同世代のUMAさんwithウマ娘   作:カニ漁船

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数少ない理解者視点。


魔性から見た太陽

 メジロラモーヌは、ハレヒノカイザーというウマ娘を好ましく思っている。

 

「あら、今日も熱心ね。カイザー」

「あ、ラモさん!」

 

 純粋にして無垢。穢れを知らない少女のように、ただひたむきに走ることを愛する少女。どこまでもブレない姿勢を貫く彼女に、敬意と親愛の情を抱いている。

 

「走るの楽しいよね~。この前はね、スズさん達と箱根までいったんだ!」

「ふふ、それは楽しそうね」

「今度ラモさんも一緒に行こうよ! 勿論、走って!」

「考えておくわ」

 

 ハレヒノカイザーと話す時の彼女は、柔和な笑みを浮かべている。慈しむように、優しく包み込むように。考えておく、そっけない言葉に聞こえるが、前向きに検討していることが分かるくらいには。

 走ることを愛する者同士、どこか近しいものがある。メジロラモーヌは、そう感じていた。

 

 

 2人が最初に出会ったのはターフの上。シンボリルドルフの師事を受ける彼女の走りを、メジロラモーヌが偶然見かけたのが始まりだ。

 いつもならば興味を持たなかった。いつものように後進の育成に励んでいる、その程度の認識しか持たなかった。

 しかし、ハレヒノカイザーの走りを見て足を止める。寮へ戻ろうとした考えが吹き飛ぶ。

 次に、ターフへと歩みを進める。もっと近くで見たい、感じたいと。シンボリルドルフの下へと赴いた。

 

「おや、ラモーヌ。君がここに「ルドルフ」やれやれ……なにかな?」

「あの子は、誰かしら?」

 

 言葉を遮られても、いつものことだと割り切るシンボリルドルフ。唯我独尊を貫くメジロラモーヌの質問に、シンボリルドルフは答える。

 

「ハレヒノカイザー。新入生総代を務めたこともあるウマ娘だ。噂くらいはって、君はそもそも噂を聞かないか」

「ルドルフ。私は彼女のことを聞いたのよ」

 

 余計な言葉は不要。鋭く睨みつけ、ハレヒノカイザーのことを聞き出そうとする。その反応に、シンボリルドルフは目を見開いた。

 君が興味を持つのは珍しい、そこまで彼女が気になるのかい。そんな言葉を飲み込んで、ハレヒノカイザーの情報を教える。

 

「世代でも群を抜いて強く、向上心の塊ゆえに研鑽を怠らない。そして何より──彼女は走ることを楽しんでいる。今も笑顔で走っているのが、何よりの証明だ」

「……そう」

 

 視線の先にいるハレヒノカイザーは笑顔。キツいトレーニングを課せられているはずなのに、ずっと笑顔で走っている。

 その笑顔に裏はなく、純粋に、心から楽しんでいる。楽しくて仕方がなくて、だから笑顔がこぼれてしまう。そう印象づかせるには十分すぎる走り。

 心からの笑顔。あまり他者に興味を抱かないメジロラモーヌの心を動かすには、十分すぎる理由だった。気づけば柔和な笑みを浮かべて、吐息を零す。

 

「素敵ね、彼女」

「っそこまでか。君にそこまで言わせるか」

「だからこそ──貴方は彼女に何をやっているのかしら?」

 

 突然、メジロラモーヌは笑みを崩し、シンボリルドルフを睨みつける。咎めるように、責めるように。全てが委縮するような眼差しを、シンボリルドルフへとむけていた。

 シンボリルドルフは、臆さない。

 

「彼女にレースのイロハを教えている。思考し、学ばせ、より強くしようとしている」

()()()()()()()()()()()。なぜ、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 それ以上は許さない。さらに強く睨みつけるメジロラモーヌ。ただ、シンボリルドルフは多くを語らない。その目には、迷いがあった。

 少しの間対峙する2人、だが。

 

