不良少年は飯食って喧嘩して、ボーダーに入るそうです   作:綾(あや)

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今回戦闘描写は少なめです。たまにはまったり


修羅場を潜るなら門を壊した方が楽

 

 

「それじゃ、いただきますかぁ~」

 

「お前なぁ、勝手に俺の前に座るんじゃねぇよ」

 

「別にいいだろ~?お前どうせ食う相手いないだろ?」

 

「ぶん殴るぞ?」

 

ボーダー本部の食堂。その隅で、米屋陽介と瓦木遼平は向かい合って席についていた。米屋がにこにこしながら、ハンバーグプレートをかき込む一方で、遼平は定食の味噌汁を静かに啜っていた。

 

「お前、ランク戦の時、めっちゃ楽しそうだったよな!熊谷にトラウマとか残すなよ?」

 

「あ?あの程度でトラウマが残るやつがボーダーにいる方が問題だろ。俺が海に沈められかけたり銃弾を撃ち込まれそうになった時なんか...」

 

「ストップ!もういい!飯の時にんなこと言うな!...はぁ、お前本当に俺と同じ年だよな?どんな人生歩んできたんだよ」

 

そんなふうに軽口を叩く米屋とは対照的に、遼平はどこか気だるげに飯を運んでいた。

 

「ま、声かけてきたのはお前だからな。何度もな」

 

「だって気になるだろ、入隊初日でB級に上がって風間さんに勝ち越して、さらにはカゲとも殺りあったなんて噂だったら、誰だってそうなる」

 

「あのチリチリ髪とは俺が望んだことじゃねぇよ...」

 

そのとき、一人の隊員がトレーを持ち、瓦木の横に腰かけた。ゴーグルをつけ、変態攻撃手で知られる生駒隊の隊長――生駒達人だった。

 

「おお、これはこれは、噂の瓦木くんやないの~」

 

遼平は唐突に声をかけられ、箸を止めた。

 

「……誰だ、あんた」

 

「初対面やったな、すまんすまん。俺は生駒隊の隊長、生駒達人。ま、好きに呼んだらええよ」

 

「お、イコさん!やっぱイコさんも遼平のこと気になってる感じですか?」

 

「まぁな。それよりさ~」

 

生駒は遼平の肩にガッと手を置き、真剣な顔で覗き込んだ。

 

「……小南ちゃんとできてるって、本当なんか?」

 

「「は?」」

 

遼平の眉が跳ね上がる。米屋は「えぇ……!?」という顔で遼平に目を向けた。

 

「ちょ、お前マジか、あの小南と?てか、いつの間に?」

 

「待て、待て待て待て、ちげぇって」

 

遼平は肩をつかんでいる腕を払いのけると、箸を置き、顔をしかめた。

 

「俺があの我儘女王と?そんなわけねぇだろ」

 

「でもなぁ、最近の噂やと、瓦木クンが玉狛に通ってて、ちょこちょこ話してるとか……」

 

「俺一応玉狛所属だしな。訓練で一緒になるだけだ。アイツ、すぐ突っかかってくるし。勝てもしねぇのに挑んできて負けたときのあの顔はおもしれーけどな」

 

「……ふむ、なるほどな。じゃあ現時点ではできてないっちゅーことか?」

 

「いや、一生できねぇけど?」

 

生駒は頷いたあと、急ににやりと笑う。

 

「でもなぁ、先に彼女作ったら許さんからな。俺も彼女欲しいんや」

 

そう言って、立ち去った。

 

「あいつ言いたいことだけ言って満足して帰っていったぞ...」

 

呆れている遼平を横目に、米屋はニヤニヤしていた。

 

「おいおい、ヤンキーに思春期到来か?」

 

「マジでお前殴るぞ?それに他の奴ならまだしも、あの女とそうなるとか、地獄だわ」

 

「そういうタイプに限って、案外相性いいんじゃねーの?」

 

「よし殴る、歯ぁ食いしばれ」

 

「はいはい、怖い怖い」

 

米屋が冗談まじりに笑い飛ばす中、遼平はふと立ち上がった。

 

「……ムカついたから風間と勝負しに行ってくる」

 

「風間さんをサンドバックみたいに扱うんじゃねーよ...俺とやってもいいんだぜ?」

 

