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「ね〜、どうしたの? レン?」
レンの目の前にはニコニコと笑みを浮かべた銀髪の少女がいた。
少女、と言っても幼くは無く、どちらかと言えば成人に近い年齢だろう。
彼女は笑顔を浮かべたままレンの腕に抱きついている。
その柔らかい感触は非常に心地よい。
美人系に見える美少女に普通なら淡い下心を抱いてもおかしくは無いが──……。
レンは眉を寄せながら目の前の彼女を一瞥すると、ため息混じりに呟いた。
「おい……。お前、星じゃなくて花火だろ」
そうレンが指摘すると目の前の少女は目を丸くして驚き──……。
数秒後にはクスクスと可笑しそうに笑った。
「あはは〜。狼ちゃんってばどうしてわかったの〜?」
そして手を離し、くるりと回ればその姿は着物がはだけた様な服を着た幼めの少女の姿に変わっていた。彼女の名前は花火。
『仮面の愚者』の一員で、様々な姿に変化し、演じる事を得意とした『快楽主義者』である。
しかし──……レンにはバレたようだ。
「……星と違う。アイツならもっと遠慮無く飛びついてくる」
呆れたようにレンが言うと花火は指先を伸ばし、頬をつつくと、態とらしく少し拗ねた表情を見せた。
「む〜……そんなに違う?」
それに、レンからしてみれば明らかに違和感があった。
何というか……星のような愛嬌さは無く──……。どこか冷たい感じがするのだ。
確かに星は無表情が多いが、その内に秘めた感情は大きく、喜怒哀楽も激しい。
「それに星は……」
そこまで言いかけた所でレンは止まった。
この話題を続けてしまうと色々とまずい気がする。
そう直感した為だ。
(やば……)
慌てて別の話題に変えようと頭の中で必死に考えている最中にも、目の前の花火は微笑んでこちらを見ていた。
「でもぉ〜。やっぱり狼ちゃんは芦毛ちゃんが好きなんだねぇ〜」
「っ!!」
図星を突かれ、思わず声が出てしまった事で花火には確信されたようだった。
にまにま、と楽しいことを見つけた子供のような表情を浮かべている彼女とは対照的にレンの方は真っ青になりながら必死で否定した。
「ちがう! ただつい反応してしまっただけで……」
「へー? つい反応したんだ? へぇ〜……」
「ぐっ……」
更に追い打ちをかけるような言葉にレンは何も言い返す事が出来なかった。
その様子を見て満足したのか、花火はニヤリと笑うと、突然仮面を取り出し、身につけたと思えば、姿を変えた。
─……まるで変化の術のように。
「ね〜、狼ちゃん♡」
その姿は、先程までの花火ではなく、また星の姿になっていた。
だが今回は完全に模倣しているわけではなく──……大人びた雰囲気を纏わせていた。
「私ならこんな風に甘えさせてあげられるよ?」
そう言ってゆっくりと首元に顔を埋めて来る。
鼻腔を擽る花のような甘い香りに眩暈がする。更に耳元で囁かれると背筋がゾクッとした。
その状態のまま花火は続けた。
「だからさ、もう諦めて認めちゃおうよ。『私』のこと大好きだって」
「……っ!」
レンは思わず息を飲んだ。
否定しようとしても言葉が出ない。
それどころか逆に肯定してしまうようなことを口走ってしまいそうで──……。
「ほら、認めよう?」
再度言われ、花火はレンの胸元に手を当てて迫った。その瞳には悪戯っぽい光が宿っている。
それを見てレンは確信した。
この少女はただ面白がっているだけなのだと。その証拠に時折彼女の顔には嗜虐的な笑みが浮かぶ。
それを隠す為なのか、再び浮いた仮面が花火の顔に被る。
「──……あっ。でもぉ……それとも──……」
そこで一度区切ると仮面をつけた顔を上げた。
その表情は悪女のようなものであり──……同時にとても魅力的でもあった。
「──……『花火』の方がいい? 狼ちゃん……?」
幼い肢体をしているが、花火はとても妖艶であった。
まるで傾国の美女。それはスタイルの良さでは無く、自分の魅力を全て使って『観客』を魅せる様な美しさがある。
それでも、幼さは残り、アンバランスな可憐さを映し出していた。
「……はぁ。お前な……」
呆れたような顔をしながらレンが答えようとした時……。
突然背後から声が聞こえてくる。
「……浮気者……」
振り向くとそこには星が立っていた。
いつものような眠そうな表情をしている彼女だったが──……何故だろう。
とても怖かった。恐る恐る目線を向けると──……星がニッコリと笑っていた。
それはとても綺麗な笑顔なのだが……どう見ても作り笑いだ。
しかもかなり怒っているらしい。
レンは思わず顔を引き攣らせながら視線を逸らした。そんな様子に気付かない星では無い。
「ふぅん……? なんだか楽しそうだね。レン。私というモノがありながら……花火とイチャイチャしてるなんてね」
「え? いや、違うけど!?」
レンの否定も虚しく星は冷たい笑顔で続けた。
「ふーん……。私はこんなに我慢してるのに……。花火とはくっ付いてイチャイチャ出来るんだ……。ふーん……」
「いやいや! これは花火の冗談だって! コイツ、からかってんだよ!」
レンの言葉を聞いた星は少し考える素振りを見せたあと小さく呟いた。
「冗談……。冗談かぁ……。そっか。冗談なら仕方ないね……」
星が相棒であるバットを取り出したのを見た瞬間、レンは逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
「まぁまぁ。芦毛ちゃんも落ち着いてよ〜。『レン』は花火の魅力にメロついちゃっただけだよ〜? ほら、芦毛ちゃんって色気のかけらもないじゃん? 『レン』に構って欲しいなら努力しないとダメじゃない〜?」
「っ!」
レンの目の前で繰り広げられる修羅場に冷や汗が止まらない。
(おいぃぃぃいい!!! バカ花火! 煽るな! とんだメスガキすぎるだろ! 殺されるだろ!!)
