Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百五話

「織斑先生!」

「状況は」

 

 やっとの思いで千冬を見つけた真耶は即座にタブレット端末を千冬に見せ、アリーナのカメラで撮影されていた四機の侵入者の姿を提示する。

 その姿を見て千冬は以前、出現した機体の発展型だと瞬時に判断する。

 

「織斑先生、指示を」

 

 IS学園はISという世界最強の兵器を多数扱っている以上、非常事態マニュアルを策定しているが予測外の緊急事態が発生した際の指示はすべて織斑千冬が取ることとなっている。

 それはかつて世界最強のブリュンヒルデであったことに起因している。

 

「ゴーレムは誰が」

「ゴ、ゴーレム?」

 

 聞きなれない言葉に真耶がそう尋ねた瞬間、しまったと言わんばかりに千冬は口を閉じる。

 その表情は普段の冷静沈着な千冬が浮かべることのないものであり、思わず発してしまったというもの。

 

「敵機の状況は」

「専用機持ちがペアを組んで対応にあたっています」

「……ならば拠点防衛布陣を形成する。装備はレベルⅢ適応だ」

「はい!」

「生徒の避難状況は」

「50パーセントに留まっています! 戦闘が敷地内で発生しており、校舎の側で行われている個所もあり、思うように避難が進んでいない状況です!」

 

 都合よくアリーナ内で戦闘してくれていれば生徒の避難もスムーズに済んでいたがほとんどがアリーナ外で戦闘を行っている以上、訓練通りに避難は進まない。

 あくまで拠点防衛布陣はすべての生徒が避難を完了させていることを前提として組んでいるため、避難が半分程度しか終わっていない状況では使うべきではない。

 千冬は忌々しそうにある人物の顔を思い浮かべながら口の端をかむ。

 

「イージス・シフトを組め」

「っっ!」

 

 真耶の顔を一瞬にして緊張の色が包み込み、生唾を飲みこむ。

 ―――イージス・シフト

 それは極限状態で起動される学園の危機管理モード。

 対象は敵対勢力による襲撃、機密漏洩の恐れ、資産価値の高い施設またはデータの消失リスクを含む学園の存亡を含んだレベルの非常事態。

 このモードでは、人命優先の原則が一時的に停止され、【学園機能の維持・保全】が最優先される。

 そして千冬はタブレット端末を使用し、千冬にのみ許されたコマンドを発令する。

 次の瞬間、校内アナウンスが金属音と共に鳴り響く。

 

『イージス・シフト、発動。全員、非人道的選定基準に従い、学園を維持せよ。繰り返す、学園を維持せよ』

「真耶。お前も頼んだぞ」

「了解!」

 

 真耶は背筋を伸ばしてそう答えると自身に割り当てられている機体を取りに格納庫へと向かい、千冬はタブレット端末を操作し、再び先ほどの映像を映し出す。

 そこには各専用機持ちたちの戦闘映像が映し出されている。

 イージス・シフトを発令した以上、教員はゴーレムの対処にはあたることができない。

 それはすなわち、専用機持ちにゴーレムの破壊を一任するということであると同時に生徒たちの実力を信頼していなければ発動できない。

 

「ゴーレムⅠだけでなくⅢまで……『あいつ』はまだ出せない……最悪の事態は何としても避ける」

 

 

 

――――――☆――――――

「はぁぁっ!」

 

 連結した双天我月を握り締め、ゴーレムめがけて突撃していく鈴だがゴーレムがその黒い腕を振り上げた瞬間、体が動かなくなり、鈴の額に脂汗が流れ落ちていく。

 徐々に呼吸は小刻みなものに変わり、手は震え、視界は狭まっていく。

 

(ダ、ダメっ……このままじゃ)

「鈴さん!」

 

