Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百六話

 ―――数十分前

 

「はぁぁっ!」

 

 両腕のプラズマ手刀を展開し、高速で振りかざすが肥大化した左腕に阻まれるがその隙に六機のワイヤーブレードが射出されてゴーレムの背面装甲を切り刻む。

 しかし、物ともしないゴーレムは肥大化した左腕を大きく振るい、ラウラを弾き飛ばすと手のひらの砲口からラウラめがけて超高熱圧縮熱線を放つ。

 

「ちっ!」

 

 ワイヤーブレードを離れた校舎の壁に突き刺し、ワイヤーの戻る力を利用してその場から離脱することで熱戦による一撃を回避する。

 追撃を加えようとゴーレムが動き出そうとした瞬間、上空から鉛の雨が降り注ぎ、ゴーレムの全身で無数の火花が散るとともに上空からシャルロットが急降下で舞い降りる。

 

「これでもくらえ!」

 

 左腕部シールドから六十九口径のパイルバンカーを呼び出しており、急降下の勢いのままゴーレムに叩きつけようとするがゴーレムがバックステップで後方へと飛びのいたことでパイルバンカーを収納し、両手にサブマシンガンを二丁呼び出して引き金を引く。

 後方からはラウラの大型レールカノンの砲撃が火を噴く。

 

「シャルロット気をつけろ! 絶対防御システムが阻害されている!」

「そうだね!」

 

 ISの一撃が死へと直結するこの戦場において一瞬の油断が命取りとなる。

 その時、爆煙の中から弾丸の雨あられをその身で受け止めながら彼女たちのもとへと突撃してくるゴーレムが現れ、二人は慌ててその場から上空へと舞い上がるがゴーレムもそれを追いかける。

 通信機能も阻害されている以上、お互いの意思疎通は言葉では取れない。

 

「対IS用ISとでもいうべき性能だな」

 

 振りぬかれる肥大化した拳の一撃を軽く飛び上がることで回避しながら蹴りを相手の顔へと叩き込むが効いている様子はなくラウラの足を掴もうと右手が伸びてくる。

 その場で半回転することで右手を弾き飛ばし、至近距離からレールカノンの砲口を相手に向ける。

 

「消えろ」

 

 爆音とともにゴーレムの体勢が崩れる―――しかし、同時に左手のひらの砲口から熱線が放たれようとしているのを確認したラウラは表情を凍り付かせる。

 

(間に合わん!)

「ラウラァァァ!」

 

 ゴーレムとラウラの間に体を滑り込ませたシャルロットが得意の拘束切替で物理シールドを三枚重ねて目の前に展開する。

 直後、熱線が放たれるといとも簡単にシールドは破壊され、シャルロットの右手を飲み込んだ。

 

「くっ!」

「シャルロット!」

「大丈夫! 軽く火傷しただけ!」

 

 そうは言うが彼女の右腕は燃えたかのように赤くなっており、皮膚もボロボロになっており、表情も激痛に耐えている苦悶の表情となっている。

 その表情を見たラウラは怒りをあらわにし、眼帯を引きちぎって『ヴォーダン・オージェ』を開放する。

 

「よくもシャルロットに傷を!」

 

 ワイヤーブレードが一気に射出されるが速度が先ほどとは段違いに跳ね上がっており、同時にスラスターを吹かせてラウラ自身も刃の一部となって突撃する。

 ゴーレムの肥大化した拳の振りぬきを寸でのところで回避しながら体を回転させ、六本のワイヤーブレードと二本のプラズマ手刀で相手の装甲を切り裂いていく。

 

―――ガシッ

 

「なっ!?」

 

 無数の斬撃をものともしないゴーレムの右手がワイヤーを三本まとめて鷲掴みにすることでラウラの回転を無理やり止めると勢いよく左腕を後ろへと引く。

 

「ラウラ! ワイヤーを切断して退避して!」

「間に合わ―――」

「ラウラァァァ!」

「ぐぶぁっ!」

 

