Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百十話

 次の日の日曜日、俺は学園の門の前―――ではなく、駅前の駄犬ダメ公の前にいた。

 この駄犬ダメ公は伝説があるらしく、なんでも飼い主がここで待て、と言ったのは良いが数秒もたたないうちに主人を見捨てて綺麗なお姉さんについていったらしい。

 そのあまりのダメさ加減に見上げた誰かが寄付金を募って建てられた、のだとか。

 

「……だからこんないやらしい顔してるのか」

「おまたせー!」

「いでぇ!?」

 

 思いっきり背中を叩かれ、慌てて後ろを振り返るとトレードマークのツインテールを揺らす鈴がおり、悪戯成功と言わんばかりににやにやと笑っている。

 俺を誘った時の雰囲気はどこへ消えたのかいつもの彼女だ。

 

「隙を見せちゃうなんてあんたもまだまだねぇ」

「俺はプライベートモードだからいいんだよ」

「ま、いいわ。じゃ、行くわよ」

「行くってどこに? 何も聞かされてないけど」

「本物の中国人が選ぶ日本で食べられる超絶美味しい中華料理巡りよ!」

 

 そもそも鈴の実家がまだ料理屋を経営していた時に食べさせてもらった中華料理を超える料理を俺は食べたことがないので正直、あれを超える味が日本にあるとは思えない。

 ただ、彼女が言うのだから本当においしいんだろう。

 

「ほら、一学期の時に約束してたじゃない。あたしが行きたいところに行くって」

「そういえばそうだな」

 

 いろいろとバタバタしていた一学期だったのでお互いに忘れてしまっていた。

 多分、この日のために鈴はいろいろと調べてきてくれたんだろうし、いつもならエスコートは男がするもんだが今日は鈴に任せるとしよう。

 

「じゃあ、案内頼むぞ」

「任せなさい! じゃ、行くわよ!」

「っっ!」

 

 鈴がごく自然に俺の手を取り、グングンと前に進んでいく。

 いきなり手を繋がれ、ドキッとしてしまい、彼女に声をかけようと顔を上げたその時、少しだけ鈴の顔が赤く染まっているのが見えてしまって口を閉じてしまう。

 誘ったあの時とは違っていつも通りに見えたがそれはどうやら気のせいみたいだ。

 

「鈴」

「な、なによ」

「……こっち見ろよ」

「……」

 

 歩く速度を少し落としたものの鈴は俺の方は向かず、まっすぐに前を見続ける。

 その時、横から歩きスマホをしている男性が鈴めがけてまっすぐ直進しているのが見え、反射的に彼女の腕を引っ張って俺の方へと引き寄せる。

 男性は邪魔だと言わんばかりに軽くにらみつけてきたので思いっきり睨み返してやると相手の男性はスマホを落としかけながらそそくさと歩き去っていく。

 

「あぶねえなあいつ……大丈―――」

「……」

 

 思いっきり引き寄せたためか鈴の体はすっぽりと俺の腕に納まっており、傍から見れば抱き寄せた形に見えるし、何よりジーっと鈴が俺のことを見つめてくる。

 少し顔を紅潮させ、目をトロンとさせる彼女の表情があまりにも綺麗すぎて目が離せない。

 

「……大丈夫か?」

「ぁ……う、うん」

 

 しかし、鈴は俺から離れようとしない。

 公道のど真ん中なのでとりあえず彼女の腰に手をまわし、ゆっくりと歩き始めるがもうさっきから心臓がバクバクと強く鼓動を打っている。

 こんなにも至近距離に鈴がいるのはほとんどない。

 

「み、店はどこなんだ? は、早く行こうぜ」

「……ゆっくり」

「え?」

「ゆっくり……行きたいな」

「っっっ!」

 

 目を涙で潤わせ、上目遣いで見られながらそういわれた俺の精神はもうとてつもないくらいに揺れ動き、自分を抑えるので精いっぱいだった。

 少しでも気を抜くと衆人環視の前で抱きしめそうになってしまう。

 彼女の腰に回している手から妙に熱い感触を感じているのは―――きっと気のせいだろう。

 

 

――――――☆――――――

(やばいやばいやばい!)

 

 あまりのドキドキから思わず叫びたくなる衝動を必死に抑えながら鈴は腰を抱かれながらも大好きな一夏とともにお店までの道をゆっくりと歩く。

 事前に下調べした道では十分程度で到着するはずだったがすでに十五分は歩いている気がする。

 あれだけ一夏と一緒にお店に行くのが楽しみだったはずなのに今は一夏とこうして密着しながら歩いているだけで幸せを感じてしまっている。

 

(あ、あたしから手つないだけど腰を抱かれるとか予想外よ!)

