Jump to the Super star!!   作:黒破リンク

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歌を辞めた奏と、憧れの歌い手『SOUL』を超えるために音楽を続ける彰人。

そんな2人が『まだ名もないキモチ』に気づくまで。


Season1:5人の少女と2人の男子の物語
第1話


春。

冬の寒さが過ぎ、桜や花々の色によって景色が姿を変える。

対する自分は、『あの日』からあまり変わらない。

変わったとするならば、自分が高校生になったということ。

 

歌を辞めたあの日から、俺は自分の夢や目標を持つことを辞めた。

自分の無力さをあの日に実感したからだ。

 

そんなことを考えながら、俺は結ヶ丘の制服に腕を通し、朝食を済ませて家を出る。

 

「行ってきます。」

 

瑞希「行ってらっしゃーい!」

 

『出雲 瑞希』──姉さんに声をかけて俺は玄関の外に出た。

両親は早朝には仕事に向かい、職場が遠いためか夜が遅い。

姉さんはテレワークで仕事をしているからか、普段家にいることが多い。そのため食事はいつも姉さんが作ることが多い。

 

そんなことは置いといて。幼馴染である『澁谷かのん』の家であるカフェに行くのが最近の日課になりつつある。

 

「おはようございます。かのんはまだ──」

 

かのん母「まだ部屋の中なの。もう少し待っててもらえる?」

 

「いいですよ。」

 

俺は椅子に腰かけ、かのんのお母さんから出されるカフェオレを飲みながらかのんを待つ。

 

かのん母「はい、これ。いつも飲んでるやつね?」

 

「ありがとうございます。

すみません、こんな朝早くに。」

 

かのん母「いいのいいの、朝早くから来てくれるだけで助かるわ。」

 

「まぁ、最近ずっとここ来てますし、ここのカフェオレ飲んでからじゃないと始まった感じしませんから。」

 

ありあ「お姉ちゃーん!!もう奏さん来てるよ!!」

 

かのん「えっ!?ちょっと早くない!?」

 

バタバタしながらかのんが降りてきた。

それを見て俺はカフェオレを飲みきって代金を置いていく。

 

「ごちそうさまでした。」

 

かのん母「いつもありがとうね?サービスなのに。」

 

「お客さんとして来てますから。タダでって訳には行かないですよ。

ほら、かのん行くよ。」

 

かのん「うん。

まんまる、行ってくるね!」

 

かのん母「かのん!制服、似合ってるわよ!」

 

かのん「……似合ってない!!」

 

俺はかのんと共に外へ出る。

かのんは変わらず受験の失敗を引きづっているらしい。

 

たくさんの人が街並みを過ぎていく。

道中、中学時代の同級生と出会う。

 

同級生「あっ、かのんちゃん!奏くんおはよう!」

 

「おはよう。」

 

かのん「おはようっ!わぁ~っ!音楽科の制服、可愛いね~♪」

 

同級生「か、かのんちゃんも普通科の制服似合ってるよ!」

 

かのん「あ、あははっ、そうかなぁ~…っ?」

 

同級生「でも、まさかかのんちゃんが音楽科の受験落ちちゃうなんてね……。」

 

「あっ。」

 

かのん「いいのいいの!もう気にしてないし!」

 

かのんはそう言って作り笑いをする。

……本当は今も引き摺ってるくせに。

 

同級生「奏くん、また歌やらないの?」

 

「まぁ、もういいかなって。歌以外もやりたいし。」

 

また嘘をついた。

歌以外にやることなんて、歌いもしないのに曲を作ることくらいしかない。

そんな考え事をしているうちに、かのんが先に向かおうとしていた。

 

かのん「じゃあまた〜!」

 

「あっ、ちょ、おい!!」

 

気がついたらかのんはもうかなり遠くまで行ってしまっていた。

 

「……置いてかれた。

それじゃあ、また学校で。」

 

同級生に別れを告げ、俺はかのんの後を追った。

……のまではいいんだが───

 

「ん?ここ何処だ?」

 

気がついたら道に迷ってた。

かのんの奴、俺が方向音痴なの忘れてるな?

