不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです 作:綾(あや)
連携プレイは難しいですね、片方を活躍させたくてもどっちかが目立つことになりますから
ハイレインとの戦いを終えた遥平は、修たちの援護に向かうため駆け走っていた。
ブーストをかけるように足を速める。先ほど、修たちがC級を守るためにアフトクラトルの精鋭と戦っていると聞いたが、レイジがやられたという報告に少しの焦りと興奮が芽生えた。
そしてビルの影から戦場が見えた瞬間、瓦木は瞬時に状況を理解した。
「…こいつは楽しめそうだな」
戦場に君臨していたのは二人の敵。一人は黒い滑らかな外殼と奇妙な走路を形成する機構を操る少年――ヒュース。
そしてもう一人、優雅な位置にいながらも、刃のような威圧感を持つ老剣士――ヴィザ。ヴィザはまるで散歩でもしているかのように悠然と立ち、わずかに傾けた目で瓦木は威圧された。その眺める姿だけで、背筋が凍るような感覚があった。
「...ほう、新手ですかね?」
穩やかな声をしているが、その声が生み出す空気の重圧は異常だった。
その横では三体のラービット相手に鳥丸と修、そして小南が奮闘しているが、分が悪い。
「テメーはこの瓦木遼平が、直々にブチのめす!」
そう宣言した瓦木はすぐさまビルから飛び降り、勢いよく飛び蹴りを放った。ヒュースはヴィザをかばうようにして正面に立ち、磁力を纏った右腕で相殺する。
反動を利用しすぐさまスコーピオンを展開しなおし、戦場に飛び込む。鳥丸を援護するように、ヒュースの横へ滑り込むと同時に攻撃を放った。
「ボディがガラ空きになったようだなぁ!」
ヒュースが反応するより早く、瓦木が拳を振るった。確かな手ごたえはあったものの、削れたのは外殼の一部にすぎない。
「!?――ランビリス!」
磁力に引かれ、縦横無尽に飛び回る車輪を、瓦木は咄嗟に防ごうとするが、ランビリスの動きは予測不可能だ。まるで意思を持っているかのように、瓦木の周囲を旋回し、隙を見ては襲いかかる。
「チッ!」
瓦木は瞬時に判断し、スコーピオンを二分割し、片方で防御しながらもう片方で攻撃を試みる。しかし、ヒュースは冷静だった。
「無駄だ。お前の攻撃がオレに届くことはない」
言葉通り、ランビリスは瓦木の攻撃をことごとく弾き、逆にカウンターを狙う。その間にもヴィザはゆっくりと歩を進めていた。
「ほう……なかなかの腕と見た。では、私もお相手をしよう」
その言葉と同時に、ヴィザの刃が音もなく瓦木の背後を襲った。
「ッ――!?」
瓦木はギリギリで反応し、スコーピオンを全力で纏った回し蹴りで相殺を試みた。しかし、ヴィザの剣はただの剣ではない。刃は少しづつ纏われているスコーピオンを削り、瓦木の防御が崩れた。
「んの……野郎……!」
瓦木は驚愕しながらも、自身の右足が少し掠れる程度に受け流し、後方に跳躍して距離を取る。しかし、ヴィザはまるで無理のない動きで追い詰めてくる。
「若い者はよく動く。しかし――経験の差が出ましたかな」
ヴィザの刃がまたひと振りされ、襲い掛かる。瓦木は紙一重で回避して殴りかかるが、簡単に受け止められ弾き飛ばされる。
「くそったれが……!」
受け身を取り、状況を冷静に分析しようと試みた。
――なら、どっちかを先に潰す!
