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「あっ、美味しそうな物が売ってるよ!レン!」
「ひっつきながら歩くな…暑苦しい…」
レンは歩く度に、腕に引っ付いてくる星を見て眉を顰めた。
この少女は距離感が近すぎると彼は静かに思う。
「え〜酷いよレン……」
「じゃあ離れてくれ」
「やだ!!!」
そう言うと星は更に抱きつく力を強めた。
レンはもう文句を言う気力も無く、ただひたすら前を歩くことだけを考えることにした。
周りには屋台が並んでおり、美味しそうな匂いが漂っている。
そんな時、レンのお腹は空腹を訴えるようにぐー、と小さく鳴った。
「……お腹空いたの?レン」
「……」
気まずさに目を逸らすが、星は気にせずにぎゅ、と腕を強く掴む。
「じゃあ何か食べようよ!」
「待て、勝手に動くな!色々ヤバい!ヤバいから!」
先程から柔らかな感触がレンの腕に当たっている。
思わずその事について言及すると、彼女はきょとんとした表情で首を傾げる。
「え、何がヤバいの?」
「いや、だから……その……」
レンは口籠もるが、星は気にせずに彼の腕を引っ張っていく。
星は目覚めてから間もない。記憶も無いのでレンからしたら精神年齢が赤ちゃんみたいなものである。バブちゃんだ。
レンは心の中でため息を吐いた。
(勘弁してくれよ……)
それから屋台で食べ物を買った2人は近くのベンチに並んで座って食事を始めた。
レンは食べ慣れた物を選んで食べる。
星はそれを興味深げに見上げてきた。
「ねぇ、それ美味しいの?」
「ん?まあ普通だな」
レンがそう答えると、星は目を輝かせて言った。
「一口ちょうだい!」
「……はぁ?」
「ダメ?」
上目遣いで見つめられると断りにくいが、これは間接キスになるのではないだろうか?レンは躊躇った。
しかしここで拒否すれば彼女はまた駄々を捏ねるだろう。
仕方なく彼は串に刺さった肉を差し出した。
「ほら、食え」
すると彼女は嬉しそうにそれを口に含むと咀嚼する。
そして飲み込むと同時に口を開いた。
「うん!美味しい!」
「……そうかよ」
(本当にこいつは……)
レンは呆れつつ自分の食事を再開した。
他人が差し出してきたものを躊躇いなく食べるし。
───だから前にルアン・メェイに変な薬を盛られたんだ。
「レン、どうしたの?食べないの?」
レンは呆れつつ、これからどうするかと考え始めたが、星に声をかけられて我に帰ると、彼は慌てて残りの肉を口に含んだ。
「欲しいなら自分で買え」
「だってまだ食べきれない」
星は両手に串焼き、りんご飴、麺類などなど、沢山食べ物を持っていた。
食い意地がはっていると言うか、チャレンジャーと言うか。
レンは呆れて何も言えなくなった。
自分を彼女は本当に何だと思っているんだ。
よくパートナーと言ってくるが、やはりよく意味が分からないまま響きがいいから使っているのだろうか。
レンは何となく星を眺める。
見た目は大人びた美人だが中身は子供だ。
いつもレンを振り回したり困らせる。
だけどそんな彼女に、つい絆されてしまうのも事実なのだ。
だって、レンは星に恩がある。
返しきれない恩が。
きっと星はレンのことを雛鳥が初めて何かを見た時親だと思うような感情を抱いているのかもしれないが、レンは違う。
そうではなくて──もっと大切な存在なんだと思っている。
何にももう持っていない、特別な人とは違う凄い能力なんてない、普通の自分だが。
星は愛嬌があって度胸がある英雄だ。
だがレンは英雄には、きっとなれはしない。
それは変わることのない事実だ。
そうやっていると、いつの間にか食べ終えたらしい。
雲璃並の食いっぷりだ、ウキウキした様子でゴミ箱を開けて捨てたあとしばらく離れない様子をレンは半目で見ていた。
相変わらずゴミ箱マスターらしい。
「よし、満足。レン、早く行こうよ」
「ああ、分かってるよ」
けれどレンは星の隣を歩き続ける。
星はそんなレンを見て笑った。
その笑顔に胸が痛い気がしてしまうのは、きっと彼女のことを意識しているからだ。
でもそれはきっと気のせいだ。そう自分に言い聞かせた。
