ミドガルより離れた、遠い森の奥深く。
そこに、一つの国があった。
エルフの王国。この世界に存在する三つの人種の一つ、エルフが支配する国だ。
その王都の地下深くには、誰も知らないような古ぼけた闘技場が存在する。
そこで、私は漆黒と対峙していた。
いずれこうなるとは分かっていた。前世ではその小説やアニメを見て、この世界のことを知っていた。
自分の立場、自分の犯した罪。彼女らにとって、私は許されざる蛮行を積極的に進めている『極悪人』だ。
だからこそここまで生きてこられた。
だからこそ、ここで私は死ぬ。
私は目の前に立つ漆黒と、その後ろにいる十数人の黒づくめの女達に視線を向ける。
一目見ただけでわかる。漆黒は恐ろしく強いと。
後ろの女達は私の敵ではない。その中でも一際強い金髪碧眼のエルフでさえも。
だが漆黒は別だ。どうやっても私では勝てない。
ゾウと蟻ほどの絶望的差ではない。しかして大人と子供ほど手が届く差でもない。
例えるならば漆黒は巨人、そして私は知恵しかない人間。
限界まで知恵を張り巡らせれば倒せるかもしれない。されとてその確率は何億分の一だろうか。
私は深く息を吐き、あるかもわからない勝利の可能性を頭から消し去る。
私はこの男の強さを知っていた。
『原作』を見ていた私は、目の前の漆黒と称するしかない男を知っていた。おそらく、この世界の誰よりも。
だからこそ修行を重ねた。出世のためもあった。だが1番の理由は、いつか起こるこの戦いに万全を期すためであった。
修行の果て、私は全てを手に入れた。小揺るぎもしない権力と、圧倒的なまでの武力。理不尽にも従う部下と、湯水の如く湧き上がる金。
全てを手に入れたことで慢心していたのだろう。目の前の男に勝てずとも、一矢報いることはできると思っていた。
だが私の認識は甘すぎた。私の実力では、この男に傷を与えられるかさえ怪しい。
私が勝っているのは魔力量くらいだ。それ以外では惨敗だ。
常人が積んだ400年では、狂人の30年には及ばないことがまざまざと目に見える。
正面からでも、不意打ちでも、私ではこいつを殺せない。
それでも、私は戦おう。私は喜んで死にに行こう。
老いから逃げた愚か者でも、ちっぽけなプライドはあるのだから。
「よくぞここまで辿り着いた、シャドウ」
私が剣を向けると、漆黒も剣を向ける。
私が言い放った言葉が、その戦いの始まりを告げた。
「ラウンズ第四席、『鮮血』のグレイス。我が命、容易くは獲らせんぞ」