Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百十二話

 休校も無事に終わり、超濃密な特別時間割が組まれて授業が再開されたがあくまで授業が再開できる最低限の修繕が終わっただけでまだ痛々しい傷跡は残っている。

 それに楯無さんもまだ傷が完全に癒えていないので入院中だ。

 そんな超濃密な授業の週の土曜日。

 

「「……」」

 

 時刻は十九時ちょうどを指し示している今、俺と箒は目の前にそびえたつ超が四つほど付くくらいに高級感漂うホテルの前にいた。

 正直、学生がいて良い場所ではない。

 なんせホテルに入っていく人のほとんどが見ただけでわかるくらいに高いドレスに身を包んでおり、付けている時計やネックレスなどの装飾品も輝いて見える。

 

「こ、ここに入るのか」

「そ、そうだな……場所は合っているぞ」

 

 箒ともう三度目にもなるチケットに書かれているホテル名や場所を確認するが何回見ても場所は合っているし、ホテルの名前もあっている。

 なので間違いないんだがどうも居心地が悪い。

 

「と、とりあえず入るか」

 

 箒の手を取り、エントランスを入ると明らかに場違いな服装をした学生が入ってきたので全員が変なものを見るかのような目で俺たちを見てくる。

 そしてパチッと目が合った初老のコンシェルジュが静かにこちらへやってくる。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか」

「あ、あのこのホテルのレストランに」

 

 そう言いながら黛先輩のお姉さんからもらったチケットを渡すとコンシェルジュは何度か俺たちとチケットを見ながら納得したのか女性のスタッフを一人呼びつける。

 

「では女性はこちらへ。ドレスの貸し出しがございます」

「は、はい」

 

 箒は女性スタッフの案内のもとホテルの奥へと連れられて行く。

 高級ホテルのレストランとだけあってサービスは最高だ。

 なんせ俺たちみたいな十代の学生でも参加できるようにドレスの貸し出しまで―――そこまで考えたところで俺は女性スタッフの発言に引っ掛かりを覚えた。

 

(……さっき、女性って言ったよな)

 

 まさかと思い、初老のコンシェルジュを見ると頭のてっぺんから足のつま先までしっかりじっくりと見定められ、コンシェルジュが一言、呟く。

 

「大変恐縮ではございますが本日はドレスコードの関係上、ご案内いたしかねますことをご了承くださいませ」

「……え、え? 入れないんですか?」

「申し訳ございませんが」

「い、いやでも連れが中に入ってるので……」

「申し訳ございません」

 

 女性にはドレスの貸し出しを行い、男性は追い返すという久しぶりの女尊男卑の雰囲気をあてられてしまい、茫然としてしまう。

 IS学園にいると大半が優しい子たちだからか今の世界情勢を忘れてしまうことがある。

 学園じゃ学年最強だのなんだのと言われているから男性差別を受ける機会はめっきり少ないが外じゃまだまだ男性差別は根強く残っている。

 

「近くでここにふさわしい服を買える場所とかないですか?」

「三階のショップで買うこともできます」

「ちなみに一番安いお値段は」

「十万円ほどです」

(無理でーす。高校生が十万円も払えませーん)

 

 一瞬、学園の制服でもと思ったけどこのレベルのホテルならむしろ学生服はIS学園だろうがどこだろうが追い返しそうな気もする。

 何かいい手はないかと考えてみるが正直、何も思い浮かばない。

 このままでは箒が一人で高級レストランという居心地の悪さマックスの場所でしみじみとディナーを食べることになってしまう。

 

「はぁ」

「あら、どうかしたの?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返ると紫色のドレスに身を包み、大きな胸を惜しみもなく開放し、ストレートにおろしている金髪の女性がいた。

 俺はその女性の顔を見た瞬間、思わず白式に触れようとするがその女性は小さく笑みを浮かべながら俺だけに見えるようにウインクをする。

 

「ス、スコール・ミューゼル!」

「おぉ、これはミス・ミューゼル」

 

 そういい、初老の男性は深々と丁寧にお辞儀をするが俺はそれどころではなかった。

 目の前にいる女性は亡国機業の戦闘部隊を統率するテロリストであり、俺の命と白式を狙っている女性だ。

 そんな女性がなぜ、こんなところにいるのか。

 

「お前、なんで」

 

 その時、スコールが一歩大きく踏み込み、俺の耳元に口を近づける。

 

「ホテル火の海にするわよ」

 

 ぼそっと俺にだけ聞こえるように囁かれたスコールの言葉に俺はそれ以上何も言えず、とりあえず殺気を収めようと心を落ち着かせる。

 満足そうな笑みを浮かべながらスコールは俺から離れる。

 

「どうかしたの? トラブル?」

「えぇ。お客様のお召し物が当ホテルの規定に合わないものでしたから」

「あら、そうなの? 入れてあげなさいよ。彼はとっても……良い男よ」

「ミス・ミューゼルのお願いでしてもこればかりは」

 

