次の日の朝、教室に行くとやけに教室の雰囲気が浮ついているように見えた。
「あ、織斑君! あの噂知ってる?」
「噂?」
「そうそう! 何でも2組に転校生が来るらしいよ!」
中学時代にも転校はバカみたいにあった。IS学園が日本にしかない以上、早くから日本の生活環境に慣れておく必要があると言い、小学校までは本国。中学からは日本で暮らすという様式が出来上がった。
ただ、あくまでそれは受験に熱心な経済的に余裕がある家庭だけの話し。
「IS学園に転校生なんか来るんだな」
「私の存在を危うんでの判断でしょう」
「誤差0.5cmの脅威を危うんでいるのだな」
「むきぃっ! 貴方という人は!」
「ま、まぁまぁ。セシリアの実力も転校を決めた一因だと思うぜ」
「そ、そうですわ! 流石は一夏さん!」
パァッ! と効果音が聞こえてくるんじゃないかと思うくらいに一気に表情が明るくなるが同時に俺の隣から負のオーラに満ちた顔をする箒が現れる。
「なんでも中国の代表候補生なんだって」
「中国か……あいつ、思い出すな」
「中国に知り合いでもいるの~?」
「まあな」
あいつは確か箒が転校してちょっとした後に転校してきた。両親が中華食堂を経営していて俺も千冬姉もよくお世話になっていた時期がある。
本場の中華料理が食べられるし、美味しいと近所でも評判だった。
「だが一組に来るわけではあるまい。騒ぐほどのことではない」
「そうですわ! 我がクラスには一夏さんを筆頭にこのイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットがおりますもの! 今週末のクラス対抗戦でも優勝間違いないですわ!」
「織斑君が勝てば織斑君を求めて優勝インタビューと握手会をしなきゃ!」
「そうそう。専用機持ちは4組だけだし」
「その情報古いよ」
そんな声が教室の入り口の方から聞こえ、クラスの注目の視線が入口へと注がれる。そこにいたのはツインテールに少し短めのスカート、肩を露出するように制服を改造した女子。
「二組の代表も専用機持ちのあたしに変わったから」
腕を組み、ドアにもたれ掛りながらそう静かに呟く女の子を俺は知っている―――だがIS学園の教室の扉は全て自動ドアになっている。
なのでさっきからドアが一瞬動いて彼女の姿勢が少し崩れ、また戻っては崩れの繰り返しで絶妙に格好がついていないのが気になる。
「あぁ、もうこのドアウザいわね!」
「……お前鈴か」
「そうよ! 中国から帰ってきた鳳鈴音よ!」
「お前絶妙に格好悪いからドアから離れろよ」
「で、でかい声で言わないでよ!」
俺に指摘されたことで一気に恥ずかしさで顔を紅潮させながら鈴はドアから離れる。引っかかりがようやく亡くなった自動ドアは元に戻る。
「と、とにかく今は宣戦布告! ギッタンギッタンの」
「邪魔だ」
「誰が邪魔――――――きゃぁっん!」
鋼鉄の出席簿アタックが決まり、鈴は頭を抑えてその場で蹲る。既に一組では出席簿アタックを喰らわないようにすることが一日の平和の基準になっている。
「SHRの時間だ」
「は、はい……とにかく覚えておきなさいよ! 逃げんじゃないわよ!」
そう叫びながらダッシュで隣の教室へと帰っていった。
(あいつもIS操縦者だったのか……)
「転入生で盛り上がるのは中学生までにしろ。では本日より―――」
今日も今日とてIS学習は続く。
――――――☆――――――
教室が静けさに包まれている授業の時間帯、どの生徒もタブレット端末に電子ペンを走らせて演習問題をスラスラと解いている―――一人だけ頭から湯気を出してオーバーヒートしているのを除いて。
既に解き終えたのだろうか二人の少女が真剣なまなざしでその少年のことを睨み付けている。
(あの仲良さげな会話……ま、まるであれでは幼馴染に再会したような喜び方ではないか……私の時はそこまで声をあげなかったというのに)
(あの中国の代表候補生……鳳さんでしたか……一夏さんとどのような御関係なのかしら……ま、まさかお付き合いされているというのですか!?)
一人の少女は電子ペンを持ち、タブレット端末に少年に対する恨みつらみ―――というよりも嫉妬の思いを込めた言葉を書き連ねていく。
もう一人の少女は関係性を表す図を画き、図示化することで関係を整理する。
(一夏のバカバカバカ……唐変木! 私の気持ちも知らずに私の目の前で女子たちを侍らせおって! セシリアも完全ではないが一夏に好意を抱いているだろう……そ、それは分かる。なんせあの時の一夏の表情は凛々しく、男らしさが籠っていた。今の軟弱な男とは違うのだ……そ、それにあの時私のことを呼んでくれた)
(あぁ気になりますわ! 一体あの方と一夏さんはどのような関係ですの!? ただでさえ箒さんというライバルが私にはおりますのに……ライバル……箒さんと私がライバル……なんの?)
