悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第8話

 

「すご……」

 

 森妖精(エルフ)は森に住まうが、住居まで森らしいわけではない。

 建築様式としてはツリーハウスだ。魔法で木を家の形にするなどではなく、木の上に家を作る。

 その家が、続々と作られていた。

 

「アリシャ殿。この家はこのような感じで大丈夫だろうか?」

「大丈夫ですぅ~」

 

 語気をしぼめながら、アリシャは鎧の言葉に返事した。

 豪華で、厳つい鎧だ。二百センチはある鎧であり、頭部は竜を模した兜になっている。マントには竜の翼を模した物が使われている。

 漆黒の全身鎧であり、金のスリットが入った豪華絢爛な実用性よりも鑑賞様に近い鎧。

 

 この鎧は操られている物であり、操作主はシュヴァルツ=イルディッシュだ。

 

 シュヴァルツの職業パペットマスターは無機物の操作に長けた職業だ。

 単純な物質操作は勿論の事、特殊な操作も出来る。

 戦闘時には多数の魔法道具(マジックアイテム)性の武具を扱う事も可能な鍛え上げれば戦闘力的にも非常に高くなる職業だ。

 だが幾つもの武器を操るのは単純に脳のリソースを多く使う。VRに接続し意識で体を操作した上で別途武具まで操るのは至難の業だ。

 その為実質的にNPC専用職業という扱いだが、面白い使い方も出来る。

 それは特殊能力(スキル)と魔法を組み合わせる事で操作可能距離を大幅に伸ばす事で分身を操るかのようにプレイ出来るのだ。

 今こうして空に飛び、木々を操る鎧はシュヴァルツが城の中庭から操作している端末だ。

 端末の操作には本体にステータス的デメリットを負わせることで成立する魔法であり、操作する数に応じて能力の低下も重くなる。そのうえ一定値まで低下すると操作不能になるというデメリットもある。

 最高レベルである二百レベルのパペットマスターであっても同時に操作できるのは四体が限度だ。

 だがシュヴァルツはステータスに優れたドラゴンであり、その中でも最高位種族のエンシェントドラゴン。元の能力の値が高いため多少の低下はどうとでもなる。

 シュヴァルツの同時操作可能数は通常の倍の八体であり、今この場には合計八体のシュヴァルツが操作する端末が居る。

 

 金髪碧眼の百五十五センチ程度のワンピースを来た美少女の姿を象った人形。

 百八十センチの長身の眉目秀麗な銀髪碧眼のスーツを纏った男性型の人形。

 黒髪黒目の黒い和服を着た百六十五センチほどの和服美人な女性の人形。

 褐色の肌を持ち、踊り子の衣装を着用した美女の人形。

 豊満というよりは大きすぎる胸を持ち、大きな胸に対し小柄な体型の女性の人形。

 二百センチの長身に老いた顔を持つ老紳士の人形。

 メイド服を着用した美少女に見えるも設定上は美少年だという人形。

 そして最後に、鎧。これで合計八つの人形こそがシュヴァルツが操作している人形たちだ。

 鎧以外の共通点に人形だと主張するために関節部が球体だというのがある。

 

 流石にこれだけの数の人形を一度に操ればそれだけ本体のステータスも下がるし、一体一体にわけられている力も大きく減少する。

 だが行使する魔法や特殊能力(スキル)によって消費されるMPは本体のを消費する為問題なく、一度に合計八つの魔法を発動できる為最大数動員していた。

 

 何よりも必要なのは質ではなく、数だった。

 

「広さはこれぐらいで大丈夫でしょうか?」

 

 マラコーダが空から降り、アリシャに語り掛ける。

 

「大丈夫です……ありがとうございます……」

 

 呆気にとられながら、アリシャは返答をする。

 

 今アリシャたちが居る場所も、普通の場所では無かった。

 人の手が入った大自然の如く、木々が並び木にはツリーハウスが建てられている。これらがほんの一時間程度で成された事だと誰が信じようか。

 この目で見なければアリシャも信じられなかっただろう。

 

 アリシャがちらりと木の上から大地の方に目を向けると、のそのそと移動を開始する異形の群れが現れた。

 

