田舎で剣だけ振っていたい   作:深海 星

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お待たせしました。


13 ある日森の中で出会った2

「…名前は?」

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね…」

 

 師匠にそう言われて、私は初めてまだ名乗ってすらいなかった事に気が付いた。少々突っ走り過ぎたのかもしれない。なんだか少し恥ずかしくなってきた。

 

「私、マリー・ベルマーです!マリーって呼んで下さい!!」

 

「…クロ・スミスだ」

 

「はい!よろしくお願いしますね、ししょー!!」

 

 師匠は帰りながら魔物を狩ろうと提案してきてくれた。きっと私が家族の為にお金が必要だと言ったからだろう。師匠のその気遣いは嬉しかったけれど、同時に申し訳なくもあった。

 それに…私は正直に言って、まだ魔物と戦う覚悟が出来ていなかった。けれど、私はもう逃げない事を決めた。それに師匠も一緒に戦ってくれるのだ。ここで逃げていては今までと何も変わらない。

 師匠の言葉に従って着いて行けば、少し先に大きな角を持った鹿型の魔物、ディアホーンが居た。ディアホーンは七級の魔物だ、今の私一人では逆立ちしても敵わない相手だった。

 

「…教えるから、狩ってみろ」

 

 師匠のその言葉に驚きのあまり、すぐには返事を返せなかった。てっきり私は殆ど師匠が狩ってくれるものだと思っていたが、師匠は私に自分で狩らせるつもりだったのだ。

 

 無理だ…ディアホーンなんて普通に死人が出ても可怪しくない様な相手だ。とても私一人で倒しきれるとは思えない。

 そんな私の不安を見透かしたかの様に師匠は言った。

 

「…罠を使え、毒を使え、弱点を狙え、筋を狙え、目鼻を効かなくしろ…そうすれば力が無くても倒せる」

 

 そう端的に言うと師匠は教えてくれた。まずは魔物の逃げる先に罠を置く。少し柔らかくなった地面に先を尖らせた木の棒を突き刺す。その木の棒の先には、魔物にも効くような毒性の植物から毒を採取し塗る。師匠はやり方は教えてくれたが、作業はすべて私にやるように言ってきた。

 その言葉に迷いはなく、一朝一夕で身につけた技術では無いことが伺えた。剣だけじゃ無くて毒や罠の知識にも詳しいなんて、本当に師匠は凄い。

 

「…俺が魔物を追い立てる、罠に掛かったら後ろ足の筋を切って離脱しろ」

 

 そう言って私に短剣への毒の塗り方を教えると、師匠は魔物の方へと駆けていった。私に出来るだろうか、簡単な事だと師匠は言っていたけれど。

 私の心臓はまたその動きを強めて、存在を強調していた。師匠は出来ないと思ったら、すぐに逃げて良いと言っていた。でも私は絶対にもう逃げないって決めたんだ!!

 

 私の覚悟は完了した。

 

 少しして、魔物の声が此方に向かってくるのが聞こえる。予定通り師匠が追い立ててくれたのだろう。心臓の音は驚くほどに静かだった。

 ディアホーンが必死に逃げているにも関わらず、静かな足音で此方へとやってくる。そして罠を踏んだ。

 

「キュゥゥゥゥウウウ!!!」

 

 悲痛な叫びをあげて、ディアホーンは飛び上がる。ここだ。

 

「あああぁぁぁぁあ!!」

 

 覚悟は決めたけれど、怖いものは怖い。そんな恐怖心を紛らわすように叫んで、私は短剣を着地したディアホーンの後ろ足、その付け根に思いっきり刺した。

 

「ギュアアアア!!」

 

 短剣を突き刺したとたん、余りの痛みに耐えきれなくなったのだろう。ディアホーンが思いっきり暴れた。そしてその角が私の胸を突き刺さんとばかりに迫ってきた。

 死んだ…まさか、こんなに上手く行っていたのに最後の最後でミスをするなんて。師匠は刺したらすぐに逃げろと言っていたのに、私が上手く行った事に気を取られてその場から動かなかったから…

 私が死の覚悟を決めたその時

 

「良くやった」

 

