不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです   作:綾(あや)

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更新遅すぎて申し訳ない(´・ω・`)

主のリアルが忙しすぎて書く暇がなかったです<(_ _)>


変化と未来

 

 

その言葉を聞いた瓦木の体が、一瞬硬直した。 獣のような冷たい光を宿していた瞳から、驚いてただ小南を見下ろしている。

 

「…今、なんて言った?」

 

その声は今までの瓦木からは想像もできないように呆けていたが、小南は顔を上げることができず、ただ彼の胸元を握りしめたまま、震える声で言葉を紡ぐ。

 

「だ、だから……好き、って……」

 

心臓が破裂しそうなほど脈打っている。顔は真っ赤になっており熱く、今にも爆発しそうだ。こんなに真っ直ぐな感情を誰かに伝えたのは彼女にとって初めてで、緊張で胸が押しつぶれそうになっていた。

 

いつもは喧嘩ばかりだが、それでも心のどこかで、彼も自分と同じような気持ちなのではないかと期待していた。だがその沈黙は小南に最悪の予感を抱かせる。

 

「ご、ごめん、今のは……」

 

そう言って取り繕おうとした瞬間、瓦木の手が小南の後頭部にそっと添えられた。そしてそのまま優しく、ぐっと引き寄せられる。

 

「…嘘つけ」

 

耳元で、囁くような低い声が響いた。それはいつものふざけた声とも、戦闘時の鋭い声とも違うひどく熱を持った声だった。

 

「そんなに震えてるくせに、今のは冗談でした、なんて言うなよ」

 

小南の震えが、瓦木の体に伝わっているのが分かった。彼は小南の顔を両手で挟み、無理やり上を向かせる。夜の街灯に照らされ、その瞳がまっすぐに小南を捉えた。

 

「俺は、お前のそういうところが好きだ。頑なで、意地っ張りで、でもすぐ顔に出る、分かりやすいとこ」

 

小南の頬を親指でそっと撫でる。その指の感触に、小南の思考は完全に停止した。

 

「隣でお前が笑ってくれるのが、俺は一番嬉しかった」

 

いつも自分をバカにしてくるその口から、そんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった。小南の目から、じんわりと涙が溢れ出す。

 

「……バカ」

 

「あぁ、そうだよ、大バカだ」

 

瓦木はそう言って、優しく笑った。いつもの勝ち誇った笑みでも、余裕の笑みでもない、心からの、慈しむような笑顔だった。

 

「こんな状況でよく言えたな。……俺も好きだ」

 

瓦木は、小南の涙で濡れた頬を拭うと、そっと口づけをした。

 

小南は目を見開いたまま動けなくなる。 甘く、そして少しだけ夜の匂いがするような、そんな気がした。

 

「ほら、いつまでもメソメソするな、むしろ調子狂うからよ…ずっと、そばにいとけよ、桐絵」

 

それが瓦木の精一杯の告白への返事だった。

 

小南は、顔を真っ赤にしながら、静かに首を縦に振る。言葉は、もう出てこなかった。

 

「…じゃあ、これで私たちは……」

 

小南はまだ少し震える声で問いかけた。

 

瓦木は、ニヤリといつもの意地悪な笑みを浮かべた。

 

「そうだな。お前の負けで、焼肉奢りからの、恋人ってことでいいんじゃねぇの?」

 

「なっ!勝敗は関係ないでしょこの喧嘩バカ!それに、い、いきなり恋人とか、ちょっと…!」

 

再び小南の顔が真っ赤になり、頬を膨らませて瓦木の胸を叩く。いつも通りの、騒がしい小南桐絵に戻っていたことに瓦木は少し安堵した。

 

「おいおい、照れてんのか?」

 

「照れてなんかないわよ!もう!さっきはかっこよかったのに、なんでそういうこと言うのよ!」

 

「あぁ?慰めてやったんだよ」

 

まだ顔を赤くしている小南の手を、そっと握りしめた。不良たちの呻き声がまだ聞こえる中、二人の手は強く結ばれていた。

 

「さて、このままデート続行といきたいんだが、この負け犬たちの始末をつけねぇと、な」

 

瓦木は握った手に力を込め、不良たちを一瞥した。

 

「ごちそうさま。また明日玉狛でな」

 

「あ、うん…てかデートって!?今デートって言った!?やっぱアンタ最初から…!」

 

「…やっべ」

 

数秒後、その事実に気づいた瓦木が逃げるように走り出した。「アンタやっぱりぃぃぃ!!!」と叫ぶ彼女の声が夜の街に響き渡ったが、彼の背中はもう小さくなっていて、満足げに笑っていたのであった

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

翌日。玉狛支部の訓練室は、いつものように朝早くから熱気を帯びていた。

 

遊真は模擬戦で修を完膚なきまでに叩きのめし、千佳は射撃訓練に集中している。普段と変わらない日常の風景だ。

 

しかし小南は何やら朝から様子がおかしい。

 

壁際のベンチに座り、双月をプラプラと揺らしている小南の顔は、昨晩からずっと赤みを帯びたままだった。頬を触る仕草が多く、遊真に気付かれていたのは勿論、変化に鈍い修でさえ違和感を覚えているほどだった。

