同世代のUMAさんwithウマ娘   作:カニ漁船

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ポラリス視点のカイザー。


妹から見た太陽

 わたしには姉がいる。とてもすごい才能を持つ、天才の姉が。

 

「ふんふふんふ~ん」

 

 ねぇね、ハレヒノカイザーは鼻歌まじりに問題を解いちゃう。その問題は、小学生のねぇねが到底解けるはずのない大人の問題なのに。

 みんなが凄いとねぇねを褒めたら、ねぇねはとても嬉しそうな顔をする。

 

「そうでしょそうでしょ? 私凄いでしょ!」

 

 ねぇねのドヤ顔。もっと褒めてと言わんばかりの表情が、わたしは好き。ねぇねのことが一番よく分かるから。

 ちなみに、どうして問題が分かるの? という疑問に対して、ねぇねは当たり前のように言い放つ。

 

「理屈が分かれば簡単だよ!」

 

 その理屈を理解することが、小学生には難しいのではないか? そんなツッコミが頭に浮かんだけど。ねぇねが嬉しそうだから良いかな。

 

 

 ねぇねは頭だけじゃない。走りも凄かった。いつも一番で、上級生よりもずっと速い。

 でも、ねぇねは身体が強くない。生まれつき本気を出して走ることができないらしく、制限がかけられてるってパパとママに聞いた。

 わたしだったら、耐えられない。自分の思うように、思いきり走ることができないなんて。

 

(想像ができない辛さなんだろうな)

 

 周りに置いていかれても、ねぇねは本気を出して追いつくことができない。みんなに離されても、ねぇねには制限がある。あまりにも酷い話だって思った。

 だけどねぇねは、いつも笑っている。

 

「う~ん、私は走れればそれでいいかなぁ」

 

 いつか直面する問題なんて気にしてないとばかりに笑う。笑顔で走って、楽しそうにアハハと笑って……周りの子達を置き去りにする。

 そう、ねぇねは本気を出せないはずなのだ。

 思いっきり走れない、全力を出すことが叶わない肉体。そうお医者さんから言われたはずなのに。

 ねぇねは強い。他を圧倒するほどに。

 

「アハハ! アハハハ!」

「は、はやすぎるよぉ」

「なんでそんなにはやいのぉ?」

「分かんない! でも、楽しいでしょ?」

 

 ねぇねの才能は群を抜いている。周りの子達はみんなついていけないって、ねぇねと走ることをやめた。

 酷いって思うかもしれない。けど、気持ちは痛いほど分かる。

 

「カイザーちゃんといっしょに走ってたら、自信なくしちゃうよ」

「だって、速すぎるんだもん」

 

 自分の才能のなさを突きつけられたら、そりゃ走りたくもなくなるよねって。

 あまりの強さから、ねぇねは孤独になった。わたしがいない時は、いつも一人で走っている。

 ねぇねは寂しい思いをしている。だから少しでも多くわたしが走ってあげないと!

 幼いながら使命感に駆られていたわたし。ある日見たのは。

 

「アハハ! 楽しいな、楽しいな!」

 

 一人ぼっちで笑いながら走る、ねぇねの姿だった

 なんで笑ってられるの? どうして気にしていないの?

 ねぇね避けられてるんだよ? 陰口、聞いたことあるよね?

 なのにどうしてそんなに楽しそうなの? みんなから恐れられているのに、どうしてねぇねは……。

 これが初めての、ねぇねを理解できなかった瞬間。これから何度も味わうことになる、ねぇねの独自の価値観だった。

 

 

 

 

 

 

 走ることが大好きなねぇね。そんなねぇねにわたしは、トレセン学園の入学を勧めた。

 

「ねぇね、トレセン学園に入ろうよ!」

「トレセン学園? あー、凄いところだっけ?」

「そう! 凄いところ!」

 

 多分ねぇねは全部分かってるんだろうけど、出力される言葉はなんとも微笑ましいもの。

 わたしは気にしないで、ねぇねがトレセン学園に入る後押しをした。

 

(トレセン学園は、全国からエリートが集まってくる。そしたらきっと!)

 

 ねぇねを理解してくれるウマ娘がいる。ねぇねと同じくらい速いウマ娘だって出会えるはず!

