田舎で剣だけ振っていたい   作:深海 星

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10 森の中で素振りタイム2

 今日も元気に素振り日和!空は快晴!ご飯も美味い!じゃ、行ってきま~す!そうして意気揚々と何食わぬ顔で宿を後にしようとするが、あと一歩と言った所で声が掛かった。

 

「…私も付いていく」

 

 あ、はい。でも町の外出るし面倒くさくない?魔物と戦うことになるかもよ?それでも付いてくる?そう。付いてくるのね。ていうか準備万端じゃん。さては昨日俺が町の外で素振りってたって言ったから今日も行くと思って準備してたな?正解です。やるじゃん。

 まあ素振りさせてくれるっぽいし邪魔はして来ないだろう。多分。イブは今日も何やらやると言っていたので別行動である。

 気を取り直して二人で宿を出る。出た瞬間に元気いっぱいな声が掛かる。

 

「おはようございます!ししょー!!今日もよろしくお願いしますね!!」

 

 そうだった。何か忘れてるなって思ったけど、昨日から弟子が生えてきたんだった。俺の平穏な素振りタイムはどこに行ってしまったのか。きっと妹に町を追い出されたあの時からこうなる運命だったのかも知れない。俺は心の中で涙を流す。

 

「…弟子が居たの?」

 

「はい!昨日から弟子にさせて頂きましたマリーです!!お仲間の方ですか?よろしくお願いします!!」

 

 ノノが訝しげな表情で俺に問うてきたが、それに返答したのはマリーだった。

 

「…私はノノ。よろしく」

 

「ノノちゃんですか!!可愛いですね!!よろしくお願いします!!」

 

 マリーの元気さに毒を抜かれたのか、いつものちょっとぼーっとした表情にすぐに戻ったノノだったが、マリーにノノちゃんと呼ばれた時ちょっと顔をしかめていた。何か言い返そうかとノノが口を開きかけたが、マリーが続きを言う方が早く結局言うのを辞めた様だった。

 マリーは可愛いですね!と言った辺りからノノを撫で回し始めた。最初は少し嫌そうだったが、思ったよりも気持ちよかったのか、なんか顔を綻ばせて喜んでいるようだった。猫かな?

 その後、昨日と同じ森の広場に三人で行くことになった。マリーがノノの手を引いて歩いているが、ノノはちょっと微妙そうな、不服そうな顔をしていた。

 

「と、言うわけで、昨日ししょーと出会って私は弟子にして貰うことになったのです!!」

 

「…確かにクロの剣は綺麗」

 

「そうなんです!それに強くなれば弟達にも美味しいものを食べさせられるので!!」

 

 広場まで行く途中でマリーは昨日の話しをノノとしていた。ノノは話に相槌を打ちながら、なかなか楽しんでいるようだった。これもしかして二人にしておけば俺要らないんじゃね?ノノが付いて来ると言った時には焦ったが、もしかすると俺は一人でゆっくりと素振りを楽しめるのかも知れない!!これが弟子か、素晴らしいな。

 もちろん、彼女に教えられることはなるべく教えてあげたいとは思っているが、それとこれとは話が違う。失ってしまった俺の静かなる素振り時間【ピースフル・プラクティス・スイング・タイム】を少しでも取り戻したいの!!略してピプスタイム。イカス。

 

「ノノちゃんはどの様な戦闘スタイルなんですか?」

 

「…私は、ストライカーだから。殴る」

 

 どうやら話しは自分の戦闘スタイルの事についてになっている様だった。ノノが自分のスタイルが殴打だと言うと、マリーは俺達と同じ様に微笑ましいものを見る目になっていた。ノノがファイティングポーズを取りながら『しゅっしゅっ!』と言ってるのもある。なんか小さい子がお父さんの真似をしてるみたいに見えるんだよな。

 マリーはそれを見て、また『可愛いですね!』とノノを撫で回し始めた。心做しかノノの顔は死んでいた。まあでも、戦闘シーンを見れば多分変わるよ。一種の恐怖映像だから。小さい女の子の一撃で二メートルはある熊が吹っ飛んでいき、そのまま後ろに在った木を薙ぎ倒す。ぶっちゃけマジで怖い。