なら1000本勝負と行こうか、1点も残さずに搾り取ってやるよ

 

「はいすみませんでした。いってらっしゃーい」

 

そう言い残すと米屋は逃げるように走っていった

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

風間隊の隊室があるエリアに向かう途中、遼平は案の定、迷っていた。

 

「...どこだよ、陽介に場所聞いときゃよかったわ…てか出口すらわからなくなりそうなんだが...」

 

本部の廊下をぐるぐると回り、出入り口を見失いかけていたその時。

 

「ん?あ、おい!風間隊の部屋ってお前分かるか?」

 

 と、通りかかった少女に声をかけた。彼女は肩までの髪に端正な顔立ちで、制服の袖にA級4位のエンブレムがついていた。

 

一瞬、少女は遼平の気迫におののいたように目を見開いた。だがすぐに表情を戻し、落ち着いた声で答える。

 

「風間隊の隊室は、この先の右を曲がって、突き当たりの手前です」

 

「おぉ、サンキュ、お前、A級か?」

 

「はい。A級4位草壁隊の隊長、草壁早紀です」

 

「ふーん...俺は瓦木遼平、ありがとな早紀」

 

 遼平が軽く手を上げて去っていく。その背中を、草壁はじっと見送った。

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

草壁早紀は静かに息を吐いた。

 

(……あれが、瓦木遼平)

 

A級の中でも彼の噂はよく耳にしていた。不良でありながらその名前はボーダーでも知られていた。だが今では風間さんと渡り合う実力者。今期のランク戦でも、異例の戦い方で死闘を繰り返すB級の台風の目。

 

(確かに、ただ者じゃないな……)

 

気迫に圧倒されそうになったのは一瞬。だが、それが何か逆に興味を惹いた。

 

(……ちょっと、見に行ってみよう)

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

ランク戦モニター前。

 

多くのC級隊員がざわついていた。草壁もその中に立ち、画面を見上げる。

 

「え、マジ!?風間さんに勝ち越してるじゃん!」

 

「ありえなくね? 風間さんって、太刀川さんと並ぶくらいじゃないの?」

 

「やば、あの人の噂マジだったのかよ!」

 

その画面には、瓦木が風間を相手に、4-3で勝ち越している様子が映っていた。

 

草壁の口元が、わずかに緩む。

 

(……やっぱり、面白いかも)

 

そこに映ったのは、普段滅多に見せることのない彼女の笑顔だった

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

風間との試合後、試合を観戦していたC級隊員たちからは興奮冷めやらぬ様子で視線を向けられていたため、少し居づらさを感じていた。

 

だが、ラウンジ内は別の意味で空気が重かった。

 

「だから言ったよな、あの場面、もうちょっと周り見て動けって!」

 

「はぁ? 言われなくても分かってるし!てかアンタに指図される筋合いないし!」

 

香取隊の香取葉子と若村麓郎の口論だった。もはや定番になりつつある光景。しかし今回は、いつもより明らかに空気がピリついていた。

 

そして香取の一言に我慢の限界を迎えた麓郎が首元を掴み、殴りかかった

 

「そこまでだ」

 

しかし拳は香取に当たることはなく、遼平の右手の中に納まっていた

 

「……誰このイケメン!?あんたのせいでこのイケメンからの好感度下がったんだけど!?どうしてくれんの!?」

 

香取の言動に遼平は小さくため息をつき、重厚感のあるはっきりとした声に空気が張り詰める。

 

「なんで言い合ってるのか知らねぇけど、居心地悪ぃんだよ」

 

葉子は眉をひそめる。

 

「はぁ?なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないの?てかアンタ誰?」

 

「瓦木遼平」

 

「おい葉子!!あ、あの、風間さんに勝ったっていう!?」

 

「まあな。で、何が問題なんだ。隊の方針でもめてんのか?」

 

麓郎がため息まじりに説明する。

 

「葉子が自由すぎてな。華さんとか雄太が結構振り回されてんのに、全然気にしねーからさ。俺が注意したらこのザマなんです」

 

「うるさいわね、アタシが自由にやるから点とれてんでしょ。麓郎より強いし、言われる筋合いないわ」

 

遼平は一瞬だけ黙り、目を細めた。

 

「……お前ら、仲悪ぃな」

 

