城しかないのである。

 だが、断るのもそれはそれでめんどくさそうだとバァル・ゼブルは考える。

 

「"そうか。我が臣民として保護しても良いが、それでいいのか? 単純な財でも良いのだぞ"」

「"いえ。安住の地こそ我らが求めるもの。どうか寛大なる措置を"」

 

 バァル・ゼブルは考える。このまま森妖精(エルフ)を臣民として受け入れていいものか。

 そもそも王様ロールプレイしているだけで部下だとか臣下やら会得しても困るというのがバァル・ゼブルの本音だ。

 だが、だからと言ってそれを求めている相手がいて、提供できるというのに差し出さないのも何か癪だと考える。

 

「"いいだろう。では余の臣下として、その身の安全を保障しよう"」

 

 

 

 

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