とある日のトレーニング終わりのこと。ソルサンクトゥムは自らの携帯にメッセージが届いていることに気づく。
「誰かと思えば……あやつらか」
相手を確認し、わずかに顔を綻ばせる。メッセージを返そうとタップしているところに、ブラストワンピースが現れた。
「なーなーソル! 誰からだったんだ!?」
「あぁ、海外の友人だ。丁度こちらに来ていてな、明日、日本を観光したいから案内してくれ、と頼まれた。全く、めんどくさいことこの上ない」
「その割にはニヤニヤしてるぞ。本当は嬉しいんじゃないのか?」
図星を突かれ、顔を赤くしてそっぽを向くソルサンクトゥム。ブラストワンピースも楽し気だ。
唐突に、ブラストワンピースがとある提案をしてきた。
「なー! 迷惑じゃなければ、ブーも一緒に行っていいか!?」
「……なに? ブーもだと?」
「うん! ソルの友達、ブーも気になるぞ!」
観光案内に、自分も連れて行ってくれという内容。そんな提案をしてきたことを訝しむが、言葉以上の意味はないだろうと判断するソルサンクトゥム。
ただ、ブラストワンピースを連れていく。そう考えたところ。
(ブーを会わせる? あやつらにか?)
なんとも苦々しい表情を浮かべる。いかにも嫌です、といった顔であり、ブラストワンピースも即座に気づいた。
「もしかして、ダメなのか? ブー、一緒についていっちゃダメか?」
捨てられた子犬のような、悲しそうな表情を浮かべる。尋常ではない罪悪感を覚えるソルサンクトゥムだが、それでもなお会わせることを躊躇していた。
「あ、安心せよ。ブーが悪いわけではない。悪いわけではない、のだが……」
「じゃあいいのか!?」
「むぐぐ……いや、でも、しかしなぁ。1人はともかくとして、残り2人……いや、そのうち1人もまぁいいが……残ったやつが……」
百面相。葛藤しているのが見て取れる。よほど無視できない懸念があるのか、ブラストワンピースを連れていくことをどうするか悩んでいた。
しばらく葛藤した後。大きく深いため息をついて。
「……良いだろう。明日の10時、ショッピングモールで待ち合わせだ」
「ッ! うん! ソルの友達に会うの、楽しみだぞ!」
一抹の不安を抱えながらも、ブラストワンピースが同行することを許可した。
◇
次の日、ソルサンクトゥムはブラストワンピース、そしてアーモンドアイと一緒に待っていた。
「まさか、貴様と偶然会うとはな。我のストーカーか? 貴様」
「人聞きが悪いわね! 偶然だって言ってるでしょ!」
「わーい、アイも一緒で楽しいぞー!」
偶然このショッピングモールで会い、ソルサンクトゥムの友人を共に待つことになった。元々予定もなく暇を持て余していたアーモンドアイは、これも敵情視察ということで同行することになる。
内心、ソルサンクトゥムは複雑な心境だったが、ここで会った以上断る方がおかしい。仕方なく、アーモンドアイの同行も許可することになる。
「それでソル。貴方の友人はいつ頃になるのかしら? もう時間を過ぎているけども」
「しばし待て。先ほどLANEにて遅れるとのメッセージが入った。もう少しもすれば着くという報告を添えてな」
「楽しみだな~、ソルの友達に会うの、楽しみだ!」
興奮が抑えきれない様子のブラストワンピース。ソルとアイの2人は、楽しそうにしている同期を微笑ましそうに眺めながら到着するのを待つ。
それからほどなくして、ソルサンクトゥムは視界の端に見覚えのある人物を捉える。だが。
「……」
「ソル、どうしたんだ? なんか変なものを見たみたいな目をしてるぞ?」
入ってきた光景に目を疑う。信じたくない気持ちでいっぱいだが、それでも反応せざるを得ない。
「……ちょうど来たぞ。あやつらが件の友人だ」
「へ~、どんな子かしら……えっ?」
指をさし、その方向へと視線を移すアーモンドアイは──固まった。
