見ていただいてありがとうございます。
ここすき、アンケート、お気に入り、感想、励みになります。
オンパロス駆け抜けましたので、多分他キャラもかけるかもしれません。
ただ、まだ雰囲気を掴めておらず、日々勉強ですね……
アンケート参考にし、投票が多かったキャストリス回です。
「あー。キャストリス。お前って手芸得意だよな? ちょっとお願いしたい事があるんだけど……いいか?」
オンパロスの『永遠の聖都』オクヘイマ
白夜が続くその地にて、レンはキャストリスにそう切り出した。
長い紫髪を編んだ少女──キャストリスは少し困惑したように首を傾げる。
「……私に手芸のお願い、ですか? 確かにたまに作りますが……私は……」
キャストリスは少し言葉に迷う。
今は死を与える聖女では無く、普通の少女として周りが扱ってくれ、孤独感を感じる事は少なくなった。
しかし本来彼女の持つ力が変わったわけでは無い。手芸を教わる、のならば触れてしまう可能性がある。
レンはそんな彼女に気遣うような眼差しを向けながら尋ねる。
「いや、忙しいならいいけど。ヒアンシーにも『うーん。そうですね、レンたんは、リハリビを兼ねて手を動かした方がいいですね』って言われたんだよ。手、怪我したのが治ったのは良いけど……。剣とかだと悪化しそうだから、指を動かす程度で……裁縫とかどうかなと。その話をトリノンにしたらキャストリスがいいって言われたんだよ」
レンは少し遠慮がちに言う。
実際、自分の不注意で利き手を怪我し、それが完治したばかりだった。
無理をしてはいけないと思いながらも、何もしないのも落ち着かない。
なので、日常生活の補助という意味でも針仕事ができないものかと考えていたのだ。
「そう言うことでしたら……大丈夫ですよ。」
キャストリスは包帯を巻いたような、花嫁衣装にも見える服を揺らし、悩んだように腕を組む。
「ですが、アグライア様に教わった方が……」
「あー、それ込みで相談したんだ。その結果、キャストリスに頼みたいんだよ。」
「……そう、なのですか。
私が教える、というのは畏れ多いのですが……簡単なものであれば……」
彼女の返答にレンは安心したように笑みを浮かべた。
「本当か?……はー。ありがとう。良かった、断られたらどうしようかと思った」
「いえ、私でお役に立てるなら。」
レンは感謝しながら裁縫道具を準備し始める。
予め用意していたらしい少しの布やカラフルな糸、針などが入った箱を取り出すと、キャストリスへ向き直った。
「これだけあれば足りるかな?」
「はい……ですが、この材料ですと、あまり複雑な物は難しいかも知れません」
「分かった。なるべく単純なものを教えて貰えるか?」
「もちろんです。……ですが何を作るのですか?」
「あー。なにがいいんだろう? そこまで考えてなかったな」
レンは頭を掻きながら少し考える。
「ハンカチとかに縫うとかよく言うよな……。そっか、まずデザインから考えないとダメなのか……」
「そうですね。何かご希望があればそれに沿った形にしていきますが……」
「そうだなぁ……。はあ。何の為に使うの物がいいかは決まって無かった……ごめん」
「いえ。私は気にしていませんよ」
「ああ。せめて先に決めておくべきだったな」
「……そうですね。もし良ければ、作りたい物をお決めになるまでお待ちしましょうか?」
「ん? いいのか?」
「ええ、もちろん。
それに私を頼って下さったなら、お手伝いさせていただきたいと思っています」
キャストリスは優しく微笑む。
儚いが強い光を持った目でレンを見つめ、レンは自分の未熟さを飲み込み、苦笑を浮かべる。
「ありがとう。なんかデザインに使えそうな本とかないか?
……神悟の樹庭とかにしかないかな? 検索して探すのはいいけど、参考になりそうな本があれば助かるかも」
「それでしたら……」
「ん?」
キャストリスは静かに一冊の本を取り出した。
それは僅かにボロボロになってはいるが、丁寧に手入れをされていると分かる本だった。
「これは以前、ある方から頂いたものです。初心者向けではありますが……とても美しいデザインが描かれています」
「へぇ……。こんなものがあるんだな……」
レンは興味深そうにそれを手に取るとぱらりと捲っていく。
様々な種類の刺繍パターンや簡単な図案などが載っている。
「この本によると確かに、最初はハンカチなど小さなものを縫うのがおすすめらしいです」
「なるほど……じゃあまずはハンカチに縫うやつにチャレンジしようかな。久しぶりだな、こういうの。小さい頃に授業でやったくらいかもな……」
「そうなのですか? レン様は幼い時から学ばれていたんですね」
「あーうん。『義務教育』っていって、6歳くらいから15歳くらい? までは学校に通うんだ。大分昔だし、そうだったはず、って程度だけど。
……てかさ、その。俺は年上の女性が苦手なんだよな。特に触られるのが。それに糸使いだから……アグライアに頼めなかったんだ。アグライアが悪いんじゃなくて……。あの人自身はいい女性だと分かってる。
……はあ。
「……そうでしたか。それは大変でしたね」
「まぁ……。過去のトラウマみたいなもんでさ。克服できたらいいなとは思ってるけど……。
そもそも星の保護者の女も糸使いなんだよ。
あ。でもこのことは秘密な?