 ん~、と軽く顎を能きながらわざとらしく考えるそぶりを見せるスコール。

 正直、キャノンボール・ファストの時に出会ったような雰囲気は微塵も感じられず、あの時と同じ人物かと聞かれれば一瞬戸惑ってしまう。

 それくらいこの場の空気にスコールは溶け込んでいる。

 

「だったら織斑一夏君。服を買いに行きましょう」

「……お前、何言ってんだ」

「私が服を買ってあげればそれで大丈夫よね?」

「ええ。我々は」

「じゃあ、決まりね」

 

 そう言いながらスコール離れた手つきで俺の手を取ろうとするが自分で歩ける、と言わんばかりに彼女の手を振り払う。

 呆れたように小さくため息をつきながらスコールがゆっくりと歩き始めたので後ろからそれを追いかけ、エレベーターに乗り込むが彼女の対角線に立つようにして距離を離す。

 

「あなたみたいな一般庶民が来るとは思わなかったわ」

「……俺を殺しに来たのか」

「まさか。今、私はパーティーに来ているの。大富豪はいろいろと忙しいのよ」

「ふざけてるのか」

「ふざけてなんかないわよ。今日はあなたを殺しに来たわけじゃないわ」

 

 雰囲気だけを見れば確かにドレス姿なのでそんな殺伐とした目的があるようには見えないが相手は亡国機業のテロリストだ。

 信頼も信用もできるはずがない。

 そんなことを考えているとエレベーターが三階に到着し、扉が開くとスーツやタキシードがずらっと並んでいる店内の景色が目の前に広がる。

 

「いらっしゃいませ、ミス・ミューゼル。今日はどのように」

「彼に合うスーツを見繕ってほしいの。これで」

 

 スコールは真っ黒なカードをスタッフに渡すと慣れた手つきでスタッフはそれを受け取り、周りのスタッフに目配せを行うとすっと俺のもとへとやってくる。

 スコールがいるので関係者かと思わず身構えてしまうがスコールはそんな俺の姿を見てケラケラと笑うだけ。

 

「安心なさい。ここは本当に無関係だから」

 

 そういわれ、俺は軽くスコールをにらみつけながらスタッフの案内に従ってついていく。

 そこからは普通に採寸やスーツの試着、ベルトや革靴などパーティーに必要なものをてきぱきと進められるが後ろにスコールがいるせいで気が気でない。

 スコールは面白そうなものを見ているかのようにニコニコと笑顔を絶やさない。

 諸々が終わり、スタッフが俺たちの傍から離れていった頃―――

 

「あの女の子、篠ノ之束の妹よね?」

「っっっ!」

「だから何もしないわよ……何もしないからナイフから手を離してちょうだい」

 

 誕生日の時にラウラからもらったナイフに手を置くがスコールにはすぐに見破られてしまう。

 亡国機業の襲撃があるかもしれないということで護身用で持っていたけどまさかこんなすぐに使うことになるかもしれないとは思ってもいなかった。

 

「ねえ、妹にお願いして博士に連絡を取って頂戴。ディナーの約束を取り付けたいの」

「冗談もほどほどにしろよ……何が目的だ」

「冗談じゃないわよ。本当にディナーがしたいだけ」

 

 あの時のようなテロリストの空気じゃないので本音なのか冗談なのかが掴みきれない。

 チラッと周囲を見渡してみると更識の護衛らしき人の姿が見えたけど近くに一般のスタッフがいるせいでこちらに近づききれない。

 

「まったく……ほんと信用していないのね」

「当たり前だろ。お前はテロリストだ。そんなやつを信じる奴がいるか?」

「それもそうね。だから更識の護衛も周りにいるわけだし」

「……」

「お待たせいたしました。こちらのフィッティングルームにどうぞ」

 

 先ほどのスーツを俺のもとへと持ってきたスタッフの案内に従い、フィッティングルームに入ってカーテンを閉めるが額から冷や汗が流れる。

 こんな密室の空間で何かをされるかもしれないという疑念がある。

 それこそ彼女のISは炎を扱う機体だ。

 カーテンで視界が遮られている中、頼れるのは白式からの通知だけ。

 なるべく早くにスーツに着替え、カーテンを開くとぱちぱちと乾いた拍手が聞こえ、音の方を見るとスコールが俺を見ながら拍手をしていた―――わざとらしく。

 

「あら、似合ってるじゃない。さすがはIS学園のハーレムキングね」

「黙れ。何が目的だ」

「疑り深い男は嫌いよ? 今日は本当に何もないの」

 

 そう言いながらスタッフから黒いカードと一枚の紙を受け取るとそれを半分に折り、俺の胸ポケットにそっとしまうと小さく笑みを浮かべる。

 