 悲痛なシャルロットの叫びが木霊すると同時にゴーレムの肥大化した拳がラウラの腹部に突き刺さり、彼女の体が九の字に曲がるとともに血反吐がまき散らされる。

 ワイヤーがようやく切断されるが拳が突き刺さった衝撃で後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

「ラウラ!」

 

 すぐさま彼女の後方へとシャルロットが回り込み、受け止めるが腹部の装甲は弾け飛んでおり、ラウラの表情から明らかに重症なのは確か。

 

「ラウラ! しっかりして!」

「だ、大丈夫だ…来るぞ!」

 

 お互いに傷を負いながらもその場から飛びのいた瞬間、ゴーレムの拳が学園の地面を砕き割る。

 シャルロットはグズグズに焼きただれた右腕をかばいながら、ラウラは腹部の痛みにこらえ、血反吐を吐き捨てながらゴーレムをにらみつける。

 

「どうしようか」

「そうだな……ぺっ! 旦那様のような必殺技があれば話は別だが」

「……ないことはないよ」

「……その言い方だと使ったことがないな?」

 

 半分笑いながらラウラがそう言うとシャルロットもウソがばれた子供のように小さく笑みを浮かべる。

 

「時間は」

「三分……ほしいかな」

「……ならば私が稼ごう。その隙に準備を整えるんだ!」

 

 残り三本のワイヤーブレードを射出し、プラズマ手刀を展開しながらゴーレムへと突っ込んでいくラウラ。

 それを見届けたシャルロットはすぐさまコンソールを開き、保留状態になっていた武装のダウンロードを開始し、武器のスペックを確認していく。

 

「ぐっ!」

 

 勢い良く振りぬかれる拳をかわした瞬間、腹部に鈍痛が響き渡ると同時に腹の奥底から何かが込み上げてきて地面に多量の血反吐を吐き捨てる。

 距離を取り、レールカノンを連射するが巨体に見合わない軽やかな回避行動で全てが回避されて無意味に地面に大きな穴をあけていく。

 

「はぁっ!」

 

 相手の攻撃をプラズマ手刀で受け流すがその威力の強さに徐々に押され始める。

 ワイヤーブレードを相手の後方から振るうがブレードを見る間もなくゴーレムはそれを鷲掴みにし、ラウラは瞬時にワイヤーを切断する。

 

「はぁっ……はぁっ」

 

 普段ならば三分待つなど造作もないが命を懸けた戦場では異常に長く感じてしまう―――しかし、ラウラの表情は少しずつ変わりつつあった。

 ここに来るまでは軍所属、かつ隊長ということもあり、命を懸けた戦場にも何度か参加したことがある。

 その際は必ず一人で現場に降り立っていた。

 それは殺戮を楽しむもう一人の自分が必ず現れ、敵味方問わずに殺戮の快楽に身を任せて戦いに身を投じてしまうが故。

 ただ、それも学園にやってきて彼と出会ってから姿を消した―――いや、心の中にはいたがそれを表に出すようなことはなかった。

 

(私はあの時、殺戮を楽しむ己を受け入れた)

 

 レールカノンが連続して火を噴き、ゴーレムへと連続で放たれる。

 

(今までは殺戮を楽しむ自分など否定してきた……だがその一面も私……まだいるのだろう)

(いつから“私”はこんな畏まった戦いをするようになった?)

 

 頭の中にあの時受け入れた殺戮を楽しむもう一人の自分の声が響く。

 体には染みついている―――殺戮を楽しんでいる際の自分のひどく汚い戦い方を。

 動いている敵を全て排除するために腕を動かし、目を動かし、足を動かし、体のすべての部位を敵を殺戮するためだけに使うあの感覚を今一度、思い出そう。

 

(殺戮を楽しむために殺すのではない……皆を守るための戦いを楽しむために―――)

 

 ゴーレムの腕がまっすぐラウラの顔面目掛けて放たれるがラウラは動かない。

 

「ラウラ!」

 

((目の前の敵を殺す! ただそれだけだ!))

