Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四話

「いたぞ! そっちだ!」

「どこよ!」

「鈴! 後ろ後ろ!」

「てぇぇぇい!」

「ひっ! 箒! 今あんたあたしの足ごといきかけたでしょう!」

「気のせいだ!」

 

 駆け回る一匹のウサギをISを部分展開した少女たちが必死の形相で破壊しようと迫る。

 その様子は傍から見れば動物虐待どころか虐殺に近いものにも見えるがそんなことはお構いなく、彼女たちは全力でウサギを破壊しようとする。

 

「あぁもううざい! 衝撃砲で吹き飛ばしてやるわよ!」

「ダメだよ鈴! そんなことしたら僕たちまで吹き飛んじゃうよ!」

「だったらラウラのAICで捕まえてよ!」

「あ、あれは集中力がいるのだ! こんなちょこまかと逃げられては……ならば!」

 

 ワイヤーブレードが二本射出されるとウサギめがけて向かっていくが俊敏な動きの前にワイヤーブレードは空を切り続け、地面に傷をつけるばかり。

 箒の刀の振り下ろしも鈴の青龍刀の一撃も、セシリアのスナイプもすべてを軽々と回避していくウサギはまるでどこかへと向かうかのように同じ方向を向いている。

 

「仕方がありませんわ。ティアーズ!」

 

 セシリアから四基のビットが射出されるとウサギの逃げ道を断つように青いレーザーが放たれ、ウサギが円を描くようにして避けていく。

 そこへさらにラウラのワイヤーブレードも加わり、徐々にウサギの行動範囲が狭まっていく。

 

「させないよ」

 

 ウサギが極僅かな隙間に飛び込もうとした瞬間、シャルロットのサブマシンガンが火を噴き、最後の退路を断つと同時に赤色のエネルギー斬撃波が地面に放たれ、隙間を作る。

 直後、上空から青龍刀を持った鈴が飛び込んでくる。

 

「やぁぁっ!」

 

 箒によって開けられた隙間に青龍刀を深々と突き刺すと同時に掘り返すように青龍刀を振り上げると大小様々な地面のかけらとともにウサギが宙を舞う。

 その隙にラウラが手を伸ばし、ウサギを包み込むようにしてAICを起動し、効果範囲内へと収めるとウサギの動きが空中で停止する。

 

「や、やった……捕まえれた~」

「助かったぞ、みんな」

「教官からの命令だから構わんのだが……学園内でISの使用を許可するほどにこのウサギは凶悪なのか?」

「ただのウサギに見えますが」

「そ、それはだな……その……」

 

―――キュイィィィィィィィィ

 

 突然、AICの範囲内で動きを止められていたウサギが甲高い悲鳴のような鳴き声を空に向かって高らかに叫び始める。

 それはまるで子が親を呼ぶかのような悲鳴。

 

「まさか親でも呼んでるんじゃないでしょうね」

「ウサギの親など取るに足らん」

「それもそう―――」

 

 その時、彼女たちを覆うかのように地面に四つ、機影が現れ、彼女たちの言葉が止まり、ゆっくりとその視線が上空へと向けられる。

 上空にいたのは黒いボディーに殺傷能力を高めるかのように肥大化している両腕を持つ三機の鉄の巨人。

 もう一機はそれを従えるかのようにそびえたち、右腕は肘から先が巨大ブレードとなっており、左腕は付き従える鉄の巨人と同じように肘から先が肥大化している。

 そのボディはどこか女性らしい丸みを帯びたデザインをしており、さながら鉄の乙女。

 

―――ガシャァッン!

 

「散開!」

 

 鉄の巨人たちが地面を踏み抜きながら降り立った瞬間、ラウラの怒声が発せられ、同時にISを完全展開し、少女たちはいっせいにその場から飛び立つ。

 その直後、非常事態を告げるサイレンがIS学園全域に鳴り響く。

 

『全生徒に告ぐ! 非常事態を宣告! 地下シェルターへの避難を開始! 全専用機持ち、および教員は拠点防衛布陣を形成せよ! これは訓練ではない!』

 

 鉄の巨人たちが一斉にスラスターを吹かし、鈴・セシリアペア、そしてラウラ・シャルロットペアへと肥大化した腕を振りかざして襲い掛かる。

 そして残りの一機は鉄の乙女と同時にスラスターを吹かして上空へと舞い上がり、第二アリーナへと向かう。

 

「そっちには行かせないぞ!」

 

 二本の刀を収め、止めようとしたその時、二機のISが鉄の巨人の脇腹に飛び蹴りを差し込み、瞬時加速を発動させて第三アリーナへと押し込んでく。

 

