悪魔の王の異世界活劇   作:Revak

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第9話

 

 朝。まだ太陽が昇り始めた頃の時刻。

 ゴエティアの城門前に。四人の男女が揃っていた。

 いや四人というのは正確ではない。正確には三人の男と一つの人形だ。

 

 黒髪黒目。長い髪を靡かせるのは鋭い目つきの女の人形。

 黒い袴と着物を羽織った容姿端麗な女である。腰からは着物に会うように刀を差している。

 靴の代わりに草履をはいた姿は時代劇にでも登場しそうな人物だ。

 言うまでもなくシュヴァルツ=イルディッシュが操る人形だ。着物と袴に隠され見えないが関節部──正確には肘と膝は球体状である。

 

 もう一人は一見すると少女に見える様な男だ。

 銀髪碧眼の、才色兼備という言葉が合いそうな女に見える。

 だがよくよく見ると顔は女のそれであるが、骨格は男のそれだ。俗にいう男の娘という奴である。

 白いローブを纏った姿は魔法を扱う少女に見え、実際に属性系の魔法に特化した魔術師である。

 名をパイモンという悪魔であり、数少ないバァル・ゼブルが作ったわけではないNPCだ。

 制作主はるるふぇるというプレイヤーである。

 

 残りはバァル・ゼブルとマラコーダであった。

 

「ではバァル・ゼブル様。行ってまいります」

 

 女の人形が口を開く。

 シュヴァルツの職業の特殊能力(スキル)と魔法を組み合わせれば有効射程距離は非常に長い。ゲーム時代の話になるがパペットマスターを収めているプレイヤーは大陸の端から端まで人形を操作する事が可能だった。

 それを考えれば百キロや二百キロ程度問題にも成らない。

 操作系の魔法を駆使すれば人形の口を動かし、実際に喋らせることも容易だ。

 

「必ずや望む成果を持ち帰ります!」

 

 パイモンは意気揚々と敬礼と共に宣言する。

 

 ここに居るのはバァル・ゼブルとシュヴァルツの人形、パイモン。そしてマラコーダだ。

 マラコーダはソロモンのNPCで数少ない<異界門>(ゲート)が仕えるNPCであり、マラコーダ以外だと召喚NPCしか使える者はいない。

 バァル・ゼブルも使えはするが消費するMPも多くなっており基本的には使いたくない感じとなっている。

 その為二人の出立の為には必要不可欠な存在だ。

 

「あぁ。期待しているぞ。二人とも」

 

 バァル・ゼブルは杖を突きながらニヤリと笑う。

 

「必ずや吉報を持ち替えれ」

 

 バァル・ゼブルの言葉に二人とも声を出し、敬礼をした。

 

「では行きますよ。<異界門>(ゲート)

 

 マラコーダが<異界門>(ゲート)を唱え、二人は<異界門>(ゲート)を潜り旅に出た。

 

 

 

 

 ■

 

 二人が出た先は草原だった。

 少しばかり遠くを見ると森が見えるがそれ以外は特にないまっ平な平原だ。

 所々に木が生えていたりするがそれ以外に特徴等無い、人工物の一つもない大自然だ。

 

「うぅ……バァル・ゼブル様……」

 

 その大自然の中で、パイモンは涙を流す。

 この任務は非常に長くかかると予想されている。下手したら月単位でゴエティアに帰還できなくなるかもしれない。そのことにパイモンは涙を流す。

 

「涙を流す暇は有りませんよ。行きましょう」

 

 そんなパイモンに冷たく返すのはシュヴァルツだ。

 

「いいよなお前は! 本体ゴエティアに居るから何時でもバァル・ゼブル様に会えるし!」

 

 そう。シュヴァルツもいざ旅に出るという雰囲気を出していたが本体は変わらずゴエティアの中庭に居る。

 

「そういう職業なのですから仕方ないでしょう」

「……というかその口調何? 何時もと違うけど」

 

 パイモンはシュヴァルツの口調に違和感を覚える。普段の口調と違い過ぎるのだ。

 もっと他のNPC等と喋る時は砕けた口調をする。丁寧語で話す様なドラゴンではない。

 

「これですか? どうせなら外見に合わせてロールプレイでもしようかと。実際似合ってますよね?」

「まぁ和服美人と言えば敬語ってのあるけども」

 

 肩を落としながら。パイモンは仕方が無いと歩き出しているシュヴァルツに追従していく。

 

「今のうちの設定の確認をしましょうか」

「行く前にしたばかりじゃん」

「こんな平原歩くだけなのも暇なので」

 

 シュヴァルツの言葉にパイモンもそうかと同意する。

 