 俺とか最近よくノノに後ろに張り付かれてるけど、もしかするとそのまま締め潰されるんじゃ無いかと気が気でない。それでも引っ剥がすのは可愛そうだからなるべくそのままにはしてるけど。

 エルフって種族は皆この様なゴリ…怪力何だろうか。いや、まあノノはマナで体を強化してるって言ってたし、エルフが皆怪力な訳じゃないよね…?でもエルフもゴリラも森の賢者って言ったりするし、もしかしてやはりゴリ…

 

「…なんだ」

 

「クロ、何か変なこと考えてる」

 

「…いや」

 

 そんなゴリラの事ばかりを考えていたからか、ノノから背中を軽く叩かれる。怖い怖い、あんまり変なことを考えていると、俺もあの熊の末路を辿る事になってしまう。無だ無。俺は無になるのだ。

 

「お二人共仲が良いんですね!!」

 

 そんなやり取りを見てマリーが発言するが、今のどこに仲良し要素が在ったのか。寧ろ今のは死刑宣告に近いだろう。てめぇあんまり変なこと考えってっとブチ飛ばしますわよ?と言ったところだろうか。ゴリフ流の脅しなのだ。それを仲が良いなどと、勘違いにも程がありますわよ?

 

「…うん、私とクロは仲が良い」

 

 ノノがそう言って俺の目を見てきた。ああ、これはあれだな。てめぇの命はワイが握っとりますけん、自由があると思ってんとちゃうぞ。って事か…ここはあれだ、肯定するしかない。そうしなければ、次の瞬間には俺は宇宙の新たな星として数えられる事になるだろう。

 

「…ああ」

 

 そんな俺達のやり取りを終始マリーはにこにこと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 昨日素振りをしていた広場に着いた俺達。早速俺は素振りを開始しようとしたが、その前にノノが口を開いた。

 

「…そう言えば、マリーは魔法使える?」

 

「いえ、私は使ったこと無いですね~。使い方も分からないですし…」

 

「そう…じゃあ魔法が何なのか知ってる?」

 

「知らないです…魔法って使う人によって全然発現の仕方が違いますよね?使えるようになった人は命に危険が迫った時に使えるようになる人が多いとは聞いてますが…」

 

 確かに魔法が何なのかって気にしたことも無かったな。俺の村なんて基本皆フィジカルで解決してたから、所謂魔法使いと言われる人達の様に炎を出したり、水を出したり風を起こしたりなんてのは見たことが無かった。確か村に偶に帰ってくるババアは魔法が使えるって言ってた気もするけど、実際に使ってるところを見たことは無いな。この話少し気になるぞ。

 

「…魔法はその人のイメージの具現化。体や空気中にあるマナに、自分のイメージを流して実体化させること…だから死にかけの時に強くイメージして使えるようになることが多い、らしい…」

 

「ほぇ~」

 

 マリーが分かっているのか、分かっていないのかよく分からない声を出している。

 

「魔法使いって言うのは、マナにイメージを伝えるのが上手な人達の事…だからその性質上、人間は皆魔法を使えるはず…らしい…」

 

「なるほどですねぇ…そんな話し初めて聞きました。ギルドの魔法使いの方にお話を聞いた事がありますが、そこまで詳しい事は聞けませんでした!ノノちゃんは物知りなんですね!!」

 

「…私も昨日知った」

 

 つまり、俺でも魔法を使えるのか。そう言えば似たような話しを昔聞いたような覚えがあるんだけど…誰から聞いたんだったかな。更に言うにはノノの身体強化などは付与魔法になるらしく、炎などを出す、所謂攻撃魔法との違いは物にマナを流すか、外にマナを流すかの違いらしい。一般的には攻撃魔法が使えるのが魔法使いだと言う。

 魔法の仕組み的にはすべての人類が使えるみたいだが、実際には得手不得手があり、イメージの力とそれをマナに伝える力が重要になってくるので、すべての人間が同じ魔法を使えることは不可能だそう。魔法使いの師弟同士で同じ様な魔法が得意になるのは、師匠の魔法を間近で見ていた結果、その魔法が記憶に強く残りイメージがしやすくなるのが関係してるらしい。

 因みにノノは説明した後にしきりに『らしい』を付けていたが、それはノノ自身がこの話を昨日聞いたらしく。自分でも完全には理解できていないかららしかった。

 ちょっとワクワクしてきたな。今までは只々剣でぶった斬れば良いと思っていたが、魔法が使えるというのならそれに越したことは無いだろう。ならば今日の素振りはそれを意識した物にしても良いかも知れない。