「ふんっ!」

 

 目の前に向かってくる拳をひらりと身をよじって回避し、相手の手首に勢いよくプラズマ手刀を突き刺した瞬間、瞬時加速のままプラズマ手刀を引きずり、火花を散らせながら相手の装甲に線路を刻み込んでいく。

 その表情はまさに―――悪魔が浮かべる笑顔。

 

「ハハハハハッ! でぁぁぁぁっ!」

 

 左腕に深々と線路を刻み込むと同時に加速を維持したまま相手の顔面に膝蹴りを突き刺す。

 そしてその場で倒立するように両足裏を空へと向け、相手の首を鷲掴みにするや否やスラスターを吹かして体勢を元に戻す勢いで地表へと叩き付ける。

 

「愉快愉快! これこそ戦いの愉悦! 命をかけた戦いの醍醐味だ!」

 

 ヴォーダン・オージェを輝かせながら再びプラズマ手刀を展開し、勢いよく突っ込んでいく。

 相手が手のひらの砲口を見せつけた瞬間、プラズマ手刀が砲口に深々と突き刺され、ラウラを巻き込んで熱線が暴発し、拳が大破する。

 

「ハハハハハッ! この程度の熱で私は焼けんぞ! 戦いの愉悦で生まれる熱こそ私を焼き焦がす!」

「ラウラー!」

 

 シャルロットの叫びが木霊するがラウラは後ろを振り返ることなく上空へと舞い上がる。

 そしてゴーレムの視界に現れたのは周囲に展開途中の武装をいくつも浮遊させているシャルロットの姿であり、その手には二丁のアサルトライフルが握られている。

 浮遊している光の粒子はざっと十八。

 瞬時にゴーレムは高い危険度を感じ、スラスターを吹かせてシャルロットを叩き潰そうとするが何かに拘束されたかのようにその体が止まる。

 

「まあ、そう焦るな……ディナーはゆっくりと味わうものだ」

 

 後方にはヴォーダン・オージェの黄金の輝きとともにフルパワーでAICを起動させているラウラがいた。

 

「これでトドメ!」

 

 引き金を引いた瞬間、握られていたアサルトライフルが火を噴き、装填されている全ての弾丸が放たれてゴーレムの全身に着弾する。

 直後、撃ち切る寸前に周囲の粒子を鷲掴みにしたかと思えばシャルロットの手中に連装ショットガンの《レイン・オブ・サタデイ》が収まり、再び火を噴く。

 シャルロットは次々と手中に収めた重火器を一発だけ残し、周囲の半形成状態の武装を高速切替を駆使して次々と撃ち放っていく。

 武器の切り替えに寸分の隙も与えず、まるで無限ガトリングでも撃っているかのような凄まじいまでの弾幕はゴーレムの装甲に深刻なダメージを与えていく。

 鉛の弾丸はまるで暴風雨のように寸分の隙間すらないほどに―――無限にも思える時間、降り注ぐ。

 

「―――Chaîne de la Mort(カデナ・ド・ラ・モール)」

 

 十八もの重火器を打ち切るとともにAICが解除されるがすでにゴーレムに二人を叩きのめすほどの余力は残っておらず、膝から崩れ落ちる。

 しかし、エネルギーはまだ残っている。

 最後の仕上げと言わんばかりにシャルロットは近接ブレード《ブレッド・スライサー》を呼び出し、瞬時加速で一気に距離を詰め、懐に潜り込む。

 そしてラウラは再びプラズマ手刀を展開し、そして―――

 

「「終わりだぁぁ!」」

 

 腹部にブレッド・スライサーが、背部からプラズマ手刀が突き刺された瞬間、まるで電流が迸ったかのようにゴーレムの全身がびくつく。

 そしてすべての力を失ったかのようにゴーレムの両腕がだらんと地面に落ち、首を垂れる。

 

「……」

「……」

 

 二人は何も言わず、互いの顔を見つめあいながら静かにハイタッチをかわした。

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