短編と、ifとして原作の話も書いてみようと思います。
今回の話はnot百合です!!
「──星。どいて、その人をあたしは認めるわけにいかないの」
「……ホタル。でも、私も引けないよ。私にも譲れないものがある」
「俺を挟んで会話しないでくれないかなぁ、お前ら!??」
レンは右側にくっついた星と、左側で離れているホタルに挟まれて、そう叫んだ。
完全に痴話喧嘩に巻き込まれた被害者である。
「星はこの人に騙されてるよ。だって、その人といるより、その。あたしといた方が絶対楽しいんじゃないかな?」
「ホタルはそういうところあるよね……でも、私はレンといると楽しいから、大丈夫だよ」
「……でも、あたしは星といる方が楽しい……」
「……ホタル」
「え、なにこれ。俺、何見せられてるの?」
2人の会話に思わずそう呟いたレンに2人は同時に言った。
「レンは黙ってて!」「レンは黙ってて!」
2人の声は完全にシンクロしていたし、息ぴったりだった。
百合に挟まれた男。レンの心情を一言で表すとそれだった。
「いや、俺、なんでここにいるんだろう……」
レンはそう呟いて、遠い目をする。
たまたま星とレンがピノコニーで遊んでいた時に、それを見つけたホタルが指を刺してきたかと思えば、「ズルい!」と叫んで突撃してきて、あえなく巻き添えを食らって巻き込まれる羽目になっている。
(……俺、帰っていいかなぁ……)
そうは思ったものの、2人の仲に割って入るのもなぁとレンが思っている間にも、2人は言い争いを続けている。
「でも、こんな人が星のパートナーなんて務まらないんじゃないの? ねぇ、星。本当にこの人でいいの?」
「いや、レンは私の最高のパートナーだから」
「でも。その人を星の隣におくのは納得いかないの!
あたしの方が、そんな人よりよっぽど……その……」
「あの、もう俺列車に行っていいか? 姫子さんに頼まれた物があるから届けたいんだけど」
放っておいたら延々と続きそうな痴話喧嘩(?)に終止符を打つためにレンはそう言葉を挟んだ。
すると、星とホタルは揃ってレンを見てきた。
「ほら! 星!
この人星といるのに別の女の人の所に行こうとしてるよ!
それに、前にカフカにデレデレしてたよ!
ダメ男って奴だよ、この人!」
「レン。それ、本当?」
「待て! 星、その目やめて! ホタル、それは誤解だ! あの時、思いっきりアイツにからかわれてただけだから! 手玉に取るのが趣味じゃん、アイツ!」
そう慌ててレンが弁解しても、2人の目からは疑わしげな視線が向けられる。
確かにレンはなのかとは仲のいい兄妹の様だが、他の姫子やルアン・メェイやブラックスワンなどの年上の女性にタジタジになる傾向が強い。
レンによると『昔年上の女性に酷い事(性的では無い、どちらかと言えば精神的)』をされたトラウマがあるらしく、なかなか治らないようだ。
「それにそもそも俺としては星にちゃんと独り立ちして欲しいんだけど……」
「それは絶対に嫌! 私とレンは一蓮托生。約束した!」
レンがこれ幸いと切り出したが、星にキッパリと間髪入れずに即答されて、レンはため息をつく。
(やっぱりそう簡単にはいかないか)
星はいつも独断専行なところがあるから手に負えない。
それに、約束というのは『困った時には力になる』みたいな簡単な約束だったはずなのだが、いつの間にか規模が大きくなってるらしい。
「そうなんだ。じゃあ、星が独り立ちしたら……」
「それは嫌」
ホタルが同じ様にいい始めようとしたが、その言葉にキッパリと返す星にレンは脱力感を覚えた。
(何か頭痛がしてきたな……)
「またやってるの?2人とも。 この光景見てるのも面白そうだけどさ、星。
今日はゲームのマルチプレイに付き合ってくれるって約束してなかったっけ?」
「……あ、そうだった」
「えぇ?! なにそれ! 約束ってなに? 何するの?? あたしもやる!!!」
そこにレンにとっては救世主にも等しい声がかけられた。ホタルの仲間である銀狼だ。
小柄な彼女はいつもの様にダウナーな雰囲気で星に声をかけ、そして、それにあっさりと乗る星を見てホタルは不満そうな声を上げる。
「でもホタルゲーム苦手じゃん」
「う。でもやりたい!」
銀狼の言葉にホタルはグッと拳を握りしめる。銀狼はスーパーハッカーであり、日常生活をゲームと例えるくらいにはゲームをこよなく愛している。
だからこそゲームが得意だが、ホタルは清楚そうな雰囲気とは反して割と脳筋なところがあり、ゲームが得意ではない。
「まぁ、別にいいけど……。じゃあ後ろから見てる? ボイスチャットするから会話はできるよ。早くアジトに戻って来て。星もゲームしやすい場所に移動しておいてね。じゃ、私はもう戻るから」
銀狼はガムを噛みながら手を軽く降り、ホログラムの身体を霧散させると、ホタルは「うん!」と嬉しそうに頷くと、星達に手を振り去っていった。
「あ、じゃあ俺も……」
レンがそう口を挟みかけた時、星にズルズルと引き摺られていく。
「……え? 何?」
「だからゲームするから部屋に行こ」
「いや、それは分かってるって。でも俺は用事が……」
「ゲーム。するの」
星は有無を言わさない口調でそう言い切ると、レンを引き摺って歩き出す。