 三メートルはある巨躯。胴体は棺であり、棺から手足が生えている異様な姿。

 頭部も生えているが異様其の物。目も鼻も無く、巨大な口だけの黒い姿。

 棺の悪魔(コフィン・デーモン)。上位悪魔でありレベルも百四十と非常に高い。

 有する能力に自身のレベルプラス四十までの死体を胴体──棺に入れることで死体が有する能力全てを扱えるという物がある。

 中に入れられている死体は高位の森司祭(ドルイド)の者だ。

 

 ついで歩いてい来るのは木のような──というよりは木その物だった。

 六メートルはある木であり、左右からは枯れ木の様に細い木の色の腕が生えている。六つの木の根で器用に歩く様はある種コミカルにも見える。

 正面部分には苦悶に浮かぶ人の顔が浮かび上がっている。

 それらだけならまだしも、この木は木の枝の先に人の生首が突き刺さっている。合計六つの男女の頭部が実る様に刺さっている。

 イビルツリーという百二十レベルの悪魔だ。森司祭(ドルイド)系の魔法を使う能力を有する上木の枝に刺した頭部が持つ魔法を行使することも出来る上位悪魔になる。

 森司祭(ドルイド)とは自然操作系に長けた魔法使いの事を差す。木々を操作し作物を生み出す事が出来る魔法使いだ。

 これらの悪魔が森司祭(ドルイド)系の魔法を行使し、森をそのままの意味で操り場所を確保し、シュヴァルツが操作する端末が木々を操作し引っこ抜き乾燥から加工まで即魔法で終わらせ家を建築していっていた。

 

 少しばかり上を見れば各種人形たちが魔法で伐採した木を操作し木材に変え、家を次々と建築していっている。

 その光景を見て、アリシャは心の底からこう思う。

 

 即服従してよかった。抵抗とかしなくてよかった、と。

 

「ではそろそろ他の者達を呼びましょうか。彼らの感想も聞きたいですし」

「はい! 畏まりました!」

 

 

 

 

 ■

 

 

 森妖精(エルフ)の一人であるアランはその目に映る光景を見て目を疑った。

 まるで故郷のような光景を前に、アランの足は止まり、ついてきた他の森妖精(エルフ)たちも足が自然と止まる。

 木の上に家があるツリーハウス形式の家々が立ち並び、木と木の間を移動するための橋すらかかっている。

 

「なんだこれは……遥か前からこちらの受け入れ態勢が整っていたのか?」

 

 まだ森妖精(エルフ)達がソロモンに来てから一日しかたっていない。

 城で一泊させて貰い、朝食を食べ昼食も食べゆっくりと過ごさせてもらった後、居住区が出来たとマラコーダの<異界門>(ゲート)で連れて来られた先がこれである。

 直ぐに用意する、と話を聞いていた森妖精(エルフ)達は仮設住宅のような物を想像していた為、しっかりとした家々を前に唖然とするしかなかった。

 

「いえいえ。こちらは急増させて貰ったものです。建築には一層気を配りましたが何処か不具合があるかもしれませんが、城に住ませて貰う訳にはいきませんから」

 

 背中から蝙蝠の翼を生やした悪魔マラコーダが空からゆっくりと木の上に出来た広場──木材を使って木々を繋ぎ広間を作った場所に降り立つ。

 

「マラコーダ殿。このような素敵な場所を用意してくださり感謝いたします」

 

 アランはこの頭目の副リーダーとして感謝の言葉を述べ、頭を軽く下げる。

 

「いえいえ。こちらにも相応の利益を齎してくれたのです。このぐらいは当然です」

 

 マラコーダもまた謙虚に返答する。

 

「それと農地も作りましたので、幾つか確認していただきたいのです。大丈夫でしょうか?」

「勿論大丈夫です。これほどの待遇、本当に感謝いたします」

 

 二人は世間話をしながら、農地へと向かった。

 

 

 

 

 

 ■

 

「人の世界に赴く必要があるな」

 

 ゴエティア第七層、バァル・ゼブルの私室でバァル・ゼブルは向かい合ってオロバスと相談していた。

 互いにコーヒーを飲みながらの会話であり、日常会話のような気楽さだ。

 

「バァル・ゼブル様もそう思いますか。私も同意見です」

 

 オロバスもコーヒーを嗜みながら同意する。

 

「という訳で余が行こうかと思うのだが」

「却下です」

 

 オロバスはバァル・ゼブルの提案を即座に否定する。

 

「何故だ」

 

