Jump to the Super star!! 作:黒破リンク
タイトル案絶賛募集中です。
プロローグ
中学2年生のあの日。
俺は歌うことを辞めた。
──理由はたった1つ。自分の声に納得いかなくなったからだ。
──この時期の男には誰しも存在するもの。
──『変声期』
それで変わってしまった声に、自分が納得できなかったからだ。
中学3年生に上がり、受験を控えた俺はある日、あの日から止まったL tubeのチャンネルを見ていた。
『引退なんて悲しい』
『またいつか戻ってくることを願ってます!』
『さよならなんて言いません!また会いましょう!!』
最後にアップした引退表明の動画のコメント。
更新を辞めたあともなおも変わらず登録者は増えてるし、収入も入ってる。
姉さんに言われて始めたL tube。
最初は緊張もしたし怖かったりもした。でも、それで視聴回数が増えていく事に姉さんと俺はより良い動画を作りたいと思い、姉さんは編集を、俺は歌を頑張っていた。
──収入が初めて入った時、姉さんに収入を分けようかと提案した時だった。
姉「この収入はあんたのお小遣いにしていいから。心配しないで!」
駆け出しの時は収入もほんの少ししか無かったけれど、段々と見てくれる人が増え、視聴回数も増えていく事に収入も増えた。
その度に俺は、内緒で家の貯金に少しずつお金を入れていた。
けど、更新を辞めてからは全盛期よりも収入は減り続けていたから、入れるお金も少しずつ減っていた。
「変わったな……俺も。」
暗い自室の机で、誰にも聞こえやしないのに。
俺はふと自虐を呟く。
「高校、か。
どうするかな。」
……俺は姉さんが使っていたお下がりのパソコンの画面を高校の情報が載っているホームページを眺め、決めあぐねていた。
──色んな学校のホームページを眺めていた時だった。俺の目に1つの学校が目に留まる。
「『私立結ヶ丘高等学校』……?」
新設校である『私立結ヶ丘高等学校』という名前が目に留まった。
校舎の一部の写真に見覚えのあった俺は、かつて同じ場所にあった両親が通っていた音楽学校を思い出す。
「あった、『神宮音楽学校』……!!
これにそっくりだ……。」
写真のホームページを見た俺はすぐに両親に報告しにいった。
「父さん!母さん!
……やっと決めたよ、俺の行きたい高校。」
パソコンを手に、リビングにいた両親にホームページを見せる。
すると、両親は驚いた顔を浮かべながらこんなことを言っていた。
父「この学校……。」
母「間違いないわ、『花さん』の努力が報われたのね……。」
「……??」
両親の話がイマイチ理解できず、首を傾げていたが、父さんが話をイマイチ理解できてない俺に声をかけてくれた。
父「あぁ、すまない。こっちの話だ。
奏、この学校にするのか?」
「え、あぁ……。そのつもりだけど。」
母「私たちは応援するわ。頑張ってね、奏。」
「わかったよ。
──音楽を辞めた俺に、何ができるかわかんないけど、やれるだけやってみるよ。」
それからは、結ヶ丘の受験に向けての勉強を始めた。
元々歌を辞めてからやることがなくずっと勉強ばかりの日々だったからか、そんなに苦戦することなくペンが進む。
「……ふぅ。
って、もうこんな時間か。」
ふと机に置いたスマホの画面を見ると『17:30』と書かれていた。
始めたのは『14:30』頃……まぁ、だいたい3時間くらいか。
と、携帯の表示を見ていた時、突然スマホから電話の着信音が鳴り響く。
「かのん?」
着信の相手を見ると、そこには『かのん』と書かれていた。
──『澁谷かのん』。
俺の幼馴染の1人で、歌手を目指していた。
2人で同じ夢を追いかけようと約束して、同じ合唱部で切磋琢磨していた。
……だが、ある時、ステージ上で倒れたことがきっかけで、かのんは人前で全く歌えなくなってしまった。
──かのんの話はこれくらいにして。
俺はかのんと電話を繋ぐ。
「もしもし。
どうしたの、かのん。」
かのん『奏くん、行く高校決めた?』
「ん?あぁー……決めたよ。
私立結ヶ丘高等学校……だっけか。そこにした。」
かのん『え、私と同じだ!ちぃちゃんも一緒の学校だよ!』
「え、まじ?また3人で通えるのか。」
かのん『私、そこの音楽科を受けることにしたんだ。』
「そっ……か。頑張れよ。」
かのん『奏くんはどっち受けるの?音楽科?普通科?』
「俺は普通科にするよ。
音楽は好きだけど、歌はもう終わりって決めたんだから。」
かのん『そっか……。3人で音楽科行きたかったな……。』
「え?千砂都も音楽科受けるの?」
かのん『うん。ちぃちゃん、ダンスやってるでしょ?それもあって音楽科受けるんだー!って言ってたよ!』
「……そっか。あいつも変わったな。」
かのん『それを言うなら、奏くんが1番変わったよ?』
「……かもね。
また勉強しなきゃだし、そろそろ切ってもいい?」
かのん『うん!