 

 一世一代の各語を決めた鈴の予想ではこの後に行く遊園地で限界を迎えるはずだったがそんな予想は一瞬にしていい意味で裏切られてしまった。

 

(絶対にあたし、顔真っ赤じゃない……一夏は)

 

 ちらっと彼の顔を見てみると彼も同じように顔を真っ赤にしており、少しだけ安心した―――同時に一夏がこの状況にドキドキしてくれていることが何よりうれしかった。

 

「と、ところで鈴」

「ふぇ!? な、なに?」

「と、通り過ぎてないか?」

「え、ウソ!?」

 

 一気に現実へと引き戻された鈴は慌ててスマホで現在地を確認すると彼の言うように確かにお店を大きく通り過ぎており、慌てて引き返そうとするが人の波にのまれてなかなか進めない。

 

(やばいやばいやばい! 予約時間の三分前じゃない! ここ予約時間を一分でも過ぎたらキャンセルされるって有名なのにー!)

「一夏! 飛ぶわよ!」

「バカ! こんなところで展開したら千冬姉から出席簿アタックじゃすまされないぞ! 走るぞ!」

 

 再び手をつなぎ、お店へ向かって走り出す。

 人の間を抜けていきながら全力疾走する―――鈴は少し昔の記憶を思い出していた。

 転校して少し経ってからはこうやって手を取り合っていろんなところを走り回っていた。

 それは彼女の中では楽しく、そして幸せな思い出として胸に秘めていたがそれに匹敵するほどに今のこの瞬間が幸せでたまらなかった。

 

(ぁぁ……やっぱり好きだ)

 

 一夏の背中を見ながら鈴は少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

――――――☆――――――

「美味かった~」

「どうよ、あたしのリサーチ力」

「流石は本場の味を知る、だな」

 

 若干のニンニク臭を気にしながらも俺たちはモノレールに乗り、次の場所へと向かっていた。

 鈴の言うように確かにさっきの店が出してくれる中華料理は美味しかった。

 何でもかんでも辛いわけではなく、食べやすいレベルの辛味なので箸が進む進む。

 

「で、次はどこに行くんだ?」

「ふふ~ん、次はここよ」

 

 鈴のスマホが目の前に差し出され、見てみるとそこには懐かしい遊園地の写真が写っていた。

 そこは小学校の頃、遠足で遊びに行った遊園地。

 

「なんでまたここに?」

「ま、まぁ昔を楽しみながらって感じよ」

「なるほど」

 

 ふと、外の景色を見てみると空は雲一つない快晴で昨日の激しい戦いが嘘みたいに平和を感じる。

 このまま平和な日々をみんなと一緒に過ごしたい―――そのためには俺自身の問題を解決しないといけないが規模が大きすぎる。

 一つは束さんに命を狙われていること、そしてもう一つは亡国機業の仮面の女に狙われていること。

 

「一夏?」

「ん? どうした?」

「なんか思いつめた顔してたけど」

「……このまま平和に過ごしたいなって思ってた」

「……そうよね。あたしもそう思う」

 

 正直、この一年は良くも悪くもいろいろなことが頻発しすぎている。

 そんなことを考えているとモノレールの速度がゆっくりと落ちていき、遊園地の最寄駅が見えてくる。

 最寄駅から直進ルートで入園できるとあって昔から人気だったし、今日も日曜日ということもあってこの駅で降りる人は多い。

 

「あ、ねえねえ! 見てあの着ぐるみ!」

「おぉ、懐かしいな」

 

 駅ホームに到着すると窓からマスコットキャラクターがお出迎えしてくれる。

 これもある意味、ここが長きにわたって人気な理由なのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ~!」

「写真撮るわよ写真!」

「お、おい引っ張るなって」

 

 鈴に腕を引かれながらモノレールを降り、出迎えてくれたマスコットのもとへと向かうと手早くスタッフにスマホを渡し、マスコットの両脇を固める。

 一瞬で撮影が終わると再び鈴に手を取られ、エントランスへと向かう。

 

「そういやチケットは?」

「ふふん。この日のためにデジタルチケットを手配済みよ!」

 

 長蛇の列ができているチケット売り場を素通りするとエントランスに設置されている機械にスマホをかざすとゲートが開き、ものの数秒で入園できてしまった。

 小学生の頃は団体集合場所で並んで座ってチケットを配ってもらってたな~、としみじみと思い出しているとぐいぐいと鈴に引っ張られていく。

 ふと顔を上げると目の前には高くそびえたつ乗り物があった。

 

「まずは落ちるわよ!」

「いきなり激しいなおい!」

 

 活発な鈴らしいと言えば鈴らしい。

 そしてどうやらファストパスでも取っていたらしく、専用レーンを通ってそのまま乗り物の座席に座る。

 

「楽しみ~!」

「それにしてもスムーズに行くな~。さすがは鈴だな」

「そりゃそうよ! あんたと行くんだから引っ張りまわさないと」

「はは、なんだそれ」

 

 出発を告げる合図が鳴り響くとゆっくりと乗り物が上へと上がっていく。

 昔はこんな絶叫系の乗り物は嫌いだったけど今じゃこれ以上のある意味、絶叫系の兵器を毎日のように使ってるんだから人生分から――――――

 

「ううぉぉぉぉぉっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 一瞬の浮遊感とともに猛スピードで急降下し始め、思わず叫びをあげてしまう。