星や他の人々が思うより、ずっとレンは本当は弱い人間だ。だから彼女のことが眩しすぎて、つい目を逸らしたくなってしまう。
でもそれはきっと、星に失礼だから。
レンはそんな気持ちを押し殺して。殺して。星の傍に立つ。
「ねぇレン、手繋いでもいい?」
「は?なんで」
「だって迷子になったら困るでしょ?」
「……どっちがだ?お前の方が迷子になりそうだろ」
「えーそれは酷いよレン」
「……はぁ。別に良いけど」
レンは星に手を差し伸ばす。
そしてしっかりと握ってあげた。彼女の手は柔らかくて、ずっと握っていたいと思うくらいに気持ちが良かった。
「……離すなよ?」
「……うん!」
笑顔で返されると、レンは少し照れてしまう。
それを隠そうと顔をそっぽに向けた。
すると視線を感じるのでそちらを向くと、彼女はこちらをじーっと見ていた。その表情は少し不満気であるように見える。
それが何故なのかレンには分からず、思わず首を傾げた。
「どうした?」
「別に?」
星はそう言いながらもやはり納得していない様子であった。
しかしそれ以上何も言ってこなかったので、レンはそのまま歩き続けた。
様々な人々が会話をしている姿が視界に入る。皆楽しそうにしているようだったが、レンにとっては他人事でしかない。
だが、平和そうな風景を見ていると少しは気分が良くなった。
そして、思ってしまう。
ずっとこのままであればいいのに、と。
この先、星に待っているのは過酷な運命でしかない。
レンは握った手に力を込めた。
この温もりを手放したくないと思うのは、贅沢で我儘な願いだろうか。
だとしても、星には少しでも長く笑っていて欲しい。そう願うことくらい許して欲しかった。
例え彼女が悲しむことになったとしても。
その隣にいるのは自分じゃなくてもいいから。
きっと自分はいつか停滞する。諦めてしまう。
そんな自分と違い、彼女はどこまでも自由に生きることが出来る。だからこそ惹かれてしまったのかもしれない。
だが、この『
「レン?」
名前を呼ばれてハッとして顔を上げると、星が不思議そうに首を傾げていた。
(何を考えてんだ俺は……)
あまりにも陳腐でありがちな妄想をしてしまった自分に呆れるしかない。そんなことを考えている場合ではないというのに。
今はもっと優先すべきことがあるはずだと自分に言い聞かせる。
────遥か昔。
レンがいた惑星では人はずっと
そんな人々が出来なかった夢物語を、今、自分は叶えている。
昔、塵から惑星はうまれた、なんて聞いたような気がする。
様々な物が塵から変化していくのだとしたら。
自分は塵でしかあれないのなら。
───俺は彼女の
※※※
その日。
レンは一人ピノコニーを歩いていた。
ピノコニーは夢の国。様々な高級そうなブティックや巨大なガチャマシンにスロットマシンが道の途中に並んでいる。
だが、彼は遊ぶ事はなく、頼まれ事を終わらせた帰りだった。
普段ならくっついてくる星だが、今回は別。
彼女も彼女でやるべき事を果たしているのだろうと静かにレンは思った。
いや、無理やり なのかに首根っこを引っ張って行かれながら『レン〜!私達はずっと一緒、絶対だからね〜』『はいはい、いい加減に着いてきてよね』と、コントみたいな事をしていたが。
そんな時、独特なフレグランスの香りが漂ってきた。
少しツンとしているが甘いフルーティなその香りは前に嗅いだことのある。
何となく目をやれば値段が桁違いであろうシルクハットとサングラスをした優男が立っていた。
彼はレンを見ると声をかける。
「やあ、君は確か……」
「どうも」
挨拶をしなければ失礼だろうとレンは軽く会釈をする。男は嬉しそうに微笑んでいるが、その真意は相変わらず分からない。
様々な噂が流れる大企業、スターピースカンパニーの「戦略投資部」の高級幹部「十の石心」の1人である彼は『アベンチュリン』。
無論その名前は偽名だが、レンは本名は知らない。
「前はお世話になったね?また会うなんて、奇遇なこともあるものだ」
「……お前が『スターピースカンパニー』の人間なら『ピノコニー』にいる事は別に不思議じゃないだろう?」
「なるほど。それもそうだね」
相変わらずアオバトみたいな独特な瞳をしているな、とレンは思った。
水色に薄い紫に濃い紫。虹のようにも見えるそのカラーリングと、金髪はアベンチュリンの部族の特徴だ。
