田舎で剣だけ振っていたい   作:深海 星

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19 恐ろしい男

------アーノルドside

 

 最近、どうもダンジョンの様子が可笑しい。他のギルド支部からも様々な報告が挙げられている。

 報告によると現在では殆ど人が寄りつかない、脅威度の低く見られていたダンジョンに異変が見られる場合が多い様だった。

 曰く、過去に確認された強力な魔物が再び出現した。曰く、マナの濃度が通常よりも濃くなっていた。曰く、“人形の影”を見た。等報告は多岐にわたっていた。

 だが、不思議な事にどのダンジョンもすぐに異変が収まってしまったのだ。

 その為派遣した調査隊も成果を持って帰る事も出来ず、ダンジョンの異変の謎は分からず終いとなっていた。

 

「分会長!緊急の報告です!」

 

 バタバタと音を立てて職員の一人が部屋に入ってくる。

 

「冒険者から地竜の素材が持ち込まれました。それもこのソノーヘン周辺にて討伐したと」

 

「分かった。恐らく本部からも報告のあった“異変”だ。すぐに調べるぞ!」

 

「はいっ!」

 

 遂にこのソノーヘンにも異変が起きたか。すぐに過去に地竜が存在したダンジョンが無いかを調べる。

 

「分会長!恐らくこれかと…」

 

「ふむ…」

 

 幸いにもそれはすぐに見つかった。

 そこは過去には強力な魔物や、財宝の存在によって多くの冒険者が挑んだとされるダンジョンだった。

 その様なダンジョンも、次第に財宝は無くなり、いつしか強力な魔物も現れなくなった影響で冒険者の寄りつかなくなってしまった様だ。

 恐らく異変が起こっているのはここで間違いないだろう。

 

「間違いないだろうな。今すぐに動かせそうな奴は居るか?」

 

「それが…現在うちの町の実力者達は一ヶ月後の帝都武闘祭に向けて殆ど出払ってます…」

 

「チッ…そんな時期か…」

 

 帝都武闘祭。三年に一度開かれるそれは国内外から腕自慢が集まる国の一大イベントだ。

 優勝者には多大な賞金と栄誉が与えられるが、出場者の殆どはその賞金が目当てだった。

 この武闘祭で自分の力を試したがる冒険者が多くこの時期は帝都以外の各地で冒険者が不足しがちなのだ。

 

「現在だと、二級冒険者パーティーが一組、彼らが地竜を討伐したパーティーでもあります。そして四級冒険者のブレイブとその仲間の十級冒険者が二人ですね」

 

「二級ってとあのなんたらお兄ちゃんとかふざけた名前のパーティーか…それで四級と十級?四級は兎も角十級は話にならんだろ」

 

「それが、その内の一人は例のイカナ山から来たという男です」

 

「成程」

 

 本来ならばどの様な危険があるとも知れない異変の起きているダンジョンに、一番下のランクである十級冒険者等送り込む訳にはいかない。

 だが、イカナ山の出身者だと言うのであれば話は別だ。あそこはまともな人間ならば一日として生きていくことの出来ない様な場所だ。

 強力な魔物は勿論だが、あの場所自体色々と曰く付きの場所でもある。

 あの山に人が住んでいるなど聞いた事も無いが、あの山特有の素材が持ち込まれた事は確認されている。

 素材買取場の場長が直接話したと言っていたが、その時の様子ときたらここ数年見た事が無い程上機嫌であった。

 彼の人を見る目は確かだ、幾度も才能のある冒険者を見抜いてきた。その彼があれ程評価するとは、間違いなく本物なのだろう。

 

「ならそいつらを向かわせる。後“ヤツ”も同行させろ」

 

「はい!すぐに使いを出します」

 

 取り敢えずはダンジョンに調査に行かせるメンバーは決まった。不安要素はかなりあるが、“ヤツ”を同行させておけば間違いはないだろう。

 他の支部の報告からも多少強い魔物と戦闘になった程度の報告しか上がっていない。ならば二級冒険者の彼等が居れば充分対処出来るだろう。

 どうせ何も分かり等しないだろう。そう思っては居るが、念の為の調査のつもりだったのだ。

 

 

 

 

 

 

「以上が報告だ」

 

「あ、ああ…」

 

 代表として報告をしにきた三人の話を聞いて俺は訳が分からなかった。

 マナが濃いとか強力な魔物が出るのはまあ良い、他でも報告されていた事だ。

 だが、ダンジョンに住み着いた人?が襲って来ただの、何かに使われていたであろう宝石だの、今まで未発見だった空間があっただの正直に言ってお腹一杯であった。

 それになりより殆どを解決した張本人がここに居ないのだ。

 意味が分からない。何故居ないのかを問うたら、「俺は何も分からない」と言ってたからだと?!んなバカな。

 

「コソクザと名乗った男の死体は買取場に置いて来た」

 

 データロウが淡々と報告するが、頭が全く回っていなかった。正直情報など何一つとして手に入るとは思っていなかったのである。

 なのに、これだ。次から次へと新情報が出てくる。頭が痛い。

 

「あ〜、分かった分かった。データロウ!お前は今日の事を何か報告書に纏めて置いてくれ」

 

「ああ、了解した」

 

 本来ならばその様な書類作業は冒険者の仕事では無い。だが、データロウはギルド所属の戦闘部隊兼、諜報部隊員であった。

 こいつさえ付けておけば、少なくとも死者が出る事は無いだろうと思って居たのだが、お陰で詳細な報告を受ける事が出来そうだ。

 だが、問題はクロとやらが見たと言う空間の事である。それはクロ本人に仔細に聞かねばならないだろう。

 ただでさえ報告量が多く、これからの仕事の事を思うと憂鬱である。そもそも俺だって元々は冒険者なのだ、書類仕事はそこまで得意では無いのだ。

 普段なら適当な職員に投げておけば良いが今回の仕事はそうはいかない…面倒くせぇ!