 

「コナミ先輩なんか今日変だよ」

 

遊真が率直に尋ねると、小南は勢いよく顔を上げ、普段の数倍の声量で叫んだ。

 

「か、風邪なんかじゃないわよバカ遊真!それに、べ、別に顔なんか赤くないし!」

 

遊真は首を傾げる。

 

「うーん、赤いと思うけど……」

 

「うるさいわね!訓練に集中しなさい!」

 

そう言って戻らせるが、彼女の視線は常に訓練室の扉を意識していた。

 

昨夜、瓦木に言われた言葉が、頭の中で繰り返されている。そのたびに、全身のトリオンが過剰に活性化するのではないかと思うほど、頬が熱くなった。

 

(なんで、あいつはああも平然としていられるわけ!?絶対昨日のこと散々からかってくるに決まってる!!)

 

そのため小南は、朝食の席で瓦木と顔を合わせるのが怖くて、修と遊真が起きる前にさっさと食事を済ませ、訓練室に逃げ込んできたのだ。

 

そして、その元凶が扉をガラッと開けて訓練室に入ってきた。

 

「おは、朝早くから訓練やってんの?」

 

小南の予想に反し、瓦木はいつものままだった。ダラリとした体勢で扉にもたれかかり、あくびを噛み殺しながら遊真たちに話しかけている。昨晩の戦闘やその後の出来事がまるでなかったかのようないつもの表情であった。

 

(…え?からかってこない?)

 

小南は思わずポカンとしてしまう。完全に油断していた。

 

「あ、瓦木先輩。おはようございます」

 

修が挨拶すると、瓦木は「おう、修。今日も早いな」と返す。そして、再び小南を見た。

 

「桐絵、今日ホットケーキ食ったか?あれ俺の楽しみにしてたやつだったんだが」

 

「え、も、もう食べたわよ!アンタが作ったなんて知らなかったけど」

 

「ふーん、なら次から気をつけろよ、…後で買ってくるか」

 

瓦木はそう言うと、千佳ちょっかいをにかけようと向かっていった。小南は内心で拍子抜けすると同時に、強烈な不満を感じた。

 

(なによ!昨日のこと、何にも触れないの!?大胆なことするのに、いざこういう時になったら、ふざけて終わり!?)

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

思わず立ち上がり、彼の背中に声をかける。

 

「あ?なんだ?」

 

瓦木が振り返る。その顔には、いつもの皮肉めいた笑顔が浮かんでいた。

 

小南は感情の勢いに任せて、双月を構えた。

 

「アンタ!昨日あたしに言ったこと、なかったことにしていくつもり!?」

 

「あぁ?何の話だよ?」

 

瓦木は、わざとらしく小首を傾げる。

 

「とぼけないでよ!あたしとアンタは…あたしとアタシは…!」

 

声が小さくなり顔が熱くなる。言いたいのに、その単語が喉につかえて出てこない。

 

「アタシと恋人になったことよ!!」

 

訓練室内に、小南の叫び声が響き渡った。

 

修と遊真は、動きを止めて二人を凝視する。特に遊真は「へぇー」と興味深そうに目を細めた。千佳は、その場で「ひゃっ」と声を漏らし、顔を覆った。

 

瓦木は一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの笑みに戻る。

 

「あぁ、それか。別に冗談のつもりはねぇけどな」

 

「じゃ、じゃあなんでそんな平然としてるのよ!?」

 

「なんでって…べつに昨日告白して、オッケー貰ったんだから、もう付き合ってるだろ?何を騒いでんだよ、馬鹿天然」

 

瓦木は、当然のように肩をすくめる。その態度が、小南の羞恥心をさらに刺激した。

 

「そ、そうじゃなくて!付き合い始めって、なんか、もうちょっと…違うでしょ!」

 

「違うって、何がだよ。手でも繋いで訓練しろと?」

 

その言葉に、小南の顔が一気に火を噴いた。

 

「バッ…バカッ!な、何言ってんのよ!!」

 

その様子を見て瓦木は小さくため息をつくと、小南の元へ近づいた。

 

「別に、お前がそこまで気にすることじゃねぇだろ。俺らは昨日、ちゃんとケリつけたんだ」

 

そして、小南の耳元まで顔を寄せると、昨晩と同じように囁いた。

 

「俺は、お前のこと、ちゃんと俺のモノだと思ってるよ。な?桐絵」

 

耳元で、甘く低い声が響いた。完全にフリーズした小南の顔を見て、瓦木は満足そうに微笑んだ。

 

「はい、おしまい。じゃあ、俺は朝飯食ってくるわ」

 

そう言って、瓦木は訓練室を後にした。

 

残された小南は、完全に停止していた。

 

「コナミ先輩…顔、真っ赤をもう通り越してるよ?」

 

遊真が心配そうに声をかけるが、返事はない。

 

「…瓦木先輩ってすごいな」

 

修は、呆然とした様子で呟いた。

 

数時間後、訓練の休憩時間に、案の定小南は質問攻めにあっていた。

 