それぞれタブレット端末に書いていた内容が徐々に変化していく―――だが二人は気付いていなかった。その端末は教員側から閲覧することが出来ることを。
「そこまで! 全員データ提出をしろ……あとオルコットと篠ノ乃は放課後再テストだ」
「な、何故ですか!?」
「答案は完璧に埋めましたわ!」
「この場で読み上げていいんだな?」
千冬にそう凄まれ、二人はすぐさま答案を確認すると自分たちが余白に書き連ねていた思いの丈に気付き、顔を真っ赤にしながら何も言わずに座り直した。
「じゃ、じゃあ俺はセーフ!?」
「貴様は再テスト及び追加課題だ」
「ぎゃふん」
――――――☆――――――
「お前のせいだ!」
「一夏さんのせいですわ!」
「な、何が!?」
昼休み、食堂で開口一番にそう言われた俺は思わず聞き返した。
午前中の授業でこの二人は山田先生から三回、千冬姉からは五回も注意と出席簿アタックを繰り出されており、少し気にはなっていた。
「そもそもお前がだな」
「待っていたわよ一夏!」
「おーい、鈴! 席取っといてくれ!」
「ちょ! どこ行くのよ!」
IS学園の食堂はかなり混む。だは勤務する食堂のおばちゃんたちの熟練の技術と客裁きによってあっという間に列は解消され、どんどん進んでいく。
列が進む勢いを見誤った鈴を置いて俺達はどんどん進んでいく。
「おまたせ」
「おっそいわよ!」
「そう怒るなって」
鈴がとっていてくれたテーブル席に座ると箒・セシリアも同じテーブル席に着席する。
ラーメン・和食・洋食とまるで多国籍企業の様なランチの状況に思わず笑みをこぼしてしまう。
「で、いつ帰ってきたんだよ」
「二日前。というかあんたこそ何IS動かしてんのよ。ニュースで見た時ビックリしたじゃない」
「俺もだ。まさか動かせるとはな~って。というかお前こそいつIS操縦者になったんだよ」
「帰ってからすぐ。適性検査受けたら受かっちゃってそのまま1年足らずで候補生、って感じ」
代表候補生全てが専用機を与えられるわけではなく、国家に対して利益や恩恵を与えてくれると判断された場合に与えられる。
それを1年足らずでやるのは流石は代表候補生と言ったところ。
「そうか……あ、親父さん元気か? こっちに戻ってきたらまた店するのか?」
「あー……うん。元気は元気なんじゃないかな」
どうやら俺の質問は彼女にとって地雷だったらしく、さっきまで明るい表情だった彼女の顔に影を落としてしまう。だがその影は一瞬で消えてしまった。
「ところで睨んでくるこの二人は何なの?」
鈴に言われ、そちらの方向を向くとジトーッと目を細めた二人と目が合う。その目つきはまるで獲物を捕らえる猛獣のような鋭いものだった。
「お、おう……こっちが箒。もう一人の幼馴染、こっちがセシリア。最近仲良くなったんだ」
「ふーん……」
鈴は距離を詰めるのが上手い。だからすぐ二人とも仲良くなると思ったが鈴VS箒VSセシリアの構図が出来上がってしまい、三人の視線がぶつかり合って火花が散る。
「あたし、鳳鈴音。よ・ろ・し・く」
「私は篠ノ乃箒だ。負ける気はない」
「わたくしはセシリア・オルコット。オルコット家の誇りにかけて勝ってみせますわ」
とりあえず自己紹介(?)が済んだのを見ながら俺は焼きサバ定食を頂いていく―――やっぱりサバと大根おろしの組み合わせは最高だ。
「ところで一夏、あんたクラス代表なんでしょ?」
「おう」
「んじゃ、クラス対抗戦で当たる訳ね……ねえ、良かったらISの操縦、見てあげよっか?」
「……お前二組だろ?」
「そりゃそうだけど……あたしはフェアな戦いがしたいわけ。今のまま戦ったらあんた、ボロ負けよ」
「ふん! 一夏も日々鍛錬を積んでいる。そう簡単には負けん」
「そうですわ! なんせ私がIS操縦を監督しているのですから」
と、二人は優位性を胸を張りながら示そうとするが鈴はそんなものなんのこれしき、と言わんばかりに鼻で笑いながら首をやれやれと左右に振る。
「まず、あんた」
「な、なんですの!? わたくしはセシリア・オルコットという名前がありますの!」
「あー、はいはい。あんたの主要武器は? 近距離なの?」
「ぐぐぐっ」
確かに鈴の言う通りセシリアは完全に中・遠距離型の武器構成であり、基本的に相手に自分の間合いに入らせない戦い方を行う。
対して俺は完全に近距離主体の武器構成であり、セシリアとの相性は良くない。
(まぁ、セシリアの教え方は理論過ぎて追いつかないんだよな)
「で、あんた……箒だっけ?」
「そ、そうだ……残念だが私は一夏と同じ近距離主体かつ、ともに剣道をしていた仲だ。私の教えこそが一夏の実力向上に大きく影響を」
「IS稼働時間は何時間なわけ?」
「くぅっ!」
ISの実力向上は知識も大事だがどれだけISを稼働させるかにかかっている。確かに箒は俺と同じ近距離主体だが圧倒的にIS稼働時間が少ない。
訓練機を借りるだけでも10枚ほどの紙に署名しないといけないらしい。
「その点、あたしはIS稼働時間も
「「ぐぬぬぬぬぬ!」」
二人は今にも箸を割りそうな勢いで握りしめる。
「てなわけで一夏、今日の放課後開けといてよね!」
「お、おう」
「よしよし! いただきまーす!」
「一夏! なぜあんな奴の誘いを受けるのだ!」
「ふぇ!? い、いや鈴の教えも受けてみたいなって」
「一夏さん! わたくしの理路整然とした指導がいやなのですか!?」
「い、いやそういうわけじゃ」
二人から猛攻を受けているとその様子を見ていた周りの女子たちがひそひそと喋りながら何やらメモを取っている。恐らく助けを懇願しても誰も助けてはくれないだろう。
「と、とりあえずお昼ご飯を」
「私達では不満だというのか!?」
「そうですわ! 答えてくださいまし!」
その後、二人の追及を受けている間に鈴はラーメンを食べ終わってどこかへと消え、千冬姉が食堂にやってきて指導という名の出席簿アタックを受けたのは言うまでもない。