不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです 作:綾(あや)
やっと更新できました!
なかなか書ける暇がなくすみません(´・ω・`)
ぜひ感想お待ちしております!
玉狛支部の訓練室は静寂と緊張に包まれていた。
中央の戦闘フィールドには、スコーピオンを構えた遊真と、軽く腕を回して準備体操をする遼平の姿。
「いくよ、リョーヘイ」
「おう、遠慮すんなよ」
──次の瞬間、戦闘が始まった。
遊真の一歩が床を蹴り裂き、まっすぐに間合いを詰める。スコーピオンによる鋭い突きが、寸分の狂いもなく瓦木の胸元を狙った──が、瓦木はそれを軽く身体をひねってかわす。
(さすがに通用しないか...やっぱリョーヘイは強いな)
遊真の突きを読んでいたかのように、瓦木はそのまま後ろ回し蹴りを放つ。遊真はそれをしゃがんで躱すと、そのままスコーピオンで足元を狙った。
「よっと」
瓦木は低空ジャンプでそれを避け、空中で一回転。そのまま着地と同時に肩口へ肘打ちを打ち込もうとするが、遊真もすぐにバックジャンプ。お互いに寸前で回避する絶妙な読み合いが行われ、最早お互いの現在の立ち位置のB級中位や下位レベルの戦闘ではない。
一呼吸置くと、瓦木は一気に攻め込んだ。
「いくぜ」
地面を踏み砕くような踏み込み。その脚力はまるで重力を逸脱したかのようで、風が巻き起こる。
右手で遊真のスコーピオンを腕をつかみ受け止めると同時に足を払い、反動をつけて跳び上がった瓦木は、遊真の肩を蹴り台にして空中で回転。
変則的な立体戦闘。これもまた彼の変態的な運動神経が可能にしていた。
「っ──!」
空中から落下しながらの踵落とし。シールドすらも貫通するその攻撃に、咄嗟に遊真は自身の拘束されている右腕を切断し、バク転で躱した。数秒前に自信がいた場所にはクレーターができており、冷や汗をぬぐうとともに安心する。
しかしそんな遊真にも容赦する気は一切なく、着地と同時に今度は回転しながら飛び上がり、逆さまの体勢から強烈な蹴り放つ。遊真は寸前で身を捻って回避するが、空気が裂けるような音がその威力を物語っていた。
そのまま瓦木はスライディングで距離を詰め、手刀でスコーピオンを払いのけると、踏み込んだ一歩で懐に潜り込み、首筋に手をかけ、そのまま遊真をヘッドロックの要領で掴み、回転した。
「オラよっ!」
遊真の体が一回転し、地面に叩きつけられる。そのまま背中から落下し、無防備な遊真に馬乗りになると、上半身目掛けてラッシュを叩き込んだ。
数秒後、鈍い音が訓練室に響く。遊真のトリオン体が激しく散り、──限界が訪れる。バトルフィールドには勝敗を告げる電子音が響いた。
勝者――瓦木遼平
「おれの負けかぁ」
瓦木が手を差し伸べ、その手を掴みながら遊真は笑って起き上がる。
「やっぱリョーヘイ強いや」
「まぁな」
汗を拭いながら笑う瓦木。そのとき、遊真がふと思い出したように問いかける。
「ねえ、コナミ先輩とリョーヘイ、どっちが強いの?」
「そりゃ──」
言いかけたその瞬間、背後から声が飛んできた。
「アタシに決まってるでしょ!!! 遼平なんかに負けるわけないじゃん!」
小南が訓練室の入り口を勢いよく開けて飛び出してきた。
「おいおい、それは何の冗談だよバカ天然野郎、そんなんだから騙されるんだろ?頭冷やせって」
「はぁ!?誰が馬鹿よこの喧嘩バカ!!」
「第一俺の方が勝率高ぇだろ、負けると泣きそう顔で『もう一回!!もう一回だけ!!』ってグズグズする癖によ」
「ぐぬぬぬぬ!!うるさい!!」
このままでは何時までも終わらないと感じた二人の言い争いをあきれた様子で見る遊真
「じゃあ、見せてよ、コナミ先輩とリョーヘイの戦い」
「──望むところよ!!ボコボコにしてやるわ!!」
「こっちのセリフだわ」
小南がトリガーを起動し、双月を構えフィールド中央へ。瓦木も軽くストレッチをすると、戦闘開始のブザーが鳴った。
(ったく、我儘女王が。勝てねぇ癖によ)
瓦木は内心ため息をつきながら、視線を鋭く向けた。
(……そうだな。あいつの照れた顔、ちょっと見せてもらおうか)
──戦闘開始
「行くわよ!!」
「はいはい」
小南が飛び込む。二つの短刀を合体させ、一つの巨大な斧となった双月の一撃を瓦木へと振り下ろすが、その一撃は空を切る。
「大振りになんか当たらねぇよ、女王様」
軽く腰をひねり、瓦木は紙一重で回避。その後も連撃が襲うが、すべてを半歩で躱していく。
しかし小南の双月が更に旋回する。重厚な斬撃が怒涛のように襲いかかる。初撃から全力。大振りに見えて、実は緻密に計算された軌道。鋭さと勢いを併せ持つ一撃を、瓦木は体を捻ってかわし、足先でタイミングを逸らす。
(本当にこの人が僕たちB級と同じレベルなのか…?)