 

「マジでわかんねぇ……。

ナビも意味わからん道勧めてくるし。」

 

ま、いっか。同じ制服着てる人見つけて着いていけば行けるか。

俺は首に掛けていたヘッドフォンを耳に当てて音楽を流し、『流星雨』を小さな声で歌いながら歩いている時だった。

 

??「很棒的聲音!(素晴らしい声!)」

 

俺の目の前に結ヶ丘の制服を着た少女が突然現れては話しかけてくる。

 

「えっ!?ちょ、何?!」

 

??「好歌! 我為之感動!(いい歌です!感動しました!)」

 

「中国語……!?」

 

中国語は専門外だぞ……!?

 

「ちょ、落ち着いて!?頼む!」

 

??「はっ!す、すみません!」

 

あ、日本語喋れるんだ……。

 

「落ち着いてくれて良かった。

ところで……君は?」

 

可可「唐可可と言います!」

 

「唐可可さんね?

俺は出雲奏。よろしく。」

 

可可「はい!よろしくお願いしマス!」

 

「……突然なんだけど、こっから結ヶ丘までの道を教えてくれるか?

幼馴染に置いてかれてからずっと迷子なんだ。」

 

可可「良ければ可可と一緒に行きませんカ?」

 

「いいの?」

 

可可「はい!お近付きの印デス!」

 

そうして、可可さんについて行く形で結ヶ丘に到着した俺。

間に合わないかと思ったのは内緒。

何とか辿り着いた俺は、無事に入学式に行くことが出来た。

 

理事長「このような形で、第1回生を迎えることができたことを心より嬉しく思います。ご存知の方も多いと思いますが、この学校は元々は神宮音楽学校でした。

この地に残る音楽の歴史を、特に『音楽科の生徒』は引き継ぎ、大きく羽ばたいていって欲しいと思っています。」

 

『音楽科の生徒』は、ねぇ。

普通科生徒が腫れ物みたいじゃないか。

……まぁ、歌を辞めた俺には、歴史を引き継ぐ理由もない。

入学式が終わって、教室での自己紹介が始まる。

 

「外苑西中学校から来ました、出雲奏です。

こんな見た目と名前ですが、男です。

……音楽は好きですが、歌うのはやめました。よろしくお願いします。」

 

俺の自己紹介は終わった。

かのんの番──なのだが……。

 

かのん「外苑西中学から来ました、澁谷かのんです。

えっと──ヒィィィッ!?」

 

可可「スバラシイコエノヒト……。」

 

……可可さんのかのんを見る目がやたらと輝いてる。なんで?

 

かのん「夢は、猫を飼うことです。」

 

……かのんはかのんで変なこと言っちゃってるし。

 

すみれ「平安名すみれです。よろしく。」

 

可可「初めまして!上海から来ました、唐可可と言いマス!お母さんが日本人デス。

ところで皆さんは、『スクールアイドル』に興味ありませんカ?!可可は皆さんと一緒にスクールアイドルがしたいデス!」

 

『スクールアイドル』……。

確かこの間流れてきた曲の歌い手が確かスクールアイドルってやつだったはず……。

そんなこと考えてる内に、自己紹介の時間が終わった直後のことだった。

かのんは自分の鞄を持って、更には俺の手を引っ張って教室を飛び出していく。

 

可可「アレ……?スバラシイコエノヒト……??

スバラシイコエノヒト〜〜!!」

 

可可さんは……なんでかかのんを追いかけてるし。

 

かのん「はぁ……。あの子、同じクラスか…。大変そう……。」

 

何とか撒いた(?)みたいで、俺はかのんと共に部活勧誘の掲示板を見ていた。

 

「吹奏楽部にテニス部……あとは演劇部か…。」

 

2人で見ていた時、少し遠くから可可さんの声が聞こえた。

 

可可「皆さんはスクールアイドルに興味ありませんかー!

