Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百十一話

 IS学園が休校期間に入っているため、「休みだー!」と雄たけびを上げたのも束の間、まさかの凄まじい量の課題を用意され、大多数が涙をのんだという。

 その大多数の中に俺も入っているわけだが今日は課題とは違う部分で悲鳴を上げている。

 

「織斑君! こっちにありったけのケーブル持ってきて!」

「はい!」

「こっちには特大レンチと高周波カッター!」

「はいはいー!」

「空中投影ディスプレイを八個ほど追加してくださいな~。あと小型発電機も~」

「はいぃぃっ!」

 

 簪との約束通り、彼女の専用機の開発を手伝っていた。

 今回は俺や楯無さんのつてをフルに活用して整備科2年生のエースである黛先輩、横のつながりの京子さんとフィーさん、そして布仏姉妹と豪華フルメンバーだ。

 そして俺は肉体労働を一手に引き受けるというポジションだった。

 正直、重いものを運ぶのは慣れているし、俺の出番はそんなにないだろうと高を括っていたんだがこれが凄まじいまでに間違いだった。

 まず、ISの整備で使用する機材というのは大型なものが多い。

 ケーブル一本にしてもパソコンで使用するケーブルなど比じゃないくらいに太いし、使うときは複数で使うので束にして持つとこれがまたダンベル並みに重い。

 

「織斑君、こちらにはレーザーアームをください」

「おりむ~。データスキャナー借りてきて~」

「デ、データスキャナーってどこ!?」

「地下の機材室~」

「く、くそぉぉぉぉぉっ!」

 

 整備室にはエレベーターがなく、機材の持ち運びはすべて機材用昇降機を利用して地下から運び上げるんだけどこの前の襲撃によるダメージで昇降機が故障しており、使用不可能。

 つまり大型機材も階段を使って運べということだ。

 一応、先生からはISの展開許可は特別にもらっているのである程度は楽ができるが狭い空間でスラスターを吹かせることなどできないのでせいぜい、部分展開して運ぶくらいだ。

 

「データスキャナー……ってでかっ!? で、でか!?」

 

 地下へと降り、機材室の扉を開けてデータスキャナーを見つけるがそのあまりのでかさに思わず二回も叫びをあげてしまった。

 IS用の機材なのである程度でかいのは覚悟していたけど予想以上だ。

 

「……や、やってやる!」

 

 白式を部分展開し、データスキャナーを肩に担ぎ、階段は少し浮遊した状態でスラスターを細かく吹かしながら進んでくがこれまた難しい。

 ただこれも鍛錬だと思えば苦ではない―――苦ではない!

 

「お待たせ! データスキャナーです!」

「ありがと~」

 

 布仏姉妹は言葉を交わすことなくアイコンタクトのみで意思疎通を図っており、その動きに寸分の狂いも誤差もなく、ぴったりと合わさっている。

 そしてもっとすごいのが簪だ。

 ハードウェアとソフトウェアの両方を同時に試験稼働、データ蓄積、フィードバック調整と凄まじい量の業務をこなしている。

 入力機器の使い方も通常のタッチコントロールはもちろん、ボイス・コントロール、アイ・コントロール、ジェスチャーとほぼすべての方式を使いこなしてさくさくと進めている。

 のほほんさんのサポートがあるとはいえ、これだけの量の作業を同時並行で進め、エラーの一つも出さない正確な作業は天晴の一言だ。

 

「一夏……お茶が…欲しい」

「あいよ」

 

 ストロー付きのボトルを彼女の口元まで運ぶとストローを咥えて凄い勢いで飲み干していく。

 

「作業は順調か?」

「うん……酩酊状態のときに作っていた……データが基盤にしているから……前よりも楽」

 

 ふと、彼女の胸元に貼られている医療用テープが見える。

 簪曰く、チョーカーから極小サイズの注射器のようなものが突き刺されていてそこから薬品が投与されて彼女を酩酊状態にしていたらしい。

 薬品による影響も検査はされたけど後遺症や依存症の類は見られなかったらしい。

 

「俺がもっとうまく止められてたらよかったんだけど」

「それ以上は……言わない約束」

「そうだな」

 

 蒼炎瞬時加速による一撃でチョーカーどころか打鉄弐式を木っ端みじん―――とまではいかないものの大ダメージを与えてしまったのは事実。

 というか蒼炎瞬時加速の威力に耐えるチョーカーって何なんだ?

