いい加減にしてくれ!星ちゃん!   作:F1さん

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シーン10 特効薬は星ちゃんしかいない!〜絶対薬の事詳しくないだろ〜

 

「はぁ。助かった、ありがとう、ヒアンシー」

「いえ! でもたまたまレンたんが飲んでいるお薬に似たような物が用意できて良かったです!」

 

 レンはその日、オンパロスで情報収集をしていたが、具合が悪く......現地民によって医者である『ヒアシンシア』、通称ヒアンシーの元に連れていかれた。

 

 レンは普段薬を持ち歩いているが、この惑星では今、星や丹恒と星穹列車のメンバーと連絡がつかない。

 

 なので自分で持ってきた薬もあまりなく、少し途方に暮れていた。

 

 しかし、ヒアンシーがレンがいつも飲んでいる薬に良く似たものを用意してくれたのだ。そのおかげで症状も良くなりつつあった。

 

 ベッドに座りながらレンは深く息を吐く。

 

 レンの病は肉体面にもあるが、それよりも精神面の方が強い。

 彼は狂気を狂気で抑えている。

 

 かつての同胞の女性にそのやり方を教わり、それからは旅をしつつ、レイシオや様々な人間に方法を聞いた。

 

──......そうして今がある。

 

 今は落ち着いているためそんなことは無いが、これが酷くなると幻覚に襲われたりもする。

 

 それこそ昔はよくあったものだ。

 

 ヒアンシーは長い緩いウェーブががった、手先はエメラルドグリーンのピンク髪を揺らす。

 

 服装が画家のようにも見える若い少女だが、ヒアンシーは優秀な医者だ。

 その腕前は確かなようで、周りからも信頼をされており、レンも感心してしまうほどのものだった。

 

 レンはヒアンシーから渡された薬を飲み干した後、コップをテーブルへ置いた。

 

 幻覚を見ていないことに安堵しつつも、いつ起こるか分からない状態異常には少々不安があった。

 

 レンにとってそれは常に隣合わせであり、恐怖ではない。

だがやはり、そのせいで仲間に迷惑をかけるのも本望ではない。

 

 だからどうにか早く治したいと思うものの、根本的解決には至っていないのが現実だ。

 

 それがレンには何より辛かった。

 

 そんな事を考えていると「大丈夫ですか?」という声と共に顔を上げると目の前にヒアンシーの姿があった。

 

「────っ!!!!?」

 

 驚きすぎて思わず肩が震える。それほど近くまで来ていたとは思わなかったのだ。しかも何故か近い距離である。

 

心臓に悪い。

 

 彼女の手がレンの額に触れようと伸びてきたところでようやく我に返り反射的に避けてしまった。

 すると不満げな表情になった気がする。

 

 医者だとはいえ、異性に身体に触られるのは抵抗がある。

 

 いや、自分がつい考え込んで顔を下げていたのは悪いんだが、とレンは内心謝る。そして同時に反省をする。

 ここは素直に感謝すべきだろうと思いなおした結果口を開いた。

 

「ああ……うん……。ごめん。つい」

 

 謝罪とともに苦笑いを浮かべれば今度は呆れたような笑みを見せるので申し訳なくなる。

 

 ただ、こんな事ならもう少し冷静になっていればよかったと思いつつもこれ以上失礼にならないようにと考えながら、言葉を選ぶ。

 

「ありがとう。ヒアンシーのおかげで助かった。じゃ、またな」

 

 一応礼だけ伝えて立ち上がり去ろうとするも引き止められた。

 

「待って下さい。まだ本調子じゃないんですから、安静にしていてください」

 

そう強く言われてしまえば大人しく従うしかないわけで……結局もう一度寝床に戻されることとなった。

 

 それからしばらく休むことになり目を閉じることにした。

 

 レンは目を瞑る。

 

 意識が暗闇に溶けていく感覚と共にゆっくりとした呼吸を繰り返す。

 

『夢』というものが苦手だ。

 

 

──……どうか深い、長い眠りについて、何も見ませんように。

 

 だって夢というのは記憶を整理するために見るのが普通だ。

 

