田舎で剣だけ振っていたい   作:深海 星

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最近ちょっと忙しくて投稿遅れてます。
そろそろ落ち着くんでまたいっぱい投稿します。
ごめんね。


17 ダンジョンの強敵

-----ノノside

 

 私のお父さんは優しい人だった。いつも自分のことよりも家族の事を優先する様な人だった。そんなお父さんの事が私は大好きだった。

 私は好奇心が強い。本を読むのも好きだし、実際に世界を見るのも好き。

 だから私は我儘を言ってお父さんに森での狩りや、知識を教わっていた。特に脅威になる魔物が出る訳でもない、森の浅い所での狩りだった。

 危険なんて無い筈だった。普段森を見回っている警備隊が見逃したのか、私とお父さんは大型の魔物と遭遇してしまった。

 きっとお父さん一人であれば、何事もなく逃げ切れたと思う。でも、小さい私を庇いながら逃げるのは無理だった。

 何とか私を逃し、私が村の警備隊を連れて戻った時には、お父さんはもう…その日から私はお父さんの死を忘れる様に体を鍛え始めた。

 どれだけ強くなっても、あの時の魔物を倒せる様になっても村にいるとお父さんの事を思い出してしまう。

 もう数年で成人になる。村を出ても一人で何とか生きて行けるだろう。私は村を出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 クロと出会った時、私は彼の筋肉に惹かれたのだと思っていた。けれど、彼と接する内にそれは違ったのだと気が付いてしまった。

 私は確かに筋肉が好きではあるが、今までも筋肉が凄い冒険者には何人も出会ってきた。けれども、クロ程惹かれた事は一度もなかった。

 何故彼に惹かれたのか、最近になって漸く答えが分かった。彼はお父さんに似ていたんだ。口数は少ないけれど、優しさが滲み出ている所が似ていたんだと思う。

 それを自覚した私は彼に甘える様になってしまった。昔お父さんにしてもらった様に、添い寝をしてもらいたくなり、けれど面と向かって頼む事は出来なかったので、ブレイブに言って彼が寝た後に部屋に入れてもらった。

 マリーと三人で森に行った時に、彼が一人で向かった方向から竜の叫びが聞こえた時は、気が気で無かった。余りにも何事もなく戻ってきて、私は安心した。

 そして今日、ダンジョンの中で彼が竜の強襲を受けた時。またあの日の事がフラッシュバックした。

 そのまま壁の中へと消えてしまって、本当はすぐにでも彼の事を追いたかったが、ブレイブのお陰で何とか踏み止まった。確かに、谷間に落とされた時もクロのおかげで助かった様なものだ。

 彼程の実力が有れば、お父さんの様にはならないだろう、とどうにか自分を納得させた。

 最上階に着き、胡散臭い男が彼に竜を嗾けた犯人だと分かった時、私はもう我慢が出来なかった。

 

「お前がクロを…!!!」

 

「クロが何かは存じませんが…だとしたらどうだと言うのですか?」

 

「…殺す!」

 

 私は思い切り地面を蹴り、ありったけの身体強化で殴りかかる。必殺の一撃。これを受けて無事で居られる筈は無かった。

 

「はは、大した強化量ですね。ですが、余りにも未熟」

 

 余りにもあっさりと、子供をあしらう様に私の拳は止められた。左の掌でがっしりと。

 

「では、こちらの番です。力の込め方を教えてあげますよ」

 

 男がそう言った瞬間、右手で拳を作る。その右手に尋常では無い量のマナが集まる。まずい、これは死んでしまう。

 何とか掴まれている手を振り解こうとするが、万力に挟まれている様にぴくりとも動かない。

 

「まずは一人」

 

「させるかよ!」

 

 男が振るう拳は、途中で軌道を変え宙を切る。アキラが剣で拳を弾いたのだった。

 

「ふっ!!」

 

 アキラはそのまま男の左腕を切り落とさんと剣を振る。

 