スクールアイドルに興味はありませんカー!」

 

声の方を見ると、可可さんは看板を手に勧誘をしていた。

 

可可「可可は皆さんと一緒にスクールアイドルがしたいデス!一緒に始めてみませんか!?スクールアイドルを始めてみませんカー!」

 

可可さんがこっちに来た瞬間、かのんを見て──

 

可可「あっ!」

 

かのん「ひっ!?」

 

可可「スバラシイコエノヒト〜!!」

 

可可さんがそう呟いたのと同時に、かのんは俺の手を引っ張って可可さんから逃げるように走っていく。

 

「ちょっ、かのん!?どうしたんだよ!?」

 

かのん「奏くん一緒に来て!?あの子怖いんだよ!?」

 

「怖いって、どういうことだよ!?」

 

かのん「いいから来て!!」

 

有無を言わさず俺はかのんと共に逃げることになった。

 

可可「待ってくだサーイ!!」

 

可可さんが俺たちを追いかけてきた。

怖いって……こういうこと?

 

かのん「怖い怖い怖い!」

 

可可「待ってくださサーイ!!」

 

しばらく逃げ回っていた時、かのんも、可可さんも体力が尽きたみたい。

 

可可「待ってぇ〜…。」

 

2人「「はぁっ…はぁっ…。」」

 

可可「为什么要跑啊!人家只是和你一起做学园偶像而已啊。和我一起做学园偶像好不好嘛。(なぜ逃げるのですか?私はただあなたと一緒にスクールアイドルをしたいだけなのに。私と一緒にスクールアイドルをしてくれますよね?)」

 

かのん「何言ってるかわかんないよ〜!!奏くんわかる!?」

 

「いや、俺も中国語はさっぱりだぞ!?ちょ、可可さん落ち着いて!!」

 

可可「あっ。失礼しまシタ。あまりに興奮して、ついいつもの言葉が……。

改めまして、私、可可。唐可可と言いマス!」

 

かのん「澁谷…かのんです。」

 

可可「かのんさん…奏さん…。」

 

かのん「な、何?」

 

可可「お2人の歌はスバラシイです!なので、可可とスクールアイドルを始めてみませんか!」

 

かのん「スクールアイドルって…学校でアイドルってやつでしょ?」

 

可可「スクールアイドルがやりたくて日本に来マシタ!お2人の歌はスバラシイです!ぜひ私と一緒にスクールアイドルを──」

 

かのん「ごめんね……やっぱり私は遠慮しておく。」

 

「俺も。」

 

可可「なぜデスか!?」

 

かのん「こういうの、やるタイプじゃないっていうか……。」

 

「スクールアイドルって、だいたい可可さんみたいな可愛らしい人がやるものでしょ?

男の俺はやれるものじゃないだろうし……。」

 

可可「そんなことありません!スクールアイドルは誰だってなれます!それにかのんさん、可愛いです!」

 

かのん「は!?」

 

可可「とっても可愛いデス!

奏さんも、可愛いですよ?」

 

かのん「可愛くは、ないと思うけど……。」

 

「やめろよ…。女の子扱いは嫌いなんだ。お世辞でも可愛いって言うのはやめてくれ…。」

 

可可「歌がお好きナンでしょう?」

 

かのん「──!?」

 

「──気づいてたのか。」

 

かのん「嫌いじゃ…ないけど?」

 

可可「絶対好きです!可可には分かります!だからお2人と一緒に始めたい!スバラシイ歌声をぜひスクールアイドルに──」

 

可可さんと話をしている時、可可さんが配っていたと思われるチラシを持って1人の女の子が階段を降りてきた。

 

??「このチラシを配っているのはあなたですね?」

 

「……誰だ?」

 

??「勝手にこんなに勧誘を……。理事長の許可は取ったのですか?」

 

可可「あっ……スミマセン……。可可はただスクールアイドルを始めたいと思いまして……。」

 

??「スクールアイドル……。」

 

ん?あの子……母さんのアルバムにいた、『葉月さん』って人に似ているような……?

それに、スクールアイドルの事を知っている……?

 

可可「いけませんでしたか?この学校は音楽に力を入れていると聞きましたので、可可はここに──」

 

??「音楽に力を入れるからこそ、勝手なことはやらないで欲しいのです。」

 

かのん「ちょっといい?いきなりそんなこと言ったら可哀想なんじゃないかな……?海外から来たばかりなのに……。」

 

「それに、部活動をやるのは個人の自由のはずだろ?それを止める権利は君には無いはずだけど。」

 

??「あなた達は?この生徒と関係があるのですか?」

 

「まぁ…関係無くはないというか……。」

 

??「それなら、あなた達にも言っておきます。

この学校にとって音楽はとても大切なものです。生半可な気持ちで勝手な行動は慎んでください。」

 

頭に来た。

一体どういうつもりだ?