 そう言って師匠は私を引っ張った。ディアホーンの角は空を切って私は助かったのだった。

 ディアホーンは一頻り暴れた後に息も絶え絶えと言った感じに倒れた。まだ生きているが、それも時間の問題だろう。

 

「お前がトドメを刺せ」

 

 師匠は腰のバッグからナイフを取り出して、私に渡してきた。きっと私がとどめを刺す事で自分の力で狩ったのだと、自信を持たせる為だろう。

 私はそのナイフを受け取って瀕死のディアホーンにとどめを刺した。

 

 

 

 

 

 

 ディアホーンを狩った帰り道。私は少し気になった事があった。それは師匠が私の名前を呼んでくれない事である。

 言葉は少ないが、この優しい彼に名前を呼んでもらいたいと思うのは自然な事だろう。

 

「ししょー、マリーって呼んで下さい」

 

「…ああ」

 

「ししょー呼んで下さい」

 

「………ああ」

 

「マリーって呼んで下さい」

 

「……………マリー」

 

「!!…ふふ、今度から絶対に名前で呼んでくださいね!」

 

 彼にちょっと強引に名前を呼んでもらう事に成功し、私は上機嫌で町へと戻った。

 ギルドに寄って、魔物の素材を売って、次の日の約束もしてその日は別れた。いつもよりもかなり多くのお金を手に入れる事ができた。家族へのお土産を買い、軽い足取りで家路についた。

 

 

 

 

 

 

 朝、昨日師匠に教えてもらった宿の外で師匠が出てくるのを待っていた。今はまだ朝の六時だ。よく考えると、早く師匠に会いたくて早く来すぎたのかもしれない。

 でもお部屋まで伺うのはまだちょっと恥ずかしいし、もしまだ睡眠中なら師匠の休息を邪魔してします。私はモヤモヤと考えながら唯ひたすらに待つのであった。

 

「おはようございます!ししょー!!今日もよろしくお願いしますね!!」

 

 結局師匠が出てきたのはニ時間後の事だった。私は師匠の顔を見るとなんだか嬉しくなって、声を掛ける。なんだかテンションが上っていて気が付かなかったが、師匠の後ろに小さな女の子が居ることに気が付いた。

 

「…弟子が居たの?」

 

「はい!昨日から弟子にさせて頂きましたマリーです!!お仲間の方ですか?よろしくお願いします!!」

 

 すっごく可愛い子だ。髪の毛もキラキラしてて綺麗だし、声もとっても可愛い。師匠と一緒に出てきたし、最初は妹さんかと思ったけれど、動きやすそうな薄手の服に私と同じ様にグローブをしていたし、きっと同じパーティーの仲間なのだと当たりをつけた。

 

「…私はノノ。よろしく」

 

「ノノちゃんですか!!可愛いですね!!よろしくお願いします!!」

 

 その女の子、ノノちゃんが自己紹介をしてくれた。余りの可愛さに私は彼女の頭を撫でていた。少し嫌そうな顔をしていたので、失敗したかなって思ったけれど、すぐに気持ち良さげな表情をしたので安心して撫で続けた。

 ノノちゃんも森に着いてくると言うので、私は妹にする様に手を引っ張って歩く。なんだかちょっと不満そうな顔をしていたけれど、この位の年頃の子はそんなものだろう。顔とは裏腹に素直に歩いて着いてきてくれてるので問題無い。

 きっと甘えたいけれど、甘え方が分からない、そんな子なんだと思う。

 

「と、言うわけで、昨日ししょーと出会って私は弟子にして貰うことになったのです!!」

 

「…確かにクロの剣は綺麗」

 

「そうなんです!それに強くなれば弟達にも美味しいものを食べさせられるので!!」

 

 昨日と同じ場所に行くようなので、道すがら昨日の事や自分の事をノノちゃんにも話す。やっぱり師匠の剣はノノちゃんから見ても綺麗なんだな。自分の事では無いけれどなんだか嬉しくなる。

 ふと、ノノちゃんがどの様に戦うのか気になってので聞いてみる。彼女は武器になるような物を持っていないけれど、罠を使って戦うのだろうか?