意を決した瓦木は、ヒュースへと突進しようと構えた時だった
「ちょっと遼平!アタシを忘れないでよね!」
そう言い放ち横から飛び出してきた小南は、瓦木の背後から迫ってきていた円盤を弾き飛ばし、瓦木を見つめた。
「ははは!いーね、行くぞ!」
勢いよく飛び出す二人とは対照的に、ヒュースは冷静に構える。
「来い、人数が増えたからといって突破できると思うな」
ヒュースの周囲に展開されたランビリスの刃が、小南と瓦木を迎え撃つ。小南の双月の豪快な斬撃を受け流しつつ、ヒュースは瓦木にも警戒を向ける。
だが——
「オラァッ!!」
瓦木の動きは、ヒュースの知るどの戦闘スタイルとも異なっていた。スコーピオンを腕に巻きつけたまま、地面を蹴りつけて飛びかかる。刃を振るうのではなく、まるで拳を叩きつけるように乱暴な一撃を放つ。
ヒュースがランビリスで防御するが、瓦木の攻撃は力任せで、しかも荒々しく変則的。刃と刃がぶつかる衝撃の直後、瓦木はスコーピオンを拳の形に変え、思い切りぶん殴った。
「っ……!」
ヒュースが吹き飛ばされる。ランビリスで即座に防御を整えながら距離を取るが、瓦木は間髪入れずに地面を蹴って突進してくる。
(この男は...見たことがない戦い方だ……戦術でも剣術でもない。ただの“暴力”に近い……だが、それが異常なまでに洗練されている……!)
ヒュースが反撃に出ようとした瞬間——
「甘ぇんだよ!」
瓦木のスコーピオンが、ヒュースの攻撃軌道を完全に読んだかのように迎撃した。
「っ……!?」
初めての驚愕がヒュースの表情に滲む。
(この男、俺の攻撃を見切り始めている……!?)
ヒュースは今まで数多くの戦士たちと戦ってきた。だが、この男の戦い方はそのどれとも違う。
(暴力に慣れているのか? いや、それだけじゃない……こいつは“戦闘”というものに関して、俺が見てきた誰よりも成長が早い!このままのやり方では押し切られる……!)
ヒュースは瞬時に判断を下す。
ランビリスの刃を一斉に飛ばし、強引に距離を取ろうとするが——
「どこ行く気だよ!!」
瓦木がスコーピオンを足場に変え、思い切り踏みつけるように飛び上がった。そのまま空中からヒュースへと蹴り込む。ヒュースの防御が間に合わず、地面に叩きつけられる。
「どうした? さっきまでの余裕は?」
瓦木はニヤリと笑う。
ヒュースは乱れた呼吸を整えながら、じっと瓦木を見据えた。
(…厄介な相手だな、放っておけば、こいつは更に成長する……)
そしてヒュースが遼平に狙いを定め、動こうとしたその瞬間——
ゴォォォッ!!
「!!」
小南の双月が強引に振り下ろされた。その破壊力は尋常ではない。ヒュースはすかさずランビリスを展開し、即座にバリアを張る。
「くっ!」
防御は成功したものの、衝撃で体勢が崩れる。
「オラ!」
その瞬間、瓦木が猛スピードで滑り込んできた。スコーピオンを両手に伸ばし、ヒュースの死角から鋭く突き込む。
「……チッ!」
ヒュースは寸前で横に回避し、瓦木の攻撃を躱す。
(危なかった……が、今の攻撃、やはり俺の動きを読み始めている)
「おせぇんだよ!!」
瓦木はすでに次の動きを読んでいた。回避先を狙い、スコーピオンを鞭のように振るう。ヒュースはランビリスを盾のように使い、間一髪で受け止めるが——
「オラッ!!」
瓦木はそのまま磁力の盾をスコーピオンで掴み、強引に引き寄せた。
(こいつ……! 力ずくで!?)
一瞬の硬直。ヒュースの視界が瓦木に塞がれる——
「死ね」
瓦木の拳が、ヒュースの頬に直撃した。
「…ぐっ!」
モロに食らい顔面に亀裂ができ、大きく吹き飛び地面に転がる。だが、完全に崩れる前に小南の双月が、寸分の狂いもなくヒュースの追撃に襲いかかった。
「チッ……!」
ヒュースは即座にランビリスで防御するが、小南の破壊力はそれを上回る。防御ごと地面に叩きつけられる形となった。
「更に上げていくわよ!遼平!」
小南は笑いながら双月を構える。
「そっちこそ、バカみてぇな火力してんな!」
「当たり前でしょ! 誰に向かって言ってんのよ!」
そのやり取りを聞きながら、ヒュースはゆっくりと立ち上がった。わずかに息が上がっているが、まだ戦える。
(その場での連携が異常に噛み合っている…!やはりあの男はオレの...いや、我々全員の脅威だ!)
