不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです   作:綾(あや)

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悩みましたよー、今回


実った紫陽花

 

瓦木は切り墜とされた左腕を抑えながら、数メートル先に立つヴィザを睨みつけた。小南も隣で双月を構え、わずかに緊張した面持ちを見せている。

 

「ほう、今のを見切りますか...」

 

ヴィザが静かに星の杖(オルノガン)を構える。それだけで、瓦木の肌が粟立った。喧嘩で培った本能が、目の前の老人の危険度を訴えていた。

 

「いくぞ!!」

 

瓦木が正面から飛び出すと同時に、小南が真上から仕掛けた。双月を振りかぶり、上段から叩きつけるように一撃を放つ。しかし——

 

「ふむ」

 

ヴィザは微動だにせず、軽く振っただけで、双月の刃が宙を舞った。

 

「っ!?」

 

小南の武器が真っ二つに分断される。ヴィザの斬撃があまりに速すぎて、双月が斬り裂かれたのだ。

 

「ハッ、化け物かよ……!」

 

瓦木がすかさず横からスコーピオンを伸ばし、鋭く突く。しかしヴィザは最小限の動きで回避し、逆にオルノガンを瓦木の腹部に突き入れた。

 

「野郎!」

 

咄嗟に体を捻り、なんとか致命傷は避ける。それでも胴体に深い裂傷が生じ、トリオンが溢れ出した。

 

「次は——私の番ですな」

 

ヴィザが静かに踏み込む。それだけで圧力が爆発的に増す。

 

「来るぞ!!」

 

瓦木は足をスコーピオンで固め、相殺しようと試みるが、次の瞬間——

 

視界が、ぶれた。

 

「な……!?」

 

気づいた時には、瓦木の左腕の義手が消えていた。

 

(何が……起きた!?)

 

剣速が速すぎて、認識が追いつかなかった。しかし瓦木の極限まで鍛えられた身体と感覚により、無意識に体を逸らしていたため、緊急脱出とまではいかなかった。

 

「体を両断するつもりでしたが...避けられましたか」

 

ヴィザが静かに呟き、構え直した。小南は左足が切断され、瓦木も左腕の義手を再構築しすぐさま立て直す。

 

「まだよ...!」

 

小南はメテオラをばら撒くように放った。爆風がヴィザの足元を揺るがし、一瞬だけ隙が生まれる。

 

「ほう……小細工を……」

 

しかし、それでもヴィザは冷静だった。爆風を最小限に抑えつつ、小南の目くらましの上から放たれた双月を受け止める。そして—-

 

「凄まじい力ですな」

 

斬撃を放ち、小南の胴体を一刀両断した。

 

「っ……!遼平!!」

 

トリオンが噴き出し、小南の体が崩れ緊急脱出する。しかし、その刹那——

 

「…決めるぞ!」

 

瓦木が動いた。小南が倒れる直前に彼女が投げた双月が、ヴィザの足元に突き刺さった。

 

「…ほう?」

 

ヴィザが一瞬意識を取られたその一瞬の硬直が、瓦木にとって最大のチャンスだった。

 

しかしヴィザも真横に薙ぎ払うように再び先程と同じ速度の斬撃をゼロ距離で放つ。だが、その時には瓦木の目は、ヴィザの剣の軌道を完全に捉えていた。

 

「……見えたぜ」

 

ここまでの戦いで、瓦木はヴィザの剣速に少しずつ対応し始めていた。最初はまるで捉えられなかった斬撃の軌跡が、今では僅かに見える。瓦木は身体の感覚を研ぎ澄ませ、相手の動きを見切る。

 

「む?」

 

ヴィザの目が僅かに見開かれた。次の瞬間、瓦木は全力で踏み込み、スコーピオンをヴィザの腹部へ一直線に突き出す。

 

「オラァ!!」

 

そして拳は腹部を貫き、ヴィザの体がトリオン漏出で崩れ始める。

 