 

「…私は、ストライカーだから。殴る」

 

 そう言ってノノちゃんはファイティングポーズをとる。その動きは洗練されていて、きっと嘘では無いんだと思う。でもちっちゃいノノちゃんが『しゅっしゅっ』と言いながらポーズをとっているのを見ると、なんだか物凄く微笑ましいく思える。その余りの可愛さに私はまた、彼女の頭を撫でる。

 そうしていると、ノノちゃんが師匠の腰の辺りをぽこぽこと叩き出した。

 

「…なんだ」

 

「クロ、何か変なこと考えてる」

 

「…いや」

 

 なんだか親子のやり取りを見ているようで、少しお父さんの事を思い出してしまった。師匠がもし、私のお父さん…いやお兄ちゃんだったら、私ももっと…

 そんな考えを振り払うように二人に声を掛ける。

 

「お二人共仲が良いんですね!!」

 

「…うん、私とクロは仲が良い」

 

「…ああ」

 

 なんだか二人を見ているととても心が温まる。私は幸せと少しのもやもやした気持ちを抱えながら、二人のやり取りを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 ノノちゃんが魔法についての事を教えてくれたので、私達は魔法の練習をすることにした。ギルドの魔法使いの人も言っていなかった様な事を聞いて、もしかしたら私も魔法が使えるかも!なんて思っていたのだけど…

 

「うまく出来ないですね…」

 

「イメージが大切…らしいから、上手く想像出来てないのかも…」

 

 ノノちゃんとあれこれ試しながら試行錯誤していたけど、一向に魔法が使える気配が無かった。ノノちゃんも使えるのは身体強化魔法だけらしく、攻撃魔法の使い方はさっぱりだと言っていた。

 その身体強化魔法もなんとなく使えるものらしく、使い方を聞けば『強くな~れ』とか『えいっ』って思ったら出来る、なんて具体的な使い方は本人にも分かっていないようだった。

 う~ん、そういえば師匠はどんな練習をしているのかなと、思って師匠の方を見る。

 

 師匠の剣が光を纏っているように見えた。

 

 その光がマナによるものだったのかは分からないけれど、これはきっと師匠からのヒントなのだと、私は直感的に理解した。

 そもそも私は魔法がどの様に発現するのかを、全く持って想像できていなかった。手から出るのか、空中に出るのか、そもそもマナにイメージを伝えるってどうやって?そんな事ばかりを考えていた。

 でも、きっと大事なのは自分が何を思うか、だと思った。私は師匠みたいな剣を振りたい。でも私の筋力ではきっと、あんな大剣は振ることが出来ないし、魔物を一刀両断することも出来ないだろう。

 

 

 でもやりたい。そうなりたい。

 

 じゃあ、私の使いたい魔法ってなんだろう?斬れる魔法。じゃあ風魔法かな。何処から出す?私は斬りたい。じゃあ剣から出せたら師匠に少しでも追いつけるかも…

 やることは決まった。師匠を見ていたらイメージもなんとなく分かった。後はやるだけだ。

 

「はぁっ!!」

 

 私は『斬る』と強い思いで思いっきり剣を振るった。すると風が吹いたかと思った次の瞬間に、目の前に在った木がスパッと両断された。

 

「えっ…」

 

 今のは私がやったのだろうか。なんだか現実感が無くて自分の手と木を交互に見る。なんど見ても剣では到底伐る事の出来ないような木が、綺麗に両断されていた。

 

「…よくやった」

 

「…!!師匠!ありがとうございます!!」

 

 気が付けば近くに居た師匠に労いの言葉が掛けられる。きっと師匠は私が出来るって分かってたんですね…!自分から言葉に出さずに、気が付かせて学ばせる。

 師匠はすべてを教えずに私の考える力を試していたんだ…!!やっぱり師匠は凄い!!!一生着いていきます!!!

 

「ノノちゃんもありがとうございます!!魔法が使えるようになったのもノノちゃんのお陰です!!」

 

「…私は何もしてない…マリーの才能が凄い」

 

 私はノノちゃんと一緒に喜びを分かち合った。




もっと簡潔に書いて一話にまとめて話を進める予定だったのに、気が付いたら長くなってました。
マリーちゃんが思った以上に動きますね。
今後もうちょい話を進められる様に書きたいなって思いますが、主人公視点以外も好きなので、なんかこう…上手いこと書けたらなって思います。
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