「あ、うん。分かった」
レンはそんな星に気圧されて、そう答えるしかなかった。
※※※
※
別日。
「レンって好きな物とかあるの?」
「……俺の部屋でダラダラお菓子食べながら言うな。てか、ベッドで食うな」
星はレンの部屋のベッドに横向きに寝転がり、スナック菓子を頬張りながらそう聞いてきた。
そんな星にレンは呆れた様に言うが、星は全く気にしていない様子だ。
「だって、レンのベッドってなんか落ち着く」
「俺の部屋はお前の部屋じゃないぞ」
「うん。でも、もう半分私の部屋みたいなものだよね?」
「……いや、違うけど……」
そう口では否定しつつも、星と過ごす時間が多くなりつつある今、確かにこの部屋の半分くらいは星の物になっているなとレンは思う。あとは自分の物か貰い物くらいだ。
星は勝手に持ってきて置いていった物も多い。犬がおもちゃをくわえて隠すのに似た行動なのかもしれない。
「好き……かぁ。考えた事ないな。
まあ、スラーダとかは飲む確率多いかな。
あと江戸星の料理は故郷の味に似てて割と好きかも……?」
「ふーん。そうなんだ。じゃあ、嫌いなものって何かある?」
「…………いや、何も?」
「あ。黙った。あるんだね。何?」
星はようやくベッドで座りなおし、興味津々に目を輝かせながら聞いてくるが、レンとしてはそこまで楽しみにする様な事ではないと思った。
だが、答えない限り星はしつこいと知っているレンは小さくため息をついた。
「別に大したことじゃねぇよ。嫌いなものなんて沢山あるだろ?」
「なら、言えば良くない?」
「……それはその。ほら、あれだよ。言い難いものってのがあるだろ?」
レンがしどろもどろになりながら答えると、星は逆に楽しげにニンマリと笑う。
「へー! 例えば? 何?」
「……言い難いって言ったんだけど?」
「でも、大したことないって言ったよね?」
「……」
レンは星に言い返す言葉が見つからず、無言で睨むが星には効果がないらしい。
「……分かったよ! だからそんな期待に満ちた目で見るなよ!」
「うん。で? 何?」
「その……バナナと猿だよ」
「……猿? なんで?」
レンの答えに星が首を傾げる。バナナは分かるとして、どうしてその2つなのだろう。
すると、そんな星の反応にレンは顔を引きつらせた。
「いや……それは……」
「あ、分かった。昔猿にバナナを取られて食べられちゃったんだ。だから嫌いなんだ」
「そんな短絡的じゃないし、そんな理由で嫌いな訳でもねぇよ」
レンはジト目で星を見ると「やっぱり言うんじゃなかった……」と頭を抑えながら大きなため息をつく。
「じゃあ何?」
「……重い話だからあまり言いたくないんだって」
「教えてよ」
レンの言葉にも星は追及をやめない。どころか興味津々な様子だ。こうなると頑固なのだ。
「……名前、ちゃんと言えないんだよ。汚染あって。まあ、実験を昔されてて、そのボスに関わる事で嫌い? 苦手? なんだ。まぁ、うん。ちゃんと言えないから嫌だったんだよ」
レンはそう言ったものの最後の方はモゴモゴと曖昧な言い方になってしまった。自分が嫌なものをわざわざ話すことはないと考えるからだ。
「ふーん? そうなんだ?」
「……なんだよ、その返事」
だが、レンの予想に反して星は興味無さげな反応を示してくる。
それに、レンは少しムッとした様子で聞き返すが、星は全く気にもしていない様子だ。
「いや、別に? そしたら私がレンを守ってあげるよ、バナナと猿から!」
「……お前、妙に男前なことを言うよな……。でも、いいよ。俺は大丈夫。守って貰う必要なんてないよ」
レンはそうは言うが、口元を緩める。
だけれど、星にそう言って貰えるのは不思議と嬉しかった。
でも、いつまでも守って貰うだけの自分でいるつもりもない。昔、そうやって逃げてきたのだから。
レンがそう言うと星はお菓子を置き、自分の服で拭くと、レンの手をそっと握った。
その手は柔らかでほんのりと温かかった。
女性らしく小さくて力を入れたら壊れそうな掌だ。
「守られる事は悪い事じゃないよ」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「分かってるって。じゃあ、私はレンを大事にするよ。それで良くない?」
「…………」
いいとも悪いとも言えずに言葉に詰まるレンを見て星は笑う。
その笑顔はとても無邪気で、レンは「まあ、いいか」と思えてきた。
星に握られた手を軽く握り返すと、星が驚いた様に目を見開いた後、嬉しそうに笑うものだからレンの頬も自然と緩んだ。
レンは星が大切だ。
それがどういう感情なのかは分からないけれど、彼女が死んで欲しくはないと思っている。
そして、星もレンを大切にしてくれているのだろうと思う。
その証拠が今繋いでいる手だ。
お互いの体温を共有しているかのような心地よさを感じる。それがとても心地よい。
ずっとこうしていたい気持ちになってしまう。
(……この手もいつか離さなければいけなくなる時が来るのだろう)
レンはそれが、どうしてか、とても恐ろしく感じた。
───でも、今だけは。この時は。
その考えを忘れて星と過ごす時間を大切にしたいと思った。