「...お見事です、玄界の若い戦士よ」

 

ヴィザはわずかに笑みを浮かべながら、体が崩れた。

 

「っ…てめっ!」

 

しかしヴィザは直前で斬撃を放ち、瓦木を切断した。彼の体もまた、ゆっくりと崩れ緊急脱出した。

 

その後修たちは無事基地にたどり着き、近界民は退却。ヒュースは捕虜となり、被害は建物を除けば、死亡者0人という結果で終わったのであった。

 

 

 

--

 

 

 

大規模侵攻が終わり、ボーダー本部にはいつもの日常が戻りつつあった。トリオン兵の襲撃もなければ、緊迫した戦闘もない。ただ訓練をこなし、のんびりと過ごせる時間が増えた。

 

瓦木は本部のラウンジにあるソファに身を沈め、テーブルに足を投げ出していた。右手にはジュースの缶、左手には漫画。戦闘の緊張感が抜けたせいか、どこか気が抜けている。

 

「……お前、相変わらず態度デカいな」

 

聞き慣れた声に顔を上げると、そこには影浦雅人が腕を組んで立っていた。

 

「んだよ、カゲ。お前もダラダラしに来たのか?」

 

「まぁな。そのソファ、オレがいつも使ってんだが?」

 

瓦木は鼻で笑った。

 

「先に座ったもん勝ちだろ。そもそも“お前専用”って書いてねぇしな?」

 

「言うじゃねぇか……」

 

影浦の目つきが鋭くなる。トリオン体じゃなくても感情受信体質の影浦の威圧感はそれなりに効くが、瓦木は涼しい顔でジュースを一口飲んだ。

 

「やんのか? そんくらいで」

 

「オレがいつも我慢してると思ってんのか? テメェみてぇな生意気なヤツは一発ぶっ飛ばしてぇんだよ」

 

影浦が拳を握ったその時――

 

「はいはい、喧嘩はそこまで!」

 

明るい声が割って入った。

 

二人が振り向くと、小南が両手を腰に当てて立っていた。

 

「アンタたち、会うたびにそんな感じなの?逆に仲いいんじゃない?」

 

「はぁ?」と瓦木と影浦がハモる。

 

 小南はニヤリと笑い、瓦木の隣にドカッと座った。

 

「影浦さんも、そんなに使いたいなら座れば? まさか、遼平の隣はイヤとか?」

 

「別にイヤじゃねぇけど……チッ」

 

「それよりさ、遼平」

 

「ん?」

 

「今ヒマ?」

 

「まあな」

 

「じゃあさ、ちょっと買い物付き合ってよ、あと玉狛に来なさい」

 

「は?」

 

 瓦木が怪訝な顔をすると、影浦がニヤリと笑った。

 

「おいおい、デートのお誘いか?」

 

小南の動きがピタリと止まる。

 

「はぁ!? べ、別にそういうんじゃなくて……!」

 

顔を少し赤くしながら慌てて否定する小南を見て、影浦はさらに楽しそうに笑った。

 

「お前、そういうつもりで誘ったんじゃねぇの?」

 

「ち、違うし!! ただ、荷物持ちが欲しかっただけで!」

 

影浦が「へぇ~?」とニヤニヤしながら言うと、小南はむすっとしてそっぽを向く。一方の瓦木は、そんなやり取りには興味なさそうにジュースを飲み干した。

 

「で、何買うんだよ?」

 

「んー、お菓子とか? あと新しいヘアアクセとか?」

 

「……完全に女子の買い物じゃねぇか。俺必要か?」

 

瓦木は適当に「ま、いいけど」と返した。

 

小南が影浦をチラリと見て、ちょっとムキになってる様子を見せるが、当の瓦木は特に気にすることもなく立ち上がる。

 

「じゃ、行くか」

 

「……うん!」

 