 だから、時に残酷な記憶を呼び起こしたりすることもある。

 

 過去のトラウマであったりとか。

 

 そして今回みたいに体調不良による場合は最悪の場合あり得ないことばかり見る羽目になることもあるかもしれない。

 

「……猿だけは、絶対見たくないな.」

 

 進化の反対は退化だ。

 

 レンは退化を何よりも嫌う。

 

だからこそ、進化を受け入れ進もうとしている。

 

 進化を認めることができなければただ消滅していくのみなのだから……。

 

※※※

 

【レン視点】

 

『……また会ったね。あんたと』

 

 夜の路地裏。フードで顔を隠した少女が無表情で俺を見下ろす。

 

 手にはバットを持った彼女とは腐れ縁になったのか、トラブルに会う度に顔を何度も見合わせてきた。

 

 危険な取引現場。実験場。オークション会場。高層ビル。

 

 俺は『巡海レンジャー』。

 

 嵐の「暴力で以って暴力を制す」やり方を崇拝している連中の一人だ。

 俺たちは現地の人々にとっての邪悪を駆逐し、次の星を目指す義侠の団体。

 

「お前……またボロボロの格好で。またトラブルに巻き込まれたか?」

「…………別に問題はない。カフカが命には問題は無いって言ってた。だから私は気にしない」

「……お前、また誰かの指示に従って来たのか?」

 

「仕方ない。それしかない。

カフカ達が動けないなら、私が動くしかない

他のみんなもそう思ってる」

「……そうか」

 

 フードの少女は感情を見せずに言う。

 

 まるでロボットの様だ。

 

 Aiの方がまだ感情があるんじゃないか? と思ってしまう程に。

 

 そんな彼女に向かってレンはため息を一つつく。

 

「で、お前は今回俺を見逃してくれるのか?

 

それとも殺しに来たのか?

 

 レンが問いかけるとすぐに答えが返ってくる。その内容は予想通りだった。

 

「……()()()()()()()

たまたまあんたがいただけ」

 

「……お前、ユーモアは分かるか?」

「急になに。分かってるよ」

「ふーん。例えば……そうだな。

こういう時なんて冗談言うべきだと思う?」

「……さぁ?」

 

 本当に機械みたいな奴だとつくづく思う。

けれども憎めないところが不思議な魅力と言えるかもしれない。

 

 そんなことを思いながらも、再び話を続けようとすればそこで邪魔が入る事となる。

 

 ──カンカンカン

 

 俺の足元に向かって弾丸が飛んでくる。

 

 壁には当たらずそのまま地面を抉る音が響いた後に遅れて硝煙の匂いを感じ取れる。

 

 撃った人間は一人。

 

「…………さあ、早く行くわよ。

もう時間稼ぎはおしまい。さあ、帰りましょう?」

 

 黒装束の赤紫髪を束ねた女が銃をこちらに向けて言い放った後、フードの少女はこくりと小さく頷く。

 

 ──……二人が、背中を向け歩いて行ってしまう。

 

 それを確認した直後に急激な疲労感が押し寄せてきたために立っていることができず、その場にしゃがみ込んだ。

 

「……待てよ。また、またなのか……お前は、なんで……っ!」

 

 手を伸ばそうとしても届かない距離になっているのに気づいて、歯軋りした。

 

 彼女たちが消えた後は何事もなかったように、そこは静寂を取り戻していた。

 

※※※

 

 

 目を覚ましたレンの目の前には銀髪の美少女が目に入る。

 

 しかし、どこか不機嫌そうに眉を寄せているのを見たと同時に、レンは片手が暖かいことに気が付いた。

 

 視線を落とすとそこには自分の手をギュッと握りしめている彼女の手があった。

 

 おそらくずっと傍に居てくれたらしいことが伺えた。

 

「レンってばまた勝手に私を置いて他の女のところに来てたんだ。女の敵。レンは節操がないんじゃないの?」

 

 星はじっと半目でレンを睨む。

 明らかに不貞腐れており、わざとらしく頬を膨らませている。

 

 レンは慌てて否定したくて弁明しようと試みるも喉が渇いてしまっていたようで上手く喋ることができない。

 そのため咳払いをして改めて口を開くことにした。

 

「コホ……コホン。誤解だ、星。そもそも俺はちょっと具合悪くて倒れてさ……それで此処に連れてきてもらって」

へぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???