 

「……生半可かどうかなんて、分からねぇだろ。なんでスクールアイドルがダメなのか、ちゃんと説明しろよ。

頭ごなしに否定するのは可哀想だろ。」

 

??「……相応しくないからです。」

 

「相応しいって何?スクールアイドルのどこが相応しくないって?」

 

??「少なくとも、この学校にとっていいものとは言えない。」

 

「聴いてもいないのにどうしてそんなことが言えんだよ。

あんたの決め付けでそんなこと言われたら困るんだが?」

 

??「あなたは……あなた達はどうなの?」

 

「は?」

 

??「あなた達もやりたいのですか?スクールアイドルを。」

 

「俺はただ、可可さんの想いを尊重してやりたいだけだ。

俺自身は、スクールアイドルをやるつもりは無いし、音楽をやるつもりなんてない。」

 

かのん「奏くん……。」

 

??「とにかく、今日は帰ってください。音楽科の生徒の邪魔にならない様。」

 

そう言って、少女は1人校舎へ戻っていく。

 

可可「奏さん……ありがとう。」

 

「いいや、気にしないで。

──俺さ、歌うの辞めたんだよ。」

 

可可「どうしてデスか?」

 

「声変わり。出したい声に対して、自分が出せる声。その2つが合わなくなってさ。無理に出そうとして喉を何回も痛めてさ。姉に止められてからは、歌うのは辞めた。

──歌は……音楽は大好きなんだよ。今も昔も。だけど、自分の納得出来る声が出ないんじゃ、俺の夢は叶うはずない。そう思っただけだよ。」

 

かのん「──私も。

実はね、音楽科の受験落ちたんだ。」

 

可可「え……?」

 

かのん「大好きなんだけどね。

……きっと、才能ないんだよ。だからもう、歌はおしまい。」

 

可可「……。」

 

かのんは鞄を拾って階段を登る。

俺はそれについて行くように階段を登っていた時だった。

 

可可「かのんさん、奏さん!!」

 

可可さんの呼び掛けに、俺とかのんは振り向いた。

 

可可「おしまいなんてあるんですか!?」

 

「え……?」

 

可可「好きなことを頑張ることに、おしまいなんてあるんですか!?」

 

可可さんのその問いに、俺はすぐに答えを出すことは出来なかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

可可さんを連れて、俺はかのんの実家である喫茶店にお邪魔していた。

 

ありあ「お待たせしました〜!」

 

可可「わぁ〜!!ココア…!」

 

「急にごめんな?ありあちゃん。」

 

ありあ「いえいえ!」

 

可可「チョコワタルシミ……。」

 

ありあ「逆…。」

 

かのん「いいからあっち行ってて。」

 

ありあ「は〜い。」

 

ありあちゃんがカウンターの方へ行ったタイミングで、かのんは小さな声で可可さんに話し始めた。

 

かのん「あのね、やっぱり私はアイドルに向いてないと思うんだ……。」

 

可可「そんなことないデス!スクールアイドルは誰だってなれマス!」

 

ありあ「アイドル!?」

 

かのん母「あんたが!?」

 

かのん「うるさいなぁ!!話聞かないで!」

 

あらら。かのんが聞こえないようにって小さい声で話そうとしてたのに台無しだよ……。

 

可可「かのんさんの歌声はスバラシイです。

朝出会った時、この人だ〜!って思いましタ!」

 

かのん「私を見たらわかるでしょ?アイドルって柄じゃないんだからっ…!!」

 

可可「そんなことないデス!かのんさんはすっごく可愛いです!」

 

かのん母「可愛い!?」

 

ありあ「お姉ちゃんが!?」

 

かのん「もう!!聞かないでって言ってるでしょ!?」

 

……実の娘になんてこと言ってるんだよ…。

なんて思いつつ、俺はかのんと可可さんが話してるのをカウンターで聞いていた。

 