ごめんね、勉強中に!』
「いいよ。息抜きしようとしてたことだし。
それじゃ、また学校で。」
そう言って俺は通話を切り、再び机に向き直した。
それから時が経ち、受験を終えた俺たちはかのんの家に集まって合格通知を見る。
俺は合格、千砂都も音楽科を合格したのだが……。
かのん「不合格、か…。」
かのんだけは、音楽科の受験に落ちたのだ。幸い普通科の方は合格していたから、3人揃って結ヶ丘に行くのは決まった。
さっきも少し言ったが、元々かのんは目を見張るほど歌も上手かった。けど、人前に立つと緊張して歌えなくなる……所謂「あがり症」を持っていた。
今回それが悪いように作用したみたいだった。
千砂都「かのんちゃん……。」
かのん「……普通科行く。別に音楽科が全てじゃないもん。」
涙を浮かべながら強がるように呟くかのん。
それから俺は、部屋に戻っては音楽を聴いていた時だった。
『走り出した!思いは強くするよ
悩んだら君の手を握ろう
なりたい自分を我慢しないでいいよ
夢はいつか ほら輝き出すんだ!』
色んな曲を流し聞きしていた時に、流れてきた曲の歌詞。
それに心を打たれた俺は、その歌詞を呟いていた。
「なりたい自分を我慢しないでいいよ、か。
なりたい自分……。夢……。」
……俺は自分の夢を思い出す。
……今となっては、叶いっこない夢。
「夢……か。
『自分の歌を聴いている誰かに曲に秘められた思いを届けたい。世界中に、歌を響かせたい』。」
今残ってる動画を聴いている人達には、俺の作る曲の思いは、届いているんだろうか。
……そんな分かるはずのない答えを考えていると、曲が終わっていた。
次の曲が流れだす前に、俺は音楽を止めてヘッドフォンを外し、ベッドに寝転がって寝た。
──それから月日が経って、俺は結ヶ丘への入学手続きをするために街を歩いていた時だった。
司会「勝者!!MC BAD!!」
??「しゃぁぁぁぁっ!!!」
広場ではDJバトルが繰り広げられており、その勝者が決まってた所だった。
バトルが終わり人が原宿の街に消えていく中、優勝した彼を見ると結ヶ丘の制服を着ていた。
??「よし、暇も潰せたし。手続きにでも行くかぁ。」
同じ結ヶ丘の制服を着た彼は、ふとこちらに歩いてくる。
??「ん?そこで突っ立ってどうしたんだ?」
「え、あぁ……悪い。さっきのバトルの結果発表を見ててね。」
??「あぁ〜…あれかぁ。ただの暇潰しの参加だったけど、中々有意義な時間だったぜ。」
「ところで君、今度結ヶ丘に来る生徒?」
??「ん?あぁ。そうだけど……そういうあんたもか?」
「うん。
俺は出雲奏。よろしく。」
彰人「おう。
俺は高松彰人。よろしくな、奏。」
「……ところで、結ヶ丘の場所がわかんないんだ。君ならわかるかい?ナビのアプリ見てても分からなくてな……。」
彰人「おいおい、大丈夫かよそれ。
………こっから近いな。俺も手続き行かなきゃだし、道教えてやるよ。」
「あぁ、ありがとう。」
彰人くんに連れていってもらう形で何とか結ヶ丘へ辿り着いた俺は、手続きを済ませて帰ろうと教室を出た時、同じように手続きが終わった彰人と合流する。
彰人「おぉ、奏。」
「彰人くん。君も終わったのか?」
彰人「まぁな。
良かったら一緒に帰ろうぜ。
あ、あと、呼び捨てでいい。君付けはどうも慣れなくてな。」
「わかった。なら、彰人って呼ばせてもらうよ。」
そうして校舎を出た俺たちは、帰路について話をしていた。
彰人「ところで奏は普通科生か?」
「あぁ。
音楽科行こうかとも思ったけど、歌は中学で終わりにしよう、って決めてたからな。」
彰人「なんでだよ?」
「変声期を経てからの自分の歌声に納得できなくなった。
今の自分の声が嫌いになった、っていえば簡単か。」
彰人「そうなのか。俺は聞いてみたかったな。今の奏の歌。」
「結ヶ丘に通ってたら、きっとどっかで歌う機会はあるんじゃないかな。歌えるのは音楽科だけじゃないと思うし。
そういう彰人はなんで音楽科に?」
彰人「得意な事を伸ばしたい。
DJの実力だけじゃない。歌もダンスも、得意な物を伸ばすためにここに来た。目標にしてる歌い手を超える為に、な。」