「おっと、危ない」

 

 男は私の手をぱっと離し、既の所でそれを交わす。アキラがそのまま連撃で襲いかかるが、男はひらりひらりと攻撃を躱している。

 

「ノノ!大丈夫かい?」

 

「…なんとか、平気」

 

「あの男は相当な手練れです。連携して倒しましょう」

 

「…分かった」

 

 今はなんとかアキラが耐えているが、それも時間の問題の様に思えた。恐らくあの男は遊んでいる。私のことも殺そうと思えば手を掴んだ時点で殺せた筈なのだ。

 ヤツは遊んでいる。何故遊んでいるのかは分からないが、自分が一切死ぬことが無いと確信でもしているかの様に余裕があるのだ。

 

「そろそろ面倒ですねぇ…貴方」

 

 男は何時までも止まることのないアキラの攻撃に、業を煮やしたのかその悍ましさすら感じさせる綺麗な顔を歪ませると、回避一辺倒だった動きが一変し、アキラの剣戟を上に弾く。

 

「なッ!?」

 

 アキラは剣こそは落とさなかったものの、その衝撃により腹部ががら空きとなっていた。そのがら空きとなった腹部に男は拳を振り抜く。

 が、その拳がアキラに届くことは無かった。

 

「兄さんには触れさせない」

 

 いつの間にか男に接近していたヨウが、その拳の方向を変えたのだ。急に拳の方向を変えられて、たたらを踏んだ男の隙をついて、今度はツキが斬撃を放つ。

 だが、明らかに避けれるはずのないその体勢を、まるで逆再生をしているかの様に戻し男は避けた。その間にアキラも体勢を整え直す。

 

「んも~!攻撃当たんない!」

 

 ツキは攻撃を二度三度と繰り返して居たが、やはり攻撃は一向に届く気配が無かった。

 

「データ魔法。複製」

 

 データロウがそう呟くと、彼の周りをマナが覆う。次の瞬間にはマナが頑丈そうな鎧と成って体を覆っていた。その手には同じくマナで作ったであろう斧まで携えている。

 

「ほお、面白い魔法を使いますね」

 

「面白いだけじゃ無いぞ」

 

「!!」

 

 男の表情が初めて少しだけ崩れる。それも無理はないだろう、鎧を纏った筈のデータロウの動きがノノ程では無いとはいえ余りにも素早かったのだ。

 データロウの攻撃を、今までとは違い受け止める。が、それは片手での事であり、更には軽々と受け止めていた。

 

「ちっ、これでも駄目か」

 

「少し面白いですが…それだけですね」

 

 受け止めていた斧を、掴んでいる手に力が入った様に見えた。その瞬間には斧は飴細工の様に簡単に砕け散り、マナへと戻っていく。

 鎧もマナへと戻し、データロウは再び距離を取り、私達に近づいてくる。男はデータロウに追撃を加えようとしていたが、ツキとヨウが立ち塞がり、見事な連携で男に攻撃を与えんとしていた。

 

「ブレイブとノノだったな。ちょっと良いか?」

 

「…うん大丈夫」

 

「ヤツは基本的には攻撃を避けている。なのに何故か僕とノノの攻撃は避けなかった。」

 

 確かにそうだと、私とブレイブはデータロウの言葉に頷く。私達が理解している事を確認して、彼は言葉を続ける。

 

「恐らくヤツは避けなかったんじゃなくて、避けれなかったんだ。僕はそこに攻略の糸口があると思う」

 

「確かにそうだ。でもノノの攻撃も君の攻撃も簡単に防がれたじゃないか、避けられてなかったとして、そこから先はどうするんだい?」

 

 そう、ブレイブの言う通りだ。仮に避けられなかったとしても、攻撃が防がれることに違いは無いのだ。ダメージを与えられないと言う点では同じことだ。

 だが、データロウはニヤリと笑うと、そこでこの作戦だと話してくれた。彼の作戦は単純だが、だからこそ効果的で、同時に現状を打開するにはそれしか無いと思った。

 

