Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百一話

「へむへむ……生体電流を弄ってあげればこういうこともできるんだね~。ふふふっ! この世紀の大天才である束さんの前に不可能なことはないということだね!」

 

 薄暗い空間の中で一枚の大型モニターを前にお手製のヘッドギアを装着した状態で椅子に座り、くるくると回転させながら思考を進めていく。

 彼女が装着しているのは神経言語変換装置(コトノハ・インターフェース)

 脳内ニューロンの発火パターンを表皮貼り付け装置によって生体電流をキャッチし、それを高速演算。

 言語になる直前の思考波形を抽出。抽出された思考波形を接続対象の心理傾向に最適化された制御構文へ変換し、子機であるチョーカー型装置である言縁《クロノス・コード》に送信。

 対象に微弱な共鳴波を照射し、支配構文を“自己の思考”として認識させる。「自分で考えた」ように感じるため、命令の拒絶反応が限りなくゼロとなる。

 そこに追い打ちをかけるように正常な思考を妨げるための言縁からの薬品投与。

 

「もしこれが実用化できれば……ぬふふっ! 無人機を超える無人機でありながら遠隔から人の動きをダイレクトに伝えることもできるね! もちろんお人形さんはいるけどね」

 

 目の前の大型モニターには言縁(クロノス・コード)に搭載された小型カメラに映し出されている簪の視界ともいえる景色が表示されている。

 

「まったく。汚らしいコード過ぎて束さんは吐きそうだよ。マルチ・ロックオン・システム程度の物をなんで一瞬で考えられないかなぁ。これだから凡人は困るのだよ」

 

 今まで簪が必死に何度も試行錯誤を繰り返しては失敗していたシステムコードを束は一瞬にして生み出し、それを念じるように脳内に思い浮かべる。

 するとそれを受信し、自分が思いついたと錯覚した簪はそれを打ち込んでいく。

 

「これが完成したら……次はあいつを痛めつけてもらってここに連れてきてもらおう。で、その時にチョーカーも回収すればミッションコンプリートだね……もうすぐ君にも会えるからね~」

 

 後ろを振り返りながらそういう束の視線の先には銀髪金眼の少女が静かに横たわっていた。

 

 

――――――☆――――――

 関係者以外立ち入り禁止措置を施された第三アリーナのピット内にはストライプが入った紺色の上下シーツに身を包んだ代表候補生の管理官である眉村春奈と千冬、そして虚と本音の姿があった。

 ピット内のモニターには完成した打鉄弐式を纏い、アリーナ内を縦横無尽に駆け巡る簪の姿があった。

 

「一時はどうなるかと思いましたが……素晴らしい完成具合です!」

 

 何も事情を知らない眉村春奈は上々の出来栄えに興奮を隠せないでいたが事情を知る千冬や虚、本音の表情は張りつめており、笑顔のかけらも浮かべない。

 

「ではそろそろ打鉄弐式の山嵐を見せてください」

「……更識、山嵐を使え」

 

 千冬がマイクを通じて簪に指示を出したと同時にアリーナ全域に的が無数に表示されるが簪は慌てることなくシステムを起動させる。

 肩部ウイングスラスターに取り付けられた六枚の板がスライドするとそこから六基×八門のミサイルポッドが姿を現し、一気に合計四十八発ものミサイルが同時に放たれる。

 マルチ・ロックオン・システムによって正確無比に取らえた獲物にまっすぐと向かい、次々に着弾していき、一瞬にして半数の的を破壊する。

 背中に搭載された二門の連射型荷電粒子砲―――《春雷》によって残りの的を撃ちぬいていく。

 

「す、素晴らしい! 素晴らしい出来です! さすがはあの更識楯無の妹! これほどまでの可能性を秘めていたとは思いませんでした!」

「……デモンストレーションは終わりだ。更識、Bピットに戻れ」

『はい…ひひっ……ありがとうございました……ひっ』

 

 会話の中で時折聞こえてくる小さなひきつったような笑い声に気付いているのは千冬を含めた三人だけであり、眉村春奈は明るい日本のIS界隈を夢見て笑顔を浮かべている。

 

「この報告をすれば政府が抱えていた不安は一気に解消されることでしょう。引き続き、更識さんには日本の代表候補生を務めていただければ、とお伝えください」

 

 眉村春奈は時折、スキップを織り交ぜながら鼻歌を歌いつつ、Aピットから去っていった。

 千冬は録画されている映像を再生し、先ほどのデモンストレーションの様子を再び見始め、虚は簪を迎えに行くべくBピットへと向かう。

 

「……かんちゃん」

 

 今にも消え入りそうな本音の悲しみに満ちた声がピット内に響いた。

 

 