視線の先にいたのは、3人のウマ娘。1人はオドオドキョロキョロしながら歩いており、もう1人は……気だるそうにしているウマ娘を引きずりながらこちらへと歩いてきていた。
あまりの光景に絶句するアーモンドアイ。これは夢か? と頬をつねりそうになる。
「『申し訳ありません、遅くなりましたソル』」
「『気にするな……で? そいつは何をしておる?』」
「『その、集合時間に遅れると何度言っても聞かなかったので。仕方なく引きずって連れてきたのです』」
呆れた視線を向けるソルサンクトゥム。相手もバツが悪そうにしていた。
ひとまず、いまだ何も言わない気だるげなウマ娘をベンチに座らせ、青髪のウマ娘はアーモンドアイたちへと向き直る。
「あー、えー、サンライトオーシャン、いいまス。オーストラリア、ウマ娘。ソルから、聞きました。よろしく、です」
たどたどしいながらも聞き取れる日本語。アーモンドアイたちはにこやかな笑顔で応える。
「初めまして! わたしはアーモンドアイ、こっちは」
「ブーはブラストワンピース! ソルの友達だ!」
「そう、ですか……『すいません、英語でも構いませんか? 勉強したとはいえ、日本語はまだ不慣れでして』」
サンライトオーシャンの言葉に頷く2人。なお、この間も気だるげなウマ娘はピクリともしていない。そして、3人目はいつの間にか姿を消していた。
「ところで、3人じゃなかったかしら? もう1人はどこに?」
「『そういえば見当たりませんね。どこに行って……』」
ついでに静かになっているソルサンクトゥムへと視線を向けると……件のもう1人が見つかった。ソルの後ろで縮こまっており、なんとか引きはがそうとしているソルの姿が視界に収まる。
「『離れろ貴様! 我よりもでかい癖に、我の後ろで縮こまるでないわ!』」
「『違う、違うんだよソル。これはアレだ、日本の武者震いってやつだよ。決して知らないウマ娘がいるから怯えているわけじゃない』」
「『やかましい! 貴様のあがり症など嫌というほど知っておるわ! いいからとっとと離れんか!』」
2人のやり取りを見て、頭を痛そうに抱えるサンライトオーシャン。この反応だけで、アーモンドアイはなんとなく察するものがあった。ブラストワンピースは、楽しそうに戯れていると思っているようだが。
結局ソルサンクトゥムの後ろから離れることなく、そのまま自己紹介を始めるウマ娘。
「『ヴァンキッシュウォリアー。欧州を拠点にしてる。まぁ、よろしく』」
「コイツは極度のあがり症でな。初対面のウマ娘とは視線を合わせることすらできぬ。ゆえに、我を盾にしているわけだな」
「収まってないけど」
ヴァンキッシュウォリアーと名乗ったウマ娘はかなり大柄だ。ブラストワンピースと遜色ない、むしろ大きいウマ娘。そんな彼女が、ソルサンクトゥムの後ろで縮こまっているのは中々シュールな絵面である。
このことを知っているサンライトオーシャンはいつものことに頭を抱えている……否、原因はヴァンキッシュウォリアーだけではない。
「それで、その。残りの1人は? いまだに口すらも開かないけど」
「いいかアイ、ブー。間違ってもそいつに声をかけるな。自ら口を開こうとするまで待て。下手をしたら機嫌を損ねるぞ」
冗談ではない、大真面目に忠告するソルサンクトゥムにアーモンドアイたちは思わずのけ反る。最後の1人が起き上がるまで待つことにした。
そして、その時が訪れる。
「……『お腹空いた』」
ただし、それは決して自己紹介をするためではない。アーモンドアイたちを一瞬だけ視界に収めると、すぐさまソルサンクトゥムへと向き直る。
「ソル」
「『ようやくまともに起きたか貴様。まぁいい、アイたちに自己紹介を』」
しろ、と言い切る前に、起き上がったウマ娘は。
「『お腹空いた。バー〇ーキングに連れてって』」
とんでもないことを要求してきた。ソルサンクトゥムは思わず呆けるが、ウマ娘はお構いなしである。