かのん「1つ、聞いてもいい?」

 

可可「??」

 

かのんは俺と可可さんを連れて自分の部屋へと向かった。

 

可可「歌わない?」

 

かのん「ほら、バンドとかだとボーカルの人以外歌わなかったりすることがあるでしょ?あれみたいに──」

 

可可「そういうグループも、なくはないデスが……。

かのんさんは、歌いたくないのですか?」

 

かのん「歌いたくないというか……歌えない?」

 

可可「歌ってましたよ?スバラシイ声で。」

 

かのん「あれは……ああいう所でなら、大丈夫というか…。」

 

どう答えればいいか迷ってるかのんに、俺は、『あの時のこと』を話していいか尋ねた。

 

「かのん、あの時のこと、言ってもいいか?」

 

かのん「……うん。」

 

「かのんはさ、いざって時に歌えなくなるんだよ。声が出なくなっちゃって。」

 

可可「そんな……。」

 

かのん「最初は、小学校のときでね……。」

 

幼いかのん『っ……!!』

 

同級生『かのんちゃんっ。』

 

同級生『歌始まってるっ!』

 

伴奏が流れる中、かのんは声が出なくなって……倒れた。

 

幼いかのん『……!!』

 

同級生『かのんちゃんっ!!』

 

『かのんちゃんっ!!しっかりして!!』

 

かのん「それ以来、大切な時ほど声が出なくなっちゃって……。

中学も、合唱部入ってたんだけど…大会とかはダメで…。この学校の受験の時も……。」

 

可可「歌が…好きなのに?」

 

かのん「……好きなのにね。」

 

可可「ごめんなさい、何も知らずに可可は……。

奏さんも、ごめんなさい…。」

 

「いいよいいよ。」

 

かのん「気にしないで?」

 

可可「でも……。」

 

かのん「私、可可ちゃんに協力するよ。力になりたい。だから、スクールアイドルに興味がありそうな子がいたら、すぐ紹介する!」

 

可可「ホントですか!?」

 

かのん「もちろん!だって、歌は大好きだから!」

 

「俺も手伝うよ。1人じゃ大変だろうし。

それに……歌が誰かの心に届けば、きっと世界が変わる人だっている。

 

可可「え?」

 

「……あぁ、いや。なんでもない。」

 

日が暮れて、可可さんは家へと帰る時。

 

かのん「じゃあ明日から探してみるよ。可可ちゃんも、分からないことがあったらすぐ聞いて?なんでも協力するから!」

 

可可「はい。」

 

可可さんが家へと帰る道を通ったのを見て、俺とかのんは千砂都がバイトしてると言っていたたこ焼き屋に来ていた。

 

千砂都「スクールアイドル?」

 

「あぁ。音楽科にさ、そういうのに興味ある子いないかなって思ってさ。」

 

千砂都「探すのは全然いいけど…あんまりいない気がするんだよね。音楽科には。

だって音楽科って、歌にしても楽器にしてもダンスにしてもそれ専門でずっとやってきてる子ばかりだから…そっちの方が大切って言うか…。」

 

かのん「そっか……。」

 

千砂都「それに、スクールアイドルあんまり好きじゃないって人もいて…特に葉月さんなんかは、『この学校に必要ない』って。」

 

「葉月……って、あの子のことか?

あのポニーテールの!!」

 

千砂都「知ってるの!?

あの人、私たちの学校を作った、『葉月花』って人の娘さんらしいよ?」

 

やっぱりか……。

葉月花さんって……母さん達のアルバムに乗ってた人で間違いないよな?

 

かのん「そうなんだ……。」

 

俺とかのんは、たこ焼きを受け取って帰り道を歩いているときだった。

 

可可「〜〜~♪」

 

「この声……可可さん?」

 

かのんと別れて、俺は家に戻った俺は玄関を開ける。

 

「ただいま。」

 

瑞希「おかえり〜。

その匂い、タコ焼きだなぁ?」

 

「そうだけど……」

 

瑞希「あれだろぉ?あの出店の!」

 

「そう。千砂都がバイトしてるって言うから行ってた。

姉さんも食べる?」

 

瑞希「うん。

ほれ、もーらいっ。」

 