「歌い手?」
彰人「『SOUL』。」
「……!?」
彰人「1年くらい前までバリバリに活躍してた歌い手でさ。その人の歌に出会って、俺は音楽を本気でやろうって思ったんだ。いつかその人に追いついて、そして追い越すためにって。
……けど、突然引退したんだよ。自分の歌に納得できなくなったって。」
「……そうか。俺に似てるな。」
SOULの正体は自分だ、なんて言い出せる訳もなくただ黙って彰人の話を聞き続けた。
彰人「それ聞いて、俺は正直ムカついたよ。
あんだけ上手いのに、自分の歌に納得できないって理由で辞めたの。
でも、絶対に超えてやるって、逆に思えるようになった。だから俺は音楽科を受けた。」
「すごい志だな。
でもさ、相手の事を凄いと思ってるようじゃ、勝てないんじゃないか?」
彰人「どういうことだ?」
「俺は……その、SOULって人ををよく知らない。憧れや相手のことをすごいと思えるのはいい事だと思う。
……けど、自分を鼓舞してれば……自分の方ができる、自分の方がお前なんかよりずっと凄いんだ、って鼓舞していれば、目標なんてすぐに超えれるんじゃないか?」
彰人「自分を……鼓舞する。」
「大丈夫だよ、きっと。」
彰人「あぁ。ありがとう、奏。」
そう言葉を交わして俺たちはそれぞれの帰路についた。
……正体バレてないよな。
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奏と別れてから、俺は今一度あいつの言葉を思い出す。
奏『変声期を経てからの自分の歌声に納得できなくなった。』
……まるで、『SOUL』みたいな事言ってるな。
あいつも自分の歌声に納得できなくなった、って言ってたし。
…………いやいや、まさか。そんなわけないよな……。
そんな事を考えてるうちに、近所にあるたこ焼き屋に立ち寄り、俺はたこ焼きを頼んだ。
店長「はいよ、たこ焼き1パック。」
「サンキュー、店長。また来るよ。」
店長「あ、そうそう。もうすぐ高校生だろ?
うちでバイトしないか?」
「ん〜、ちょっと考えてみる。
決めたら面接しに来るわ!」
店長「あいよ、気ぃつけて帰れよ!」
たこ焼き屋を離れ、俺は食べながら家に帰る。
「ん〜!美味。
マジで店長のたこ焼き美味いんだよなぁ。俺この味作れる気がしねぇよ。」
たこ焼きを一つ一つ噛み締めながら、俺はさっきの奏との会話を再び思い出した。
「そういやあいつ、SOULの名前出した時ちょっと驚いた顔してたな……。」
自分を鼓舞する気持ち、か。
「憧れは理解から最も遠い感情……。どっかの漫画でそんなこと言ってたな……。」
SOULに憧れたって、あいつになれるわけじゃない。
俺はあくまでも俺でしかない。
「憧れたからムカついたし、憧れたからこそあいつを本気で超えたいって思いが生まれた……。ってことか。」
たこ焼きを食べ終え、俺は部屋に戻ってはパソコンを開いてSOULの動画を見ていた。
『君と最後に登った道で
濡れる感情 前が見えなくて
夜空に呼ばれたような気がしたんだ
ほら 星が見えるよ』
「なぁ、SOUL。なんで辞めちまったんだよ……。
お前のことがわかんねぇよ……。」
俺は誰にも聞こえない部屋でそう呟いた。
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いつか、自分の歌声を好きになれたなら。
いつか、幼馴染と共に歌えたなら。
いつか、自分の夢が叶うなら。
いつか、自分の歌で曲に秘められた思いを伝えられたのなら。
……自分勝手に歌を辞めたのに、あの日からそう思う日々。
心の奥底に穴が空いたように、あの日から俺の中の時間はずっと止まったまま。
自分を鼓舞すれば、なんて言ったけれど今の俺にはできない。
けど、いつかまた自分の歌声と向き合わないといけない時が来たのなら。
俺はまた、前を向けるのだろうか。
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使用楽曲:優木せつ菜(CV.楠木ともり)『CHASE!』、Argonavis『雨上がりの坂道』