鮮やかな鮮血が舞い、血しぶきがフィールドを赤く汚す。
簪に向けて振り下ろされたブレードは確かに生身の肉体を切り裂いた―――でも切り裂かれたのは簪ではなく簪を守るために間に入った楯無。
背中を切り裂かれ、血を流しながらも楯無は簪を強く抱きしめる。
「どう……してっ」
「どうしてって……妹を……守るのに……理由なんかいらない」
「……私は……何も…出来ないのに……どうして」
こんなポンコツは戦場では一切役に立たない。
だから切り捨てて敵の破壊に集中すれば少なくとも楯無は傷を負うことはなかった―――代わりに自分が傷つくだけだがそれでいい。
戦況的にはそれが一番の最適解のはず。
「できない……ことはないわ……あなたは…優しいから……」
「優しいだけじゃ何も出来ないよぅ……」
簪は大粒の涙を流しながら楯無の手を握り締めるとそれに呼応するように楯無も簪の手を握り締める。
「大丈夫……あなたは……一人じゃないわ」
止めを刺そうとブレードを振り下ろそうとするが後ろから何かにブレードを掴まれているのか振り下ろせず、後ろを振り返ると般若のごとく怒りの業火を煮えたぎらせた一夏がブレードを握り締めている。
絶対防御が効いておらず、刃が彼の手のひらを切って鮮血が流れ落ちるが彼はものともしない。
直後、箒の二本の刀が交差してゴーレムの脇腹に突き刺さり、至近距離で赤いエネルギー斬撃波が放たれてゴーレムの機体を大きく吹き飛ばす。
「立て! 簪!」
口の端には赤い血が付いているが一夏は表情を痛みに歪めることもせず、雪片弐型を握り締めて倒すべき敵のほうを向き、叫びをあげる。
その後ろ姿は簪が憧れるヒーローそのもの。
誰かが困っているところに参上し、悪事を働く悪者をやっつけて平和を取り戻す正義のヒーロー。
「俺たちがやることは泣いて何もしないことじゃない! 目の前の敵を倒すんだ!」
「……私に……私にできるかな」
「やってやろうぜ! 俺たちと一緒に!」
目の前に一夏の手が差し出され、簪は弱弱しくその手を取ると彼に強く手を握られて立ち上がる。
さっきまで両足に力が入らなかったというのに彼の手を取ったとたんに力が入り、心の奥底から暖かな想いとともに力が湧き上がってくる。
それに呼応するかのように打鉄弐式が再起動する。
「……うんっ……私は……もう止まらない……行こう」
「んじゃいっちょやるか! 楯無さんの敵討ちだ!」
「まだ生きてるわよ」
「は、はは……行くぞー!」
「おー!」
「お、おー」
大型ウイングスラスターを全開に吹かした一夏が突撃し、その後ろを追いかけるようにして箒が向かっていくが簪は山嵐の起動準備に入る。
しかし、表示されたシステムエラーの通知。
「マルチ・ロックオン・システムが破損……さっきの攻撃で」
一夏の蒼炎瞬時加速の衝撃によりシステムに深刻なエラーが起きていることを悟った簪は両手両足の装甲を粒子とかして解除するとフルカスタムされた空間投影キーボードを呼び出す。
二足二手、指五本につき二枚の球状キーボードを合計八枚呼び出して一斉に入力を始めた。
「大気の状態……弾頭の特性……そのすべてをリアルタイムで考慮して……仮想システムを作り出す」
今、目の前に広がっている全ての環境要素をシステムに組み込んでいき、簪は一基一基のミサイルのすべてをマニュアル操作で目の前の敵にぶつけようとしている。
(少しだけ……お願い)
「箒!」
「はぁぁっ!」
敵のブレードの一撃を雪片弐型で受け止めた一夏がそう叫ぶと脚部の展開装甲からエネルギー刃を生成した箒がかかと落としの要領で振りぬき、ゴーレムの装甲を切り裂く。
フィールドに降りた箒の背中を足場に一夏が飛び上がり、全力で剣を振り下ろして切り裂こうとするが相手は零落白夜を警戒してか後方へとバックステップで距離を取る。
「かかったな」
「受けてみろ!」
牙突と同時に放たれたレーザーと雪羅の荷電粒子砲が敵に直撃し、大きな爆発を上げながら吹き飛ばすが空中で無理やり姿勢を整え、スラスターの勢いで突撃してくる。
直後、ギュォォン! というエンジン音とともに超音速でのアッパーカットが相手の顔面に突き刺さり、そのまま上空へと殴り上げる。
【Boost・Time】
超音速飛行で相手の背後を瞬時に取り、超音速のかかと落としを背面に叩き込み、フィールドに叩き付けるとともに一夏も降り立つ。
降り立った瞬間にブレードが勢いよく突き出されてくるが姿勢を低くし、ブレードの一撃を回避すると隙だらけの腹部へ超音速の殴打を連続で叩きこんでいく。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!」
断続的な爆音とともにガタガタと全身を震わせながら少しずつ後ろへと敵が下がっていき、フィールドに相手の装甲のかけらが音を立てて転がっていく。
一際強く拳を叩きつけた瞬間、相手の装甲に大きな亀裂が走るが直後にBoost・Timeが終わりを告げるように推進機構が姿を消す。
「伏せろ一夏!」
箒の声に従い、即座に伏せたところを赤いレーザーや斬撃波が次々に通り過ぎていき、相手の装甲に着弾して断続的な爆発を上げていく。
次は自分だと言わんばかりに各部の展開装甲を開き、二枚の脚部刃、そして二本の刀による連なった斬撃を次々と相手に刻んでいく。
「はぁっ!」
宙返りとともに二枚の脚部刃で相手を切り裂き、少し距離を取る。
切り裂かれた相手は傷は追っているものの致命傷には至っておらず、その動きに衰えは全く見えず、ぴんぴんしている。
(蒼炎瞬時加速に入っている時間はない!)
