「こんな田舎に人なんて珍しいねぇ~、ゆっくりしていってねぇ~」
「…ありがとう…ございます」
この様な険しい山の中で人の声、それもこの様に平和な状況で聞くとは思っていなかったので驚きで最初声が出なかった。声を掛けてきたのは五十代くらいの麦わら帽子が似合うナイスガイだった。
割と常にいつも冷静沈着であると自負している自分が、ここまで呆けてしまうとは思ってもいなかったのだ。しかし一つ(本当は一つではないが)気になることが在るのでこの恐らく推定村人であろうナイスガイに聞いてみることにした。
「すみませんが、一つ気になることがあるのですが…」
「なんだぁ~?何でも聞くと良いよぉ~」
「私はここまで幾度となく魔物に襲われたのですが、この村は大丈夫なのでしょうか?」
それは当然の疑問であった。仮にも帝都ではある程度名のしれた魔法剣士だったのだ。その自分がここまで苦労して登ってきた(途中から道が分からなくなって下りられなかった)山中に村が在ったのである。
「ああ、それはねぇ~。ほらあれ」
そう言ってそのナイスガイは入口に在った骨を指さした。
「あれはねぇ、俺らの祖先が倒した竜の死骸でねぇ~。その死骸に残った竜の匂いにビビって魔物はまともに近寄らんのよぉ~」
なるほど。確かにあの骨は見ただけでそれが何者で在ったのかが伺いしれた程の圧力を放っていたのだ。ソレにその辺りの魔物が恐れを為すというのも納得である。そう考えていると村人は更に言葉を続ける。
「それに…その辺の魔物なら子供以外はみんな倒せるよぉ~」
どうやらここは化け物どもの巣窟で在ったらしい。久しぶりに魔物に襲われない安全な場所に来て私は安心していた。正直山を登れば登る程マナ酔いだけではない体の重さを感じていたので助かった。この山に来たことに後悔は無いが、同時にここは私にはまだ手に負えない場所だとはっきりと感じていた。
今はこの村人に着いて行って休ませてもらうのが得策だろう。自分の家で休んで良いと言う村人に着いていき私はこの村を案内されるのだった。
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「旅の人間…?」
俺はティナの言った事が一瞬分からずに聞き返してしまった。このクソ田舎に旅?なんにも無いのに?秘薬になる花が咲いてるというのも聞いたことが無いし、貴重な鉱石が出てくるという話もない。
取引したくなるような工芸品を作っているという事も無いのだ。それ故に全くと言っていいほどこの村には人が来ない。というか覚えている限り人が来るのは十年ぶりくらいでは無いだろうか…その時は確か老齢な剣士の男が来て何やら村の外で大きめのトカゲを倒して帰っていったそうだが…
「うん。このクソ田舎に旅?みたいな顔してるけどそうみたいだよ」
「そ、そうか…」
俺はたまに妹が怖くなる。何故か顔を見ただけでこっちの考えていることを察してくるのだ。まあコミュニケーション雑魚の俺には有り難いのだが…それとも普通の人間とはこれくらいの事は顔を見れば分かるのだろうか?人との交流を苦手としている俺にはきっと一生分からないのだろう。そうして俺はまた剣をブンブンと振る作業に戻る。
「おにいちゃんよくその重たい棒を振れるよね」
「棒ではなくて剣だ」
「う~ん、でもそれおにいちゃんの身長くらいあるし私の体より太いよ?剣と言うにはあまりにも…」
「剣だ」
「剣だね~」
全く、これは剣なのだ。確かにまともな切れ味はないし、切るというより叩きつけるようになるが…その上素振りの負荷を求めてどんどんと大きくしていった結果なんか大きくなってしまったのだ!
…まあ俺の愛剣がもはや切る機能がほぼない叩きつけるだけのハンマーと化しているとしても、俺は決して認めない!これは…剣なのだ!!!
妹に圧を掛けて剣と認めさせたところで村に見慣れない人間が歩いてる事に気がついた。平均的な男性の身長よりも少し高い背丈、赤色の腰ほどまでに伸ばした髪、黒のローブ、黒の服、黒のズボン…なんか黒多いな…そして背中にある一振りの剣。ふとその男の赤い瞳と目が合った…あ、まずいすっごい嫌な予感がする…
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やけにのんびりしたナイスガイに村を案内され、村を見ていた。この様な山の中にあるというのに村はあくまで田舎の村の範囲でだが、普通に栄えており生きていくのに何か不自由しているとは思えなかった。
そして、村の人間が魔物を普通に狩っていると言うのも本当なのだろう。村に在る物の殆どに魔物の素材が使われて居るからだ。
魔物を狩るのは命がけだ。それも生活に使おうと思うとそれなりの量が必要になる。通常の動物よりも狩りづらく、育てるのも困難な魔物の素材は基本的に値段が高くなる。
こんな村のちょっとした屋根の補修や壁の補修、服のワンポイントに使うなど帝都では考えられない。山の中に在る村なので自給自足になる、というのも関係しているのだろう。
そんな事を考えていた私の目にそれは飛び込んできた。短い黒髪、平均よりも高い背丈、そして何よりも目を引くのは剣と言うにはあまりにも…な鉄の塊を、その大きさの、重さの物をまるで木の棒を振るかの如く軽々とそしてあまりにも美しく振るう筋肉モリモリマッチョマンの若者の姿だった。
ひと目見て分かった…あれは運命。我が運命なのだ!!!
我が運命(小並感)