「…分かった、やる」

 

「そうだね、それに賭けてみよう」

 

「ああ、よろしく頼む。そろそろアキラ達も限界の様だ。次、彼らの攻撃が途絶えた時がチャンスだ」

 

 やることが決まって。私の気合も入る。けれど、先程からマリーがやけに静かなのが気になった。初めてのダンジョンで此の様な強敵に相対するのだから無理も無いが…一応声を掛けておいた方が良いだろう。

 

「…マリーは安全第一で、大丈夫だから」

 

「あっ、ノノちゃん…ありがとうございます…」

 

 だが、彼女の反応は恐怖している人間のそれでは無く、寧ろ逆の様に感じた。

 

「…どうかした?」

 

「えっ、と。あのですね」

 

 彼女が何かを口にしようとしたその時。そろそろだと、作戦開始が近いと声を掛けられる。

 

「…無理しないでね」

 

「えっと、あの、ノノちゃんも!」

 

 何かを言いたそうにしていたが、此の短い時間では無理だと悟った彼女の言葉を受けて、私は構える。

 最初の攻撃の時とは違って、感情に流されない、静かで完璧な身体強化。あの時は力任せに強化してしまったから、今度はしっかりと全身にマナを流し、力を開放するようなイメージを伝える。

 あの男の腹に風穴を開ける様に。強く強くイメージする。きっと…いや、間違いなく今までで一番の強化量だ。それでもきっとあの男には届かないだろう。

 

 だが、それで良いのだ。

 

「今だッ!」

 

 データロウの合図で、私は力を開放する。最初の時とは比べ物にならない力で地面を蹴り、音を置き去りにして男の元まで飛んでいく。

 男は驚愕の表情を浮かべたが、それも一瞬の事だった。私はお構いなしに拳を叩き込む。が、やはりまるで男だけが“別の時間”を動いているかの様にその拳は受け止められる。

 反対側では、私に遅れて鎧姿のデータロウがヤツに攻撃を加えんと斧を振り下ろすが、やはりそれも止められる。

 

 だが、それで良かった。

 

「はは、早ければ私に攻撃が届くとでも…」

 

 ヤツが言葉を話そうと、口を開くがもう遅い。ヤツの後ろにはブレイブが居た。彼はその剣を男の背に突き立てると、クロと開発した必殺技を放った。

 

「エクスプロージョンスラッシュッッ!!!」

 

「!?!?」

 

 瞬間男の体内から炎が吹き出し、体内を焦がし尽くす。そして、私達の作戦の意図を汲んだアキラがその首を斬り落とした。

 これがデータロウの作戦だった。私と彼の攻撃であれば、防げはするが避けれない。だが、防げばその瞬間に男の手は埋まり、隙が生じる。その隙を突き攻撃を加える。

 そんな単純な作戦だったが、思いの外上手く行ったようだ。これで私達の勝ちだ。

 

 皆が安堵し、ブレイブがその魔法剣を抜こうと体を動かそうとしたその瞬間だった。

 

「あ~あ、本当に小賢しいねお前らは」

 

 斬り落とした頭から声が聞こえる。それは先程までの男の声と同じものだったが、丁寧な喋りから一転して、不愉快さを隠そうともしない悍ましいほど純粋な言葉だった。

 

「ブレイブさんッ!!」

 

 想定外の場所から声を発せられて、呆けていた私達の中で一番早くに反応したのはマリーだった。

 

「!!がッ!!!」

 

 だが、その声を聞いた体が反応するよりも早くに、首を失った男の体が動きブレイブの首を締め上げる。

 

「はぁ~…正直君たちなんてどうでも良かったんだけど…ちょっと不快だよね」

 

 男の生首が逆再生をするように、元ある場所へと浮いていく。そして何事も無かったかのように綺麗に元の状態へと戻っていた。

 