そう言って俺からたこ焼きの入った袋を分捕る姉さん。

 

「あっ!!ちょ、姉さん!!中身出るだろ!?」

 

瑞希「あ、ごめんごめん。

ほら、食べよ?」

 

「いただきます。」

 

最近の俺のいつもの風景。

父さんも母さんも仕事でいつも遅いから、最近はいつも姉さんと共に食事をとることが多い。

たこ焼きを食べ終わり、俺はふと可可さんに言われたことを思い出していた。

 

「『好きなことを頑張るのに、おしまいなんてあるのか』……ねぇ。」

 

瑞希「なになに、どしたの?」

 

「──え?」

 

瑞希「いや、なーんか思い詰めてる顔してるし。

話聞くよ?」

 

「いや、それがさ。

クラスメイトの留学生の子にさ、一緒に歌おうって誘われたんだよ。」

 

瑞希「うん。」

 

「けど、俺は歌はもうやんないって決めたし、この声じゃあかえってその子に迷惑がかかると思ってさ。音楽は好きだし、その子やかのんのことは応援してやりたい。けど、俺は2人の隣で歌える自信なんてない。」

 

瑞希「──それで、奏はどうしたいの?」

 

「どうしたいって?」

 

瑞希「歌、やりたいんじゃないの?」

 

「それはっ……。」

 

瑞希「奏さ、歌うつもりなんてないって言いながら、鼻歌歌ったり曲作ったりしてるの、私知ってるんだからね?」

 

「気づいてたの?」

 

瑞希「お姉ちゃんを舐めてもらっては困るよ?

……一緒に動画あげるってなった時さ、『私は奏の夢を応援する。私は奏が夢を叶えるサポートがしたい』って言ったの覚えてる?」

 

「……そうだね。」

 

瑞希「動画はあげなくなったけど、私は今も昔も、奏の夢を叶えてあげたい。それは今も変わらない。だから私は、奏のサポートができるようにって、音楽の仕事をしてる。

私は、奏が前を向けるようにしてあげることしか出来ない。けど、私にだって奏のためにできることはあると思う。」

 

「姉さん……。」

 

瑞希「奏は昔から理想が高すぎるんだよ。」

 

「え?」

 

瑞希「理想を高く持つのはいいけど、それが足枷になったら意味ないじゃん。

それに、今の奏の声も、充分武器になると思わない?」

 

「……どういうこと?」

 

瑞希「今の奏の声はさ、逆に考えれば高い声も低い声も出せるってことじゃん?

それって、歌手にとってはすごい武器になると思わない?」

 

「確かに…。」

 

瑞希「なら、その声をより強く活かせるようなトレーニングを積んだりすれば、奏の声はもっと、たくさんの人に届くと思う!!

私、その手伝いをやりたい!!」

 

「……ありがとう。姉さん。」

 

瑞希「すぐに結論を出して、なんて言わない。

ちゃんと考えて、結論を出したら教えて。」

 

「……うん。わかった。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

次の日、約束通りスクールアイドルをやる人を探して聞いてみたのはいいのだが──

 

「ダメだった。」

 

かのんの方も俺もダメだった。

 

可可「そうですか…。私もダメでした…。」

 

かのん「でも、まだほかのクラス回れてないし、音楽科にも興味持ってくれる子がいるかもしれない。」

 

可可「デスが…。」

 

可可さんはかのんと俺の方を見て、すぐにまた俯いてしまう。

 

可可「いえ……。」

 

かのん「……あっ。」

 

かのんの目線の先を見ると、平安名すみれさんが歩いていたのを目撃する。

かのんはすぐに平安名さんの方へと走っていった。

 

かのん「あの!」

 

すみれ「何でしょう。」

 

かのん「お、同じクラスの平安名すみれちゃん…だよね?