レンの叫びは声にならない。
なぜならこのタイミングで口を出したらどうなるか分かってしまうからだ。
「そう……。色気が無い……。そう。じゃあ、もっと色気を出せばいいんだよね? ねぇ? レン」
「え?」
不意に投げかけられた言葉に戸惑うレン。
その隙に星は一気に距離を詰めると──……。
レンの頬に唇を押し付けた。
柔らかい感触と共にチュッと言う音が鳴る。
ほんのり温かい吐息を感じる距離だ。
その瞬間、レンの頭の中は真っ白になった。
(今……何をされた……?)
混乱しているレンに対し、星は満足そうな表情で離れると言った。
「これで私も色気出たよね? ね?」
その表情は普段の無表情とは違い──……。悪戯っぽく、それでいて少し照れたようにも見えた。
花火の方はその様子を興味深そうに眺めている。
「へぇ〜! 芦毛ちゃん、やる〜! 花火より大胆〜! でもさ〜頬っぺじゃなくて、こう……首筋とかにチューの方が良くない? こう……キスマーク付けちゃおうよ〜!!!」
花火の言葉で我に返ったレンは慌てて口を開いた。
「もうお前は黙ってろ!?」
レンがそう言うと花火は楽しげな笑みを浮かべながら両手を挙げて降参のポーズを取った。
「えぇ〜……。花火は助言してるだけだよ〜? 芦毛ちゃんってば恋愛経験なさそうだから〜。花火って本当、親切〜」
「お前のその助言はいらねぇんだよ!!?」
思わず大きな声で怒鳴ってしまうレン。
だがそれも仕方がないだろう。
なんせ今のはかなり際どい発言だったのだから。
花火の助言を受けて星も何か思うところがあったのか、少しばかり考え込むような仕草を見せた。
そして何か思いついたのかハッとすると……。
「……なるほど、一理ある」
そう言ってレンに近付いて首筋を舐めて来た。
そのまま舌先を使って首筋を這い上がり──……そのまま耳朶まで辿り着くと優しく噛まれる。
その度にゾクゾクッとする感覚に襲われてレンは思わず身震いをしてしまった。
そんな彼を見て星は嬉しそうに微笑むと、耳元で囁いた。
「ねぇ……レン。私の事……好き……?」
甘い吐息が吹きかかり、全身が粟立つような錯覚に陥る。
(やばい……。これ、本当にヤバイ……)
レンの理性が崩壊寸前となった時──……。
携帯端末の電子音が鳴り響いた。
その音に反応したレンは咄嵯に身を翻して星から離れると距離を取った。
星は不満そうな顔をしたものの特に何も言わず黙っている。一方の花火は面白くなさそうな表情を浮かべていた。
レンは安堵しつつも安堵する余裕もなく急いで携帯端末を取り出して画面を見た。
するとそこには──……。
[緊急ミーティングするわよ。皆、至急、星穹列車に戻って来ること]
と、書かれた姫子からの連絡があった。
どうやら緊急の招集がかかったらしい。
その内容を確認すると今後の予定を立てなければならないようだ。
(良かった……。助かった……)
安堵したのも束の間のことであった。
なぜなら星と花火の二人がこちらを見つめていたからだ。星は不服そうな顔をしており、一方の花火はニヤリとした笑みを浮かべていた。
「あ〜あ……。せっかくこれから面白くなりそうだったのにぃ……。でもまぁ……花火も用事あるからこれで帰ろう〜っと」
それから花火はいつもの様に、煙の様にその場から消えた。
これでようやくあの雰囲気から抜け出した。
レンは安心して息を吐くと「ほら、戻るか」とレンに話しかけた。
だが─……。
「……そうだね。緊急事態だし……。でも……」
そこまで言うと星はレンの方を見据えて言った。
「……帰ってきたら続き……しようね?」
その言葉を聞いてレンは戦慄を覚えた。どうやら星のターンは終わっていないらしい。
(あ。終わった……。もうだめだ……)
絶望感に苛まれつつもレンは諦めて項垂れた。
しかし、それを見た星はクスリと笑って続けた。
「ふふ、冗談だよ。冗談。……でも、ちゃんと責任とってね? 私だけが悪いんじゃないんだから」
そう言うと星は先に行ってしまった。
一人取り残されたレンは──……。
「責任ってなんだ……。てか、怖い……怖すぎる」
ポツリと呟くと、少しスースーする耳朶を撫でたのだった。