相手はまるで咆哮を上げるかのように両腕を伸ばし、甲高いマシンボイスを上げるとどす黒い液体をぶちまけながら左腕からもブレードをはやした。
直後、スラスターが最大稼働し、その場から姿が消え去る。
「「瞬時加速!」」
箒と一夏はすぐさま同時に瞬時加速を発動させ、相手の高速移動に追いついて己の得物を振りかざすが相手の二本のブレードに受け止められる。
二人は負けじと空裂・雨月、そして雪羅のブレードと雪片弐型を連続で振りかざしていくが相手も各部のスラスターを最大稼働させて二人の斬撃の雨をいなしていく。
「くぅっ!」
「ぐぁっ!」
無人機であるが故に人間の反応速度を超越した速度で動けるために二人の体を装甲ごとブレードで切り裂く回数が徐々に増えていく。
二人は奥歯をかみしめ、痛みをこらえ、ひたすらに斬撃を振りかざしていく。
「箒! まだまだいけるよな!」
「当たり前だ!」
互いに切り刻まれ、血を流しながらも全力で得物を振りかざしていく。
直後、相手がブレードを大きく横なぎに振るって二人の攻撃をはじいた瞬間、瞬時加速を発動させて二人を押しのけて簪のもとへと向かい、熱線を放つ。
「やらせるか!」
再び瞬時加速を発動させた箒が簪の前に立ち、両腕を前に突き出して展開装甲を開放することで前方に強力なエネルギー・ブラスター・シールドを展開する。
シールドによって遮られた熱線は四散し、消え去るが追撃と言わんばかりに相手は熱線を高速連射へと切り替えてシールドの突破を図る。
「ぐぅっ! まだまだこんなものではないだろう! 紅椿ー!」
箒の叫びに呼応するかのように紅椿の肩部の展開装甲がスライドし、巨大な矢じりをつがえたクロスボウのような形状の武装が姿を現す。
「こ、これは」
突然の出来事に驚いている箒の目の前にパネルが表示されて武装の情報が示される。
『戦闘経験値が一定量に達しました。武装の構築を完了。出力可変型ブラスター・ライフル《
「ええい! 回りくどい説明はいらない!」
読むのすら煩わしいほどの情報の羅列を手で振り払うとブラスター・シールドを張ったままの状態で腰を低く下した。
―――この武装は大出力武器。PICを機体支持に回さなければまともに当たりはしない。
と、新たな武装の特徴を一瞬で理解した箒の右目にターゲット・スコープが現れ、熱線を連射しているゴーレムの機体を正確無比にとらえる。
「その左腕もらうぞ!」
直後、深紅のエネルギー・ビームが超高密度圧縮状態で放たれる。
両肩二門で放たれたその一撃は凄まじい熱量でフィールドを焼き払いながら突き進んでいき、連射されていた熱線をいとも簡単に飲み込んでいき、左腕を一瞬にして貫いた。
左腕を失い、バランスを大きく崩すがゴーレムはすぐさま体勢を強引に立て直すとともに瞬時加速を発動させようとするが頭頂部に何かが触れたのを感知する。
「遅い」
そんな冷たい言葉の直後に雪羅の荷電粒子砲が放たれ、ゴーレムを飲み込む。
まともに直撃し、今度こそ膝をついてしまうゴーレム―――そして同時に簪の山嵐がすべての準備を終える。
「一夏っ……離れてっ!」
簪の小さな声を確かに聴きとった一夏がその場から飛びのいた瞬間、打鉄弐式の肩部ウイングスラスターがスライドし、粒子組成を終えた八連装ミサイルが六か所から放たれる。
計四十八発のミサイルを前に熱線を放って撃ち落とそうとするが簪によって完全マニュアル制御されたミサイルはゴーレムの攻撃に合わせて方向転換、加速を行い、確実に着弾していく。
脚、腕、肩、腹、全身を構成している全ての個所にミサイルが着弾し、次々に亀裂が入っていく。
全てのミサイルを受け切った頃には全身が亀裂にまみれており、腹部の装甲は完全に破壊されてISの心臓部ともいえるレアメタルで構成されたコアが露わになる。
「――――――」
目的は果たしたと言わんばかりにゴーレムは最後の一撃をお見舞いしようと最大チャージの熱線を放とうと頭部を前方へと向けるが―――目の前には蒼い炎が広がっていた。
目の前には蒼炎に身を包み、亜光速という異次元の威力の蹴りの構えを取る一夏、そしてその奥には装甲を黄金色に輝かせている紅椿があった。
「終わりだぁぁぁぁぁ!」
腹部に空いた穴から顔をのぞかせているコアめがけて正確無比に蹴りが炸裂し、そのままゴーレムの機体は後方へと大きく引きずられていく。
蒼炎に飲み込まれていくコアは徐々に融解していき、壁に激突した瞬間、爆音とともに粉々に砕け散り、破片すらも蒼炎によって塵一つ残すことなくこの世から姿を消した。
「だぁぁぁっ!」
第二アリーナを大きく揺らすほどの爆風と爆音がフィールド全域に広がり、フィールドに大きな亀裂を走らせるとともに壁を一瞬にして砕いていく。
土煙が立ち込める中、一夏が足を抜く―――その先にはぽっかりと巨大な穴をあけたゴーレムの残骸があり、そのままずるずると力なくフィールドに落ちていく。
「……さすが、新世代……」
勝利を示すかのように箒と一夏は拳を高らかに掲げ、雄たけびを上げる。
簪は恥ずかしそうにしながらも控えめに拳を空へと掲げるのであった。