「ふむふむ……なんだかIS学園が少し騒がしくなってきたかな?」
小型モニターに映し出されているのはIS学園に解き放ったうさちゃんロボマークⅣの次女から送られてきている映像だが物陰から映し出されている映像には周辺を警戒した様子で歩き回っているラウラの姿があった。
残っているうさちゃんロボマークⅣは次女だけとなっており、次男は見るも無残に一刀両断されてしまった。
「どうなろうがあのチョーカーだけは回収したいんだよね~……ただここまで警戒されるとうさちゃんロボも自由には動けないね……ド派手に行っちゃうか」
束はそう結論付けると足元に空間投影ディスプレイを呼び出し、足の指を使って画面を操作すると四機のISが表示され、それぞれゴーレムⅠ・ゴーレムⅢという機体名があった。
つま先でこつんと軽く蹴ると用済みと言わんばかりにディスプレイが消え去る。
「醜い肉塊を誘拐できればÅルートからのゴールイン。ゴーレムを使うことになればBルートに突入……束さんに一寸たりとも隙はないのだ……それにしてもどこにあるんだろうねぇ……暮桜は」
言葉として吐き出す疑問と束が浮かべる表情は完全に真逆のように見えた。
――――――☆――――――
放課後、俺は楯無さんから連絡を受けた時間帯に第一アリーナに向かっていた。
楯無さんの計画では俺が第一アリーナへと向かい、簪さんには俺が第一アリーナへ向かっているという情報を周囲から漏れさせ、アリーナに誘き出す。
その後、楯無さんと協力して簪さんを止める―――これが今回の作戦だ。
「……よし」
第一アリーナの扉をくぐり、アリーナのフィールドへと向かう。
生徒会長権限で放課後以降の時間帯を占有しているので人は俺以外に誰もいない―――はずだったのになぜかフィールドには虚さんが立っていた。
「虚さん? どうしてここに」
「……」
「もしかして何か作戦に変更が」
その時、虚さんが持っていたスイッチを強く押し込むと観客席を分厚いシャッターが覆うとともに天井部分のシールドバリアが物理防御壁へと変わり、重厚な音を立ててしまっていく。
そしてすべての出口がロックされ、アリーナ内は完全にロックされてしまった。
「虚さん! これは一体」
「……お嬢様からの指示です。すべてが終わるまでここで待機しておくようにと」
「な、なんでですか!」
「それがお嬢様の意思です」
「……まさか、俺をこれ以上巻き込まないために自分一人で」
俺の指摘に虚さんは目を閉じ、何も言わずに再びスイッチを押すと設置されている大型モニターに電源が入り、そこに簪さんの姿が映し出される。
そしてモニターの右上にはアリーナ2、という表示があった。
楯無さんは最初から自分一人でケリをつけるために俺にうその計画を教えた。
「もうすぐお嬢様が到着されます……そこですべてが終わります」
「……終わらなかったら」
「終わります……お嬢様は必ず……」
「家族同士で……戦わせるんですか」
家族同士で戦うこと以上に悲しいことはない。
楯無さんは心の底から簪さんを想っている―――だからこそ強い覚悟を持って挑むと俺は思いたいけど今の簪さんは束さんの手中にある状態だ。
あの人は何をしてくるかわからない以上、俺は不安でいっぱいだ。
「行かせてください……虚さん」
「ダメです」
「……」
虚さんは力強くそう言い、俺を強くにらみつける。
彼女の覚悟の強さに押され、俺はいったん静観を決めることにし、モニターへと視線を移す。
――――――☆――――――
「…ひひっ……織斑一夏は……どこ? ひっ……姉さん」
第二アリーナで織斑一夏がいつものメンバーと模擬戦を行うという話を聞いた簪は一足先に向かったがそこに現れたのは織斑一夏ではなく、姉の楯無だった。
「一夏君はここに来ないわ……そして」
楯無が手の中にあるスイッチを押した瞬間、第二アリーナの観客席が分厚い物理シャッターで覆われ、天井部分のシールドバリアが物理壁へと切り替わる。
そしてすべての出入り口がロックされ、完全に外部と遮断が完了した。
簪はぐるりと見渡してその様子を見るが面白くなさそうな顔を浮かべる。
「ひひっ……こんなことをして……ぃっ……どうするの?」
「決まってるでしょ……あなたを止めるの」
楯無はミステリアス・レイディを完全展開し、その手に蒼流旋を収め、槍先を簪へと向けるが簪はくくっと小さく笑うと楯無を見据える。
その笑みはどす黒い色をしており、何を考えているかわからない。
「止める? ひひっ……姉さんが……私を?」
「そうよ。更識の当主として……姉としてあなたを止める」
「あの時のように……あひっ……守ってくれないの? 姉さん」
その言葉に楯無の心が大きく揺さぶられるが迷いを捨て去るかのように楯無は大きく蒼流旋を振るう。
呆れ気味にため息をつきながら簪は右手中指にはめているクリスタルの指輪に触れると光の粒子が彼女を包み込み、打鉄弐式が一瞬で展開される。
互いに上空へと上昇し、見合う。
「あなたを守るために私はあなたを倒すわ」
「……ひひっ……織斑一夏を……殺さないと」
背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲の春雷から攻撃が放たれるが楯無は上空へと飛翔し、回避すると同時に四門のガトリングガンを簪へと放つ。
ひらりと宙を舞うように簪はその場から離脱し、ガトリングガンを回避して再び春雷を放ち続ける。
互いに旋回しながら遠距離攻撃を放ち続けるが楯無が旋回から突撃へと急激に切り替え、蒼流旋を突き出すが簪の手元に超振動薙刀の夢現が現れ、ぶつかり合い、振動から激しく火花が散る。
「ひひっ……いっ」
楯無は連続で突きを繰り出していく―――それを簪も負けじと夢現でいなしていくが拮抗はすぐさま崩れ、徐々にいなしが間に合わなくなり、装甲を槍の一撃がかすめていく。
「っっ!」
簪が途端に上空へ舞い上がった瞬間、彼女が先ほどまでいた場所を刃へと変化した水のヴェールが通過していき、勢いよく空を切る。
逃がすまいと上空へ逃げた簪へ四門のガトリングガンが火を噴く。
スラスターを吹かし、アリーナを縦横無尽にかけながらガトリングガンを回避していき、春雷による牽制攻撃も行う。
「ひひっ……私を止めるんじゃなかったの?」
「ええ、止めるわ」
そうつぶやくや否やまっすぐ楯無は簪へと突撃していき、槍先を向ける。
簪も迎え撃つべく夢現で牙突を繰り出す。
二人の攻撃が真正面からぶつかり合うかと思ったその瞬間、楯無の蒼流旋が突如として光の粒子となって消失するとともに身をねじり、夢現の牙突を寸でのところで回避する。
(何を…考えてっっ!)