「……『何言ってるの? ガーネット』」
「『バー〇ーキング。日本にもあるでしょ。早く連れてって』」
「『いや、その前に自己紹介をしましょう? ソルの友人がいますよ?』」
サンライトオーシャンも忠告をする。だが、聞く耳持たずだ。
「『知らない。僕がお腹空いたって言ってるんだから、早く連れてって』」
「『無駄だよオーシャン。ガーネットが自分優先主義なの知ってるでしょ? こうなったら自分の意見を曲げないよ』」
このやり取りでアーモンドアイは感づく。ガーネットと呼ばれたこのウマ娘は、人の意見を聞かないタイプだな、と。
しかし、ソルサンクトゥムとて負けていない。ガーネットの要求を拒否する。
「『諦めよガーネット。近場に貴様の要求する店はない。分かったらさっさと』」
「ソル」
「『なんだ? あいにくと、貴様の意見など』」
ベンチから立ち上がり、完全に起き上がったガーネット。改めてその姿を収めたアーモンドアイとブラストワンピースは驚愕する。
「大きい……っ!」
「おっきいなー!」
ブラストワンピースはトレセン学園でも大柄な方だ。彼女よりも大きいウマ娘はかなり限られてくる。
そんなブラストワンピースを優に超える巨体。2m近いか、もしくは超えている姿に、アーモンドアイは驚きを隠すことができなかった。
ガーネットは、ソルへ凄む。
「『ソル。早く連れてって』」
「『だからないと言っておるだろうが! 諦めよ!』」
「『知らない。連れてって』」
「『知らない、じゃないわ! 近場にないから諦めろと我は言っておるのだ! 〇ックならあるからそちらで我慢せよ!』」
「『は? 僕はバー〇ーキングが食べたいって言ってるの。早く連れてってよ』」
暖簾に腕押し。ソルサンクトゥムの言葉など全く届いてないとばかりに自分の要求を押し付けるガーネット。サンライトオーシャンは頭を痛そうに、ヴァンキッシュウォリアーはハラハラしながら見守っているだけだ。
ついには手押し相撲のようにソルサンクトゥムへとのしかかるガーネット。ソルサンクトゥムは持ち前のパワーで倒れまいと耐えている。
「『さっさと連れてけ。僕の要求が飲めないっての?』」
「『だ・ま・れ~! 自分の要求が通らぬからと、実力行使にでるな貴様! このバカ力めが!』」
「『早く連れてけ』」
「ソル! 分かったから、分かったから連れてってあげましょう? このままだとずっと立ち往生よわたしたち!」
最終的に、これ以上無意味な問答をするべきではないと判断したアーモンドアイによりガーネットの要求を飲むことになった。一行はバー〇ーキングへと向かうことになる。
◇
腹ごしらえを済ませた後。
「『君達が、ソルの言ってた友達?』」
満足した、とばかりの表情を浮かべているガーネットはアーモンドアイたちを視界に収める。
突如として矛先が向いたことに驚きつつも、アーモンドアイはガーネットへと向き直る。
「え、『えぇそうよ。わたしはアーモンドアイ』」
「ブーはブラストワンピースだぞ!」
興味深そうに眺めた後、ガーネットは恭しくお辞儀をする。
「『改めて、僕はガーネット、ロードライトガーネット。アメリカの学園に通うウマ娘』」
「こやつはこんなんでも向こうで最強格と呼ばれておる。三冠候補、ともな」
「え!?」
「『まぁ、僕は強いからね』」
一切の淀みなく答えるガーネット。纏っている雰囲気から感じ取れるのは、絶対の自信。自らの強さを微塵も疑わない、強者としての圧を感じるアーモンドアイ。
だからこそ、先ほどの醜態を思い出す。
(どうしても頭にチラつく……さっきのやり取りが)
子供のワガママをさらにひどくしたようなやり取り。ソルサンクトゥムが呆れ果て、サンライトオーシャンが頭痛そうにしていたあのやり取りが頭によぎって、いまいち信じ切ることができなかった。
いざ会ってみたソルサンクトゥムの友人。その実態は。