「喧嘩はダメだよ、ルドルフ会長! 後、知らないウマ娘さん!」

「っ、カイザー」

 

 いつの間にか2人の下へきたハレヒノカイザーが仲裁することで、一触即発の空気はなくなった。

 彼女は、怒ったような表情を浮かべたかと思えば、すぐに笑顔になる。ニコニコとしていて、毒気を抜かれるような、そんな表情。思わずメジロラモーヌも目を見開く。

 

「怒ったりするぐらいなら、笑おうよ。そうした方が楽しいよ?」

 

 実践するように笑顔を浮かべるハレヒノカイザー。言葉は少ないが、メジロラモーヌは意図を理解した。

 表情を崩し、ハレヒノカイザーの頬を撫でる。

 

「ごめんなさいね。ルドルフにちょっと意地悪されたのよ」

「え、そうなの?」

「……当たらずも遠からず。全く君は」

 

 頭を痛そうに抱えるシンボリルドルフをしり目に、お互いに自己紹介を済ませた。

 

「メジロラモーヌ……なら、ラモさんだね!」

「えぇ、ラモさんよカイザー。これからよろしくね?」

「うん、よろしく!」

 

 これが、2人の出会いである。

 

 

 その後も、メジロラモーヌはハレヒノカイザーのトレーニングを度々見物するようになった。遠くから眺め、成長を見守り、微笑む。

 

「ふふっ」

「姉様がそこまで興味をお持ちになるなんて……凄い子なんですね、ハレヒノカイザーさんは」

 

 妹であるメジロアルダンも目を丸くするほどに、ハレヒノカイザーに入れ込んでいた。

 また、メジロラモーヌは数少ない理解者でもある。

 

「は~あ、他のみんなはなんで走ってくれないのかな~?」

「貴方の愛に耐えられないのよ。あまりにも真っ直ぐで、眩い愛に」

 

 伝え方は独特ではあるものの、メジロラモーヌはハレヒノカイザーを理解している。彼女の在り方も、強さも。偶の時間を過ごし、造詣を深めていく。

 だからこそ、理解した。なぜシンボリルドルフが彼女に枷をつけるような真似をしているのかを。

 

(本気を出せば壊れてしまう身体。そういうことなのね、ルドルフ)

 

 ハレヒノカイザーの身体はあまりにも脆い。本気を出すことが叶わないほどに。

 出せる力に身体が追い付かない。そして、この先も追いつくことはない。それこそ、奇跡でも起きない限り。

 ゆえに、シンボリルドルフは対策を講じた。自らがもつレースのイロハを教え込むことで、ハレヒノカイザーが壊れないように縛り付けていた。これが、あの日の真実。トレーニングの真相だ。

 この結論に至ったメジロラモーヌは、顔をゆがめて舌打ちをする。

 

「……つまらないわね」

 

 そう吐き捨てて。

 無論、シンボリルドルフを軽蔑しているのではない。むしろ、あの日のことは謝罪しなければならないと思った。

 走れないことの辛さは分かっている。だからこそ、そうならないために、この先もずっと走れるようにしているシンボリルドルフに対し、この前の態度を謝らねばならないと思っていた。

 枷をつけられているハレヒノカイザー。さぞかし辛いのではないか? と一瞬思いもしたが。

 

「あはは、アハハ!」

「本当に、気持ちよさそうに走る子」

 

 笑顔で走るハレヒノカイザーに、それはないと断定する。

 彼女は走ることに至上の喜びを見出している。走ることに勝る喜びはない、自分の身体的弱点は関係なく、今出せる全力をもって彼女は喜びを表現しているのだ。笑顔で走ることによって。

 本気を出せないことは辛いこと? そんなことは、他人が下す評価だ。笑顔の裏では苦しんでいる? なぜあの笑顔をそのまま受け取れないのか。メジロラモーヌからしたら、逆に人々の普通が理解できなかった。

 

(心からの笑顔。一点の曇りもない、珠玉の表情に偽りなどなくてよ)

