励みになります。
「……急に呼び出されたと思ったら……何やってんだ、お前は……」
「!ひゃすけて!」
ヤリーロ-VIに星からメッセージでいきなり呼び出され、何事かと思いきや、何故か星は柵を舐め、凍ったらしい。
中腰で、涙を溜めた星はまさに、やらかしたペットの様な姿だ。
寒い土地で情けない姿を晒す彼女に、レンは心底呆れてため息を吐いた。
「……もう一度言うな?お前、何やってんの?」
「ううー……!ひゃすけてー!」
「バカなの?いや、バカだよな。ったく。いいから口は閉じてろ。」
レンは吐き捨てるように言って、星の姿を観察した後、一度その場を離れると、お湯を溜めた桶を持ってくる。
それを使い、なんとか星を柵から救出した。
彼女は寒さにより肌と鼻が赤くなっていたが、命に別状はないようだった。
タフというか。
なんとも言い難い複雑な感情をレンは抱く。
「うう……つびたい。」
「そりゃ、そうだろうな。……で?何でこんなことになってんだ?」
「ううー……柵を舐めてたら、舌が取れなくなった……」
「お前バカだな。子供でもそんな事はしねぇよ。」
寒いのか体を震わせる星を呆れた様子で眺めながら、レンは上着を脱ぐと、星の肩にかける。
「ほら、着ろ。」
「……え?」
「寒いんだろ?いいから着てろ。とりあえず建物に入るか……。カフェがあったよな、街に戻るぞ」
「……私タフだから、これぐらい平気だけど?。」
「いいから着ろって。」
「でも、レンは寒いんじゃ……」
「俺はいい。ほら行くぞ」
星に上着を着せた後、レンは有無を言わせず彼女の手を取ると、街に向かって歩き出した。
星はレンから貰った上着の襟を片手で引っ張り、顔を埋めると、僅かに頬を緩めた。
「ふへへ」
「……変な笑い方するな」
「いい匂いだなって」
「匂い嗅ぐなよ……犬か?いや、犬の方がもっと賢いか。」
「犬?へー、レンってそういう趣味があるんだ〜」
「ねーよ。変な言いがかりはよせ」
星は再びレンの上着に顔を埋めて、匂いを嗅ぐ。
その行動に、レンは呆れた様子でため息を吐いた。
「だっていい匂いなんだもん。」
「だから嗅ぐな」
そんな他愛のない話を続けながら街に戻り、カフェで一休みをする事にした。
※※※
【星視点】
カフェの店内は暖かいにも関わらず、私はレンから貰った上着を着たままでいた。
それを見てレンは不思議そうに口を開く。
「それまだ着てるのか?暑いだろ」
「うん。でもレンの匂い、好きなんだ。それに嗅ぎ放題。」
「おい。発言がやばいんだけど。」
「レンはいい匂いするよね。……レンの上着からも同じ匂いするかも?」
私はレンの上着に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。
優しい匂いがする。レンに包まれている気がして幸せな気持ちになった。
「……お前、本当に犬みたいだな」
「そう?なら、レンをペロペロしちゃおうか?」
「……やめろ」
「冗談だよ。流石にしないって。私を何だと思ってるの?美少女だよ?美少女。」
「でも前『オリガミノコトリ チュンチュン』みたいな謎の言動してたぞ」
「記憶にありません。何の話?銀河一の美少女がそんな事する訳ないじゃん。」
レンの言葉に私は自信満々に言い返す。
「そんな事よりさ……ありがとね」
私は忘れていた、とレンに一言だけ礼を伝えると、彼に笑顔を見せた。
……すると急に彼の顔が真っ赤になり目が泳ぐ。
あ!今動揺してる!わかりやす〜い。可愛いねえ、レンは。
向かい側に座るレンにニヤニヤと笑みを向ける。
「な、何だよ」
「いや〜?別に〜?」
私は上機嫌で彼の上着を羽織ったままカフェのテーブルの下で足をパタパタさせる。
「レンの匂い、好き」
「……そうかよ。」
彼は照れた様子でそっぽを向いた。その仕草が可愛くて思わず笑ってしまう。
あ、そうだ……いいこと思いついた!
私は席を立ちレンの隣に移動する。そして、彼の腕に抱きついた。
「おい、何やってんだ」
「レンの匂いに包まれてる〜」
私はレンに抱きついたまま彼の匂いを堪能する。
あ〜幸せ!