 勿論二人が本気になって走るなり魔法を使えば平原を突っ切る事は容易だ。だがそうしないのには理由がある。

 まず第一に、人間の都市──ここから最も近いとされるバッケンが何処にあるか定かではない。

 勿論その都市に行ったことのある森妖精(エルフ)──アリシャが居るが彼女を動かす訳にはいかない。

 アリシャは森妖精(エルフ)のリーダーであり、連れて来た森妖精(エルフ)達の精神的な安定剤にもなっている。

 その為アリシャの口伝からしか位置を知る事が出来ないという事。

 次にこの世界の移動手段的に目立つわけにはいかないという事。

 最終的に目立つのはしょうがない事としても、最初から目立ちまくるのは良くも悪くも噂される。

 この世界の移動手段は車型のゴーレムなどの発展した物が見受けられるし、空を飛ぶ魔法もレベル三にある為飛べる者もいるにはいる。

 だが高レベルの者となるとただの移動ですら目立つ。特にシュヴァルツは特徴的だ。その気になれば例え人形だろうと文字通りマッハで飛ばす事が出来る。

 そんな悪目立ちをするわけにはいかない。二人は人の世界に穏便に情報を収集するために行くのだ。

 それに速く移動すればバッケンを見逃す可能性もある。それ以外にも道中で人の集落などを見つけた場合等に情報を収集するという役目もある。それらの理由から二人は大人しく徒歩を選んでいた。

 

「まず私の設定ですが。名前はシヴァ・イルデ。女の刀使いの戦士です」

 

 シュヴァルツがそんな設定なのは、本体のシュヴァルツがもし人の世界で活動する際、同名だと問題があるからだ。

 同名のドラゴンなど何故同じなのか設定まで考えなくてはいけない。

 

「僕はペイル・ルル。旅の魔術師で。シヴァの仲間、だっけ」

 

 はぁ、とため息をつきながらパイモンも名乗る。

 

「旅をする目的は見聞を広める為。世界を知る為に旅に出た(シヴァ)にペイルが付いてきた、という訳です」

「まぁそんな設定誰かに語る事もないだろうけどねぇ」

 

 名乗りながらも二人は歩いて行く。

 傍から見れば美少女二人の旅は、順調そうに見えた。

 

「ま、僕としてはとっとと仕事を終わらせて、バァル・ゼブル様に褒めたたえて欲しい所だけど、ね」

 

 ■

 

 かくして二人が旅に出て五時間。ただただ歩くだけの旅が続いていた。

 何も無い、自然だけの視界に人工物が映り込んだ。

 

「これは……」

「道、だねぇ」

 

 それは道だった。整備されている訳ではない。ただ地面を均しただけの道だ。

 だが五時間もただただ歩いていてようやく見つけた人工物に二人は溜息を零す。ようやく進捗があったと。

 

「で、どちらに行きます?」

 

 道は真っすぐと続いているが、二人が発見した位置は真っすぐの道を横から見つけた形になる。

 つまりどっちが街に続いているかわからない。

 

「棒でも倒す?」

 

 パイモンが冗談交じりにそんなことを口にする。

 

「倒したいですがまず棒がありませんね」

 

 等と、シュヴァルツも軽く返す。

 

「……というか。シュ──シヴァ。お前の探知能力で方角くらいわからないの?」

「そういえばそうでしたね」

 

 あぁ。とシュヴァルツは手を叩く。

 IOOにて竜系統のモンスターは探知能力に優れている。優れたレンジャーとしての能力を持っているのだ。

 勿論本職の特化型には及ばないが、それでも比べるのが特化型という時点で能力はすさまじい。

 それは操る人形であっても例外は無く、人形を中心にして探知を広げることが出来る。

 

「──こちらですね。人の気配を感じます」

 

 シュヴァルツはそう言うと左側を指さす。

 

「よし。じゃあ行こうか」

 

 パイモンは軽く返すと、二人は先へと進み始めた。

 

 軽く雑談を交わしながら二人は進んでいく。

 転移してからの事。転移する前の事を話ながら、ゆっくりと彼らは進んでいく。

 

「これは……」

 

 そうして進んでいると。不意にシュヴァルツが呟いた。

 

「どうした?」

 

 雰囲気の違いを感じ取ったパイモンが問いかけると、言いづらそうにシュヴァルツは答える。

 

「人とモンスターの気配を感じます。感じからして戦闘かと。どうします?」

 

 助けるか否か。シュヴァルツはそう問いかける。

 それに対する返事は軽いものだった。

 

「助けよっか。恩与えた方が良いし、最悪でも皆殺しにすればいい」

「皆殺しは基本駄目だと言われたでしょう──行きますか」

 

