カブキャン△   作:モラーヌソラニエ

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本栖湖

 キャンプ場はシーズンオフということもあり人は疎らだ。というより見渡す限り他のテントは一つしかない。焚き火の匂いが漂ってくる。

 せっかくのソロキャンプを邪魔したらいけない。私は離れた場所に荷物を置きそこをキャンプ地にした。

 

「さて、日が暮れるまでに終わらせますか」

 

 バッグからパラコードで作った輪っかとペグ、寝袋、コット(組み立て式の簡易ベッド)そして2枚のポーランド軍ポンチョを取り出した。

 まずポンチョを2枚、ボタンで繋ぎ合わせ1枚の巨大な布にする。こうするとポンチョがテントの天幕代わりになってくれる。元々雨具なので雨が降っても染みなくて大丈夫。

 テントを立てたい場所と向きを大まかに決めたら裏表に気をつけてポンチョを地面に広げる。そうしたらテントの背面と両脇になる場所にパラコードを噛ませたペグを軽く打ち仮留めする。固定を確認したら下に潜り込み組み立て式ポールを立てる。

 天幕を持ち上げポールをまっすぐ地面に突き刺し固定する。その後テントの端をピンと張ればスナフキンの帽子みたいなワンポールテントの完成だ。

 中に組み立てたコットと寝袋をセットしてバッグ類を屋根の中に入れる。

 

「よし完成!」

 

 ひとまず今晩の宿はできた。あとはこの鳴り続けている腹の虫を黙らせなくては。

 道中買った一口サイズにカットされた牛ヒレ肉とおにぎりを取り出す。

 肉はシンプルに塩胡椒で味付け、おにぎりは焼きおにぎりにはせずにそのまま食べる用だ。

 100均で買った焚き火台を展開し枝と着火剤を入れていく。この焚き火台、100円ショップで買ったとは思えないクオリティで結構気に入っている。

 マッチで着火し火が安定するのを待って同じく高クオリティ100均商品のスキレットを上に置く。

 牛脂を溶かして肉を焼く。ああ、食欲をそそる焼肉と胡椒の良い匂いだ。

 牛肉だからそこまで心配は無いけど念のためしっかりと火が通るまで焼き続ける。

 じっと、我慢の子であった。

 

 夕暮れの空から陽の光が落ち切ったころ良い焦げ目が着いた肉を乗せたスキレットを焚き火から離し食事の準備は完成だ。

 シンプルな焼き肉とおにぎり。でも旅の最中にするキャンプだとこれもご馳走に見える。

 

「いただきます」

 

 熱々のヒレ肉ステーキを一口。

 

「おいひい!」

 

 噛んだ瞬間に肉汁が溢れて火傷しそうになったが、実に良い焼き加減で香ばしく仕上がっていてたまらなく美味しい。

 おにぎりもコンビニクオリティのパリパリ食感で外れがない。紅鮭の塩気が美味しかった。

 寒かったこともあり肉の温かみがありがたかった。次々と口に放り込みじっくりと味わう。自販機のお茶を一口飲みまたお肉。たまにおにぎり。

 

「ご馳走様でした」

 

 完食し手を合わせて栄養になってくれた牛たちに感謝する。

 

「水道も自由に使って良いんだったよね」

 

 1人分だから洗い物も楽だ。汚れと頑固な煤をスポンジと流水でこすり落としゴミはコンビニのレジ袋にまとめて持ち帰る。

 重労働を終えた私はついでに歯磨きをしてテントに戻る。

 テントの口を閉じて身体を拭き服を着替え少しでも清潔に保つ。いくら限界キャンプ中でも女子としての尊厳は失いたくない。

 身だしなみを整えたらもうすることはない。明日の為に体力を回復しよう。そう思い私はマミー型の寝袋に包まって目を閉じる。

 

「明日で旅も終わりか。種子島から長かったなぁ」

 

 もうすぐでこの非日常も終わり新しい学校での生活が始まる。

 それは寂しくもあり、楽しみでもあった。

 

「友達できると良いけど…ちょっと不安」

 

 高鳴る胸を鎮めながら私の意識は眠気に負けて落ちていく。

 

 

 数時間後、真っ暗な深夜にふと生理的欲求を感じ目が覚めた。

 

「うぅトイレトイレ」

 

 キャンプ地から少し離れた場所にある公衆トイレは薄暗く少しホラーチックだ。

 

「幽霊とか出ないよね」

 

 口コミでそういうスポットではないことは確認済みだけどやっぱり夜のトイレは怖い。

 入り口まで行くとちょうど違う方向からキャンプ客がやってきて鉢合わせになった。

 巨大なお団子ヘアの小学生くらいの女の子だろうか。夜中に危ないな。

 

「「あ、ども」」

 

 なんか気まずい。とりあえずそそくさと個室に入り用を足して水道で手を洗う。そのタイミングも同じだったのでさらに気まずい。

 