直後、楯無の手中にラスティー・ネイルが収まる。
回避するために上方向へスラスターを向けようとしたその時、楯無の姿が消え去ると同時に打鉄弐式の脇腹の装甲が火花を散らしながら砕け散る。
(瞬時加速っっ……あの一瞬の隙間に!)
すぐさま振り向きざまに春雷を放とうとしたその時、目の前に楯無の姿とともに横なぎに振るわれる蒼流旋の一撃が見えた。
何もできないまま横一閃に切り裂かれ、胸部装甲がはじけ飛ぶ―――しかし、その一撃では終わらず楯無は回転しながら何度も蒼流旋で打鉄弐式を切り裂いていく。
負けじと簪も脇の下からくぐらせるように春雷の銃口を向け、至近距離から放つ―――しかし、それを察知していたかのように楯無は上方向にスラスターを吹かし、一瞬急降下して荷電粒子砲を回避する。
直後、斜め四五度の角度を描くように鋭い切り返しで簪の間合いへと入り、腹部に膝蹴りを突き刺す。
「がっぁっ」
「……」
苦しそうな声を出す簪を見ながらも楯無は一言も発さず、心に一切の波風立たせずに次々に殴打を打鉄弐式の装甲へと叩き込んでいく。
成すすべなく殴打を受け続ける簪の装甲は徐々にヒビが入っていく。
「ぅぁっぅっ!」
「―――っっ―――はぁっ!」
一際強く殴打を突き刺した瞬間、打鉄弐式の胸部装甲が破裂するように砕け散り、破片が飛び交う。
突き刺された勢いでフィールドに向かって落ちていく簪を楯無はただ見続けるのみ。
(これでいいのよ……簪ちゃんを助けるためだから)
直後、ミステリアス・レイディからロックオンされている通知を受けた楯無はすぐさまその場から離脱する―――同時に打鉄弐式の最大武装である山嵐が起動し、四八発ものミサイルが楯無めがけて向かってくる。
アリーナ内を駆け回り、隙間を縫うような高速機動を行い、ミサイル同士をぶつけ、ガトリングガンで撃墜し、水の刃で切り裂きながらミサイルを叩き落としていく。
フィールドへと降り立ち、滑るように飛行しながらちらっと後ろを確認する。
壁と激突する寸前、
ミサイルは彼女をシステムによりロックしているとはいえ、ゼロから一、そして一からゼロの急激な緩急についていけず、壁に激突して次々に爆発していく。
『さすがだね……ひひっ……私とは違って……ひっ……みんなから羨ましがられる強さ……ひひっ』
「……」
心が揺さぶられるが楯無は首を左右に強く振り、頭の中を無にする。
「これで終わらせる」
蒼流旋にナノマシンで構成された水を多量に纏わせ、超高速回転させながら一気に簪のもとへとスラスターを全開にして急降下していく。
春雷からの荷電粒子砲の連射を次々に回避していき、蒼流旋を強く握りしめる。
(待ってて……もう少しで助けるから!)
「はぁぁぁっ!」
簪が春現の牙突を繰り出そうとした瞬間に合わせて瞬時加速を発動させ、一気に距離を詰めて間合いに降り立つとともに零動停止により一時停止するかのように一瞬、止まる。
「終わりよ―――」
「っっ!」
打鉄弐式の腹部に蒼流旋が直撃した瞬間、断続的な爆発が次々に打鉄弐式で発生し、絶対防御を発生させて大きくエネルギーを削り取る。
爆煙の中、簪に足払いをかけて地面に組み敷き、のど元に槍先を向ける。
(このチョーカーさえ破壊すれば―――!)
絶対防御があるとはいえ、エネルギーが少ない状態での一撃は生身を傷つける危険を伴う。
楯無は細心の注意を払いながらも勢いよく蒼流旋を突き出す。
突き出された蒼流旋の一撃を遮るものは何もなく、ただまっすぐに黒いチョーカーに向けて進んでいく―――簪を縛るものを破壊するために。
「お姉―――ちゃん?」