不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです 作:綾(あや)
亀更新…
──ボーダー本部、実況スタジオ。
B級ランク戦を前に、ラウンジでは武富桜子が明るく微笑みながらカメラに向かっていた。
「皆さんこんにちは! 本日もB級ランク戦をお届けします、司会の武富桜子です!」
彼女の隣には、陽気な笑みを浮かべた解説役の二人が座っている。
「解説は、先日の大規模侵攻でも大活躍だったお二人、出水公平さんと当真勇さんです! お二人とも、よろしくお願いします!」
「よろしくー。今日も面白くなりそうだな」
「今回のランク戦は“アイツ”が出るからなー」
当真が欠伸混じりに言えば、出水は笑いながら画面に視線を移した。
「お二人の注目はというと…瓦木隊員ですか?瓦木隊員はB級でありながら大規模侵攻では特級戦功をあげられております!!」
その言葉に会場はざわつく。
「出水さん、瓦木隊員は強いんですか?私はいまいち知らないのですが」
桜子が尋ねると、出水はニッと笑った。
「強いよ。タイマンだったらカゲや風間さんですら勝ち越される時もあるし、何より戦い方が…うん、あれに初見で当たる那須隊はご愁傷様としか…トラウマとか残らなきゃいいけど」
「なるほど…瓦木隊員の戦いにも注目ですね!それでは、B級ランク戦、開始です!」
◆ ◆ ◆
マップは市街地A。基本的には開けた場所もあり密集している場所もある、相性の有利不利があまりないステージと言ってもいいだろう。遼平は電柱の上を駆けていた。
彼に仲間はいない。ソロ参戦。だが、それは彼にとって不利ではなく、むしろ“自由”だった。
壁と壁の間を蹴り、そのまま屋上へと登ると一回転しながら着地する。遼平はマップを確認すると、レーダーが示した位置にいる敵に向かって全速力で向かっていた。
「動き出したな、瓦木」
出水がモニター越しに唸る。
「相手は那須隊と諏訪隊。普通なら連携で押しつぶされるだろうが……」
「さて、どう出るかねえ」
◆
先に姿を現したのは那須隊の熊谷だった。熊谷は那須との合流のため向かっており、レーダーにも誰かがこちらに向かっていることは確認できていた。しかしこの短時間では追いつけないという算段であった。
突然上空に影が浮かび上がる。すぐさま振り向くと、拳を構えた瓦木の姿が。まるで獲物に飢えた肉食動物のような佇まいだった。
「がおー」
「っ!」
熊谷が気配を察した時には、瓦木のスコーピオンがその目前まで迫っていた。
「くっ……!」
咄嗟に後方へ跳躍し、弧月を構える。先程までいた場所には大きなクレーターができており、ゆっくりと立ち上がる姿が見えた。
熊谷は弧月を横なぎに払い旋空を放つも、なんと瓦木はフェンスを飛び越えるかのように軽々と空中で一回転し、そのままオーバーヘッドの要領で蹴りを放った。
「お?やるじゃねぇか」
熊谷は弧月により蹴りを受け止め、カウンターを狙ったが、腕は動かなかった。
(何!?この子の力!?)
弧月でしっかりと受け止めていたが、瓦木の蹴りにより熊谷の弧月が少し欠けており、両手は衝撃により痺れていた。
その隙に弧月の刃を掴むと、強烈な頭突きを放った。バランスを崩した熊谷の右腕を切り飛ばし、顔を掴んでブン投げた。
「いや、えぐいな、なんて戦い方してんだよ」
当真が驚き交じりに呟く。
「だから言っただろ?トラウマになるかもって」
ニヤリと笑う出水と、乾いた笑いしか出ない桜子であった。
◆
──試合開始からわずか7分。熊谷友子は早くも戦闘になっていた。
トリオン体であるはずの身体が、異様に重く感じられる。
その理由は目の前にいる、見るからにチンピラといった格好の金髪の少年──瓦木遼平の存在だ。
「(落ち着け...アタシはいつも通りに!)ッ!!」