 ISでこれ以上の速度を出しているとはいえ、生身で速度を感じるのは違う。

 ちらっと鈴を見てみると心底叫び声を出して満面の笑みを浮かべており、本当に楽しそうだった。

 

「あはははっ! 楽しかったわね!」

「ISとは違うスピードだったな」

「よし、次はあれ乗るわよ!」

 

 手を取られ、向かった先はジェットコースター。

 

「……鈴さんや、まさか今日一日絶叫系で攻めるんじゃ」

「……い、行くわよー!」

 

 

――――――☆――――――

「ぜぇ……ぜぇ……」

「あはははははっ! 最っっ高!」

 

 あれから一時間ほど経過し、小休憩を取ることになったが俺と鈴ではリアクションが百八十度違った。

 まずジェットコースターに乗ったはいいが次も絶叫系、その次も似たような絶叫系と心穏やかになるようなアトラクションには乗らず、ほとんど心臓がバクバクするようなものばかりだった。

 俺は疲れ果てているがなぜか鈴はピンピンしている。

 

「お、お前どんな体力してんだよ」

「なに? あんたあの程度で息切れ? 学年最強の名が泣くわよ~?」

「五連続絶叫系は流石にきついって」

 

 というかこの遊園地に来てから乗ったアトラクションはすべてが絶叫系だったような気がする。

 そのどれもを鈴は全力で楽しんでピンピンしているんだから底なしの体力だ―――ISの特徴と搭乗者の性格は似るのだろうか。

 甲龍は燃費がいい、それに対して白式は燃費が悪い―――まさかな。

 

「じゃあ次はあれよ!」

「次……」

 

 鈴がびしっとまっすぐ指さす方向を見てみるとそこにあったのは―――まさかの観覧車だった。

 先ほどとは打って変わっての意趣返しに思わず固まっていると早く、と言わんばかりに鈴に手を取られ、観覧車の乗り場へと向かっていく。

 鈴の手が少し、湿っていたのは―――気のせいだろう。

 

「それではいってらっしゃいませ~」

 

 スタッフに見送られ、俺たちが乗ったゴンドラがゆっくりと上がっていく。

 お互いに見合うように座っているが先ほどとは打って変わって静かであり、互いに話が出てこない。

 

「ね、ねえ」

「ん?」

「……と、隣座って……いい?」

 

 その言葉にドキッとしながらも小さく頷くと鈴は俺の隣に座り、そして―――俺の肩にもたれかかる。

 ふわっと香る香水の匂いが余計に俺をどきどきさせてくる。

 

「ねえ、一夏」

「お、おう」

「一夏はさ……IS動かしたこと……後悔してる?」

 

 そういわれて俺は別の意味でドキッとしてしまう。

 正直、後悔しているか否かと聞かれると―――後悔していないと言えばうそになる。

 これまでに起きたアクシデントの数々を振り返ってみても原因は必ずと言って俺だ。

 クラス対抗トーナメントの侵入者もそう、学年別トーナメントのラウラの暴走もそうだし、臨海学校や学園祭、キャノンボール・ファストの自爆テロ未遂などすべては俺がいたから。

 もちろん俺がいなくても亡国機業は活動していた、でも俺がいなければここまで大々的にIS学園をターゲットにするかと言われたら正直、NOだと思う。

 

「あんたたまに思いつめた顔してるでしょ? あの時って……何考えてるの?」

「……考えるんだ。俺がISを起動しなければもっと平和なIS学園だったのかなって」

「……」

「俺がいなかったら鈴がトラウマを負うこともなかった……ラウラが暴走することも……臨海学校でのあの事件もなかったんじゃないかって」

「そっか……でもあたしはあんたがISを起動してくれてよかったと思ってる」

 

 それは慰めでも何でもない―――鈴の本音なんだと思う。

 

「そりゃ色々あったわよ……でもその色々を超えるくらいに……あたしはあんたと一緒に色んな思い出を作ることができた。それはきっとみんなだって一緒よ。セシリアもシャルロットもラウラも箒も……みんな、あんたがISを動かしたからここにいるの」

「でも俺がISを動かしたから傷ついた人もいる」

「そうね……でもあんたは救おうと必死に戦ってきたじゃない……少なくともあたしはあんたに救われた」

「鈴……」

「傷つけたんならその分、助けれるように戦えばいいのよ……あたしだっているし、みんなだっている。あんたは一人じゃないんだから」

 

 そう言われ、俺は何も言わずに鈴の方を向くとパチッと目が合う―――そしてゆっくりと鈴の手が俺の顔を包み込むようにして伸びる。

 

「私は皆を守るために戦う……そんな一夏が……大好き」

 

 予想はしていた―――セシリアの告白されて以降、みんなと関わっている中で俺はずっと考えないようにしていたこと。

 でももうそんなことは言ってられない。

 

「あたしを助けてくれるあんたが……大好きなの。小学校の時から……ずっと」

「……鈴」

「どんな形であれあたしはあんたの返事を待ってるから……」

 

 俺は何も言わずに鈴を抱きしめた。




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