 バァル・ゼブルは口をとがらせ、あからさまに不満を露わにする。

 

「流石に危険が高すぎます。如何にバァル・ゼブル様が特殊能力(スキル)で人の姿に慣れるとしても、人の姿では戦闘力も落ちますし何より人の世界は未知の塊です。そのような所に主君を生かせるわけにはいきません」

 

 オロバスの正論にバァル・ゼブルはぐうの音も出ない。だが負けじと反論する。

 

「では護衛を連れて行くのはどうだ?」

「誰を連れて行くのですか?」

 

 そう言われてバァル・ゼブルは考える。人の世界に連れて行っても問題の無い者。

 ぱっと思い浮かぶのはリリスとファレルロ。最高レベルである二人ならば問題は無い。

 

「ファレルロはどうだ? 奴なら戦闘力的にも申し分なかろう」

「出来れば辞めて頂きたいですね。森妖精(エルフ)達との軋轢が生まれぬようファレルロとリリスという人に近い外見の悪魔が必要です。人──正確には森妖精(エルフ)に近い姿を有し上位者である二人ならば森妖精(エルフ)の心を溶かす事も出来ましょう」

「………………ならば将軍の誰かを」

 

 バァル・ゼブルは長考した上で答える。

 

「戦闘力に不安があります。アリシャから聞いた話では最高レベル五十等と聞きますがそれが本当である保証は有りません。実際この終わりの森とやらにはレベル四十程のモンスターが確認されています。まぁ将軍も百四十レベルは有るので問題ないかと思われますが、咄嗟の時御身を守る事が出来ませぬ」

 

 バァル・ゼブルはしょんぼりとする。何よりもつらいのはオロバスの言う事が正論だと自分でも分かっている事だ。

 ソロモンはバァル・ゼブルこそ全てというシステムで成り立っている。その状態で最高権力者でありあらゆる決定権を持つバァル・ゼブルがここから動けばあらゆる仕事が遅れるのは目に見えて分かっている事だ。

 

「ですが」

 

 オロバスは一息入れてから、口を開く。

 その姿にバァル・ゼブルは希望を抱く。

 

「情報を収集し、御身が安全だとわかれば赴くのも問題ありません」

「そうか! よし、誰を送ればよい?」

 

 バァル・ゼブルは分かりやすくワクワクとする。その姿にオロバスは微笑みながら返答する。

 

「そうですね。一人はシュヴァルツで確定でしょう。彼女が操る人形ならばリスクを減らせます」

「待て。あの人形は関節部で人でないとわかるぞ」

「リリスの幻術で対策しましょう。それに服を着させていればバレるリスクは極限まで減らせます。仮にバレた場合でも高位の幻術を見破れるものがいると此方に情報が得られます」

「そうか。二人目は将軍から出すか?」

「そうですね。それが良いでしょう。人員ならばパイモンが適切かと。奴は現在特に仕事をしている訳でも無いですし、外見も非常に人間い近い。占術系に最低限対策を積んでおけば問題なく活動できるでしょう」

「よし。ならば早速シュヴァルツとパイモンに話を通すぞ。人の世界を知る為にな」

 

 

 

 ■

 

 

 

 神聖王国の首都、神都(しんと)は広大だ。

 かつて神が最初に降り立ち生み出したとされる全項三百メートルを超える高さを誇る居城を持ち、最新の建築方式の家々が並ぶ。

 コンクリートに鉄筋を使った家はファンタジーの世界には相応しくない……言ってしまえば二千十年代の日本のような家が並ぶ。

 鉄筋が入ったコンクリートを使ったビルに高層マンション。ほぼ日本と言ってもいいだろう。

 というより建築様式等も現代日本のそれをベースに発展したといって良いだろう。その為に日本らしい建築に成るのは仕方のない事だ。

 現代日本の街並みの中心にザ・ファンタジーの城が君臨する様は少々可笑しくも見える。

 

 神都が誇る神城の内部も、幾つかの部屋や階層に分かれている。

 居住区。研究区。訓練所等の城の機能としてあるべき部屋も多数ある。

 そんな神城の一室。会議室に幾人もの人間が集まっていた。

 

 部屋は広い。長机の左右には豪華な椅子が置かれ、部屋を飾っている。

 天井から釣り下がっているシャンデリアも装飾が施された物であり値段を付けるとしたら幾らになるか予想もつかない程だ。

 そんな部屋には国の重鎮達が集まっていた。

 