熊谷は疾駆。弧月の耐久力リーチを活かして距離を詰め、弧月を横一文字に振り抜く。
寸分の狂いもないスイング
しかし──
「……おっそ」
瓦木は一歩も下がらず、顎を突き出してその刀身を受けた。
バキッ
「──え?」
信じられない音がした。瓦木の歯が、弧月の刃を噛み砕いていた。
正確には、刃を咥えたまま首をひねり、テコの原理でねじり折るように曲げたのだ。
「歯で刀をを!? うそ……!」
熊谷が目を見開く。だが思考の隙をつくように、瓦木が足を踏み出す。
熊谷の弧月の“柄”部分──握っている手首を支点に、その手を踏み台にして跳び上がる。
「──ッ!」
熊谷は瓦木の膝が自分の顔面へ向かってくるのを見て、反射的に首をそらす。間一髪で直撃は避けたものの、膝蹴りが頬をかすめ、トリオン体の頬から黒い煙が立つ。
「ちょこまか……ッ!」
熊谷はすかさず後方に跳び退く。だが瓦木は、それすらも読んでいた。着地と同時に、地面を殴りつけ抉り、煙で視界を奪いながら真っ直ぐ熊谷に突っ込む。
「目、隠したって──」
熊谷は体を半回転させて防御態勢。だがその裏をかき、瓦木は横の電柱を蹴って角度を変え、そのまま熊谷の背後をとる。
「空中で角度を──!」
背中に重みがのしかかる。熊谷が前へ倒れ込む前に、首元に腕が回される。
「締め落とすか──いや、トリオン体だったわ」
ゴキッ。
熊谷の背中が地面に叩きつけられる。瓦木が真上から落ち、熊谷の腕を拘束し、胸元に膝を押し込む。
「ッぐ……ッ!!」
「このまま終わらせてもいいけど…いや、アンタとアンタのリーダーでかかってこいよ」
「はぁ!?何を…うぐッ」
孤月を取ろうとするも、腕はしっかりと固定されており、肺の中の空気が一気に吐き出される。
──ここまでの時間、わずか30秒
熊谷はようやく理解した。
(こいつ……まともじゃない……!)
刃も、射線も、空間把握も──一切関係ない。ただ突っ込んでは淡々と敵を潰す、正に自由型。
「チームで来てりゃもっと苦戦したかもな。けどお前一人じゃ、限界見えてる」
瓦木はそう言って、笑った。だがその笑顔は決して嘲りではない。純粋に、戦いを楽しんでいる顔だった。
「……うざいッ!!」
熊谷が吠える。瓦木が持っていた歪んだ弧月の残骸を奪い取り、それを逆手に持って斬りつける。だが瓦木は、その柄を蹴り飛ばして弧月ごと熊谷を弾き飛ばす。
「武器持ってるヤツの足元は、逆に隙だらけなんだよ。ま、お前はそこら辺の鉄パイプ振り回してる不良共よりマシだけど」
蹴られた瞬間、熊谷の足が宙に浮く。その隙を逃さず、瓦木がまたも膝蹴り──いや、今度は跳び上がって回し蹴りだ。
蹴りが肩に命中。熊谷の身体が二回転しながら車の屋根に叩きつけられる。
「こんな奴……今までのランク戦で見たことない……!」
体勢を崩しながらも、すぐさま弧月を再展開する。だが、すでに彼女の体は限界だった。
「さーて……お次はどっちから来るかな?」
瓦木がゆっくりと立ち上がる熊谷を見下ろし、飛び掛かったその瞬間、遠方から弾の軌跡が飛んできた。
「熊ちゃん!」
「わお美人射手」
弾の正体は那須隊の隊長、那須玲。那須は熊谷の背中越しに弾幕を放つが、弾道は直線的であり、瓦木は「は?」と口角を上げる。しかし当たる直前、弾幕が左右に分かれる。その意図をすぐさま理解した瓦木はバックステップで回避するが、追尾してきたため拳で弾き落とした。
「いいねぇ」
那須玲の合流により、那須隊の連携と戦ってみたかった瓦木は興奮を隠しきれず、舌なめずりをする。
「熊ちゃん、下がって!」
那須の声が響く。
同時に、彼女の周囲に展開された4発の変化弾──バイパーが、まるで蛇のように軌跡を歪めて空を走る。
「またかよ!」
瓦木は空気の震えと軌道の読みづらさから、即座にその性質を察知する。だが初見の技術。すべてを避けきれるほど、彼も万能ではない。
ズバァン!