 

「織斑君! 私にもお茶!」

「はい!」

「髪留め止めなおして!」

「は、はい!」

「わはぁ。お菓子~」

「お、お菓子!?」

「おりむ~、汗拭いて~」

「え、えぇ!?」

「自分で拭きなさい」

 

 後半、私的な使い走りがあったような気がしたけど俺はみんなの気が散らないように肉体労働を一手に引き受けていく。

 途中、のほほんさんから助けを求める目で見られたが華麗なスルーを決めてみせた。

 

――――――☆――――――

 

 一夏が目の前を右往左往、縦横無尽に走り回る姿を簪は膨大な値の羅列を処理していきながら視界に収め、作業を進めていた。

 自分を助けてくれたヒーローである一夏が傍にいればどんな不可能なことでも出来るような気がする―――そんな希望を簪は抱いていた。

 

(強くて…格好いい……ヒーロー)

 

 自分が抱えていた問題を颯爽と駆けつけて解決してくれた。

 正直、彼のことを深く知るまでは女たらし程度にしか思っておらず、多数の専用機持ちの女子たちを堕として手籠めにしていると考えていた。

 

(もしかしたら……あの時から……もう)

 

 夏休みに入る前、自分を頼りに来た時に助けてくれたあの時からすでに自分は彼の毒牙にやられていたのかもしれないが今となってはよかった気がする。

 こうして誰かを頼っていいということ、そして織斑一夏を大好きになれたから。

 

(……この作業が終わったら……誘おう。明日の映画……これで彼も……界隈に沼らせられる)

「っっ!? 気のせいか」

 

 一夏がぶるっと震え、周囲を見渡したのを見て簪は小さく笑みを浮かべた。

 

――――――☆――――――

『更識さん、どんな感じ?』

 

 第六アリーナにてテスト飛行を行っている簪はオープン・チャネルから聞こえてくる黛さんの質問に答えるかのようにタワーの外周をトップスピードで駆け抜けていく。

 この前のようなことが起きないようにと俺も念のために白式を展開して簪の後ろを追いかけている。

 

『うんうん。機体は完成と言ってオッケーかな。あとはマルチ・ロックオン・システムだけど』

 

 打鉄弐式の最大武装でもある山嵐は計四十八発のミサイルを同時発射するものだけどその威力を最大限生かすためには全てのミサイルを独立させて稼働させるというシステムが必要不可欠になる。

 むろん、簪の頭脳があればあの時の戦いのようにすべてリアルタイム処理することも可能だけど実際に戦闘でそれを毎回するわけにはいかない。

 

『本当に手伝わなくていいの?』

「はい……私じゃない私が作ったシステムは……いりません。私がちゃんと……作ってこそ本当の……この子の完成になるから……」

『うん、わかった。また調整が必要になったらいつでも言ってね』

「あ、ありがとう……ございました」

 

 現在の時刻は夜の八時五十分。

 あと十分もすればアリーナが閉められるので今日はこの辺で作業は切り上げだろう。

 そう思って地上へと降りようとした時、後ろから手を引かれたので振り返ると顔をうつ向かせた簪が俺の手を軽く握っていた。

 

「簪? どうかしたのか?」

「……い、一夏も……ありがとう」

「おう。専用機、完成してよかったな」

「う、うん……全部、一夏のおかげ」

「全部じゃないだろ」

「ううん、全部だよ……お姉ちゃんとの確執も……私の凝り固まっていた考えも……一夏が全部壊してくれた……だから打鉄弐式は完成した」

 

 簪はそう言いながら俺の手を両手で握り、顔を上げる―――その顔はどこか赤い気がする。

 

「だから……一夏は……わ、私のヒーロー」

「……簪」

「ヒーローはいつだって助けてくれる……一夏は……そんな人」

「……ありがとな」

「こちらこそ……あ、明日……一緒にこの映画、見に行こう」

 

 目の前に一枚のディスプレイが表示される。

 それは簪が勧めてくれていたシリーズ作品最新作の劇場版―――ディスプレイの奥から見える彼女の目がどこかドロッと沼のようになっているのが気になるが気のせいだろう。

 

「あ、これ最新作の」

「うん……チケット獲れたから」

「あぁ、行こう……その代わりに」

「?」

「……課題、手伝ってくれ。特にIS分野が進まないんだ」

「……うん。いいよ」

 

 そう言いながら満面の笑みを浮かべる彼女の表情にはもう影は見えず、ようやく俺は彼女の本当の笑顔を見ることができた気がして嬉しかった。

 きっと、マルチ・ロックオン・システムも簪なら完成させることができるだろう。

 俺はそんな少し先の未来のことを楽しみにしながら簪とともに第六アリーナの出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ちなみに簪によってシリーズ作品を全制覇し、無事に沼ることになった。

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