 四基のビットから青いレーザーが放たれ、迫ろうとしていたゴーレムに直撃してその場に足止めする。

 その隙をついて鈴は後ろへと大きく飛びのき、一度距離を取るがゴーレムの四門の砲口が開かれ、彼女たちに向けられた瞬間、超高熱圧縮熱線が放たれる。

 スラスターを駆使して難なく回避するが鈴の表情は重い。

 

「鈴さん!」

「あたしは大丈夫よ……足引っ張ってるわね」

「わたくしがいる以上、あなたに攻撃を当てさせませんわ。ティアーズ!」

 

 四基のビットがゴーレムの周囲に配置され、一斉にレーザーが放たれるがスラスターが吹き、その場からゴーレムが離脱し、そのまま地面にレーザーが突き進んでいく。

 しかし、セシリアが円を描くように指を動かした途端、その軌道に合わせてレーザーが軌道を変え、全てがゴーレムの装甲に着弾し、爆発を上げる。

 

「ついでですわ♪」

 

 残り二基のビットからミサイルが放たれ、ゴーレムに着弾し、大きな爆発を上げる。

 爆煙が立ち上るがそこから効いていないと言わんばかりにゴーレムが歩きながら姿を現し、セシリアと鈴の姿を捉える。

 

(そうはいっても……あたしが足を引っ張ってる状況には変わらない)

 

 黒いISにトラウマを抱えている鈴はまともに攻撃を繰り出すことができない。

 本来であれば鈴がゴーレムの隙を作り出し、その隙にセシリアが新武装スターダスト・ゼクターによる最強の一撃をあてることができれば破壊は容易いはず。

 今は実質、セシリアの火力だけがメインの攻撃となっている。

 

「きますわよ!」

「っっ!」

 

 スラスターを吹かしながら軽やかにゴーレムが空を舞い、二人に向かってとびかかってくる。

 その場から離脱したセシリアが『スターライトmkⅢ』による連射をお見舞いするがゴーレムから突然、球状の物体が射出され、エネルギー・バリアを展開し、いとも簡単にセシリアの一撃を防ぐ。

 

「シールドまで!?」

「だったらあたしの衝撃砲で!」

 

 衝撃砲『龍砲』の砲口が開き、今にも放たれようとするがゴーレムがチラッと鈴をとらえた瞬間、彼女の動きが止まり、龍砲の発射も停止する。

 

「ハァッ! ハァッ!」

 

 小刻みに繰り返される呼吸は酸素など取り込めているはずもなく、鈴の顔色はどんどん青白くなっていき、苦しそうに胸を抑える。

 鈴の脳裏に蘇るのはあの時の悪夢のような数分間。

 

「鈴さん!」

「っっ!」

 

 セシリアの言葉で我に返り、顔を上げた瞬間、目の前に肥大化した左腕を大きく振りかぶっている敵機の姿が鈴の視界に入る。

 明らかに回避が間に合わない距離まで入り込まれていた。

 

(ぁ―――死んだ)

「鈴さーん!」

 

 突然の叫びと同時に側面からドンっ! と強く押し出されると同時に視界の端にセシリアの姿が入る―――彼女の手を取ろうとしたその時、無情にも敵の左腕が通過していった。

 ガシャン! という聞きたくない音が鈴の耳に入るとともに視界にはブルー・ティアーズの青色の装甲片が飛び交っている。

 地表に体を震わせながら目を向けると頭から血を流し、地面に横たわって苦悶の表情を浮かべているセシリアの姿があった。

 

「ぁ―――――ひゅっ! ぁっ! ぃぁっ!」

 

 まるで何かに喉元を締め付けられているかのように呼吸が出来なくなり、鈴の視界が徐々に狭まっていき、光が消えて暗闇に染まっていく。

 鼓動は異常なまでに早く打っており、平衡感覚も狂い、今自分がどっちの方向を向いているのか、どちらが上なのか下なのかすらわからないほど頭がぐるぐると回る。

 

「あっ! がっ!」

 

 敵の腕が伸び、鈴の喉を締め付け始め、本当に呼吸が出来なくなる。

 このまま相手の腕に力が入れられて握りつぶされるだろう―――そんな死の未来が見え、鈴の手は大きく震え、目に涙を浮かべる。

 

(一夏! 一夏助けて!)