修は冷や汗をたらしながら、これからのランク戦で彼と当たることに不安を覚えるのだった。
怒気を帯びた叫びとともに、メテオラを投げる。爆風が吹き荒れる訓練室。だが、そこから現れたのは──
「よっと」
爆煙を裂いて現れた瓦木が全力の右ストレートを放ち、小南の右腕が吹き飛ぶ
「…ッ、やるじゃない。でもいつものアンタと違って随分大人しいわね」
そう問いかける小南を、瓦木は余裕の笑みを浮かべながら答える
「そうか?まぁ、考えてるんだよ」
その様子に小南の表情がピリピリと歪む。
「……何よ、それ。アタシなんか考え事しながらでも倒せるってこと!?」
「あぁ」
「バカにして──!」
怒りに任せて小南が踏み込んだ瞬間──
瓦木が身体を旋回しながら、突進してきた小南を逆に抱きとめた。
「──おつかれ」
そう囁いた瞬間、小南の腰をがっちり抱きしめた。
「「!?」」
小南の動きが完全に止まった。抱きしめたまま、瓦木は小南の顔にぐっと近づく。鼻が触れ合う距離。目と目が見つめ合う。
「油断したな、桐絵」
耳元でそう囁かれたその瞬間、小南の顔が湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「ば、ばばば……ばっっかじゃないの!!??」
小南は完全にフリーズ。瓦木はニヤッと笑ってそっと距離を取る。
「反撃しないのか?絶好のチャンスだったのにな?」
しかし反論する余裕もないのか、小南は顔を真っ赤にしたまま、口を開こうとするもパクパクと口を動かすだけであり、結局「ぬぁああああ!!!」と叫んで背を向けてしまった。その様子を見ていた遼平も写真を連写しながら爆笑し、観戦していた一同はその一瞬の出来事にポカンとしていた。
そしてしばらくして、観戦していた遊真が笑いをこらえながら言う。
「あれ、コナミ先輩の負け?」
「そう…なのか?」
「わっ…やっぱ遼平先輩って大胆…」
各々が別の反応をする中、遼平は顔が真っ赤な状態でうつむいている小南に近寄ると、額にデコピンをし、勝利のガッツポーズをしながら言った。
「今日の晩飯、焼肉奢ってもらうからな、桐絵ちゃん♪」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
小南の鉄拳が遼平の頭にクリーンヒットした
──
訓練室に漂う熱気が落ち着いたころ、小南は頬を膨らませていた。
先程遼平と真剣勝負をして、彼に翻弄される形で終わったのだ。最後には抱き寄せられて完全に虚を突かれ、周囲の隊員に散々冷やかされてしまった。
「……あーもう、腹立つわね!」
小南は両手で顔を覆い、声を荒げる。
そんな彼女の横で、瓦木は余裕の笑みを浮かべていた。
「桐絵、勝負に負けたんだから、勝者の俺に奢りってことでいいよな?」
「はぁ!? どの口が言ってんのよ!」
「俺の口だよ。今夜は焼肉だな、決まり」
「誰がアンタなんかに!」
「ほらほら、どうした敗者さん」
揶揄うような言葉に、小南はぎゅっと唇を噛む。悔しいが、実力では劣っていることに否定しきれない自分がいた。
「……しょ、しょうがないわね! 行けばいいんでしょ、行けば!」
「よっしゃ、決定」
こうして二人は夜の街へと出かけ、入ったのは繁華街の少し外れにある焼肉屋。店内はこぢんまりとしていたが、炭火の香りが食欲を誘う。
「うわ、もういい匂いするなぁ……腹減って死にそうだわ」
「さっきまで散々暴れてたくせに……」
メニューを開いた瞬間から瓦木の目が輝き、次々と注文していく。小南は呆れ顔を見せつつも、そんな姿に思わず笑みが漏れた。
やがてタン塩が運ばれ、瓦木が器用に焼き上げる。
「最初の一枚は俺が焼いてやるよ」
「……なによ。気持ち悪い」
「あ?肉抜きにするぞ」
差し出された皿を受け取り、一口食べた瞬間、小南の表情が緩む。
「…っ、うま……!」
「だろ?」
得意げな顔に、思わず「ふふっ」と笑ってしまう。普段滅多にすることのない緩みきった笑みに、小南はすぐ顔を横に振る
「なんだよ、お前そんな笑い方するんだな」
「ち、違う!肉が美味しいだけ!アンタとは関係ないんだから!」
(なんであたし、こんなに楽しいの……?)