「なんというか、ソル」
「なんだ、アイよ」
「貴方の友人、一癖も二癖もあるわね」
サンライトオーシャンは真面目な優等生。日本語をちゃんと勉強してきており、努力家なことがうかがえる、好感の持てるウマ娘だった。
だが、残り2人は癖が強い。終始ソルサンクトゥムの後ろに隠れているヴァンキッシュウォリアーに、子供の様なワガママを押し通すロードライトガーネット。
また、サンライトオーシャンの言葉からこのやり取りが珍しいものではないことが分かっている。彼女達にとっての日常茶飯事なのだ。
「『だから三バカなんて呼ばれてるんですよ、3人は』」
「三バカ?」
「なんだそれー?」
サンライトオーシャンがソルサンクトゥムたちに言い放つ。なお、当の本人達は。
「『ほら、言われるよバカ』」
「『抜かせ、貴様らのことだろうがバカども』」
「『僕向こうのジュエリーショップ見に行きたい』」
「『そこで自分は違うみたいな反応ができるのはいっそ尊敬しますよ。あなたたち3人のことです』」
「「!?」」
心外だ、とばかりに目を見開くヴァンキッシュウォリアーとソルサンクトゥム。ロードライトガーネットはどこ吹く風である。
「『我がバカだと!? ふざけたことを抜かすな!』」
「『何言ってるんですか遅刻常習犯。むしろ今日遅刻しなかったことに感銘を覚えましたよ私は』」
「『わたしは誓ってバカじゃない。訂正して』」
「『じゃあそのあがり症をなんとかしてください』」
なんとしても訂正しようとする2人。その理由は。
「『よいか? 百歩、千歩譲ってヴァンと一緒なのはまぁいい。だが!』」
「『ソルと一緒なのはいいよ。まだ我慢できる。けど!』」
ロードライトガーネットを指さし。
「「『ガーネットと一緒なのは嫌だ!少なくともコイツよりましな自覚はある!』」」
めちゃくちゃ失礼なことを言い放った。もっとも、ガーネット本人は特に気にしてない、というよりは元より興味がないのか会話に入ってこない。
アーモンドアイはサンライトオーシャンへと耳打ちする。
「『なんですか? その、三バカって』」
気になった単語、三バカの由来について尋ねる。どうしてそんな風に呼ばれているのか、純粋に気になったのだ。
「『私達が出会ったウマ娘の養成スクールで言われてたことですよ。3人とも走りは優秀なのに、とんでもない欠点を抱えているからそう呼ばれていたんです』」
「あ、あー……」
その欠点について心当たりしかないアーモンドアイは、苦笑いを浮かべるしかなかった。
ソルサンクトゥムは遅刻癖、ひいては出遅れ癖。ヴァンキッシュウォリアーはあがり症。ロードライトガーネットはワガママ。走りの実力以上に、この欠点が目立つからこそつけられた三バカという通称。サンライトオーシャンはアーモンドアイにそう説明した。
ただ、その中でも特に酷かったのがロードライトガーネットである。
「『ガーネット、自分の気に入らないことがあったらすぐに拗ねるんです。あの時も不機嫌になって、終いには……』」
「『終い、には?』」
「『当時の教官を追い回して、屈服させたんです。練習に身の入っていなかったガーネットを注意した教官を』」
とんでもないエピソードが暴露され、アーモンドアイは恐怖を覚えた。幼いながらにとんでもないことをやってのけてる、と。
「『これで実力は確かなのが質が悪いというか……3バカと呼ばれている中でも、ガーネットは一際酷くて』」
「……『苦労してるんですね』」
「『もう慣れましたよ』」
「『なにしてんの? 早く行こうよ』」
どんな話をされても、当のガーネットはどこ吹く風。マイペースで、自分の意見を押し通すだけ。
なんとなく、どうして会わせたくなかったのか。想像がついたアーモンドアイたちだった。
これでも「ウチのガーネットならもっとヤバいぞ」みたいなことを言いかねないのがあちらの陣営。