 いざとなればママも説得する気だった。無理やり入学させようとも。

 ねぇねは。

 

「ポラちゃんは、私が学園に入学したら嬉しい?」

 

 わたしの目をまっすぐに見て、そう質問してきた。

 答えなんて決まっている。

 

「勿論! 凄く嬉しいよ!」

 

 大好きなねぇねが孤独になるなんて耐えられない。ねぇねを理解してくれる人がきっといる。そう考えたら、嬉しいに決まってる。

 ねぇねは、ふーんと呟いて。

 

「なら、試験受けようかな。お母さんに相談する」

「ッ! うん、そうした方がいいよ! わたしも説得手伝うから!」

「ま~大丈夫だと思うけどね~」

 

 ねぇねはお気楽。なにも心配する必要はないとばかりに軽い調子。

 実際その通りで。ママはねぇねがトレセン学園に入るのを歓迎していた。ちょっと寂しそうにしていたけど。

 そんなねぇね、なんと試験をトップ通過だったらしい。もはや天才とかの域を超えてそうな気がする。

 

 

 わたしも学園に入学。ねぇねはというと、もうたくさんのウマ娘と仲良くなっていた。

 

(まぁねぇねだしね。仲良くなるの、凄く早いし)

 

 ねぇねは誰とでも仲良くなれる。ねぇねが嫌っている人なんて見たことがない。そんなレベルでぐいぐい行く。

 線引きもちゃんとしているし、押しが強すぎたりもしない。丁度良い距離間を保ってくれる。

 だからみんな、ねぇねと仲良しだ。

 

「カイザー。今日もトレーニングに励もう」

「あ、はーい。ルドルフ会長」

 

 なんと、あのシンボリルドルフ生徒会長とも仲良し、なんてレベルじゃない。

 ねぇねは会長さんからレースのイロハを教わっているらしい。な、なんてすごい……さすがはねぇね。

 会長さんが抱く、ねぇねの評価は。

 

「末恐ろしいな。こちらが教えた1のことに対し10で応える。基礎を教えればすぐさま応用を思いつくように、頭の回転がものすごく早い」

 

 大絶賛だった。さすがねぇね。わたしの自慢の姉だ。

 

「ポラリス。君も一緒にトレーニングするかい?」

「え、い、いいんですか!?」

「勿論構わないとも」

 

 わたしもたまに、会長さんに教えてもらったりした。テイオーさんが後から乱入してきて、ヘリオスさんが盛り上げるように入ってきて、騒がしいトレーニングになる。

 

「楽しいねぇ!」

 

 ねぇねは、楽しそうにしていた。

 

 

 でも、わたしは知っている。ねぇねは()()()()()()()()()()()

 人づてに聞いた。最初のレース実技の授業で、他のウマ娘を圧倒する実力を見せたって。

 

「ありゃヤバいよ。ハレヒノカイザーって子」

「とんでもないらしいね~。走り自慢の子が何人も挑んだんでしょ?」

「全部返り討ち。しかも本人明らかに手を抜いてるからね~。心折られるよあんなの」

 

 ねぇねの実力は、トレセン学園でも飛び抜けていたんだ。地元なんて可愛いレベルじゃない、全国トップの学園でも最強クラス。そう思い知らされた。

 しかも、ねぇねはいつも笑いながら走る。楽しくて仕方ないのか、いっつも笑顔なんだ。

 それが追い打ちをかける。本気を出していない、全力じゃないと捉えられ、敵うはずがないと走ることを諦める。

 

(ここでも、変わらない)

 

 結果として、ねぇねと走る人はごく少数。それも、会長さんとかテイオーさん、学園でもトップレベルの人達しか相手にしてくれなくなった。

 仕方ないと言えば仕方ない。だって、デビュー前に心を折られちゃうんだもの。()()()()十分に理解できる。

 ……でも、理解できないのは。

 

「楽しいな、楽しいな」

(なんで)

「走るのはやっぱり楽しいなぁ!」

 

 どんなに孤独でも楽しそうに走るねぇねだ

 一人で走るのが好きな先輩だっている。そういうもんだと思える。

 けど、ねぇねのそれは断じて違う。なんで分かるかの説明はできないけど、とにかく違う。

 痛ましい。普段はみんなに囲まれて、太陽のように輝いているのに。

 

(ねぇね……っ)

 

 一人で楽しそうに走るねぇねの姿は、凄く泣きたくなる。

 だから、見かけたときは必ず加わるようにした。

 

「ねぇね、一緒に走ろう!」

「あ、ポラちゃん! 勿論いいよ!」

 