修と遊真、千佳がドリンクを飲んでいるソファの真ん中に俯き、うずくまっていた。まだ顔の熱は引かない。

 

そこへ本部から用事を終えて戻ってきた迅がのんびりとした足取りで入ってきた。

 

「あれ?小南、どうしたの?顔赤いよ。不調?」

 

小南は顔を上げ、迅に詰め寄った。

 

「迅!ちょっと聞いてよ!」

 

「お、怖い怖い。どうしたの?」

 

「遼平が、なんかこう…あれなのよ!」

 

小南は、顔を覆いながら小声で叫ぶ。

 

迅は目を丸くし、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「へぇー、やっぱりね。付き合ったんでしょ」

 

「なっ!知ってたの!?」

 

「うん、まぁね。予知の段階でいつかはそうなるだろうなーって見えてたよ。まさか昨日の帰りとはちょっと意外だったけど」

 

迅の余裕の態度に、小南はさらにヒートアップする。

 

「な、なんで教えてくれないのよ!?」

 

「だって、小南が頑張って告白した方がいいでしょ。それに、遼平もああ見えてちゃんと小南のこと大事にしてたし」

 

「大事って…!アンタ知ってたんでしょ!?抱きつかれて、キスまでされたのよ!…あっ!?」

 

「へー、そうなんだ、予知もそこまで詳しく知れるわけじゃないし、いい情報知っちゃった♪」

 

その言葉に遊真、修、千佳が一斉に顔を上げた。

 

小南は周囲の視線に耐えきれず、顔を覆って叫んだ。

 

「もー!うるさい!違うの!アタシが言いたいのはそこじゃないのよ!」

 

迅は笑いを堪えながら小南を宥めた。

 

「で、結局何が不満なの?」

 

「だって!付き合い始めって、もっとこうロマンチックなものじゃないの!?『おはよう』とか『おやすみ』とか、二人だけの時間とか!それなのに、あいつ、朝から普通なのよ!全然、恋人っぽくない!」

 

小南は、自分の抱いていた理想と、現実とのギャップに憤慨していた。

 

「あー、なるほどね。でもまぁ、遼平らしいっちゃらしいでしょ」

 

迅は納得したように頷く。

 

「でも!付き合ってるなら、なんかこうイチャイチャするってものじゃない!?」

 

小南のストレートな言葉に、修が咳き込み、千佳は俯いたままブルブルと震え始めた。

 

「とにかく!アタシ、あいつをもうちょっと、恋人らしくさせたいの!」

 

その時、扉が再び開いた。瓦木が訓練のために戻ってきたのだ。

 

「おっ、遊真いるじゃん。ちょっと一戦付き合ってくれない…何この雰囲気」

 

瓦木は小南たちのいつもと違う雰囲気に気づくと、そのまま彼らに向かって歩いてきた。

 

「なんだよ、集まって何話してんだ?」

 

小南は慌てて、迅の背中に隠れる。

 

迅は、ニヤリと笑い、瓦木の肩に手を置いた。

 

「遼平。小南が不満があるみたいだよ」

 

「は?」

 

瓦木が小南の方へ視線を向ける。小南は顔を真っ赤にしたまま、頑なに顔を隠している。

 

「なんかすっげー顔赤いぞコイツ…激辛料理でも食ったか?」

 

瓦木のその言葉に小南は思わず飛び出した。

 

「なんで気づかないのよ!このバカ!アンタが全然恋人らしくないのが不満なのよ!」

 

瓦木は、一瞬何を言われたのか理解できないという顔をした後、大声で笑い出した。

 

「ははは!恋人らしいって、なんだよそれ!『愛してるよ、桐絵』とか言えってか?それはさすがに柄じゃねぇだろ」

 

「そ、そこまでは求めてないけど!」

 

小南が反論するが、瓦木は真面目な顔に戻ると、真剣な眼差しで小南を見つめた。

 

「桐絵。俺にとっての恋人はな?昨日みたいにどんな時でもお前の隣に立って、お前を守り抜くってことだ」

 

小南の心臓が、また高鳴る。

 

「訓練で手を抜かず、お前が強くなれるように全力でぶつかり合う。それが俺らだろ?」

 

小南の頬の赤みが、さらに深くなる。

 

「気が変わった、悪いな遊真、今から桐絵と10本先取してくるわ」

 

瓦木はそう言って訓練室へと向かった。

 

小南は、呆然としたまま、瓦木の後ろ姿を見つめた。

 

(なによそれ…ずるい。)

 

しかしそう言われてしまうと、彼の愛の表現が、彼の生き方そのものであるように感じてしまう。小南はトリガーを握りしめた。

 

「……望むところよ!受けて立つわ!」

 

小南は飛び出した。迅はその様子を満足そうに見つめながら、コーヒーを一口飲む。

 

「あいつらのイチャイチャは、不器用なもんだねぇ…遼平、小南を頼んだぞ」

 

満足げに笑うと、これから起こりうる未来も遼平なら、きっと良い方向に進むだろう、と考えるのであった






ついにくっつきましたね、二人

主は友達以上恋人未満の関係はとっととくっつかせる派です
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