私のビデオ通話も、メッセージも無視して?

へぇ~〜?

それって真っ先に私に連絡するのが筋なんじゃないの?」

 

 星は両腕を組み足踏みしながら更に鋭い眼光でこちらを見るものだからレンはつい、冷や汗が出た。

 

 星はレンに対し、あからさまな程嫉妬深さを見せてくる。

 

 彼女曰く、一目惚れのようなものだと言っていたが、

 

星は知らない。覚えていない。あの時のことを。

 

 だけどそれでも良いとレンは思っている。

 

 過去なんかより、今が大事だ。

 過去に囚われるくらいならば今の幸福を掴み取りたいと思う。

 

 少なくともレンはそう決めたのだ。

 

 その決意を曲げるつもりはない。

 

─……例えどんな代償があろうとも……。

 

「ごめん、星。心配かけた。頭回らなかった」

 

 レンが素直に非を認めた上で謝罪すれば、ようやく納得してくれたらしく少しずつ表情が和らぐ。

 

 なんとか真摯な気持ちが伝わったらしい。

 

「いいよ。許してあげる。だけど次はないから」

「……あー、うん。善処する」

「あっ! 今ちょっと迷った?! やっぱりレンってば信じられない! それに、普通私が来たら『やったー』ってなるのが普通だよ。みんな喜ぶよ、私みたいな美少女が迎えに来たら!」

「お前なぁ……まぁ確かに星が可愛いのは認める。

……でもそういうことじゃなくてだな……」

「やっぱり可愛いって思ってるんだ!

もー!このっ……!レンはツンデレ!」

 

違う

 

「違わない!」

「違うって」

「えー違わないでしょ!」

 

 二人ともムキになって互いに譲らない。

 

そんな感じで言い争っているうちに、散々騒いでいた為かヒアンシーが部屋の中に入ってきて『グレーたんも、レンたんもダメですよ!』と注意されるハメになった。

 

 流石に問題を起こすわけにもいかないのでレン達は渋々おとなしくすることを選んだ。

 

 すると満足げな顔でヒアンシーが去っていった後、小さな溜息を互いに吐く。

 

「まったくもう。ヒアンシーに怒られちゃった」

「お前も騒いだだろ……全く」

 

 レンは呆れながらも星を見た。

 

 長い跳ねた銀髪。黄金の様な瞳。

 

 基本的には無表情だが、コロコロと表情を変える事もある。

 

 トラブルばかり起こすし、すぐ暴走するしで振り回されっぱなしである意味苦労させられている。

 

───……だけど。

 

 ロボットや人形の様な少女はそこにはいない。

 

 居るのは視線に気が付き、少し照れたような女の子がそこにいるだけ。

 

──……やっぱり、その方がいい。

 

──……俺は、そっちの方が断然いい。

 

「レン?」

 

 星が名前を呼ぶ。

 不思議そうな顔をしているのが分かる。

 

 レンが思った以上に柔らかな表情を出したせいだろう。

 自分でも自覚している。

 

 

──きっと、星にとってはこの思い出は些細なもの。でも俺にとっては大切なものだ。

 

「なんでもないよ。さ! もう起きたし帰るぞ」

 

 レンが勢いよく起き上がると彼女も後に続く。

 星に手を差し出すと、すぐ。躊躇いもなく手が重なり合い握られる。

 温もりを感じ取ることができて、安心できた。

 

 それをしっかりと確かめてからゆっくりと立ち上がる。

 

「うん!」

 

 嬉しさで溢れている声が耳に入ってきて、レンは自然と笑みが零す。

 

 そしてそのまま手を繋ぎ部屋から出て行く。

廊下に出ると外の景色が目に入り、その眩さについ、レンは瞼を閉じてしまう。

 

 だけれど、今はそれが怖くはなかった。

 

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