 

「…魔法、練習するか」

 

「!はい!ししょー!!」

 

 魔法練習したいなって声に出したら、マリーが元気よく返事をした。

 

 

 

 

 

 それから俺は素振りをしながら色々と試してみた。剣から炎出ないかな~とか、斬った所が氷つかないかなとか。ワンチャンビームが出ないかなって思ってんだけど…全くと言っていいほど出来なかった。うんともすんとも。攻撃魔法は無理か…そう思って今度は体を強化出来ないかと試してみるけど…う~ん、いつもの戦闘中と違いが全く分からん…まあイメージとそれを伝える力が大切って言ってたし、そう一朝一夕では出来ないのかもなぁ…

 ノノと一緒にうんうん言いながらやってたマリーも現状上手く行ってないし、そんな物なのだろう。そもそもちょっと仕組みを聞いただけで出来るのなら、もっと世界は魔法使いで溢れている筈だし、まあいつかそのうち、きっと魔法が使える様になるだろう!!

 そう思い二人が魔法の練習に夢中なうちに素振るとしよう。意図せずにピプスタイムが出来そうだ。俺は気持ちよく剣を振り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 素振って居ると不意に二人が大きな声をだした。びっくりしたな、おしっこ漏れたらどうするのよ。魔物の匂いとかはしてないけど、何か事件が起きたのかも知れないなと思って二人の方を見た。

 なんかそこそこの大きさの木が綺麗に真っ二つになってた。

 ???どゆこと?どう考えても鋭い刃物で一刀両断した様にしか見えないが、マリーの持っている短剣では刀身の長さからしてその木を斬れるとは思えない。

 木からマリーへと目線を移すと、しきりに自分の手元と木を交互に見ていた。

 

「…今のは多分…風の魔法」

 

 唖然とその光景を見ていたノノが、気を取り直したのか口を開いた。なるほどね、剣で切り裂いたのかと思ったのだが、風の魔法で在ったか。ならそんなに切れても可怪しく無いのかもなぁ!!な~んだ、唯の風魔法か!よくあるよくある。朝ご飯に丁度良いよね。

 

 

 え!?魔法!?!?魔法使えたの???もう?早くない?確かに昨日から教えた技術をぽんぽんと覚えていたけど、魔法までそんなに早く覚えられるの?本当に天才なんすねぇ…あれ、心の涙が…なんか雨振ってるみたいです、心の雨が。

 まあでも俺に出来なかった事をすぐに習得したと言っても、師匠として弟子の成長を喜んであげないとね。まだ師匠歴一日だけど。魔法に関して俺なんにも教えてないけど。なんならノノの方が師匠なんじゃないか?

 

「…よくやった」

 

「…!!師匠!ありがとうございます!!」

 

 自分が起きした事象が現実の物だと理解出来ていなかったのか、呆けて居たマリーだったが、俺が声を掛けるとそれが現実に自分が起こしたのだとやっと認識出来たのだろう。嬉しそうに俺にお礼を言ってきた。

 まあでもそれ俺の功績じゃ無いんだよね。俺なんにもしてないし、なんなら放ったらかして一人で剣振ってたし、ピプスってたし。

 

「ノノちゃんもありがとうございます!!魔法が使えるようになったのもノノちゃんのお陰です!!」

 

「…私は何もしてない…マリーの才能が凄い」

 

 マリーはノノと一緒に大はしゃぎしながら喜んでいる。まあ、マリーがそんなに喜んでいるのなら良いか。これで魔物を狩るのも楽になるだろうし、これなら家族を養っていくのも難しくないだろう。

 それはそれとして、俺はちょっとここを離れますね…何しに行くかって?ちょっとお花摘みに…べ、別に悔しくて泣きたい訳じゃ無いんだからね!!!