 わたしが加わっても変わらない。楽しそうにしている。それでも、ねぇねの心の不安を取り除けたらって。そう思って一緒に走る。

 

(大丈夫だよ、ねぇね)

 

 ねぇねのことは理解できないかもしれないけど、わたしはねぇねから離れないから。

 才能の差に絶望した日もある。どうして自分は姉とは違うのだろうと嘆いた日もある。

 それでも。わたしにとってハレヒノカイザーは大好きなねぇねなんだ。

 いつも明るくて、優しくて、輝いていて。

 周りを照らしている太陽のようなウマ娘。そんなねぇねを、一生懸命に理解してあげようとした。

 

 

 ──けれど、その考えがいかに甘かったのか。わたしはとある事件で思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 思い出すのはねぇねの日本ダービー。ねぇねは2番人気の出走だった。

 1番人気は当時カルト的な人気を誇っていたウマ娘。空を翔ける英雄と呼ばれ、三冠が確実視されていた子。

 そんなウマ娘を相手取って、ねぇねは見事にダービーを勝った!

 

《ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーだ! ハレヒノカイザーが3戦目にして、ついにライバルに雪辱を果たしました!》

 

 これまで負けてきた相手に、ねぇねは勝った! わたしは嬉しくて嬉しくて、テイオーさんと一緒に喜びの声を上げようとしていた。

 でも、聞こえてきたのは。

 

「あーあ、英雄が勝つとこ見たかったのに」

 

 落胆。ねぇねが勝ったことよりも、英雄が負けたことを悔しがる声だった。

 

「次は頑張ってくれよー! あんな奴に負けんなー!」

(……え?)

「ダービーは運のいいウマ娘が勝つからな。今回はツキがなかったんだ!」

(待ってよ、ねぇ、待ってよ)

 

 勝ったのはねぇねだよ? ねぇねを褒めるべきじゃないの? なんで、どうして負けた子を心配する声の方が多いの?

 

「つーか、誰よあの子?」

「ほら、アレだろ? 英雄がライバル視してるっていう」

「あー……知らね。なんつーか、空気読めない子だな」

「私達は英雄が勝つところが見たかったのに」

 

 どうしてねぇねを貶めるの……どうして、どうして勝ったねぇねにそんな酷いことを言うの!?

 あんまりだ。頑張ったねぇねが、どうしてこんなに言われなきゃいけないの?

 他の人、とりわけねぇねのファンもそう思っていたみたいで。

 

「黙って聞いてれば! 走っているのは英雄だけじゃないのよ!?」

「なんでそんなに酷いことが言えるんだ!」

 

 今にも喧嘩が起きそうな、そんな雰囲気の中で。

 

「やっっっっったー!」

 

 天を衝くような声が、東京レース場に響き渡った。

 聞き間違えるはずもない。この声は、ねぇねの声だ。

 ねぇねは──笑顔。あんなにブーイングされていたのに、心無い言葉をかけられていたのに。

 

「やった、やった! 勝った勝ったー! 嬉しいな嬉しいな!」

 

 そんなのまるで関係ないとばかりに、小躍りするほど喜んでいた。

 ……なんで?

 

(どうして、ねぇね)

「ふふん、ついにプイちゃんにリベンジを果たしたよ。この調子で、どんどん私が勝つ!」

(酷いこと言われたのに、勝利を祝福されていないのに)

「次も、その次も私が勝つ。なんせ私はできる子ハレヒノカイザー、なので!」

 

 なんでそんなに喜べるの?

 少しも傷ついていない、観客の言葉なんて聞こえなかったとでも言いたげ。

 でも、確実に聞こえていたはず。だって、他ならないねぇねに対する言葉なんだもの。

 それに、ねぇねは明らかに観客に向けて喋ってる。聞こえてないはずがないんだ。

 隣にいるテイオーさんも、会長さんも目を見開いている。凄くびっくりしている。

 

 

 ……最終的に。勝利を喜んだねぇねを見て居心地の悪さを感じたのか、ねぇねに悪いことを言った人たちは謝罪した後すごすごと帰っていった。申し訳なさを覚えるくらいなら、最初からやらないでほしい。

 控室で、ねぇねに飛びつく。

 

「ねぇね!」

「うわっ、ポラちゃん。どしたの?」

 

 いつもと変わらないねぇね。あんなことがあったのに、わたしを心配させまいとしている。

 優しいねぇね。だから。

 

「あんな奴らの言うことなんて気にする必要ないよねぇね!」

「そうだよ! あんなやつら、みんながいるところじゃなかったらボクがギッタンギッタンのぼっこぼこにしてやるから!」

「こらこら、テイオー。そういうのは秘密裏に、証拠を残さないようにだな」

 

 和気あいあいとした雰囲気。落ち込んでいるだろうねぇねを励ますために、いつもと変わらない雰囲気を出そうとしているみんな。

 なのに、ねぇねは。

 

「え、そんな相手がいるの?」

 

 本当に、心底分からないといった感じで、聞き返してきた。

 ……え?

