Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百九話

「イツツ……さすがにまだ応えるなぁ」

 

 襲撃者との戦闘を終えた次の日のお昼過ぎ、俺は私服に着替えて出かける準備をしていた。

 ついさっきまでこの前の事件に関する取り調べを朝一から受けていたんだけどこれがまた長いし、細かいことまで聞かれるしとかなりきつかった。

 ほかのみんなは山田先生なのになぜか俺と楯無さんだけ千冬姉だった。

 多分、まだ特別指導室での指導が残っているからそれの日数消化もかねてだったんだろうけど正直、ぼろぼろの状態であの部屋に入るのはもう二度とごめんだ。

 

「くぅっ……はぁっ……そろそろだな」

 

 今日は前々から約束していた蘭が通っている聖マリアンヌ女学園の文化祭午後の部に参加し、一緒に周る。

 正直、女の園であるIS学園にいるのでそこまで女学園とやらに興奮を覚えることはないけど弾曰く、ぜいたくな悩みだそうだ。

 

「……」

 

 着替えているとふと腹部の傷が目に入り、姿鏡に映してマジマジとみてみるがこれまでの痛々しい傷がまだ残っている。

 どうやら白騎士の力は命に関わるものは出力全開で治し、そうでないものは外傷だけを優先して治す低出力モードに切り替えるようだ。

 だから臨海学校の時の大火傷は影も形もないがキャノンボール・ファストの際の刺し傷はまだ残っている。

 そしてもう一つ、気になることが最近、出てきた。

 

「……痛み、残るな」

 

 傷は白騎士のおかげで完全に治してくれるんだけど内側の痛みだけは治してくれないのか、それとも治し切れていないのかわからないけど傷の治癒直後は痛みが残り続けている。

 ただ不幸中の幸いというべきか、IS学園は昨日の襲撃の被害からの復旧作業やなんやらにより3日間の休校が決定しているのである意味、俺たちからすれば休息日だ。

 

「ま、大量の課題が待ってるんだけどな」

 

―――コンコン

 

 扉がノックされ、慌てて服をキチンと着て身なりを整える。

 

「はーい」

「あたしだけど……今良い?」

 

 扉の外から聞こえてきた声は鈴の声で扉を開けると何やら言いたげな表情を浮かべているがそれと同時にその顔は少し赤く染まっている。

 

「き、傷はどうなのよ」

「ん? あぁ、俺は大したことないぞ」

「……そう。あ、あのさ……この後、時間ある?」

 

 そう言われるが誠に残念ながら今日は一日時間が完全になく、どこかの忍者みたいに影分身が使えれば話は別、と言いたくなるくらいの忙しさだ。

 

「悪い。今日はちょっと」

「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ明日の日曜は!?」

「あ、明日?」

 

 ぐいっと食い気味にこられたので思わず後ずさりながらスマホのカレンダーアプリで確認するが今のところそこに予定の類は一切入っていない。

 ただ少し鈴の―――なんというか食い気味というか積極的というか、そんな距離感が気になる。

 

「お、おう……明日は何もないぞ」

「そ、そっか……う、うん……」

 

 何やら鈴は大きく深呼吸を何度も行い、俺には聞こえないほどに小さな声でぶつぶつと呟きながら拳を握り締めて、そして覚悟を決めたかのように顔を上げて俺を見てくる。

 

「あ、明日の日曜日……あ、あたしとで、で、出かけるわよ!」

「……お、おう」

「い、言ったわね!? 良いって言ったわね!?」

「お、おう」

「男に二言はないわね!?」

「も、もちろん」

「よっし……やった」

「っっ」

 

 本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら小さくガッツポーズをする鈴を見て思わずドキッとしてしまい、鈴が可愛く見えてしまう。

 確かに鈴は同年代の女子と比較しても可愛らしい部類なんだが今の鈴はいつもとはレベルが違う。

 

「じゃ、じゃあよろしくね!」

 

 そう言い、大きく手を振りながら鈴は自分の部屋へと戻っていった。

 鈴という支えを失った俺の部屋の扉はゆっくりとしまっていき、ガチャリと物音ひとつない静かな部屋に驚くくらいに大きく木霊する。

 

「……」

 

 彼女の笑顔を見て多分、きっと―――おそらく当たるであろう予測を立てる。

 そんなことを考えていると再びドアがノックされ、何も言わずに扉を開けるとそこに立っていたのは何やら袋を持った簪だった。

 

「簪? どうした?」

「あ、あの……い、いち……一夏っ」

 

 先ほどの鈴と似たように簪の表情もどこか赤く見える。

 今日はやけに女の子が来るなと思っていると俺に袋が差し出され、それを受け取って中を見てみると中には大量のブルーレイディスクが入ったケースがあった。

 

「これって」

「わ、私のお気に入りの作品……まだ初期の作品は見てないって言ってたから……」

「おぉ、ありがと! これどの順番で見ればいい?」

「え、えっとまずは」

 

 同じタイミングで袋の中を覗き込んだものだから顔が至近距離まで近づき、互いの呼吸音が聞こえる中、簪とぱちりと目があい、一気に彼女の顔が紅潮する。

 

「ぁっ……」

「だ、大丈夫か?」

「……ま、また感想教えて!」

「あ、おーい!」

 

 脱兎のごとく簪はこの場から駆け出して行ってしまった―――と、思いきやすごい勢いで振り返るともう一度俺のもとへと戻ってきて目の前で立ち止まる。

 

