作者的に地の文が多い作品が好きなのも、絶対に関係してますね。
物語の登場人物がこの時、何を考えていたのか、それを知るのが好きです。
なので、どうしても主人公と他のキャラクター達の目線で、同じ部分を書くことになってしまいますが、楽しんでもらえたなら嬉しく思います。
前書き読まないよって方はこの↓から本編です
私、マリー・ベルマーがその日その人に出会ったのは、本当に偶然だった。一年前にお父さんが死んでしまって、私達家族は悲しみに暮れた。
魔物が存在しているこんな世界だ。人が死ぬのは、言ってしまえばよくある事で、自分に降り掛かって来るとすぐには受け入れられないことだった。
それでも平等に次の日はやってくるし、食事を取らなければそのうち死んでしまう。私はどうにか成人していたが、妹は十二歳、弟はまだ八歳だった。目を離してはいけない年齢ではないが、大人の手助けが無ければ生きていくのは難しい年齢だった。
最初の頃はお父さんの残したお金が有ったし、お母さんも少し働いていたので、暫くは現状を維持するだけでも生きていけた。
けれどこんな状態はずっと続く訳では無い。お母さんが稼いでくる額は男の人の稼ぎと比べると少ない物だった。
私も何か仕事をして家計を支えたかったけれど、私は昔から何をしても上手くいかなかった。パン屋で売り子をすれば焼き立てのトレーをパンごとひっくり返し、町の大衆食堂で働けば提供する食事をひっくり返す。
町の人達は優しくて、皆『大丈夫、ミスは少なくなってくよ』って言ってくれたけれど、私は全くそんな考えは出来なかった。
だから私に残された道は冒険者くらいだった。冒険者であれば一人で活動さえすれば、他人に迷惑を掛ける事はないし、魔物を狩れなくても薬草類を採ってくれば、それなりにお金になる。
家族には大反対されたけど、少しでも役に立ちたかった私は冒険者になることを決めた。
冒険者は怖い人ばかりだと思っていたけれど、とても優しい人ばかりだった。昔、自分もそうして教えて貰ったんだと語る先輩冒険者に教わり、罠の仕掛け方や、薬草の見分け方を教えて貰った。
私は覚えるのが早かった様で、先輩方からすごく褒めてもらえた。私は昔から失敗だらけだったから、他の人よりも沢山勉強した。町に在る図書館にもよく通って知識を増やすようにしていた。その努力が冒険者という職業で漸く力になっている様で私は嬉しかった。
でもそれだけだった。所詮覚えるのが少し早いだけ、戦闘のセンスも無い私は罠に掛かる様な、小さくて弱い魔物をたまに狩れるだけだった。
冒険者になって半年、所詮半年されど半年。最初の一週間で教えてもらった事からなにも進歩していなかった。これくらい経てば他の冒険者であれば、罠から武器に得物を変えて魔物を狩る頃だっし、才能あるものならどんどんと次のステップへと上がる頃だった。
私も真面目に狩りをしてたし、薬草も納品していたのでランクは九級に上がっていた。でもどこかでここでも駄目なのかなって思っていた。
結局自分はどこに行っても何をやっても何の力も無い。そんなマイナス思考が頭を支配する。
お父さんの残したお金も、もうそこまで多くない。今は生活には困っていないけれど、もっと弟達に美味しい物を食べさせてあげたい。
そんな焦りもあったんだと思う。私は気が付けば少し強めの魔物が出るような区域にまで足を運んでいた。
失敗したなって思ったけれど、同時にチャンスだとも思った。ここで魔物を倒して成長できれば、自分を変えれるかもしれない。そんな気持ちがあった。
無理だった。ゴブリンを遠目に発見した時、私の心臓は痛いほど動いていた。ゴブリンなんて九級であれば倒せても可怪しくないような、言ってしまえば雑魚である。
でもそんな雑魚ですら、私には途轍もない強敵に見えた。距離が離れていたのが幸いし、私は見つからずにその場を切り抜ける事が出来たが、こんな幸運は二度は通用しない。
もっと強力な魔物が出るかも知れない。次は死んでしまうかも知れない。それだけは嫌だった。弟達の為にもここで死にたくはない。
今までのように自分の身の丈にあった仕事をしよう。そう思って引き返そうとしたその時だった。
近くで何かを振っているような風切音が聞こえてきた。
こんな場所で誰が?