しかし、勿論そんな事をレンは知らない。
知っているのは恐らく様々な苦労をして、今の立場を手に入れたのだろうという事と、安定した職に付きながら、彼の毎日は命すら賭けたギャンブルに満ちているという事だけだ。
レンはこの男が何を考えているのか分からないとは思ったが、彼がギャンブル狂いである事は知っている。
「それで?何か用事でもあるのか?」
レンは尋ねた。
アオバトのような瞳が細める。その目はどこか不気味で、レンはゾクッとした感覚を味わう。
しかしすぐにいつもの表情に戻ったので気のせいかと思い直したが、やはりこの人物には苦手意識があるなと思うのだった。
そんな彼の心情を知ってか知らずかアベンチュリンは話を続ける。
「いや、特に用は無いよ」
「……そうかよ」
「ただ君と話す機会が無かったからね。少し話したかっただけさ」
「……」
この男は何を企んでいるのか分からない。
何故こうもレンに近寄ってくるのか謎だった。
いや、もしかしたら何か試されているのかもしれないと考えたが、それはないだろうとレンは考え直す。
「それで、君は今何をしているのかな?」
アベンチュリンはそう尋ねてくる。無表情に近いが、僅かに笑みを作りながらレンの方を見ている。
何を考えているのかは分からないが、ただ単に雑談をしに来ただけのようにも思える。
「買い物だ」
「……まあ確かにピノコニーに来たのだから当然か」
彼は少し考える素振りを見せると言った。
「……僕が一緒について行っても構わないかい?」
「は?いいけどつまらないと思うぞ。俺は利益をお前にあげられるような人間じゃない。お前の要求に応えられる能力がない」
レンは正直に答えた。
金持ちの道楽かもしれないが、期待をされても困ると思ったからだ。
「別に見返りを求めてはいないよ。ただ、君と話がしてみたいと思っただけだ」
「……まあいいけど」
断る理由もない為、レンはそれを了承したのだった。
アベンチュリンは嬉しそうに微笑むと歩き出すので、レンはその隣に並んで歩く事にした。
割と背が低い事に気が付くが、わざわざ口にする程では無いだろうと判断する。
しばらく無言で歩いている内に、彼はふと思い出したかのように口を開くと言った。
「そういえば星核ちゃんは?彼女はどこにいるんだい?」
「……教えない」
「即答かい?」
「お前は星の教育に悪そうだからな。無駄な物買い与えてるだろ?前に荷物が沢山届いてた」
「バレてたか。まあ、でも彼女は遠慮なく言ってくれるから、ついつい買ってしまうんだ」
アベンチュリンは苦笑いする。
それは悪徳商人のようにも見えたが、子煩悩な親の様にも見える。
そして、同時に彼は『マイフレンド』と他者をよく言うが、本当の友達がいないのではないかともレンは思った。
「まあ、星は……あいつ強欲というか。チャレンジャーだからお前みたいな怪しい男にホイホイついていきそうで心配なんだよ」
アベンチュリンは一瞬キョトンとした表情を見せると、すぐににっこりと笑う。そして何も言わずにレンを見た。その視線はまるで観察しているかのように感じる程で、レンはなんだか落ち着かなくなり視線を逸らした。
「ふーん……そうなんだ」
意味深な声音と共に視線を感じたが、それは一瞬の事でそれ以降は特に何も起こらなかった。安堵するが同時に彼について深く考えては行けないような予感がする。
そんな予感を振り払いつつ、アベンチュリンに話しかける。
「まあ、元気でやってるよ。あ。そうだ。お前とは連絡先交換してなかったな、良かったらするか?」
「え?いいのかい?」
アベンチュリンは意外そうな声を上げるが、すぐに嬉しそうな表情に変わるとポケットからスマホを取り出したのでレンは連絡先を登録する。
「これでよし」
「ありがとう。」
「まあ、悪用とかはしないから安心しろよ。」
「うん、それは分かっているさ」
アベンチュリンはスマホを大事そうにしまう。その様子は子供っぽく見えた。
「じゃあ、また機会があったら話そう。」
アベンチュリンはそう言うと手を振って去っていった。
その後ろ姿をレンは見送ると再び歩き始める。
(……変な奴)
そんな感想を抱きながらレンは帰路についたのだった。