だが、彼は呆れた様にため息を吐いた。
「ったく……」
「えへへ……あったかいね」
「……ああ」
「ねえ……このままでいていい?」
私は上目遣いで彼に尋ねる。どう帰ってくるかは予想がつくけれど。
すると、彼は少し間を置いて小さく呟いた。
「……好きにしろ」
「やった!じゃあ遠慮なく!」
私はレンの腕に抱きつきながら、彼を見上げると、彼は顔を赤くしながら目を逸らした。
その反応に私は思わずニヤけてしまった。
……やっぱり可愛いなぁ。
「……なんだ?」
「ううん、なんでもない」
私は彼の腕に頬ずりをして、そのまましばらく彼の温もりを堪能する事にした。
……こうやってたらカップルみたい。
彼が嫌そうな素振りをしなければ確実にそうだと思う。
「レン、好きだよ」
「はいはい。ありがとう。コーヒー来たら離れろよ。」
彼は少し照れながらおざなりに返事を返すと、私の方を向く。
彼の横顔を眺めるだけで胸が高鳴るのを感じた。やっぱり好きなんだな〜って自覚させられる。
「レン……好きだよ」
私は再び彼への気持ちを口にするが反応はなかった。でも気にしない。そんなクールなところも好き!うん!いい!
むしろそういう所も大好き!
「……ねえ、レン。どうして女の子は甘い物好きなんだろうね?なんか分かる?」
「さあな」
私は足をパタパタさせながらさりげなく見た席でパフェを食べている女の子を見ながら彼に話しかけるが彼は適当な返事しかしない。まあ、いつもの事と言えばいつもの事だけど。
でも気にせずに私は続けることにした。だって暇だし。
「そうだよね。あ。なら、私が甘いもの好きになった理由知りたい?」
「いや別に興味無いけど……」
「えー、知りたいでしょー?」
私の様子を見て彼は困惑した様子になる。
「いや、だから別に……」
「知りたいよね?」
私はニッコリと微笑んでみせるが、彼は私を見てため息を吐い
た。……ちょっと傷つくんだけど?まあでもレンだし仕方ないか。
「……はあ。じゃあなんだ?星」
「うん。それはね。レンに最初にもらった食べ物がお菓子だったから!」
私が笑顔で告げると、彼は驚いた表情になる。すると次に少し困ったような顔をした。
「……そんなことで?」
「うん。でも、私にとっては大事な思い出なんだ」
私はレンに貰ったお菓子の味を思い出しながら微笑む。あの味を今でも鮮明に覚えている。それはとても甘くて幸せな時間だった。
ずっと前にも味わった事があるような既視感があった。
でもそれはすぐに消えてしまったけれど……それでも私にとって大事な記憶だ。
「だから、レン。もっと甘いもの頂戴?」
「……奢れって話か?」
「うん。いやーレンは優しいなぁ」
私は満面の笑みを浮かべて彼を見つめると、レンは呆れながら私を見る。
「お前……図々しいというか。……まあいいか。それで?何を食べたいんだ?」
「チョコケーキ!チョコレートケーキがいい!」
「……わかった」
彼は軽くため息を吐くと、注文を取るために店員を呼ぶ。私は満面の笑みで彼に笑いかけた。それから少しして運ばれてきたのはチョコレートケーキとコーヒーだ。
「いただきまーす」
私は早速フォークを手に取り、ケーキを口に運んだ。
……うん!美味しい!タダで食べれるデザートだと思えばますます美味しい気がする。
「……星。口についてるぞ」
「え?」
「ほら、ここ」
彼は私の口元についていたクリームを手で拭うとそれを舐めた。
その仕草が妙に色っぽくてドキッとすると同時に恥ずかしくなった。顔が熱い気がする。
「……あ、ありがと」
「別にいいよ。ケーキは逃げないんだからゆっくり食べろ」
彼はそう言ってコーヒーを口に含む。私はそんな彼の様子を見ながら、再びケーキを食べ始めた。
レンはデザートは食べないようだ。
「レンは甘いものあまり好きじゃない?一緒に食べれば美味しいよ?」
「別に普通だけど。わざわざ頼むほどではないかな。それに俺はコーヒーで十分だ」
彼はそう言うとまた一口コーヒーを飲む。
ウチの男どもって、そういうとこあるよね。レンは食にあんまり興味がないみたいだ。
前に『とりあえず腹に入ればいい』って言っていた事を思い出す。
話では、様々な場所を渡り歩いた事があるらしく。
その時には選り好みは出来ない状況が多かったらしい。
だからなのか、レンの料理の腕はかなりのものだし、味も悪くない。
ただ単に『腹に入ればいい』という感覚でいるだけ。