私は好奇心を抑えられなかった。その音の正体が魔物で無いなど確証は無いのだ。そもそもこの様な魔物が平気で出る様な場所で、この様な音がしているなどまともではないのだ。
それでもまるで運命に引き寄せられるかの様に、その音の発生源へと向かう足を止めることは出来なかった。
それはまるで美しい絵画の様だった。物語の中の騎士が現実の世界へと現れたのだ、と言われれば信じてしまう。そんな程完成された剣舞をしている男の人が居たのだ。
「綺麗」
自然と、言葉にしなければならない様な気がして、勝手に口が動いていた。私は少しして自分が言葉を発したことに恥ずかしさを覚えたが、物語の騎士様の様な彼は気が付いていないようだった。
私がその舞に見惚れていると、彼の舞はどんどんと美しさを増していった。そこで漸く気が付く、あの様な持ち上げる唯それだけで握るものを選ぶような大剣を、まるで枝のように振るっている事に。
なんという事だろう。力任せに、何も考えずに振っていたのでは、あの様に自然に、枯れ枝を振るうように大剣を振るのは不可能であろう。
それに至る程の研鑽とはどの様な物だったのであろうか。どれほどの歳月を費やし、どれほどの情熱を捧げればあの様に剣を、それも大剣を振るえるのか。私には全く見当が付かなかった。
それと同時に、私は自分がとても恥ずかしくなった。今思えば私は常に何かから逃げていたのだ。何か、とは失敗、である。
失敗したから私には向いていない、才能がない、努力しても意味がない。そんな言葉で何度自分から、可能性から逃げていたのだろうか。
もし、パン屋でずっと働いていれば今頃立派に店員をやれていたかもしれない。もし、食堂でずっと働いていれば今頃は看板娘に成れていたかもしれない。もしもしもし、かもかもかも。けれどそれは私が選ばなかった未来。
他人の優しい言葉に、甘えていた自分が掴もうともしなかった未来。優しい人は大好きだ、父も母も優しく、私の周りには、人生には優しい人ばかりだった。
でも、そんな言葉に甘え続けて、自分の人生から逃げ出すのは、余りにも甘え過ぎていた。辛い時、どうしても駄目な時に甘えてしまうのはしょうが無いことだろう。
むしろ考えを切り替えて、次のステップへとスムーズに移行できる、良いストレスの発散になるだろう。
でも、それをずっと続けていては駄目なのだ。彼らは何処まで行っても他人なのだ。自分の人生をどうにかしてくれる神様でも無いし、自分の人生に責任を取ってくれる事など絶対にあり得ないのだ。
自分の人生は何処まで行っても、自分で選んで、体験して、時に失敗して、成功もして、そんな事を繰り返しながら変化と成長を重ねていくしか無い。
彼の剣舞はまるで、それを教えてくれている様だった。
不意に彼と目線が合い、彼の動きが止まる。それはどの位の時間だっただろうか。一瞬だった気もするし、数分経っていた様な気もする。
そして私はこの運命を、今度こそ逃げてはいけないのだと、ここで逃げたらきっと私は一生逃げる人生を送る事になるのだと直感した。
けれど、何を言えば良いのだろうか。正しい言葉を言えるだろうか。いや今までそうやって失敗を恐れて逃げて、考えてきたのが私の人生だった。
今は正しさを求めるのではなく、後悔をしないために。だから私は後先考えずに頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「私を弟子にして下さい!!!」
私の運命は回りだした気がした。
「私強くなりたいんです!ししょーの剣舞、すっごく綺麗でした!!私もそんなふうに剣を振りたいです!!」
「…ああ」
一度、自分の思いを口に出したら、もう止まることは出来なかった。彼はまだ私を弟子にしてくれるとは言っていないにも関わらず、師匠と呼んでしまった。
けれどきっと、間違いじゃないし、彼は断らない。素直になった途端なんだかそれが分かる様な気がする。
「私の家は父が亡くなってからお金が無いんです…弟と妹の為にも強くなってお金を稼ぎたいんです!!」
「…そうか」
それでも、なんだかまだ前の自分も残っていて、変わりきれていない。不安な部分が顔を覗かせて、彼の同情を誘うような事を言ってしまう。
けれども、これも“私”なのだと思う。完璧じゃなくて、失敗もして、そしてどんどんと変化していく。今まで逃げていた私から少しだけ“変わった”私。
なんだか心地よかった。
「どうでしょうか、私を弟子に…してくれませんか…?」
「…分かった」
「!!良いんですか!!ありがとうございますししょー!!」
きっと断らないと思っていたけれど、いざ彼に弟子にしてくれると言われた時は、喜びが爆発してしまった。
こんなに自分の気持ちを出したのは生まれて始めてだったかもしれない。きっと今までの自分は無意識に感情を抑え込んで逃げていたのだろう。逃げない、と唯それだけを決めただけだったけれど、恐らくそれは私の人生の必要な一ピースだったんだ。
「…俺の真似をしろ」
「はい!ししょー!!」
彼はそれだけ言うと、剣舞を始めた。真似をする。正直、彼の美しすぎる剣舞を私が模倣出来る訳がないって思った。でも逃げないって決めたから。
私は私が出来るなりに剣を振り始める。彼の大剣とは違った、短く薄い剣。もしかすると彼に違うと怒られるかもしれない。そんな恐怖心もあったけれど、彼は怒ることも褒めることもせずに、唯唯剣を振っていた。
なんだかそれが心地よくて、私は彼を真似しながらも、自分なりに自分のペースで剣を振り続けたのだった。
そろそろ日も落ちる。そんな時間になって彼は剣を振るのを止めた。その彼の動きつられて、私も剣を振る手を止める。
そして彼がポツリと、なんでもない様に呟いた。
「よくやったな」
それは怒りでも慰めでもない。ただ単純な労りの言葉だった。なんだか今まで掛けられた事のない種類の言葉に、私の胸の中は人生の中で一番の温かさに包まれていた。
素振りをちょっと見ただけで脳焼かれすぎでは??