瓦木の動きに、小南の圧倒的な火力が絶妙に組み合わさる。攻防一体とは程遠く火力に寄っている二人だが、もはや防御など必要としていない。ただ目の前の敵を倒すだけだ。
「終わらせるか!」
「ええ!」
瓦木と小南が同時に笑いながら、ヒュースへと向かっていった。飛び蹴りと斬撃が同時に放たれ煙が立つ。しかし、勝利を確信していた二人の前に、ヴィザが立っていた。
「ほう……なかなかの戦いぶりでした。玄界の進歩も侮れませんな」
静かに、その佇まいだけで確かな威圧感を持って語る男。小南の表情が硬くなる。
「遼平、気をつけなさいよ...」
「ハッ、言われなくてもな」
瓦木は全身にゾクゾクするような感覚を覚えた。ヤバい相手なのは分かる。普通なら、ここで慎重になるべきなのかもしれない。だが、その圧倒的な力を目の前にして、笑みが浮かぶのを止められなかった。
「……おもしれぇ」
瓦木は拳を力強く握ると、好戦的な笑みで言った。
「アイツらの中でもこの白髪ジジイは『最強』だろ。なら、そいつをブン殴れば俺が最強ってことだろ?」
その狂気じみた好戦的な笑みに小南は一瞬ドキッとした。
(コイツ…戦闘狂すぎでしょ…)
なのに、ほんの少し心が高鳴るのを感じてしまった。
怖くないのか、この状況で?いや、怖い。戦士としての本能が警鐘を鳴らしている。だが、瓦木のような男が目の前にいると、そんな不安すら吹き飛ばされる。
「ったく……アンタってやつは……!」
小南は肩をすくめると、双月を構えた。
「いいわ、やってやろうじゃない! この私が、アンタの背中を預かってあげる!」
瓦木はニヤリと笑い、小南と拳をぶつける。
「おう、頼りにしてるぜ 桐絵!」
ヴィザは目を細め、微笑んだ。
「二人がかりとは……これは手強い戦いになりそうです」
そう言いながらも、彼の動きには一片の隙もない。
「さあ、始めようか」
ヴィザが一歩踏み出した。ただそれだけなのに、空気がピリピリと震える。
瓦木は反射的に 拳を固めた。
「——ッ!」
一瞬でも気を抜けば 死ぬ。だが——
「上等だぜ、ジジイ!!」
瓦木は ニヤリと笑った。先手を取ったのは小南で、双月を構え、一直線にヴィザへと突進する。
「アンタが最強だって? 私たちが倒すわ!!」
双月が鋭く振るわれ、空間ごと断ち切るかのような斬撃が生まれる。しかしヴィザの剣がそれを 正確無比に受け止めた。
「良い攻撃ですな」
小南は衝撃でバランスを崩しそうになるが、すかさず後方に跳躍し、体勢を立て直す。だが、 そこにすでにヴィザがいた。
「しまっ——!」
「させるかよ!!」
ヴィザが剣を振るった瞬間に、瓦木が突っ込んできた。素早い速度でヴィザの側頭部をぶん殴り、確かな手ごたえを感じた。
「ほう」
しかしヴィザはあの一瞬で僅かに体をずらし、衝撃を殺していた。ダメージこそ入ったものの、致命傷にはならない。
「やるじゃねぇか」
瓦木は後方へ跳びつつ、舌打ちする。
(今のは当たった…… なのに、この余裕かよ!)
「——そろそろ、私の番かな?」
ヴィザが動いた。剣を堂々と振り下ろすその姿に、瓦木も小南も警戒した。しかし、その剣の軌跡は見えなかった。
「避けろ!」
瓦木は咄嗟に反応し、 小南を抱えギリギリで回避する。しかし、それにより左腕が吹き飛んだ。
「遼平!?」
(速ぇ……!!)
直感が大音量で警鐘を鳴らしていた。次まともに受けたら終わる。だが、瓦木は諦めていなかった。
「だからこそ、やりがいがあるよなぁ……!!」
そう言い放った瓦木の眼は、獲物を狩る佇まいであった。
次回でヴィザは決着が着くかも?