プロローグ①
「んん―――っっ!」
「黙ってろクソガキ」
口をガムテープで押さえつけられた状態で少年はどこかも分からない倉庫に転がされていた。
小学校の帰りだろうか少年のすぐ傍にはズタボロのランドセルが無造作に置かれており、少年の激しい抵抗の跡が見て取れる。
「で、この後俺達はどうするんだ?」
「どうも何も連絡待ちだ……もうすぐあのお方から連絡が来ると思うんだが」
少年は恐怖に身を震わせ、目に涙をいっぱいに溜めながらただひたすら祈っていた―――自分を救ってくれるヒーローの登場を。
その時、一人の男性がスマホに視線を落とすと隣にいたもう一人の男性に画面を見せた。
「こんなガキがまさか莫大な金づるだったとはな」
「そりゃそうだろ……なんせブリュンヒルデの弟だ。金ならいくらでも引き出せる」
「んじゃ……俺達の仕事をしますか」
そう言うや否や男たちは床に転がっていた鉄パイプをそれぞれ持ち、怯えている少年の下へと近づいていく。
少年は縄で手足を縛られながらも地面を這いずるようにして男たちから少しでも距離を離そうとするが大人の一歩の前には無力であった。
男たちは無慈悲に少年の腹部を踏みつけ、動けなくする。
「んんん―――ッ! んんんんんっ!」
「うるせえよ!」
―――倉庫内に一瞬の甲高い音が響いた直後、少年のくぐもった声は鳴りを潜め、辺りに響くのは漏れ出る嗚咽の小さな音だけだった。
「短い人生だったな、クソガキ」
「こっちにブリュンヒルデが来ているそうだ……でもお前はブリュンヒルデには救われない」
少年は先程から男たちが発している単語を何一つ理解できないでいた。
「ブリュンヒルデの弟を誘拐して本人を誘い出す。あとはブリュンヒルデも拘束してやつのISと奴自身を上層部に引き渡せば俺達は晴れて大金持ちだ」
男たちはパイプを大きく振りかぶり、少年に最後の一言を言い放つ。
「じゃあな、クソガキ……あとで姉貴も送ってやるからよ」
少年は恐怖のあまり目を強く閉じた。
――――――☆――――――
少年が再び目を開けようとした時、柔らかな感触と安心するぬくもりに包まれていることに気付いた。
顔をあげようとしたその時、頭を抑えるように手が置かれる。
「大丈夫だ……顔をあげなくていい」
「ち、千冬……姉?」
「そうだ……顔をあげなくていいし、目も開けなくていい……そうだ。お前が好きなアニメのOPが公式チャンネルで上がっていたぞ。前から聞きたかっただろ」
「う、うん……」
「よーし、それを聞いてリラックスしよう」
少年は落ちてくる声に従い、顔をあげず、耳に挿入されたイヤホンから聞こえてくる大好きな音楽に意識を集中させようとする―――でも集中しきれない。
しかし、鼻だけは全てを認識していた。
何とも言い難い生臭い匂い、そして花火が打ちあがった近くで感じる匂いが少年の鼻孔に届く。
「お前は何も知らなくていい……何も知らなくていいんだ……お前は何も知らずにただ幸せになればいい」
優しく少年に語り掛けながら一人の少女は少年の頭を撫でる。
「お前は私が守る……だから何も知らずに幸せになれ」
―――――― 一夏