確かに右拳で撃ち落としたはずの弾の起動がわずかに逸れ、左肩に1発、脇腹に1発が命中した。
「ったく。遠距離はマジでめんどくせえな」
瓦木は地面を蹴り、建物の壁面を駆け登る。射線を崩すための縦移動だ。
だが──
「逃がさない。熊ちゃん!」
「了解ッ!」
熊谷が再び前線に復帰し、斬りかかる。今度は那須のバイパーと完全に連携された動きで、熊谷が斬り込めば、その死角に合わせて弾が飛ぶ、斬撃と砲撃の挟み撃ち。
「チッ、なるほどな──連携ってのはこうやるんだな」
瓦木は斬りかかってくる弧月を蹴りで弾き飛ばすと、建物の窓に飛び込み、背中から滑り降りる。直後、那須の弾幕が窓から襲い掛かる。しかし瓦木はそれをシールドで防ぐと、急旋回し再び窓から飛び降りた
「避けた!? いや、距離詰める気だ!玲!」
那須が次弾の準備を急ぐが、遅い。瓦木は、下に停めてあった配送トラックのボンネットに膝から着地し、
その反動で再びジャンプ。
──跳びながら、屋上の物干し竿を掴み、それを全力で引き抜き、投げる。
「っ!」
咄嗟に那須は身を翻して避けるが、瓦木の狙いは弾道の“遮断”那須の変化弾は制御を失い、進路を狂わされる。
「そんな…!」
那須が表情を強ばらせる。だが次の瞬間、熊谷がその隙を埋めるべく、斜め後方から飛び込む。
「今度は逃がさないッ!!」
熊谷の弧月が瓦木の太腿を切り裂く。
だが──
「ぐらぁッ!!」
彼はその弧月を、まるで獣のように噛みついた。トリオンの金属がギシギシときしむ音が鳴り響き、熊谷の目が見開かれる。
「か、噛んだ!?」
そのまま弧月を嚙み砕き、熊谷の顎へ膝蹴り。頭部に直撃した一撃で熊谷の身体が跳ねる。
──空中で体勢を整える熊谷。
「なんなのあの子…!今まで戦った誰よりも、読めない……!」
戦慄と共に、瓦木の姿がビルのガラスを突き破って消える。
──粉塵が舞う。
「逃がさないよ!」
「待って!熊ちゃ...!?」
熊谷が距離を詰めようと再展開し弧月を振りぬくが、突如床下から破片が吹き飛び、瓦木が飛び出す。
「ばぁー」
熊谷の腕を掴んだまま、右腕でそのまま弧月を奪い、床に突き刺したまま熊谷を肩越しに投げる。
「熊ちゃんッ!!」
那須が援護射撃を放つが、瓦木はそれを待っていた。熊谷の投げられた体を盾にすると、変化弾は軌道が変わり、明後日の方向へ。その間に冷蔵庫を担ぎ上げる。
「えっ……」
那須が一瞬目を疑う。瓦木が、大型冷蔵庫をブン投げたのだ。冷蔵庫が那須の前に落ち、着弾の瞬間に土煙が舞い上がる。
──その死角から。
「さぁて……やっと喰えるぜ」
目標は、那須玲。だが彼女は冷静だった。
(この距離なら、絶対当てられる──!)
バイパーを円弧状に放ち包囲。同時に熊谷が側面から旋空孤月で斬り込む。
“全方位封殺”
だが──
「面白れえじゃん……ッ」
瓦木は足元のコンクリ片を踏み砕き、跳ね上がる瓦礫を瞬時に連続で殴り飛ばす。瓦礫によって弾丸が相殺されたわずかな隙間から脱出した。
熊谷の旋空孤月が背後を切り裂くが──空振り。
「ッ、避けた!? 今のを!?」
「どんな身体能力してんのよあの子!」
那須が驚愕の目で追う間に、瓦木は地面に回転しながら着地。着地隙を狙うように球が飛んでくる。だが直前、瓦木は自分の両脚を使って地面に“落ちていた傘”を跳ね上げる。そのまま傘を広げて自分の全身を隠した。
バイパーが傘に命中。簡単に貫通するものの、瓦木は身を低くした状態で、そのまま傘ごと地面に回転して突っ込んできた。
「くっ…!」
那須は咄嗟に跳び退くが──遅い。瓦木の突進が、那須の左肩を削ぎ落とす。
「玲、下が──ッ」
「遅ぇよ!」
那須の左腕が吹き飛び、傘を投げ捨てた瓦木が那須に迫る。そのまま蹴りで吹き飛ばし、瓦礫の中に埋もれさせる。
「玲ッ!!」
熊谷が飛び込もうとするが、その目の前に、瓦木が踏みつけるように立ちはだかった。
「お前がいちばん……やりにくかったよ。褒めてやる」
熊谷の目前で、那須のベイルアウトが発動。その直後、熊谷の背後に瓦木の拳が回り込む。
──熊谷も、ベイルアウト。
【瓦木:2点獲得(那須、熊谷撃破)】
「ふぅ…で?どうすんだよ、スナイパーさん」
戦いの最中、那須隊の狙撃手、日浦は隙を作るような一撃を狙っていたが、機動力の高い瓦木相手には隙を見出せずにいた。そして日浦は自発的にベイルアウトし、得点の確保は防いだ。
「なーんだ、終わりかよ」
◆ ◆ ◆
諏訪隊は、瓦木が1人で那須隊に突撃しているのをレーダーで確認しており、いくら期待の新人とはいえど那須隊の連携には及ばないと判断し、様子を見ていた。
「もしもし諏訪さん〜?瓦木君が那須隊倒したよ〜?」
「おう、そうか…はぁ!?」
オペレーター、小佐野の緩い声とは対照的に、諏訪は大声をだして驚いた
「那須隊の連携を1人で突破するなんて、やっぱ彼すごいですね」
「あぁ。でも、やられっ放しってのもな……。行くぞ、堤、笹森」
「了解ッス」
諏訪隊はオプショントリガーでバッグワームを発動させる。使用中は少しづつトリオンが減っていくが、レーダーには映らなくなる。そして瓦木の死角に潜り込み、先制したのは諏訪だった。
ショットガン型の銃を構え、遮蔽の陰から瓦木の死角を狙う。
「さすがに同じ手は通じねえだろ。けどよ……そこが狙い目だ」
──ドン! ドン!