 シュヴァルツは地面を蹴り、走り出す。

 遅れてパイモンはレベル九の魔法<真紅の翼>(クリムゾン・ウィング)を唱える。

 パイモンの背中から深紅色の鳥の翼が生え、羽ばたき飛翔を開始する。

 地面を疾走するシュヴァルツを追い、パイモンは飛びシュヴァルツは走る。

 本気を出した二人の速度は普通の人間の常識を超える。マッハとは如何なくとも時速にして百キロは優に越えれる。

 シュヴァルツの場合は本体が本気で飛翔すればマッハまで届くが。勿論二人とも本気を出すことは無く本気の半分、時速五十キロ程度まで落とす。

 

 シュヴァルツは地面を走り。パイモンが空を飛ぶ事五分近く。シュヴァルツが口を開く。

 

「そろそろ近づきます。速度を落としてください」

「おっけー」

 

 言うや否や二人は速度を露骨に落とし始める。

 徐々に徐々に落としていき。普通の人間の走り程度まで速度を落とす。

 それと同時に目的の物を見つけ出す。

 

「クソ! こんなにいるなんて!」

「言うてる場合か!」

 

 男たちの怒声が飛び交う。

 

 二人が訪れたのは戦場だ。

 何十人もの全身鎧を着た騎士達が豪華な馬車を取り囲んでおり、各々武器を手にしている。

 そして戦う相手は人程の大きさもある狼だ。

 白く靡く毛を有し、鋭い爪と牙を有する狼型のモンスター。IOOにも存在したモンスターであり、名をバトルウルフという。

 序盤を抜けた程度に戦うモンスターであり一体一体のレベルは二十程度。だがボス各は別格であり四十レベルもある。

 それが騎士達の倍以上──百体近く騎士達を襲っていた。

 

 騎士達もただやれている訳ではなく、大地には殺されたバトルウルフも数体転がっている。

 それを見たシュヴァルツは好機とみなし飛び出していく。

 

「助太刀します!」

 

 シュヴァルツは堂々と叫び、刀を抜いて速度を上げる。

 

 そして一閃。刀を持ってバトルウルフを斬り裂く。

 

 正面から真っ二つに斬り裂かれたバトルウルフの臓物が地面に転がり赤い染みを作り出す。

 

 シュヴァルツは刀を軽く振るうと着いた血を飛ばす。

 それを見た騎士はシュヴァルツに問いかける。

 

「──冒険者か?」

「似たようなものです!」

 

 問いかけて来た騎士に生返事をし、シュヴァルツは再度刀を構えバトルウルフと戦闘を開始する。

 本体から見ても、この端末から見ても雑魚同然。苦戦する方が難しい相手ではあるが油断はしない。

 皆殺しは容易だが勝利条件は襲われている人間達を助ける事。下手に力を使って人間達まで殺してしまうような事態は避けねばならない。

 

 襲ってくるバトルウルフに対し刀を振るう。

 それは専門職の人間から見ればなっていない振り方だ。戦闘者の刀の降るまいというより演者の戦い方。

 まるで誰かに見せびらかすように刀を振るい、バトルウルフ達を切り捨てていく。

 

(ボスはあいつじゃな)

 

 シュヴァルツは馬車から少しばかり遠くに離れたバトルウルフを睨む。

 大柄なバトルウルフだ。他のバトルウルフよりも二回りも三周りも大きい。

 獣の唸り声をあげ、新しく来た相手(シュヴァルツ)を警戒している。

 

「全く。めんどうだねぇ」

 

 パイモンは馬車の上からそう呟く。

 パイモンからしてもバトルウルフ程度単なる雑兵だ。それに苦戦する人間達が滑稽に思える程に。

 

(まぁ、使命を果たすだけだしどうでもいいけど)

 

<対象拡大(フォー・エブリワン)雷槍>(ライトニングジャベリン)

 

 特殊能力(スキル)で魔法の対象を増やし、合計五つの雷で出来た槍を生み出す。

 空から雷の槍がバトルウルフ目掛け落ち、バトルウルフのその身を焦がす。

 高電圧に晒されたバトルウルフは即座に絶命し、残った体も高圧電流によって焼かれる。

 獣の焼かれる嫌な匂いが戦場に臭った。

 

「行きます」

 

 シュヴァルツはそう宣言すると居合の構えを取る。狙うはボスのバトルウルフ。

 すぅ、と一呼吸──人形なのでその振り──をすると眼をカッと開く。

 ドン、と地面を蹴り超高速で地面を滑る様に移動する。

 

 そして一閃。

 

 ボスのバトルウルフもその他のバトルウルフと同様、正面から体を両断され何も出来ずに斬り殺された。

 

「さて。掃討と行きますか」

 

 ──かくして三十分も掛からず馬車を襲っていたバトルウルフは殲滅された。

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