「「あ、なんかすみません」」

 

 公衆トイレから出るとそれぞれのテントの方に別れる。

 しばらく真っ暗なキャンプ場の道を歩いていく。

 

「怖いなあ幽霊系苦手なんだよぉ」

 

 そんな独り言をこぼしながら懐中電灯片手に歩いていると突然けたたましい悲鳴が聞こえてきた。

 

「ひぃぃぃ!」

「待ってよー!」

 

 ビクッと背中が震え身が縮こまる。何かあったのだろうか。脳裏にはさっきの小学生くらいの女の子。もし事件ならやばい。

 私は来た道を戻りあの女の子を探した。

 

「大丈夫?」

 

 しばらく走ると彼女が居た。なんかピンク髪の女の子に縋り付かれながらあたふたしている。

 

「どういう状況?」

「さあ?」

「びぇぇん!だずげでぐだざいぃ!」

 

 

 ひとまず女の子のテントに行きピンクの子を落ち着かせることにした。

 

「つまり、今日引越してきて観光していたら夜になっていて帰れなくなったと」

「あぃ…」

 

 話を聞く限りではそのようだった。確かに慣れない内は夜道は怖く感じる。実際怖いし。

 

「富士山見たかったのに曇ってたし…」

 

 確かにそれは私も残念に思う。はるばる来たのだからどうせなら綺麗な山々が見たかった。

 スマホも家に忘れ途方に暮れていたところにお団子の彼女を見つけ助けを求めて追いかけたという次第だった。

 

「家の連絡先は?」

「覚えておりません!」

「じゃあ自分の携帯」

「記憶にございません!」

 

 力強く言う彼女が可笑しくて少しだけ笑ってしまう。

 

「とりあえずあったかい物食べる?寒かったっしょ」

「いいの?」

「うん、私はどうせ明日で目的地に着くし」

「旅してるの?!」

 

 目をキラキラさせて言う彼女に言われちょっとこそばゆくなった私はなんてことないように言った。

 

「うん、種子島から山梨まで船とバイクでね」

「「種子島⁈」」

 

 出発地点を聞いて仰天する2人の反応に気を良くした私は「ふ、ふ、ふ」と誇らしげに笑った。

 

「すごいでしょ?私のバイク」

「お姉さんも凄いよ!種子島って鹿児島のもっと南でしょ?」

「流浪人…」

「へへん」

 

 とりあえずピンクの子にご飯を食べさせることにした私とお団子ヘアの子は朝食用と小腹が減った時用のカップ麺やおにぎりを持ち寄って来ることにした。

 

「はい、夕食の余りだけどヒレ肉のステーキ。美味しいよ」

「わあ!ありがとう!」

「私はカレー麺だけど良い?」

「うん!私カレー好きだから!あ、2人にご飯代渡さないと」

 

 ゴソゴソとがま口財布を漁るピンク髪の子に「律儀だなぁ」と苦笑する。

 

「良いよ別に。困ったときはお互いさまって言うじゃん?」

「ありがとうございます!」

 

 タッパーに分けていた一口ステーキの残りを温め直しお団子の子がガスバーナーで湯を沸かす。

 

「はい、カレー麺。あなたにはコーヒーで良かった?」

「ありがとう満腹だったからコーヒーが沁みるよ」

 

 慣れた手つきで湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れたお団子の子からカップを受け取り一口啜る。

 

「あったまるぅ」

 

 コーヒーを飲み、肉を啄みカレー麺を啜る3人。名前も知らないけどとても居心地が良かった。

 

 夜明けが近づく中、私たちは色々なことを話した。ピンク髪の子、なでしことお団子ヘアのリンは私と同学年で驚くべきことに3人は同じ学校の生徒だった。

 

「へえ、凄い偶然もあるんだね」

「そうだなぁ」

「お、2人ともあれ…」

 

 笑い合う私となでしこにリンが話しかけてくる。彼女が指差した方を見るとそこには朝陽に照らされた美しい富士山が見えた。湖面にも逆さ富士が映っていて思わず息をするのを忘れるくらいの絶景だった。

 

「綺麗」

 

 3人の口から自然に賞賛の言葉が溢れてくる。これは国の宝と言う人が居ても不思議じゃないな。

 

「あ、お姉ちゃんの番号、覚えてた…」

 

 なでしこの声が朝霧の空気にやけに響いた。

 

 

 その後、迎えに来た彼女の姉から丁寧に感謝され私とりんは感謝の印に渡されたキウイを山分けして別れた。

 

 テントを撤収し朝露に濡れたクロスカブ50を軽く拭いた私はエンジンをかける。寒い時は暖気運転は5分。ゆっくり待つ。

 

「『なでしこ』と『リン』か。学校でも話せたら良いな…」

 

 再びフル積載になった愛車のギアを上げ私はキャンプ場を後にした。

 顔が緩んでいるのがわかる。これからが楽しみだ。

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