 

 見たままを受け取ればいい。感じたままのことを素直に感じればいい。それが、ハレヒノカイザーを理解することに繋がる。

 ……ただ、流石のメジロラモーヌと言えども、ハレヒノカイザーの日本ダービーには目を見開く結果となったが。

 ライバルであるディープインパクトを下し、ついに戴冠を果たしたハレヒノカイザー。そんな彼女に浴びせられたのは、心無い言葉。

 顔をしかめる。周りにいる観客が思わず気絶してしまいそうな圧を発するメジロラモーヌ。妹であるメジロアルダンが慌てて諫めようとするが、メジロラモーヌは耳を貸さない。

 

(彼女の愛を仇で返そうなんて。無粋極まりない。汚らわしい)

 

 なぜ素直に称えることができないのか? こんな醜態を見に来たわけではない。そう思うメジロラモーヌだが、次に目にしたのは。

 

「やっっっったー!」

 

 変わらない笑顔で勝利を喜ぶ、ハレヒノカイザーの姿である。これにはメジロラモーヌも目を丸くした。

 罵声を浴びせられても変わらない。心無い言葉を聞いても揺らがない。いつもと変わらない姿に驚き、そして理解する。

 

(あぁ、成程)

「彼女は、人を愛しているのね」

「ね、姉様?」

 

 ブーイングをされて平気なはずがない。罵声を浴びせられて、どうして笑っていられるのか。

 それ以上に、人々が笑顔じゃないのが嫌だからだ。自分が辛いことよりも、他人が辛いことの方が嫌だからだ。

 自分の走りで笑顔になってほしい。ブーイングされたのは自分の努力が足りなかったから。そう考えて、次こそはもっと頑張ろうと思っている。

 その考えを悟られないようにしている。知られたら、笑顔じゃなくなるから。みんなには笑顔でいてほしいから。それこそが、ハレヒノカイザーの走りの根源。

 

「なんて健気で、愛しい子」

 

 溜息を零すメジロラモーヌ。気が付けば、彼女から発せられる圧はなくなっていた。

 

 

 ハレヒノカイザーというウマ娘は、およそ常人に理解できるものではない。その精神性はあまりにも歪で、普通からは逸脱しているからだ。

 理解できる人は、あまりにも少ない。メジロラモーヌは、その数少ない人物の一人だ。

 

「あの子の愛は、とても大きい。大きいからこそ、常人には見えないもの」

 

 走りを愛し、レースを愛し、人を愛する。その支柱は揺らぐことはなく、折れることもない。

 また、彼女の愛は無差別だ。自分のファン、出走しているウマ娘、果てには自分のアンチにさえも、彼女は平等に愛を振りまく。それが当然だといわんばかりに。

 自分を嫌っている人間にさえも、彼女は笑顔という愛を届けるのだ。これこそが、理解を妨げる一番の要因でもある。

 どうして? その理由は、メジロラモーヌからすれば単純なもの。

 

「呼吸をすることに疑問を持つ? 手や足を動かすことに、今更疑問を持つのかしら? それと同じことよ」

 

 当然だから。自分が愛を振りまくのは当然であり、誰が相手でも愛を届けるべきだと考えているから。ただ、それだけの話。

 なるほど、常人には理解できない思考だ。自分を嫌っている人物にさえも愛を振りまくなど、普通の人間ならば考えもしない。なんで自分を嫌うような奴に愛を振りまく必要があるのか、そう頭に浮かぶからだ。

 だが、彼女は普通ではない。偽りのない、心の底からの愛を振りまき続ける。

 

「本当に、健気な子」

 

 だからこそ、メジロラモーヌはハレヒノカイザーを好ましく思う。どこまでも素直で、穢そうとも穢せない太陽のようなウマ娘。

 ひたむきに走ることを愛し、人を愛する。それこそが、ハレヒノカイザーなのだ。




見る人でこんだけ変わるカイザーさん。ウマ娘編の構想も徐々にできてきた。
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