突然なんだけど……スクールアイドルに興味あったりしない?もし良かったら……。」

 

すみれ「あたしを誰だと思ってるの!?」

 

えぇ……。

 

かのん「ひぃぃぃ…。」

 

可可「すみません…。」

 

「気にしない方がいいよ。

すぐにやってくれる子なんてなかなかいないだろうし。」

 

俺たちが勧誘している時、葉月さんがこっちへ向かってきており、俺達は咄嗟に物陰に身を潜めた。

 

「葉月さん……。」

 

可可「見張っていマス…。」

 

かのん「音楽好きな人が多いから、なんとかなるかもって思ってたけど……アイドルは、なかなか厳しそうだね…。」

 

夕日が差し込む時間になって、俺たちは校舎を後にする。

 

可可「はぁ……。中々いないものですね…。」

 

かのん「明日は、他のクラスも回ってみよ?きっと何人かは興味持ってくれるよ。」

 

可可「かのんさん……。」

 

「俺も、音楽科には一応友達が一人いるし、そいつに頼んでみる。」

 

可可「奏さん…。」

 

かのん「道、途中まで一緒でしょ?

行こ?」

 

かのんが歩き始めた時だった。

 

可可「かのんさん!」

 

可可さんが突然かのんを呼び止めた。

 

可可「やっぱり……やっぱりやってみませんか!スクールアイドル!」

 

かのん「え?」

 

可可「迷惑かと思って、言うかどうか迷っていたのデスが…可可…どうしても……どうしてもかのんさんと一緒にスクールアイドルがしたい!!」

 

かのん「だからそれは……。

昨日言ったでしょ?私、歌えないから……。一緒に歌えないんじゃあ、いるだけ迷惑になっちゃうよ。」

 

可可「かのんさんは歌が好きデス!歌が好きな人を心から応援してくれマス!可可はそんな人とスクールアイドルがしたい!

奏さんとも、一緒に歌いたいんデス!!」

 

かのん「無理だよ……。」

 

可可「お願いしマス!!」

 

かのん「無理だって…!」

 

可可「そんなことありまセン!」

 

かのん「あるよっ!!」

 

そう言って、かのんは可可さんの手を振り払った。

 

かのん「……!!ご、ごめん…。」

 

かのんはポスターを見て息を飲んだ。

 

かのん「ガッカリするんだよ。いざって時に歌えないと、周りのみんなもガッカリさせちゃうし…何より自分にガッカリする!!

そういうの、もう嫌なの!!」

 

「かのん……。」

 

可可「……応援しマス!かのんさんが歌えるようになるまで!!諦めないって、約束しマス!だから、試してくれまセンか?可可と、もう一度だけ、始めてくれませんか!?」

 

かのん「……。」

 

かのんは何も言わずに、校門の方まで歩いていく……。

俺も、かのんのことを……応援してやりたい。ずっと抱えていた事、今言わなきゃ、きっと後悔する。

 

「かのん!!俺も、お前の歌をもう一度聞きたい!!

俺はかのんの歌が好きだ!!かのんの歌は、いつだって俺の背中を押してくれた!!だから!!!可可さんの思いに……答えてやってくれ!!!」

 

かのん「……。(いいの…?私の歌を大好きって言ってくれる人がいて……一緒に歌いたいって言ってくれる人がいて……。なのに……本当にいいの……?本当にこのままでいいの……?)」

 

かのんが……立ち止まった……。

と思ったら、すぐにこっちに走ってきた……!!

 

かのん「はぁっ……!!はぁっ…!!」

 

可可「かのんさん……。」

 

かのん「(小さな頃から、ずっと思っていた。

私は歌が好き。ずっと歌っていたい。歌っていれば、遠い空をどこまでも飛んでいける。暗い悩みも、荒んだ気持ちも、全部、力に変えて前向きになれる。いつだって、歌っていたい。)

──やっぱり私、歌が好きだ!!」

 

そう言って、かのんは歌い出した。

──あの日からずっと……聞きたかった、心に響くかのんの歌声。

かのんの歌は、いつも俺の背中を押してくれる。かのんのように、誰かの背中を押してやれるような歌を響かせたい。

そう思って、ずっとあの日から練習していた。

 

それなのに、俺は途中でそれを辞めた。

でも、かのんは……好きな人は、前に進んだ。

 

なら……俺は……?