 目立つのは五代公爵家の者達。

 柊和沙(ひいらぎかずさ)。柊家の現当主であり女性として平均的な身長だが非常に美しい容姿をしている。特徴的なのは左目の下にある泣きほくろ。

 この中で唯一和服を纏っており、異彩を放っている。

 武具の製造を担当しており、自らに使える鍛冶師が作り出した最新にして最高の武器である刀を腰に差している。

 

 次は藤原秀彦(ふじわらひでひこ)。仕立ての良い服を着ている。

 紺色のスーツを纏い、赤色のネクタイをしている。

 両手の指には主張する様にダイヤモンドやエメラルドなどの宝石が付いた指輪を付けている。

 藤原家の党首であるが商売人染みたところがあり、資産だけなら五代公爵家の内最大規模を誇る。

 国内の流通を担当している。その為に資産が多いというのもある。

 

 高木真由美(たかぎまゆみ)

 ごく普通の、何の面白みも無い蚕の糸で作られた服を着ている。

 黒い服は無地であり、装飾も何も施されていない。言ってしまえば高貴な立場の者が着る服ではなく、庶民が着るような服だ。

 服の上からでも分かる大きなふくらみを持つ女性だ。金髪碧眼の美女と言える。

 警察、軍組織の総合的な長だ。鋭い目つきで会場を睨んでいる。

 

 ニコラス・カミングス。年老いた男だ。長い髭を蓄える様は一見賢者の様にも見える。

 白い服を纏う様は自らが清廉であることの表れでもある。

 科学技術の研究、発展を担当している。近年──というよりも何十年か前に成るが移動用ゴーレムやエレベーター型ゴーレムの開発を無した人物であり、ゴーレムクラフトに長けたクラフターという職業についている。

 

 ヴァイス・キングストン。

 歳若い女だ。赤い髪と赤い目を有しているが、染めている訳ではない。地毛だ。

 女としては長身の百七十五センチを誇る。髪色と合わせた赤いドレスを着ている様はパーティ会場などならさぞ様になるのだろう。

 こちらは魔法技術の研究を担当している。魔法省の長兼国内に唯一ある魔法学園の学園長も務めている。

 

 五代公爵家の者達は左右に分かれ座って居る。

 

 U字型の非常に大きい机だ。Uの空白部分には空白の玉座がある。

 

 そこに、ドアがゆっくりと開く。

 重厚感溢れるドアから歩いてくるのは鎧を纏った者だ。

 

 青い鎧は鎧の材料が最高位に近い金属であるアダマンタイトの証。

 全身鎧、という訳ではなく軽装鎧だ。胸当てがあり篭手もあるがガッチガチに固めている訳ではない。

 腰から下げる片手剣は最高位金属であるヒヒイロカネを使って作られた神々の遺品である聖剣。

 兜は被っておらず、素顔を晒している。金髪碧眼の眉目秀麗な容姿をしている。

 名をシュナイト。この国最強の勇者であり、男だ。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 シュナイトは軽く頭を下げると謝罪をする。

 

 謝罪を終えるとシュナイトは席に座る。

 

「では。揃ったようだし会議を始めよう」

 

 会議の始まりを告げるのはニコラスだ。

 

「では今回の議題ですが。最近増えている森妖精(エルフ)についてです。何故増えたのか、原因を知っている者は?」

 

 ニコラスがそういうも、声を上げる者はいない。

 

「では、どう対応すべきか議論致しましょう」

「勇者様が対処するのはどう?」

 

 そう意見を出すのはヴァイスだ。にやりと笑いながら告げている。

 

「勇者様が出るほどの事ではないでしょう。このような些事にまで突き合わせるわけにはいかないでしょう」

 

 反論するのは柊和沙だ。

 

「では冒険者を動員するのはどうでしょうか」

 

 冒険者は国家公認の対モンスター用の兵士だ。

 一応国家に努めているという事には成るが、扱いは杜撰な物である。だが名を上げれば普通に就職するよりも名誉と金銭が得られるため若者が着くことが多い職業でもある。

 

「それが良いか。次に森妖精(エルフ)達が向かう先だが、藤原」

「うちの占術師に見てもらいましたよ。行き先は終わりの森のようです」

 