 

 

 

 

 

 

 まあ用を足したかったのは本当なので、俺は少し離れたところまで来て用をすませる事にした。ああ、これが心の涙ですか…汚いな、流石に反省してます。

 用も足したし、川で手も洗ったし、二人の元に戻ろうとした時に魔物の匂いがした。気が付いて無かったけど結構近いな…剣も置いて来たしちょっと不味いかも~。

 

「グルルルルル…」

 

 逃げるしか無いなって思ってたら、目の前から魔物が現れた。それは高さとしては腰ほどではあるが、全長は四メートルはありそうな茶色の鱗をした四足歩行のトカゲだった。

 う~ん、殺される事はなさそうだけど相手を仕留める事も出来ないなぁ…困ったなぁ。なんとか逃げて、剣さえ手に入ればなぁ。

 トカゲと目を合わせながら、後ろに下がり隙をみて逃げようとしていたが、突然トカゲが凄いスピードで突進してきた。

 

「うぉっ!!」

 

 まさかこんなに突然動き出すとは思っていなかったので、少し動きが止まってしまった。これでは逃げることは出来ないな。トカゲは此方を獲物としか見ていないようで、その大きな口を開きながら迫ってきた。

 これ確実に俺を食べる気ですね。まあでもこの程度の相手なら、剣が無くても食べられはしない。俺はギリギリまでトカゲを引き付け、トカゲが俺に牙を突きつけようとしたその時、死角になるように最低限の動き左側面へと移動する。

 トカゲが口を閉じガチンと牙と牙が当たる音がする。トカゲが俺を食べれてないと認識するよりも早く、俺は少し“気合”を入れてヤツの脇腹を思いっきり殴る。

 

「ウゴォッ!?」

 

 殴られたトカゲは少し体を浮かせて、五十センチ程飛ぶ。攻撃された事に気が付き、ヤツは俺のことを敵だと認識したようだ。先程のように無闇に突っ込んで来ず、此方の様子を伺っていた。

 う~ん、どうしようかな。俺も素手での戦闘はそれなりに出来るけど、ノノみたいにそれだけで致命打を与えれる程の力は無い。

 此方が仕掛けて来ないことにじれたのか、またも突進をしてくる。今度は右側に回り殴ってやった。それから数度、その繰り返しになったが、お互いに致命打に欠けていた。

 不味いなぁ、なんか俺を仕留めきれないことにイライラしているのか、先程から感じる殺意がやばい。俺としてもそろそろ戻らないとノノ達が心配するだろうし…まあノノ達が俺を探しに来て、その探しに来てくれたノノに倒して貰うって手もあるけど…

 そうして手詰まりの現状に少し焦りを感じていると、ふと思い出した。そういえば、腰にティナから貰ったナイフがあるな、と。

 もう二十本になろうかという、ティナのナイフは様々な種類の物があった。基本的には料理や素材採取の時にしか使って無かったので、戦闘に使うという考えが頭から消えていた。

 しかしこれならなんとかなるかも知れない。俺は腰にぶら下げているバッグの中から、刃渡り十五センチ程のナイフを取り出す。俺のナイフでやつの腹を捌いてやろう。

 俺はティナのナイフを握り、再びヤツが突っ込んで来るのを待つ。少しの睨み合いの末、ヤツが再び突っ込んでくる。もう十度目くらいになるその動き。今までと同様に側部に回ろうとしたその時。ヤツが急に止まり、バックステップをした。

 

「…ッ!」

 

 まずい、俺の姿が完全にヤツのその大きな口の間合いに入ってしまった。自身の策が決まったのが面白かったのだろう、ヤツが愉快そうにその顔を歪める。そうして俺を噛み殺そうと歯を突き出した。

 

 まあそんな程度の動きで死ぬなら、あの村では生きていけない。

 

 ヤツが口を突き出し、此方を食そうとしたその瞬間、俺もバックステップをしてやった。そうしてヤツの口は唯そこに在った空気だけを取り込む。そのがら空きになった頭に俺はヤツの体を飛び越し。その空中で目をちょっと“気合”を入れて斬りつけてやった。

 

「ウガアアアアオオオオオオ!!!!」

 

 完全に捉えたと思った獲物からの、想定外の攻撃が相当に堪えたのだろう。ヤツは絶叫し、暴れていたが、少しすると尻尾を巻いて逃げていった。

 まあなんとかなったな。剣があれば一撃だったのだが…今度から剣のない時の戦闘方法を考えておかなければならないな。魔法が使えればそれが一番良かったのだが…そうしてマリーが魔法を習得した事を思い出した俺は、また少し重くなった気持ちのまま二人の元に戻るのであった。

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