胸の奥に芽生え始めた小さな違和感を、小南はまだ自覚できていなかった。
食事を終え、二人は店を出た。夜風が心地よく、並んで歩く時間が妙に心を和ませた。
だが、その空気は突如破られる。
「おい、そこの嬢ちゃん。かわいいなぁ」
背後からぞろぞろと現れたのは、数人の不良たちだった。ジャラジャラとしたアクセサリー、だらしない制服姿、酒臭い息。小南は眉をひそめ、反射的に身構えた。
「……は?誰がアンタらなんかと行くのよ。失せなさいよ」
「おー怖ぇ。気の強い娘は好きだぜ?」
「なぁに照れてんだよ。そんな可愛い顔してさ……」
強気に言い返す小南だったが、不良の手が伸びた瞬間、胸がすくむ。瓦木はちょうど自販機に飲み物を買いに行っており、この場にはいない。
(やば……どうしよう……!)
その時。
「触ってんじゃねぇよ」
鋭い声と共に、影が飛び込んできた。勢いのまま飛び蹴りを叩き込み、不良の一人を吹き飛ばす。
「りょ、遼平……!」
小南を抱き寄せ後ろに下がらせる。その目は獣のように冷たく光っていた。
「な、なんだテメェ!」
「……あ、あいつ……“蒼金の豹”の瓦木じゃねぇか!?」
不良の一人が蒼ざめた声を上げる。
「半グレの連中をまとめて潰したとか、ケンカ無敗の怪物だとかのか!?」
「だが、あいつを倒せば俺たちが有名だ!」
数人が一斉に飛びかかるが、瓦木は一歩踏み出した。その一歩で、空気が変わる。まるで獣が獲物を狩る瞬間のような圧。瓦木の動きは速すぎた。
一人を昏倒させ、肘打ちで顎を砕き、足払いで別の男を地面に叩きつける。最前列の一人の拳を片手で受け止め、鳩尾へ膝蹴り。肺の空気を奪われて男は崩れ落ちる。
続け様に背後から飛びかかってきたもう一人を、体をひねって投げ飛ばし、背中からアスファルトへ叩きつけた。
刃物をちらつかせてきた不良も、瓦木はそれを素手で払いのけ、肘打ち一発で顔面を血だらけにした。振りかざす相手の腹に膝を突き刺し、壁に吹き飛ばす。
数十秒後、全員が呻き声をあげて地に伏していた。
瓦木は小さく息を吐き、小南を見下ろす。
「……悪ぃ、怖かったろ」
いつもとは異なる優しい声に、小南の胸がぎゅっと締め付けられる。気づけば彼の胸に顔を埋め、震える手で服を掴んでいた。
震える手で瓦木の服を握り、胸に顔を埋める。心臓の奥で、何かがじわりと溢れ出す。
(あ……私……ずっと……)
思い返す。
訓練で挑発され、つい意地を張ったあの日。
勝ち越され、悔しさで顔を赤らめたあの日や、大規模侵攻で共闘し、強敵を倒した時。
でも遼平はいつも、少しふざけながらも、ちゃんと支えてくれた。
危ない時に絶対に助けてくれる。その度に、安心感と胸の高鳴りを覚えた。
(アタシは気づかないうちに……笑顔になってた。どんなときも、遼平と一緒にいると……楽しかった……)
戦って、笑って、茶化して、守ってくれて――
小さな記憶が次々と走馬灯のように頭を巡る。
(あ……アタシ、とっくに遼平のこと……)
胸の奥が熱くなる。震える声で呟く。
「……りょ、遼平……好き」
夜風が二人を包み、瓦木の胸に寄り添いながら、小南の告白が静かに夜空に溶けていった。