――――――☆――――――

「ひひっ……今日は良い気分……ひっ……映画でも見に行こうかな」

 

 すべてをやり遂げた簪は時折、引きつったような笑い声を上げながら寮までの道を歩いて行き、周囲からの奇異な視線など気にも留めない。

 周りの視線など気にもならないくらいに全てが順調に行っており、この状況があるべき彼女の状況だった。

 

「うさちゃんに……いひっ……良い餌でも上げないとね……ひっ」

 

 あのウサギとの出会いが簪のすべてをいい意味で塗りつぶしてくれた。

 ウサギは何を食べるのだろうかと思い、タブレット端末で調べようとすると前方に人影が見え、顔を上げて立ち止まるとそこにいたのは幼馴染であり、専属メイドでもある本音。

 

「かんちゃん……戻ってよ~」

「…ひひっ……どこに?」

「元のかんちゃんに……今のかんちゃん、おかしいよ……医務室、一緒に行こ?」

 

 本音の言葉に簪は心の底から呆れたように溜息を吐く。

 

「どうして? 私は正常……いひっ……だよ?」

「違うよ……私はわかるもん……かんちゃん」

 

 本音は目に涙を薄らと浮かべながら簪に抱きつく。

 しかし、本音の想いなど今の簪に届くはずもなく、簪が本音に向ける瞳には一切の感情はなく、ごみでも見るかのような目をしている。

 

「……邪魔……ひひっ」

「ぁっ」

 

 抱き着いている本音を無理やりはがして軽く押し飛ばし、歩き出そうとしたその時、突如として簪の体が左右に揺れ始め、酩酊状態に近い状態になる。

 

(ぁ……れっ……この……感覚)

「かん……ちゃん?」

 

 ふらふらと小さく左右に揺れる簪を心配のまなざしで見る本音―――しかし、数秒立つと元の立ち姿に戻るがその雰囲気は先ほどとは打って変わった。

 

「……消さなきゃ」

「え?」

「……ひひっ……本音……今、織斑一夏は……どこ? ひっ」

「ど、どうして?」

「消さなきゃ……いひっ……仕返しに……はひっ……ねぇ、どこ?」

 

 しゃがみこんで座り込んでいる本音の顔をまるで眼鏡のレンズの奥から覗き込むような格好で見てくるその姿に本音は思わず恐怖から後ずさろうとする。

 しかし、簪が伸びきった服の裾を踏みつけ、それを阻止する。

 

「ひっ」

「どこ? ねえ……ひひっ……あれはどこにいるの? いひっ」

 

 本音の耳に届く簪の声は感情などはなく、ただ冷たい音声のようにしか聞こえない。

 底冷えするかのような冷たい声を前にして本音の恐怖心は膨れ上がり、手が小刻みに震えだす。

 

「お辞めください、簪様」

「……ひひっ」

 

 後ろからの声に簪が振り返るとそこには目を吊り上げ、厳しい視線を向ける虚がいた。

 しかし、そんな厳しい視線を向けられても簪は一歩も引かず、眼鏡のレンズの奥から虚をにらみつけるような視線をぶつける。

 

「これ以上のことは看過できません」

「……ひひっ……織斑一夏は……どこ? いひっ」

「お伝え出来ません」

「どうして? いひっ……布仏は更識に……従わなきゃ……ひっ」

「お伝え出来ません。今日はお疲れのご様子ですし、お部屋で休まれてはいかがですか?」

 

 簪はふらふらと左右に揺れながら虚へと近づいていくがそのまま何もせずに横を通り過ぎていく。

 向かう方向が寮であると確認した虚は一息つくとへたり込んでいる本音のもとへと向かう。

 

「何をそんなに泣きそうな顔をしているの」

「うぅ~……だって」

「だってじゃありません……きっと簪様はお嬢様が救ってくれます……私たちはそれを信じましょう」

(会長……だけ?)

 

 本音は一瞬、虚の言ったことに疑問を感じながらも虚に連れられて生徒会室へと向かった。

 

――――――☆――――――

「こちらでよろしくお願いします」

「……」

 

 特別指導室にて楯無は千冬に二枚の書類を手渡していた。

 その書類を受け取り、内容を確認した千冬は眉を少しだけ動かし、もう一度記載されている内容を見直して立て直しの顔を見る。

 

「第一アリーナだけを占有し、ケリをつける……それがあいつと決めた計画ではなかったのか?」

「……」

「それは一夏を巻き込まないためか」

「はい。これ以上、私たちの問題に彼を巻き込むわけにはいきません……あの子は私が止めます」

「できるのか?」

「やってみせます……これ以上、あの子を苦しませないためにも」

「……分かった。この書類で受理しておこう」

「ありがとうございます」

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