 森妖精(エルフ)達の動きを確認──占術による遠視等を含め純粋な足等も使った探索で分かった事だ。

 出発地点こそバラバラであるが、向かう先は推定になるが終わりの森だ。

 終わりの森は縦に長い。向かう先がそこであるというだけで終わりの森に集まって何かしようとしてるとまでは分からない。

 大陸を横断する程の広さの森だ。其処に向かっているとわかっただけでは分からぬことも多い。

 

「終わりの森? 何故あそこに」

 

 終わりの森は人の開拓をほぼ諦めた森だ。

 出現するモンスターの強さもそうだが、種類もまた問題だ。

 単純な獣型のモンスターだけならまだしも、擬態型のモンスターも多い。ただの木や植物だと思ったらモンスターだった、何てことも多い。

 次にモンスターが多いは良いが素材が屑しかないのだ。倒す利益よりも損益の方が多い。

 それに開拓しなければ成らない事情も特にない。土地は余るほどに残っているし、終わりの森というモンスターが湧いて出てくる等の対処しなければならない事情がある訳でも無い場所に割くリソースは無い。

 

「でしたらやはり冒険者の調査団を放つのはどうでしょうか」

 

 そう提案するのは柊和沙だ。

 

「それがよろしいですな」

 

 肯定するのはニコラス。

 

「では。次の議題ですが──」

 

 こうして会議は綽綽と進んでいく。会議の間、勇者が口を出すことは無かった。

 

 

 ■

 

 

 神城の廊下もまた、豪華な作りとなっている。

 著名人が描き上げた絵画が並び、有名な職人が作り上げた壺が飾られている。

 その廊下を、シュナイトは考えながら歩く。

 

 考えるのは森妖精(エルフ)についてだ。

 

 そうして悩みながら歩いていると、向こう側から歩いてくる人物を見かける。

 年老いた男だ。元の色が何かわからない白髪となった髪を有し、変わらぬ黒目をしている。

 身長は男性の平均値である百七十五センチ程度。勇者より一回り小さい。

 向こう側から歩いてくる男は、勇者を見ると怪訝な顔でこういう。

 

「なんじゃ。そんな顔をして」

 

 男──リルは苦悶に歪む勇者を前に顔を顰める。

 リルは賢者と呼ばれる勇者の仲間の一人だ。

 レベル六までの魔法を行使できる数少ない魔術師であり、その技量も非常に高い。

 

 

「いえ。少し考え事をしてまして」

 

 シュナイトは軽く返すも、顔色は変わらない。

 

「この老人に言ってみるがいい、誰かに話すだけでも楽になるぞ」

 

 リルもまた、軽く返す。

 

「でしたら……森妖精(エルフ)について考えてまして」

森妖精(エルフ)じゃと?」

 

 ふーむ、とリルは息を零す。

 

森妖精(エルフ)と──いえ。異種族と人間の共存が出来ないか、考えていました」

 

 その言葉に、リルは絶句する。そんなもの想像もしたことが無い事象だからだ。

 リルや普通に人間にとって異種族は忌むべき敵であり、唾棄すべき邪悪。

 

「不可能じゃろ。歴史がそれを証明している」

 

 神聖王国の建国神話にも、歴史にも異種族は敵だと描かれている。それは実際に事実だとされている。

 

 かつての人は、狩られる獲物だった。

 

 森妖精(エルフ)の矢で討ち取られ、獣人の牙で食い殺され、洞窟小人(ドワーフ)の武具で狩猟される存在だった。

 

 それを救ったのが神聖王国の神話に登場する神々であり、建国の祖だ。

 だからこそ神聖王国は異種族を敵とみなす。狩られてきた歴史が受け入れることは出来ないとしているのだ。

 

「ですが我らには言葉があります。人と森妖精(エルフ)。外見も近いのですから、せめて対話だけでも出来ないものかと」

 

 森妖精(エルフ)──正確には各種族で使われる言語は異なる。

 人と森妖精(エルフ)では言語の違いから意思の疎通は不可能にも近くなるだろう。そもそも互いに狩る側と狩られる側という立場もある。

 

「……夢物語じゃな。仮に可能な種族だったとしても、国がそれを許しはしない」

「それでも、夢ぐらいは見たいものなのです。この国で幾多の種族が心通わす光景を──」

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