小南はなんとなく影浦を気にしながらも、嬉しそうに立ち上がった。影浦はソファに深く腰掛けたまま、面白そうに二人を見送る。

 

「ま、楽しめよ、リア充くん」

 

「ぶっ潰すぞ」

 

影浦の言葉に瓦木が軽く睨みつけるが、特に気にする様子もなく歩き出す。その後ろを追いかけるように、小南も足を速めた。

 

 

 

--

 

 

 

買い物が終わると、瓦木と小南はそのまま玉狛に行き、模擬戦をしていた。結果は7-3で瓦木が勝利し、小南は少しむくれていたが、当の本人は気にしない様子で寝転んでいた。

 

「ったく、アンタはちょっと前までただの不良だったなんて...信じられないわね。玉狛の一員みたいな顔してるし」

 

「オレは別にどこの隊とか気にしてねぇし。いる場所が居心地良けりゃ、それでいい」

 

「ふーん……」

 

 小南はジト目で瓦木を見ながら、向かいのソファに腰を下ろした。

 

「ま、でも――助かったわよ、遼平」

 

「……ん?」

 

「大規模侵攻のとき、アンタが来てくれなかったら、もっと被害出てたかもしれないしね。正直...アタシじゃ勝てなかったかもしれないし」

 

瓦木は小南をじっと見ると、乱暴に頭を掻きまわした。

 

「ちょ、ちょっと!いきなり何すんのよ!」

 

「珍しいな、お前がそんな弱気なことと感謝を言うなんて」

 

「ちょっと! 私だって礼くらい言うわよ!」

 

「そうかよ...でもお前は自信持ってた方がいい。そのツラに馴染まねぇよ」

 

瓦木は肩をすくめ、空になった缶をテーブルに置いた。小南は少しムッとしながらも、どこか満足げに笑う。

 

「にしても、アンタ本当に強いわね。もっとランク戦に出ればいいのに」

 

「面倒くせぇ」

 

「……あんたってほんとやる気ないわよね」

 

「勝手に思っとけ」

 

そして二人の何気ない会話は続き、夜になった。リラックスした空気の中、レイジがキッチンで夕飯の準備をしていた。鍋の中で食材が煮え、香ばしい匂いが支部中に広がる。

 

ソファに座っていた瓦木は、その匂いにつられるように立ち上がると、ふらりとキッチンへ向かった。

 

「レイジ、俺にも教えてくんね?」

 

レイジは鍋をかき混ぜる手を止め、瓦木を一瞥する。

 

「別にいいが、何故だ?」

 

瓦木は冷蔵庫から適当にジュースを取り出し、プルタブを開けながらさらっと答えた。

 

「食わせてぇ奴いるしな」

 

その瞬間――

 

「ぶふっ!?」

 

ダイニングテーブルでお茶を飲んでいた小南が盛大に吹き出し、すぐ横にいた烏丸も興味深そうにこちらを見た。

 

「遼平がか?誰にだ?」

 

ニヤニヤと瓦木の顔を覗き込む宇佐美を無視してジュースを飲む瓦木だったが、視線を感じてふと横を見ると、小南が目を丸くして固まっていた。

 

「……な、なに、それ……?」

 

思い切り動揺した様子で頬を赤くしている。

 

「なんだよ、別にいいだろ」

 

「い、いいとかじゃなくて! そ、それって……」

 

小南がしどろもどろになっていると、宇佐美が口元を押さえながらニヤニヤと笑った。

 

「遼平くん、もしかして~? ふふっ、小南のため~?」

 

「さぁな」

 

瓦木はジュースを一口飲みながら、そっけなく答える。その答えに小南はどこか安心したような、ちょっと残念そうな表情を浮かべた。

 

「まぁ、誰に食わせるにせよ、料理を覚えるのはいいことだ」

 

レイジは淡々と鍋をかき混ぜながら言う。

 

「まずは包丁の使い方からだな。来い」

 

「あざっす」

 