「今さらよ」

 

「でもそれで毎回ギスギスしてるなら、いずれ誰かブチ切れるぞ」

 

「だから何だっての、別にチームがなくなっても、アタシ一人でA級に行けるし」

 

「ならなんでお前は勝ててねぇんだ?」

 

一瞬で空気が冷え込んだ。遼平は続ける。

 

「強けりゃ風間やカゲに負けることなんてねぇよ。でもお前勝ててねぇじゃん」

 

若村は、少し気まずそうに葉子の顔をうかがう。

 

「葉子……正直、雄太も華さんも気を使ってんだ。自分のやりたいことばっかじゃ、チーム回らねぇよ」

 

葉子の表情が少しだけ揺れた。

 

しかしすぐに、プイと顔を背ける。

 

「……アタシが、悪いってわけ? 結局あんたら全員、アタシのせいにしてるだけじゃん」

 

遼平は数秒、葉子を見つめ、口を開いた。

 

「責任押しつけ合っても意味ねぇ。――だったら、ちゃんと仕組みを作れよ」

 

「仕組み?」

 

「ああ。お前ら、戦術会議とかミーティング、どうしてんだ?」

 

「……一応やってるけど?適当に」

 

「それ、意味ねぇだろ。試合後に映像見て、誰がどこでミスしたとか話してるか?」

 

「……そんなガチじゃない」

 

「だったら変えろよ。全員で戦術マップ振り返って、"どこで誰が連携できなかったか""どの指示が届いてなかったか""自分が次どうするか"まで書き出して、次の試合に活かす」

 

「えっ、何その体育会系……」

 

「こう見えてそういうのやってきてんだよ。全部喧嘩で学んだからな。殴り合いは、間違えたら即やられる。ランク戦とそう変わらねぇよ」

 

遼平は一呼吸置き、続けて話す

 

「俺だって最初から勝てたわけじゃねぇ。突っかかってきた奴に、ぶん殴り返したり、バット持って追いかけられたり。日常茶飯事だった。後悔はしてねぇどな」

 

「なんで急に自分語り……」

 

「ある日、俺に挑んできたバカをぶん殴ってボコしたらよ、次の日集団で銃持って襲い掛かってきやがった」

 

「「……」」

 

「マジの拳銃。日本でそんなん見たの初めてだった。で、そいつ俺の足撃ちやがってよ。あれは痛かったな。そのあと全員叩きのめしたけど普通に血まみれになったし、2日は動けなかったな」

 

なんで銃で打たれて血まみれで2日で治るんだよ、と言いたくなったが、言える空気ではない。

 

ラウンジが静まり返る。

 

「何が言いたいかっていうと――」

 

遼平は、いつになく真面目な口調で続ける。

 

「限界超えたケンカってのは、普通に命に関わる」

 

「いや、アタシたち別に拳銃使わないけど……」

 

「そういう問題じゃねえよ。感情にまかせて爆発して、それで隊がバラバラになって、誰も得しねぇって話だ。俺は一人だから関係ねぇけど、お前らは違うだろ?」

 

香取が沈黙し、若村も顔が下がる。

 

「お前ら、自分の主張だけぶつけ合って、落とし所考えてねぇだろ」

 

沈黙が落ち、葉子は唇を噛み、視線を下に落とした。

 

「反論しないんだな」

 

「うっさい……」

 

遼平は笑わず、真剣なままで告げる。

 

「お前らのチーム、悪くない。だから、もったいねぇって思っただけだ」

 

数秒後、葉子が小さくつぶやいた。

 

「……カッコいいじゃん」

 

「そこ!?今の流れでそれ!?」

 

「麓郎のせいで、印象最悪から始まったけどね」

 

「だから何で俺のせい!?」

 

「...まぁ、悪かったわよ、色々」

 

「俺もすまねぇ」

 

「仲直りだな、じゃあ俺はこれで…『待って』?」

 

 呼び止めたのは香取だった

 

「そ、その…あんたに教えてもらえること多そうだし…で、弟子とかになって、さ」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「あーもう察し悪いわねこの鈍感イケメン!弟子にしてって言ってんのよ!!」

 

「別にいいけど」

 

「本当!?約束よ!」

 

遼平が香取の師匠になった





香取は面食い
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