 

 想い人の名を必死に叫ぶがあの時のように名前を呼んでも助けには来てくれない。

 セシリアもさっきの敵の攻撃でまともに動くことはできない―――状況を打開するすべはなく、ただ自分の命が尽きるのを待つしかなかった。

 もう鈴に希望は残されていない。

 

(も、もう……ダメ……)

 

 腕から力が抜け落ち、徐々に意識が闇の中へと落ちていくのを感じながら鈴は瞳を閉じていく。

 全てを諦めれば今感じている苦しみや恐怖から逃れる―――そう思うと体からありとあらゆる力が抜けていき、何もない真っ暗な水の中へと体が落ちていく。

 

「鈴ー!」

「っっ!」

 

 今にも意識が消えかかりそうなその時、鈴の耳にセシリアの叫び声が木霊する。

 閉じかけていた眼を開き、視線だけを動かしてみると頭から血を流し、装甲がボロボロになりながらもいまだに戦う意思を消していないセシリアの姿があった。

 彼女はスターライトmkⅢを杖代わりにして立ち上がる。

 

「何をしていますの! こんなところで諦めればすべてが終わってしまいますのよ!」

「……ぁっ……かっ」

「ここで負ければどうやって想いを伝えるというのですか! どうやって愛していると伝えるのですか! わたくしの一人勝ちになりますわよ!」

「……ぐぅっ……ひゅっ」

「トラウマがなんですの! いつものあなたのノリと勢いはどこへ消えたのですか! 鳳鈴音!」

「っっ!

(そうよ……あたしは中国代表候補生の鳳鈴音! 一夏に大好きだって言うまでは死ねない! 死んじゃいけないのよ! それに……セシリアの一人勝ちなんてあたしのプライドが許さない!)

 

 再び体に力を入れ、相手の黒い腕を鷲掴みにした瞬間、龍砲の砲口を開き、至近距離からの最大出力開放の衝撃砲をぶつけると相手の腕から力が抜ける。

 その隙に相手の胸部装甲を蹴り、その勢いで距離を取ってセシリアのもとへと向かう。

 

「セシリア! あんた怪我は!」

「大丈夫ですわ、この程度」

「……ありがと。あんたのおかげで……覚悟、決まったわ」

「鈴さん」

「あたしがあいつの隙を作る……その隙にあんたはぶちかましなさい!」

 

 鈴は両手に双天我月を握り締め、スラスターを最大稼働させてゴーレムのもとへと向かっていく。

 肥大化した左腕が大きく後ろへと振りかざされるのを確認した鈴は瞬時加速を発動させ、双天我月の切っ先を向けながら突撃する。

 ―――ガギィィン! と甲高い音ともに火花が散るが相手の装甲は堅牢で傷一つつかない。

 

「よっと」

 

 遅れて振り下ろされた拳を回避し、いったん距離を取る。

 

「この速度じゃ足りないってわけね……やってやろうじゃない。龍の名に恥じない攻撃を見せてやるわ!」

 

 鈴は龍砲の砲身角度を真後ろへと向けると最大出力で放つ準備をすると同時に両膝が地面につくくらいにまで体勢を低くする。

 双天我月は切っ先を相手へと向ける。

 

(一夏みたいな亜光速には入れないけど……龍砲の最大発射時の勢いを瞬時加速に上乗せすれば瞬時加速以上の加速は生み出せる)

 

 ただそれが意味しているのはISの保護機能を貫通するほどの重圧が彼女の体に発生するということだがすべての覚悟が決まった彼女の前にそのような不安は意味をなさない。

 

「行くわよ!」

 

 最大威力の龍砲を放つと同時に瞬時加速を発動させた瞬間、今までに経験したことがないほどの重圧が鈴の全身に襲い掛かり、ミシミシと骨がきしむ音が聞こえてくるが鈴はそれを無視して突き進む。

 ゴーレムは手のひらを向けて熱線を放とうとするが―――

 

(こっちのほうが早いのよ!)