瓦木は自然体でレイジの横に立ち、教えを受ける体勢に入る。その後ろで、宇佐美と烏丸がまだニヤニヤと瓦木と小南を見ていた。

 

「……もう! なんなのよ!」

 

 小南がふくれっ面で叫ぶが、誰もその空気を変えようとはしなかった。

 

そして朝の玉狛支部。昨日の微妙な空気を引きずっているような、いないような――そんな中、小南と瓦木は模擬戦の準備をしていた。

 

「ガチでやるわよ」

 

小南は腰に手を当てながら、自信満々に言い放った。

 

「オレは別に構わねぇけどよ、マジでやんのか?」

 

瓦木はスコーピオンを指に絡めながら、余裕そうに小南を見た。

 

「当然! アンタより強いってこと証明するんだから!」

 

「へぇ……」

 

瓦木はニヤリと笑うと、トリオン体の手首を軽く回し、スコーピオンを自在に変形させる。

 

「ま、気楽にやるわ」

 

「言ってなさい! そっちが気楽にやるなら、私は本気で叩き潰してやるわ!」

 

試合開始の合図と同時に、小南が動いた。

 

疾風のようなスピードで間合いを詰めると、彼女の持つブレード――双月が鋭い光を放つ。

 

「よっと!」

 

勢いよく振り下ろされた双月を、瓦木は拳で受け止める。しかし、その衝撃は想像以上に重く、地面がわずかに沈むほどだった。

 

「相変わらずバカみてぇなパワーしてんな……!」

 

瓦木はすぐに体勢を崩さず、小南の力を利用してバックステップで距離を取る。

 

「ふふん、私はいつだって最強だからね!」

 

「お前、昨日弱音吐いてたのにか?」

 

「うっさい!」

 

小南はさらに踏み込む。双月のリーチを活かし、横薙ぎの一撃を放つ。瓦木はそれをギリギリ弾き、逆に懐へと潜り込む。

 

「っと、速いじゃない!」

 

「ま、そんくらい朝飯前だわ、てか朝飯食ってないから腹減った」

 

瓦木は小南の動きに合わせ、カウンターを狙うように鋭く拳を放つ。しかし、小南はそれを紙一重で避け、メテオラを放つ。

 

「おっと……!」

 

瓦木はそのメテオラを躱しつつ、すぐさまバク宙で距離を取った。

 

ニヤリと笑いながらスコーピオンを構えた瞬間、小南は期待に満ちた瞳で彼を見つめた。

 

「いいわよ、かかってきなさい!」

 

小南が再び双月を振り上げる。しかし、次の瞬間――

 

「……甘ぇな」

 

瓦木は小南の視線を真正面から受け止めたまま、あえて動かずに立っていた。

 

「...!?」

 

一瞬、戸惑った小南が動きを止める。

 

その刹那、瓦木のスコーピオンが地面を穿つように突き刺ささり、小南の足元の床が大きく隆起する。

 

「っ!?」

 

小南のバランスが一瞬崩れる。そこを見逃さず、瓦木は一気に距離を詰めた。

 

「いただきだ」

 

スコーピオンが変形し、鋭い刃となって小南の喉元に突きつけられる。

 

小南が驚いた顔を浮かべる間もなく、バトルフィールドに勝敗を告げる電子音が響いた。

 

勝者――瓦木遼平。

 

「……もう!ズルいじゃない!」

 

小南が信じられないと言わんばかりに目を見開くが、口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

 

「まぁな、バカを嵌めるは得意なんでね」

 

「誰がバカよ!ま、まだまだ本気出してなかったけどね!」

 

「そりゃ怖えな……次やる時はもっと本気で頼むわ」

 

瓦木が軽く手を挙げながら言うと、小南は少しムッとした表情を浮かべたが――

 

「……覚えてなさいよ、遼平!」

 

彼の名を呼びながら、どこか楽しそうに笑った。





こういう展開もあり?
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