「このコソクザ様に逆らおうなんて…」

 

 コソクザと自分を呼んだ男が口を開く度に、周りのマナの濃さが増していく。そのあまりにも異様な雰囲気に飲まれ誰一人として、声すら出せなかった。

 いや、一人だけ、居た。

 

「そんな偉そうな奴には見えんけどなッ!!」

 

 アキラだけはこの場の雰囲気に飲まれずに、なおもヤツに、コソクザに攻撃を加えようとしていた。

 

「あ~、もうそういうのいいから」

 

「は?」

 

 コソクザが声を発すると、アキラの動きが空中で完全に止まる。困惑する私達をよそに、男はアキラの元まで歩くと、思い切り拳を叩きつける。

 アキラは壁まで勢いよく飛ぶと、苦悶の声をあげて動かなくなる。

 

「お兄ちゃんっ!」

「兄さんっ!」

 

 ツキとヨウが心配そうに声を掛けるも、男から発せられるプレッシャーで体は動かせない様だった。

 

「はぁ…あの方に捧げるにはお前たちは弱すぎるけど…まあいいだろ」

 

 悍ましいプレッシャーがどんどんと高まる。辛うじて周りを見るが、もう誰もまともに立って居られない様だ。

 

「お前たち、死ねよ」

 

 ああ、ここで私達は死ぬのだと、皆が覚悟した。

 

 バキンと何かが割れるような砕けるような音がした気がした。

 

 その次の瞬間、悍ましいほどの濃さを持っていたマナが霧散していくのを感じる。何が起こっているのか理解しようと周りを見渡す。

 一目で変化が起こっていると分かる者が目の前に居た。

 

「は…?はああああああ!?!?何で?結晶が、変換結晶が機能しなくなったんだ!?!?」

 

 それは先程までの悍ましさは全く感じない。ひょろひょろでガリガリのコソクザの姿だった。

 

「ああ!?転移も出来ない!?!?なんでなんでなんで!?!?!?意味が分からんだろ!!!!」

 

 あまりの姿の豹変っぷりと、言っていることの意味不明さに皆が動けないで居る。今回も最初に反応をしたのはマリーだった。

 

「ノノちゃんっ!」

 

「ッ!!」

 

 その一言で私はやるべき事を思い出す。今は何が起こっているか原因を探して居る場合では無い。何故かは分からないが確実に弱っているコソクザを討伐する事だ。

 もう余り残っていないマナを振り絞り、身体強化をして地面を蹴る。

 

「ああ!?じかnブッ!?」

 

 コソクザは私のする事に気が付いた様だったけれど、先程までとは違って何の問題も無く攻撃が当たる。その勢いのままにコソクザは壁に激突した。

 

「くそっ!!巫山戯るなッ!!この俺様がッ!!」

 

 ダメージは入っているけど、まだまだ動けるようだった。他の皆も私の攻撃を見て、気を取り戻した様だ。コソクザに攻撃を仕掛けようと、構える。

 

 その瞬間、壁の向こうから巨大な剣が現れて、コソクザを一刀両断した。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"!?」

 

 両断されたコソクザは情けない悲鳴をあげて絶命した様だ。その体はミイラの様にカラカラに干からびていった。

 皆が、その光景に意味が分からないと目を白黒させていると、その剣の向こうから一人の男が姿を表した。

 

「…斬った」

 

 私はその姿を見て、安堵の余り涙を流してしまった。その男は全てを理解していると言わんばかりに、端的に言葉を発した。

 

「…終わった」

 

 それは紛うことなきクロの姿だった。生きているとは思っていた、いや思わずには居られなかったが本当に生きていたのだ。それも、恐らくコソクザが急激に弱ったのは彼のお陰だろう。

 彼はお父さんとは違う。きっと彼ならば、私を置いて死ぬことは無いだろう。もう私の心の中は色々な感情でぐちゃぐちゃだったけれど、取り敢えずクロに抱きつく事にしたのだった。

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