「てやぁぁぁっ!」

 

 バギィィッン! という破砕音が鳴り響くほどの勢いで双天我月がゴーレムの腹部装甲を一瞬にして深々と差し込まれ、バチバチッと断続的に火花が散る。

 鈴はすぐさま双天我月を収納し、距離を取るが腹部にぽっかりと穴をあけたゴーレムはいまだ健在で熱線を鈴めがけて勢いよく放つ。

 

「まだまだってわけね! こっちだってまだまだいけるんだから! その邪魔な腕切り落とす!」

 

 鈴は熱線を回避しながら再び双天我月を呼び出すと同時に腕部衝撃砲の代わりに実装していた高電圧縛鎖(ボルテックチェーン)を二本とも呼び出し、無理やり双天我月の持ち手に結び付ける。

 そしてその鎖を握り締めて勢いよく振り回し始める。

 同時にゴーレムが手のひらを握り締めると先ほどとは違い、長時間のチャージへと移行する。

 

「その一撃で終わらせる気? それはあたしだって同じよ! よっと!」

 

 各部のスラスターを駆使してその場で勢いよく回転しながら鎖に繋がれた双天我月も回転し始め、空気を切り裂く音が周囲に響き渡る。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!」

 

 鈴が勢いよくゴーレムめがけて突撃すると同時にチャージが終了したゴーレムの熱線が鈴を焼き払おうと凄まじい威力で放たれる。

 

「バーカ」

 

 ボンッ! と小威力の龍砲が発射されたかと思えば鈴の軌道が僅かながらに上側へと逸れ、ギリギリのところをゴーレムの熱線が通り過ぎていく。

 最初から真正面で熱線とぶつかり合う気など鈴にはなかった。

 凄まじい回転を維持したまま鈴はゴーレムへと向かって突撃していき、そして―――

 

「たぁぁぁっ!」

 

 凄まじい回転の勢いのまま双天我月が振り下ろされた瞬間、音を立てることなくゴーレムの両腕が肩から先できれいにスパッと切断され、切断断面からは火花が散る。

 ドンッ! と切断されたゴーレムの両腕が地面に落ちるとともに瞬時加速を発動させたセシリアがゴーレムの懐へと寝そべる格好でもぐりこみ、銃口を腹部へとあてる。

 既にスターダスト・ゼクターには四基のビットが装備されている。

 

「Blue Tear Singularity」

 

 落ち着いたその一言の直後、引き金が引かれると同時に超極大な青色のレーザーがゴーレムの腹部を一瞬にして飲み込むと同時に上空に一本の光柱が立ち上る。

 やがて光柱は細くなり、一本の線となって消える。

 超極大のレーザーの一撃をまともに受けたゴーレムの腹部は奇麗に吹き飛んで大きな穴が開いており、そこにあったはずのパーツやISの心臓であるコアの姿はどこにもなかった。

 

「邪魔、ですわ」

 

 スターダスト・ゼクターで軽くこつんと衝撃を与えてやるとガラクタとなったゴーレムは背中から地面に落ちていき、倒れ落ちた衝撃でいくつものパーツが周辺に散らばる。

 

「セシリアー!」

「鈴さん!」

 

 上空から降り立ち、ISを解除した満面の笑顔を浮かべた鈴がセシリアに抱きつく。

 

「やったやった! あたしたちやったのよ!」

「ええ! 確かにやりましたわ!」

「「いえーい!」」

 

 激しい戦いを終えた場所には少女たちの楽しそうな笑い声、そしてハイタッチの音が木霊した。

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