 

「ねぇね、悪口言われてたよね?」

「うん、そうだね」

「ねぇね、傷ついたよね? せっかく勝ったのに水を差されて、悲しくなったよね?」

 

 お願いだからそうだと言ってほしい。だって、G1の大舞台を勝ったのに罵倒されたんだよ? 傷つかない方がおかしいよ。

 だけど。

 

「え? 別に。むしろもっと派手に勝つべきだったかなって思ってるけど」

 

 そこまで気にすること? と言わんばかりに、ねぇねはきょとんとしていた。

 ……なんだろう、わたしがおかしくなったのかな?

 

「ね、ねぇ。何言ってるの? カイザー」

 

 テイオーさんが訳が分からないとばかりに聞く。

 

「何って。ブーイングされたのは私のレースに派手さが足りなかったのかなって」

「そうじゃなくてさ! 自分の努力をバカにされたんだよ? 悔しくないの!?」

「う~ん……あんまり? 楽しく走れて、なおかつ勝てたから」

 

 質問の全てに、ねぇねは特に気にした様子を見せないで答えていく。

 

「……カイザー。君はもっと怒るべきだ。だんまりは彼らを増長させる。そうさせないためにも」

「え、無理です」

 

 ルドルフさんの言葉を、ねぇねはバッサリと拒否した。なぜ!? とすごむ会長さんに、ねぇねは変わらない表情。

 

「だって、怒ったら悲しいじゃないですか。怒られたら辛いじゃないですか、苦しいじゃないですか。笑顔にならないじゃないですか」

「そ、そうだが……」

「それって、嫌じゃないですか? みんな笑顔で楽しく過ごすのが一番! 違います?」

 

 あっけらかんと、言い放つ。

 どうしよう、ねぇねの言ってることが理解できない。ううん、理解したくない。

 

(これが、他人のことならまだ分かる)

 

 蚊帳の外から意見をぶつけるなら、まぁ分からなくもない。そんな印象を抱いたんだなーで終わる問題。

 でも、ねぇねは当事者だ。被害者だ。ブーイングを浴びせられて、傷ついているはずの被害者なんだ。

 なのに、どうしてこんなにあっさりとしているの? なにも気にしていないの?

 傷つかないはずがないのに、本当は苦しいはずなのに!

 

「それに、あの人たちの理屈も分からなくもないかなって。プイちゃんを応援してたわけですし、そこで私が勝ったからあんな言葉が出てきたんじゃないかなって」

「ッ! 分かってるのに、だから許してはいけないと分かっているのに! どうして!」

「でも、別に怒る必要あります? プイちゃんを応援することを忘れるくらいに、私が勝てばよかっただけの話ですし」

 

 なんでねぇねは、笑っていられるの?

 

「それに、私は楽しく走れてなおかつ勝てた。だからウルトラハッピー最高に幸せ! 今日のレースも楽しかったな~!」

「か、カイザー……」

「ねぇね……」

「やっぱりプイちゃんとのレースは格別だね。どんどん強くなってる気がする。いいや、強くなってるね!」

 

 分からない。ねぇねのことが、少しも理解できない。

 ブーイングされても笑っていられる。

 罵声を浴びせられてもケロッとしている。

 挙句の果てには、楽しく走れてよかったなんて口にする。

 分からない、分からない。何もかもが分からない。

 

(今までも、ねぇねのことを理解できないことはあった)

 

 それでも、今回ほど理解できないことはなかった! これは、今まで一番理解ができないよねぇね!

 何を考えているの? ねぇねはどうしていつも笑っていられるの?

 分かんない、ねぇねのことなにも分かんないよ!

 

「次のレースも楽しみだな~。どんなレースになるかな? きっと、凄く楽しいレースになるな!」

 

 物事の価値観が、わたしとは決定的に違う。そう、思い知らされた。




なんだぁ、コイツ(恐怖)
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