「でも、レンって結構食べるよね」
「そうか?まあな。」
「……じゃ、これ分けてあげる。はい、あーん」
「いや、いいって。自分で食えるだろ?」
「いいから!ほら、口開けなさい!」
「おい、やめっ……」
私は無理矢理ケーキを口に押し込んだ。レンは仕方なく咀嚼すると、表情が驚いた様に変わった。
「……どう?美味しいでしょ?」
「……まあな。でも、お前が食べたかったんだろ?俺は別に……」
「でも、レンには幸せになって欲しいし」
「……なんだそれ。はは、わけわかんねぇよ。」
私が力説する様に、拗ねながら言うと、彼は声を上げて笑った。
子供のような無邪気な笑顔だった。
それをぼんやりと眺めながら、私は胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
彼の事をもっと知りたい。
レンは、いつも壁を作られているような気がして不安だ。
その壁を取り払ってしまいたいけれど、無理矢理にそんな事をしたくはなかった。
それに多分そんな事をしても彼を困らせるだけだろうと思う。だから今はこれでいいと思った。
でもいつかはきっと、その壁を取り払って見せる。
レンはそう決意して彼の横顔を見つめた。彼はそれに気づかずにコーヒーを啜っている。
──私は、レンが好き。
レンの側に居るだけで幸せになれる。
ポカポカとしたひだまりにいるような安らぎと、ドキドキと上手く話せなくなるような切なさが同時に襲ってくる。
これは雛鳥の刷り込みなんかじゃない。
私は、ちゃんと自分の意思で、レンの側に居たいと思っている。
レンは口癖の様に『選択を間違えない様にしろ』と言う。
それは、レンが今までしてきた事や経験からくるものだと思うけれど、私はそれがとても悲しくて辛い事だと感じていた。
そして、レンが優しい事も知っている。
だから、私はレンの側に居る事を選択をしたし、後悔はしていない。
沢山の選択肢があるとしても、私はレンを選びたい。例えそれが、レン自身の望まぬものだったとしても。
だってそれは私の人生そのものだから。何もない私の目標は。
レンと一緒に生きること、そのものだ。
自分がずるい人間である事は分かっている。
そして、私はきっとこれからもっと狡くなってしまうだろうと思う。でもそれでいい。レンさえ側に居てくれればそれで良いんだから。
……前に、レンに聞いたことがある。
『どうして鳥は空を飛ぶのか』
唐突の質問。
だけどレンは、いつもみたいに少し呆れたような表情で答えてくれた。
『それは人間が何故歩くのか、と同じ質問だよ。そんなの簡単だ。』
───生きたいから、足掻くんだ。
───生命は生きるために進化を選ぶ。もし、それを選ばなければ傍にいてくれた誰かの期待を裏切る事だろう?
───だけど、さ。
『それって俺が願ってる事だ。だから、お前に押し付けるつもりは無いよ。ただ。お前もそうだって思ってくれたら嬉しいけどな』
そう言った時の彼の瞳は、少しだけ寂しげだった。
きっと、私の知らない私を重ねていたのだろう。私はそれを覚えてないし、同時にそう思われていた私に嫉妬する気持ちもある。
……でも、レンがその話をしないのは、まだ何か悩みや祈りのような気持ちがあるからだろう。
だから私は知らないフリをする事にしたのだ。だってレンは私の知らないところでも私の事を大切にしてくれるし守ってくれる。……狡いと思うけどそれが嬉しくて仕方なかった。
「?どうしたんだ?」
つい見蕩れていたようで、視線に気付いた彼は首を傾げて尋ねてきた。その仕草がなんだか可愛くて思わず口元が緩むのを感じた。
「……いや、何でもないよ!それより、ほら、これ間接キスだけど」
「はぁ!?」
私が彼の皿に乗ったフォークをツンツンと指差して言うと、彼は顔を真っ赤に染めた。その様子に私はクスリと笑う。
「あはは、冗談だよ。ほら、別のフォーク使ってるから」
「お前なぁ……」
「レンは可愛いね」
「……男に言う事じゃないだろ。」
私が隠していたフォークを取り出せば、彼はため息を吐いていた。
「でも、レンのそういう反応が見れるなら、たまにはやってみるのもいいね」
「勘弁してくれ……」
私が悪戯っぽい笑みを浮かべて言えば、彼は頭を抱えていた。そんな様子すら可愛いと思ってしまうのだから重症かもしれない。
だけど。私はそれが心地良いと思った。