 

「データロウ!明日クロを連れてギルドに来てくれ聞きたい事が山程ある」

 

「了解した、分会長」

 

 だから後の仕事は未来の自分に任せる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、意外にも朝早くから二人は来た。昼ぐらいの時間に来ると思って居たが、面倒事は早く終わるのに越した事は無い。

 応接室の無駄に長い机を挟む様に座り、早速本題に入る。

 

「よく来てくれたなクロ。早速だが、昨日のダンジョンの事で聞きたい事がある」

 

「…ああ」

 

 気のせいかも知れないが、クロのヤツはなんだか余り機嫌が良さそうでは無い。

 まあ冒険者って奴等は基本そんなのばかりだ。一々気にして居ては分会長など務まるはずも無い。

 

「まずはお前が落ちたと言う空間の事だ」

 

「…分からない」

 

 此方が質問をするとヤツの視線が鋭くなる。余りの眼圧にまるで此方が質問をされている様な気分になる。

 

「まあ、コレはダンジョンの構造の問題だしな。分からなくて当然だな」

 

 正直ダンジョンの空間の事など分からなくて当然だ。自分の家では無いのだから。

 その辺りはやはり、調査隊を派遣して調べるしか無いだろう。

 だから、問題は次だ。こいつは何かの装置である可能性の高い宝石を“分かって居ながら”破壊しているのだ。

 

「お前はあの宝石を破壊したそうだが、何か知って居たのか?」

 

 現状あれはマナに関係する術式が組まれているであろうという、曖昧な事しか分かっていないのだ。

 少しでも情報を知って居れば儲け物である。

 

「…あれは嫌な物だ」

 

 だが、ヤツから帰ってきた答えはなんとも曖昧な物であった。

 だからこそ確信できる。こいつは何かを知っている、もしくは直感的に分かっているのだと。

 恐らくそれはイカナ山で暮らす者たちの間では良く知られているのかも知れない。

 なんとしても情報が欲しい。

 

「嫌な物だと?あれの正体を知っているのか?」

 

 そう、問い詰めるとヤツはただでさえ鋭かった眼光を更に鋭する。心做しかヤツからプレッシャーの様な物も感じる。

 何か不味い事でも聞いてしまったのか?

 

「…嫌な物だ」

 

 少しして口を開いたが、先程と同じく抽象的な答えだった。

 

「分かった。ならばもう一つコソクザと言う人物を討伐した時聞いたが、お前は何故その時壁の向こうにコソクザが居ることが分かったんだ?」

 

 俺が質問すると、更に奴の雰囲気が変わった。目を閉じ、大きく溜息を吐いた。

 そして再び目を開けるとヤツの隣に座るデータロウを一瞬だけ見て口を開いた。

 

「…ハエが」

 

「なっ!?」

 

 何だと?!まさかヤツは我々ギルドが諜報員を同行させた事に気が付いていると言う事なのか!?

 確かにヤツから見れば、新しく所属した組織に疾しい事をした訳でも無いのに諜報員を付けられたのだ。気分を悪くしてもおかしくは無い。

 此方にも理由があったとは言え確かに信用問題だ。すぐに謝罪をしなければ、ヤツは今後ギルドを信用してくれないかもしれん。

 

「す…」

 

「分からん。話は終わりか?」

 

 だが、謝罪の言葉は遮られたのだ。そしてヤツの向ける目が全てを物語っていた。

 謝罪など要らない。今後の行動で示して見ろと!!恐ろしい。ヤツには一体何が見えているのだろうか。

 俺は初めて同じ人間を恐ろしく思った。

 

「…ああ、時間を取らせて悪かった」

 

 俺がそう言うとヤツは席を後にする。部屋の扉が閉まり、完全にヤツの気配が消えると全身からどっと汗が噴き出る。

 

「何と言う男だ…」

 

「はい、彼は底が知れません。しかし此方が誠意を見せれば、力を貸してくれるでしょう」

 

 俺の無意識に出していた言葉にデータロウが返してくる。データロウは他の冒険者が居る場では、冒険者らしい言葉遣いで話すが、諜報員として喋る時は必ず敬語を使う。

 そしてデータロウは部隊内でもかなりの実力者なのだ。その彼がここまで言うとは…クロ・スミス恐ろしい男だ。

 

「取り敢えず、彼に誠意を見せねば、な」

 

「ええ、それが良いでしょうね」

 

 結局新しい情報を得る事は出来なかったが、クロという男を知る事が出来たのだ。それで良しとしよう。




クロさん他人視点口悪すぎるな
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