「だりぃ~。寝てたのによ~」

「まあまあ、さっさと終わらせてまた寝るっすよ」

 

 三年生唯一の専用機持ちであるダリル・ケイシーと二年生の専用機持ちであるフォルテ・サファイア。

 お互いに面倒くさそうな声を出しながらも鉄の巨人との戦闘に入っていく。

 

「箒! お前は旦那様のもとへ向かうんだ!」

「こいつらはあたしたちがやる! 行って!」

「わかった! みんな頼んだぞ!」

 

 二機の鉄の巨人を仲間に任せ、鉄の乙女の後ろを追いかけながら一夏にプライベート・チャネルを繋げようとするがジジッ! という音が鳴るだけで一向に一夏につながらない。

 その時、紅椿から二つの通知が表示される。

 一つは通信機能の制限、そしてもう一つは―――

 

「絶対防御システムに深刻なエラー!? そんな……まさか」

 

 恐らく鉄の乙女から何かしらの機能阻害を受けているのだろうがそんなシステムを平気で搭載するのは世界でもただ一人しかいない。

 絶対防御は搭乗者を守る最後にして最強の防御機能。

 それがある前提で相手をブレードで切り裂き、鉛の弾丸を放っている―――しかし、その前提が崩れるとなればそれはもう試合ではなくただの殺し合い。

 

(一夏!)

 

――――――☆――――――

「楯無さん! 簪!」

 

 爆煙が晴れ、フィールドに倒れ伏している楯無さんと簪のもとへと慌てて近づき、二人の状態を確認するが絶対防御が発動したのも相まって二人に大きな外傷は見られない。

 簪さんの胸元に装着されていた黒いチョーカーも先ほどの衝撃で吹き飛んでおり、少し離れたところのフィールドに落ちている。

 

「イツツ……加減無しの蒼炎瞬時加速は効くわねぇ」

「楯無さん……ご無事で」

「お姉さんを誰だと思ってるの? もう……でもありがとう」

「……ぅっ」

 

 簪さんからも小さなうめき声が聞こえると同時に目がゆっくりと開かれ、周囲の状況を確認するためか両の目がきょろきょろと動く。

 そしてゆっくりと起き上がろうとするが全身が痛むのか表情を歪ませる。

 

「……お姉ちゃん……織斑君」

「よかった……簪ちゃん」

 

 元の簪に戻ったのを確認し、楯無さんは再び目に涙をためて簪を優しく抱きしめる。

 簪もこれまでの記憶がほんの少し残っているのか恥ずかしそうに顔を赤くしながらも楯無さんの抱擁を受け入れて抱きしめ返す。

 

「お姉ちゃん……ごめんなさい……私のせいで」

「良いのよ……あなたが無事なら……それでいいの」

「……織斑君」

「ん?」

「……ありがとう。私を助けてくれて」

「簪も無事でよかった……ただ、打鉄弐式はまた作り直しになっちまった」

「その時はみんなでやればいいわ。ね? 簪ちゃん」

 

 楯無さんの一言に簪さんは迷うことなく小さく頷く。

 

『―――夏!』

「ん?」

 

 その時、オープン・チャネルを通して砂嵐の音とともに誰かの声が聞こえたような気がして耳を澄ませるがジジジッ! という音だけしか聞こえない。

 二人にも届いていたのか表情が一変する。

 そして白式から通知が送られる―――通信機能が阻害されていること、絶対防御システムに深刻なエラーが生じていること、そして未確認のIS反応がすぐ近くにあること。

 

「「「っっ!?」」」

 

 直後、アリーナの天井部分を守っていた物理壁が一瞬にして粉々に破壊されたかと思うと超高密度圧縮熱線がアリーナのフィールドに着弾し、凄まじい爆発を上げる。

 突然のアクシデントに俺たち三人は全く動けないでいるが爆煙の中から一匹のウサギが駆けだしてきて落ちている黒いチョーカーのもとへとまっすぐ向かう。

 その瞬間、俺の体は考えるよりも先に動き出し、スラスターを全開に吹かして距離を詰め、雪片弐型を握り締めてウサギめがけて振り下ろそうとする。

 

「一夏君避けなさい!」

「っっ!」

 

 楯無さんの怒声の直後、目の前にブレードが迫っているのが見え、慌てて体を後ろへと反らしてバク転の要領で地面に手をつき、ブレードの一撃を回避する。

 しかし、額の辺りから何か液体が流れ落ちてくるのを感じ、触れてみるとそれは―――血だった。

 ギリギリ回避しきれなかったことで薄く切られたんだろうがそれはあることを意味している。

 

(絶対防御を貫いた!?)