至近距離から連射される散弾。空間を裂くトリオン弾が、壁ごと吹き飛ばす。
「っぶねえな!!」
瓦木がかすり傷を受けながらも、瓦礫の影に飛び込む。
その背後、堤がショットガンを携えて接近していた。
「ナイスだぜ堤」
「……閉じ込めるってわけか」
瓦木は咄嗟に側溝の鉄柵を引き抜き、飛び上がりながら空中で壁に突き刺し、足場にして真上のビルの二階窓枠に飛び移った。
「やっぱ動けますね。彼」
堤は驚きながらもショットガンを構え直すと同時に、上空から斜めに瓦木が飛来。
「上だ!」
諏訪がショットガンを上向きに連射するが、
瓦木はビルの壁面を蹴って方向を変え、スロープ状の看板を滑り落ち
「よっと」
──真正面に着地した。
その瞬間、道路のアスファルトを手で砕いて瓦礫を蹴り上げる。
「さっきからブッ放しやがってこの野郎」
灰と瓦礫が飛び散る中、ショットガンを持つ諏訪の腕を正確に狙って蹴りを叩き込む。銃が切り落とされた瞬間、膝蹴りを顔面に打ち込んだ
「ぐっ…!」
「隊長!?この!」
「待て日佐人!」
堤の静止も聞かずに笹森が突撃。だが、すでに瓦木は落ちたショットガンを拾っており、弧月との撃ち合いに持ち込む。
「武器ってのは、拾ったもん勝ちだろ」
──ドン! ドン!
散弾銃を打ち込むも、全て弾は外れ、間合いに入り笹森が勝ちを確信したその時だった。
後ろの電柱が破壊され崩れ落ちたのだ。それに気づかず笹森は電柱の下敷きになった
「誘導か……!」
一瞬の隙。
──ドン!
下敷きになっている笹森に容赦のない踵落としが頭上に落ちる。
「ぐっ…!」
そして諏訪も背後から切り落とした
【瓦木:4点目(諏訪、笹森撃破)】
──残るは堤
「まさか、隊長も日佐人もやられるなんてな……」
堤が前に出る。
ショットガンを構えながら、静かに睨む。
──バン! バン! バン!
連射。
瓦木は地面に腹ばいになり、滑るように躱す。そしてビルに向かって走り出すと、逆さまの体勢から片足で壁を蹴る
「派手な挨拶だな」
そのまま横回転で堤の頭上を通過。
「今のを…!」
堤が追い打ちの散弾を放つが──
──既に瓦木は堤の間合いに入っていた。その距離は正しくゼロ距離。
(よし!この距離なら確実に当たる!!)
堤はカウンター狙いに切り替えており、あえて再装填の隙を作ることで間合いに入らせていた
ショットガンが火を噴き、勝利を確信した、その瞬間だった。
「見えてんだよ」
瓦木は、反射的に左手を地面に突き、右足を大きく反らす。
そのまま地面を回転するように滑りながら、身体を刃のように鋭くしならせる。
散弾が真上を掠め、空を裂く音と同時に、瓦木の右足が堤の手首を切り裂いた。
「っ!?」
ショットガンが手からこぼれ落ちる。
「俺にカウンター狙いは、通じねえよ」
地を蹴った瓦木が、堤の胸元に拳を叩き込む。
──ドガッ!!
衝撃で、堤の身体が地面に叩きつけられる。
「っ……やられた…」
こうして、B級ランク戦は、瓦木の単独勝利に終わるのだった。
やっぱ遼平の戦い方は恐ろしい