「あ、あの!」

「お、おう」

「……ま、また専用機作るから……て、手伝ってほしいのっ!」

「おう! またと言わずいつでも手伝うぞ!」

 

 そういうと簪は嬉しそうに笑顔を浮かべて俺の手を取り、握手すると再び駆け出し、曲がり角付近で立ち止まると小さく俺に手を振る。

 

「んじゃ俺も……あれ、いるよな」

 

 扉を開けようとした時、脳裏にあの事を思い出し、振り返って机の引き出しを開けると誕生日にラウラからもらった漆黒の軍用ナイフが現れる。

 キャノンボール・ファストの夜、プライベートな時間に襲撃を受けて以来、俺の中でずっと考えていたことが護身用の武器を持つこと。

 もちろんISという世界最強の武器があるけど周囲のことを考えればやっぱりISを使わない想定で護身用の武器を持っていた方がいい。

 雪片弐型を街中で振り回すわけにもいかないしな。

 

「よし……行くか」

 

――――――☆――――――

「……」

 

 曲がり角を曲がったところで壁にもたれかかり、胸に手を当てると自分の心臓はびっくりするくらいに鼓動を強く、そして早く打っている。

 しかし、その状態はどこか心地よくてうれしい。

 

「手、繋いじゃった」

 

 勢いに任せて体が動くままにするとあのように彼の手を取ってしまった。

 

「……一夏」

 

 その名を呼ぶと体が暖かくなってあの時、取ってくれた彼の手の温もりが蘇る。

 ―――ヒーローのように駆けつけてくれた格好良い一夏。

 ―――私を助けてくれた大好きな一夏

 何度拒絶しても傍によってくれて、自分を助けるために行動して、そして長い間にわたって悩んでいた悩みをも解決してくれた一夏に簪の心は完全に奪われていた。

 

「……映画……行きたいな」

 

 早速、簪は学園近辺の映画館を探し、いつまで最新作の劇場版が公開しているのかリサーチをしながらリズミカルにスキップで自室へと戻っていった。

 

――――――☆――――――

 

「ん~……ん~」

「会長~。さっきから何うろうろしてるの~?」

 

 聖マリアンヌ女学園中等部の通用門付近でその瞬間を今か今かと待ちながら右に左にうろうろ動き、時には通用門から顔を出して外を確認する蘭の姿があった。

 同じ生徒会メンバーが声をかけるも彼女の耳に届いていない。

 

「会長、誰か待ってるの?」

「ふぇ!? ま、まあ」

「だれだれ!? 彼氏!?」

「ち、違うけど」

 

 本当はそれを一番欲しているのだが現状、蘭の立ち位置からすればそのポジションを手に入れるにはもう少し時間がかかってしまう。

 

「招待券はお持ちですか?」

 

 その時、そんな確認の声が聞こえたがそんな声など朝から何回も聞いていた蘭にとってはどうでもいい声なので完全に無視をして彼の到着を今か今かと待つ。

 何度もスマホを取り出しては連絡が来ていないかを確認するが画面に表示されるのは時刻のみ。

 

「早く来てよ~」

「お待たせ」

「なにっ……いい、い、一夏さん!?」

 

 後ろから聞こえてきた声を生徒会メンバーだと思い、振り返るとそこには今の今まで待ち続けていた想い人が立っており、思わず変な声を上げてしまう。

 その声を聴き、周囲の女子たちが蘭の方へと視線を向け、やがてはその近くにいる一夏のもとへと向ける。

 

「あ、あれって織斑一夏?」

「本物だ~。誰の招待で来たのかな?」

 

 織斑一夏と言えば一時期はニュースに引っ張りだこであり、超有名人かつ顔も整っておりいわゆるイケメンだったので女子人気も高い。

 それは聖マリアンヌ女学園も同じ。

 そんなちょっとした有名人と一緒に文化祭を回れるということにちょっとした優越感を感じながらも蘭は満面の笑みを浮かべる。

 

「よっ。ちょっと遅れて悪い」

「ぜ、全然! ちょ、ちょうど生徒会の仕事も終わったので!」

「またまた~。ずっと待ってたくせに~」

「ちょっ」

「ん? 待っててくれたのか? そりゃ悪いことしたな」

「ぜ、全然! 待ってません! 断じて待ってません!」

 

 キッ! と生徒会メンバーを強くにらみつけ、余計なことを言うなと視線だけで伝えるとメンバーたちは蜘蛛の子を散らすようにその場から駆け出して行った。

 

「にぎやかだな」

「にぎやかすぎて毎日困ってます」

「まあ、にぎやかな方が毎日楽しいと思うぞ」

「そ、そうですか……じゃ、じゃあさっそく行きましょう! 学園をご案内します!」

「おう! よろしく頼むぞ、生徒会長」

「はい!」

 

 蘭は一夏の腕に抱きつき、太陽のように明るい満面の笑みを浮かべながら彼を引っ張っていく。

 

(今日くらいはいいよね。だってたまにしか会えないもん!)

 

 聖マリアンヌ女学園の生徒会長としてはすこし相応しくないかもしれないが今の蘭は一人のうら若き恋乙女であり、そんな彼女に学園のしきたりなど意味をなさない。

 蘭は普段会えないさみしさを発散するかのように一夏の腕に抱きつきながら大好きな一夏とともに学園の文化祭を回るのであった。

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