 

 そして先ほどの白式からの通知を思い出す。

 流れる血を無視して顔を上げると目の前には以前、襲撃してきた黒いISと雰囲気が似ているISが目の前に立っており、右腕の肘から先にはブレード、左腕の肘から先は肥大化しており砲口が四つ空いている。

 丸みを帯びたボディーはどこか女性らしさを感じさせる。

 その時、ウサギが黒いチョーカーを飲み込んでどこかへと走り去ってしまうが目の前の敵から視線を離せば殺されると思い、動き出せない。

 

「一夏!」

「箒!」

 

 上空から紅椿を纏った箒が俺の傍へと降り立つ。

 

「箒、今何が起きてるんだ」

「学園に四機のISが侵入してきたんだ。三機は以前、クラス別トーナメントの時と同じ機体で専用機持ちが対処に当たっている」

「それにジャミング機能もあるようね」

 

 楯無さんも俺たちの間へと入り、作戦会議に加わる。

 ただ、情況的には俺たちがだいぶ不利だ。

 エネルギーに関しては箒の絢爛舞踏があるから白式は回復できるけど楯無さんは回復できないし、ミステリアス・レイディの損害状況だって低くはない。

 それに動けない簪だっている―――状況は最悪だ。

 

「一夏、受け取れ」

「おう」

 

 箒とハイタッチを交わすと絢爛舞踏の効果で白式のエネルギーが全回復し、雪片弐型を手中に収めて目の前の鉄の乙女と向き合う。

 

「一夏、楯無さん……少しの間、私が前に出ます」

「あぁ、頼む」

「お願いね」

 

 一歩、箒が前に踏み出し、俺と楯無さんは箒の両隣を固めるように両脇に立つ。

 ミステリアス・レイディの損害具合はパッと見るだけではダメージレベルCほどの損害はないがエネルギー残量も含めて見えない部分の損害が気になる。

 

「行くぞ!」

 

 箒が勇ましく飛び出していくとともに相手のブレードが突き出される―――同時に振るわれた空裂とぶつかり合い、甲高い金属音とともに火花が散る。

 左腕が大きく振り上げられるがスラスターを吹かし、箒と左腕の間に入って雪片弐型で受け止めた瞬間、凄まじい衝撃が全身に襲い掛かる。

 

「ぐぅぅっ!? お、重い!」

 

 絶対防御が阻害されていることもあって受け止めた際の衝撃だけで体が壊れそうなくらいに軋む。

 その時、蒼流旋が鉄の乙女の腹部に突き刺されると同時に水が超高速で回転し始めてズガガガッ! とけたたましい破砕音を鳴り響かせ、四門のガトリングガンも火を噴く。

 左腕を抑えていた俺を弾き飛ばそうと再び大きく振るわれるが装甲上で転がるかのようにその場で回転し、通過する際に足で相手の左腕の装甲を蹴り、相手の背後へと回る。

 

「獲った!」

 

 雪片弐型と雪羅のブレードモードを展開し、二刀の零落白夜で切り裂こうと振り下ろすがこちらを振り向きもせずに相手の足が降りぬかれ、ブレードが弾かれてしまう。

 

(でもまだ残ってる!)

 

 雪片弐型を強く握りしめ、片手で振り下ろそうとしたその時、膝関節があり得ない方向を向いて敵の足裏が俺の腹部に迫っているのが見えた。

 人間じゃ明らかに関節が外れ、あらゆる小さな骨が砕けているだろうが相手は無人機。

 人間には到底できない攻撃をしてくる―――それを忘れていた。

 

「ごっ!」

「一夏ー!」

 

 腹部に蹴りが突き刺さった瞬間、ボキィッ! と何かが折れる音が体の奥底で鳴り響くと同時に口から何か液体がせりあがってきて吐き出す。

 その液体は血反吐だった。

 そのまま壁まで蹴り飛ばされ、背中から壁に激突してズルズルと落ちていく。

 相手は俺を一瞥すると凄まじい推進力で前へと突き進み始め、鉄の乙女は両腕を大きく振るって楯無さんと箒をいとも簡単に吹き飛ばすとまっすぐある場所へと突き進んでいく。

 そこには装甲がほとんど損壊し、動くことすらできない簪がいる。

 

「かん……ざしっ!」

 

 鉄の乙女は簪へと突き進み、何の躊躇もなく右腕のブレードを振りかざす。

 

「ぁっ」

 

 簪の小さな悲鳴が聞こえ、激痛をこらえながらBoost・Timeを発動させようとした瞬間、相手と簪の間に何かが滑り込んだ。

 

 

 

 

 

――――――次の瞬間、鮮血が舞い、血しぶきがフィールドを赤く汚した。

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