 

可可「かのんさん、スバラシイデス!」

 

いつの間にかギャラリーが沢山いて、かのんは自分が歌えたことに気づいていないみたいだった。

 

かのん「……!!もしかして私、歌えた!?」

 

「かのんの……歌……。」

 

俺は、かのんが歌っていた背中を、見つめることしか出来なかった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

彰人視点──

 

結ヶ丘に入って、音楽科の生徒になっても、俺の日常は何も変わらなかった。

音楽科の授業はあまり始まってないけれど、クラスメイトの奴らは見ていて楽しい。

 

──けど、なんか物足りねぇ。

ダンスをやっても、他の奴らと踊っても張り合いがねぇ。そんな風に思っていながら個人練をしていた時だった。

 

一人、一緒に練習していいかと聞いては平気な顔して俺のダンスに肩を並べるやつがいた。

『嵐 千砂都』。同じクラスで、同じバイト先で働くクラスメイト。

 

千砂都「彰人君すごいね!私びっくりしちゃった!」

 

「そういうあんたも、随分と余裕そうだな……!!」

 

千砂都「そうかな…?だいぶしんどいよ……?」

 

「あんたもすげえよ。今まで俺に食らいつけた奴なんていなかったってのに。」

 

千砂都「なら、追い抜けるくらい頑張らないとね!」

 

「へっ。俺を追い抜こうなんて100年速いっての!」

 

そう言って、彼女は汗を拭う。

軽口を叩いたのはいいけど、ちょっとマズイかもしんねぇな……。

……焦りは禁物だ……怪我なんてする訳にはいかねぇ。

 

「なぁ?千砂都さん……だっけか?」

 

千砂都「ん?なぁに?」

 

「普通科にいる、出雲奏って奴知ってっか?」

 

千砂都「うん!知ってるよ?幼馴染だもん!」

 

「あいつのこと、知ってること教えてくれねぇか?

もしかしたら、あいつは……俺が目標にしてる奴かもしれねぇんだ。」

 

千砂都「……??

う、うん。わかった!教えてあげる!」

 

千砂都さんに、奏の事を聞いた。

その時、彼女から驚きの一言──いや、俺が予想していた言葉が出た。

 

千砂都「奏はね、歌うのが大好きで、かのんちゃん──もう1人の幼馴染の子と一緒に歌ったり、あとは……動画を上げてたんだよ?」

 

「動画……?!」

 

千砂都「うん、歌ってみた動画。名前は……なんだっけ?

ちょっと忘れちゃったんだけどさ、歌ってみた動画をお姉さんと一緒に上げて、すっごい人気のチャンネルだったんだって!」

 

……あいつ、やっぱり……。

 

千砂都「彰人君?」

 

「ん?あぁ、悪ぃ。ちょっと考え事してた。」

 

千砂都「ちゃんと話し聞いてた?」

 

「あぁ。もちろん。」

 

千砂都「『自分の歌を聞いてくれてる人がいて嬉しいんだ』って、会う度にそう言ってたの!

けど、突然歌うの辞めちゃったんだよね。自分の声が嫌になった、って。」

 

「そっか。」

 

千砂都「どうしたの?突然奏のこと聞きたいなんて。」

 

「あぁ〜…。入学の手続きする時に友達になってな。あいつのこと知ってるやつがいたら聞こうと思ってたんだよ。」

 

千砂都「そうなんだ!いい人でしょ?奏!」

 

「あいつとは仲良くなれそうだ、って直感で思ったんだよ。

やっぱりあってた。サンキュー、千砂都さん!」

 

話をしている間に、下校のチャイムが鳴り響く。

 

「やべ、そろそろ出ないとだな!」

 

千砂都「だね!

彰人君、今日バイト?」

 

「休み!じゃなきゃこんな時間まで練習しないって。」

 

千砂都「そっか!」

 

「そういう千砂都さんは?今日休みだろ?」

 

千砂都「うん!

そうだ、また奏のこと聞きたくなったら言って?」

 

「あぁ。ありがとな!!」

 

千砂都「うん!じゃあ、お先に!」

 

「おう!!」

 

そう言って千砂都さんは部屋を出ていく。

 

「やっぱり、奏……お前は『SOUL』なのか?」

 

仮説の域を出ることは無かったけれど。俺は、あいつについて知ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏……もし、お前が本当にSOULなら、俺はお前に言わなきゃいけねぇことがあんだよ。




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