星自身は殆ど忘れてるんだ。無理に思い出させたくない」
レンは苦笑いしながら言う。
彼は、過去のことを思い出し、胸の奥に微かな痛みを感じつつもそれを隠そうとした。
「分かりました。星様には内緒にしておきますね。それで……どのように進めましょうか?」
「じゃあ早速始めようかな。まずはどんな柄にするか決めないと」
「はい。一緒に考えて行きましょう」
そんな風に2人は楽しそうに話し合いながら手芸を進めていった。
※※※
数時間後。
───レンは集中して細かい作業に取り組んでいた。
指先を器用に動かし、徐々にハンカチに模様を縫っていく。
集中していて、いつもの癖で左手を使おうとして慌てて手を離す、というハプニングはあったものの順調に作業は進んでいた。
「ふぅ……意外となかなか上手くいくもんだな」
「ええ。やはりレン様は飲み込みが早いですね」
「そうか? キャストリスが丁寧に教えてくれたおかげだと思うよ」
「いえ、そのような事はありません。きっと努力家だからこそでしょう」
「あはは、ありがとな」
会話の中でもレンの手元からは針が離れず動き続ける。
そして最後の一針を入れ終えると満足げに息を吐いた。
「よしっ! 完成だ!」
出来上がったのは当初の予定では犬や猫の予定だったが、今は紫の花をモチーフにしたものになっている。
レンは出来上がりをキャストリスに見せ、嬉しそうに笑みを見せた。
「本当に素敵にできましたね!凄いです!」
「ああ。初めて作ったとは思えないぐらい良くできたんじゃないか? まぁ……ちょっと歪んでいる部分もあるかもしれないけど」
「────そんなことはありませんよ。初めて作るものとしてはとても素晴らしいと思います」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「ところでこれは誰かに送るんですか?……お聞きしてもいいか迷ってしまい聞けなかったのですが……」
「え? いや、別にそういうつもりじゃなかったんだけど……。
あーうん。そうだな。じゃ、キャストリスにあげるよ。
これ、お前が付けてる花の飾りを見ながら作ったから。
あ。でもいらなかったら勿論、返して貰ってもいいからな」
「えっ!?」
キャストリスは突然贈り物と言われ驚き、。それから改めてハンカチをじっと眺める。
レンは少し気まずそうに視線を逸らしながら、ハンカチを彼女の手の上に置いた。
「あの……本当にいただいてしまっていいのですか?」
「ああ勿論。っていっても綺麗なものにはならなかったけど……」
「いえ。そのようなことは決してありません。
……このような素晴らしいものを受け取れるなんて……。
ありがとうございます」
キャストリスは恭しく礼をして受け取ると言葉通り大事そうに両手で抱えた。
その姿を見てレンも安堵したように微笑む。
「そんな大袈裟だな。でも、ま。ちょっと安心した。練習とはいえちゃんと贈れるようなものが出来たみたいで」
「お世辞ではありません。……私は嬉しいと思いました。ありがとうございます」
「そっか。……それなら良かった」
「レン様さえ良ければ、また私にできることがあれば喜んでお力になります。気軽に」
「ありがとう。助かる。
それじゃ次回はもう少し難易度が高いのに挑戦してみようかな。
今回は初めての試みだったし……」
「ええ、とてもいい考えだと思います」
キャストリスは穏やかに微笑むと、レンに向かって言った。
その後、また暫らくの間2人の和やかな談笑が続いた。
※※※
「見て見て、キャストリス! レンからポーチ、貰ったんだ! 絵柄何がいい? って言われたからゴミ箱にしてもらったんだよ!見て!この輝くレアな金色のゴミ箱!」
「本人の目の前で他人に自慢するな……!!!
恥ずかしいだろ……!!」
「ほら、ここの蓋部分なんかキラキラしてるよ!
可愛いよね!!」
「その感性お前だけじゃないか!?」
後日。星の手にはレンが作ったらしいポーチがあった。
それを様々な人に見せびらかして歩いているらしく、レンは慌てて彼女を追いかけている所だった。
それを見せられたキャストリスは目をぱちくり、と瞬かせたが、ようやく彼が誰の為に裁縫をしようとしていたのか理解する。
────同時に納得してしまう。
──なるほど、あれだけ時間をかけていた頑張っていた理由がこれだったのか、と。
それを知った時、キャストリスはクスクスと口元を押さえて小さく笑っていた。
「ふふ……。それは良かったですね」
一方星は相変わらず能天気に振る舞っているが、レンにとっては羞恥心が限界を超えてしまっていたようだ。
「おま……! お前なぁ……! 星! 大声で歩いて回るな! プレゼントを貰った子供か!」
「あ、ごめん。つい楽しくなっちゃって……でも、みんな褒めてくれたよ! すごいねって」
「お前さぁ! いい加減にしろよ!?」
顔を真っ赤にして怒鳴るレンの声が響き渡る中でも星は全く懲りていないようだった。
2人が騒いでいると、その様子を見ていたキャストリスが笑顔を浮かべながら、口を開く。
「……ふふっ、お二人共仲が良いですね。まるで兄妹みたいです」
それを聞いた2人は同時に反応をした。
「違うよ! だって恋人だもん! ねっ!」「恋人じゃない! 俺とお前は仲間だからな!?」
しかし内容は正反対である。
だが、彼らのやりとりを見てキャストリスはまた笑みを零した。