「私はね、若い男の子にプレゼントをするのが好きなの」

「ミス・ミューゼル。ご注文の品です」

「ありがとう、請求書はいつものところに回しておいて」

 

 そういい、後ろから近付いてきたエプロン姿の男性からバラの花束を受け取るとそれを俺に渡そうとするが怪しさマックスの物を俺は受け取る気にはなれない。

 そんな俺に見かねたのか大きくため息をつき、無理やり俺の手に持たせる。

 

「女性とディナーをするときは必ず花束を贈りなさい。あなたのように強い男ならば当然よ」

「……」

「そのスーツを着たあなたにバラの花束を贈られてみたいものね……ま、その時はバラの花じゃなくてあなたの心臓かもしれないけど」

「……」

「“私は”、何もする気はないわ。じゃ、楽しいディナーを楽しんでね。織斑一夏」

 

 スコールは小さく手を振りながらエレベーターに乗り込んでいった。

 俺はしばしの間、バラの花束を持ちながら何もなかったことに呆然としていたが箒を待たせていることを思い出し、エレベーターに飛び乗ってすぐさま最上階のホテルへと向かう。

 エレベーターの扉が開くとすぐさまスタッフが傍にやってきて俺を案内してくれる。

 そこはレストランの一番奥の席で夜景がよく見える席―――そしてそこには落ち着かなさそうにきょろきょろと周囲を見渡している箒の姿があったが何よりその美しさに目を奪われた。

 

(……きれいだ)

 

 紅椿と同じ紅色のドレスに身を包み、両肩を大胆に露わにしたカッティングが彼女の輪郭をどこか儚く、けれど決然と際立たせていた。

 

「お、お待たせ」

「……い、一夏」

「あ、あとこれ……」

 

 箒は驚きながらも俺からバラの花束を貰うと顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに表情を緩める。

 

「あ、ありがとう……うれしい」

「そっか……よかった」

「本日はスペシャルディナーにようこそおいでくださいました。順番にコースのお料理を提供させていただきますがお二人は未成年のためミネラルウォーターを提供させていただきます。ごゆっくりどうぞ」

 

 深々とお辞儀をされて俺たちも半テンポ遅れてお辞儀をするとスタッフは静かに立ち去っていく。

 学園の食堂や五反田食堂のようにガチャガチャと音は響いておらず、静かに食事と談笑を楽しんでいるアダルトな空気にくらくらしそうだ。

 

「い、一夏」

「ん?」

「……そ、その……格好いいぞ」

「あ、ありがとう……箒もそのドレス……すごくきれいだ」

 

 薄暗い照明のために相手の顔色ははっきりとお互い見えていないだろうがおそらく俺も箒も顔を真っ赤にしていることだろう。

 

「私は貸出だが……お前はそのスーツはどうしたのだ」

「ま、まあ……ちょっとな」

 

 その時、胸ポケットに入れられた紙を思い出し、取り出して中身を見てみるとそこには0が七つほど並べられている気がした。

 恐らく照明がほの暗いので数え間違いだろう―――そうに違いない。

 

「お待たせいたしました。前菜の甘海老のマリネとメロンのガスパチョでございます」

 

 スタッフが言っていたメニューの名前が長すぎるのとカタカナが多すぎて聞き取れなかった。

 お皿にはそれはそれは奇麗に盛り付けられており、ドレッシングも食堂みたいに適当にかけられているのではなく模様の一つであるかのように芸術的にかけられている。

 手元を見てみると使い慣れたお箸がなくあるのはナイフ・フォーク・スプーンしか用意されていないので周囲を見渡してみるが誰一人としてお箸など使っていない。

 

(危うく店員さんを呼ぶところだった)

 

 使い慣れないフォークをお互いにぎこちない動きをしながらなんとか食べる緊張と高級レストランの空気にやられて味があまりわからない。

 そんなことを考えているとスタッフが再びやってくる。

 

「スズキのポワレ 夏野菜のエチュベ添えでございます」

(分からん分からん! ポワレってなに!? エチュ……ってなに?)

 

 その後も肉料理やお口直し、デザートと順当にコース料理が運ばれてくるが恥をかかないように気を張って食事をするので精いっぱいだった。

 全てのコース料理が終わり、レストランを後にした俺たちは大きく息を吐いた。

 

「か、肩が凝った気がする」

「わかる。俺もだ」

 

 お互いに顔を見合わせてそう言うとどちらからともなくぷっと噴き出してしまい、笑ってしまう。

 箒は笑みを浮かべながら借りた衣装を返すべく女性スタッフの案内で更衣室へと向かい、俺は箒の帰りを壁にもたれながら待つことにした。

 

「今度はもっと庶民的なところに箒を誘おう。味の思い出が全く――――――」

 

 その時、視界の端で人影が見えたような気がしてそちらの方を向くと一人の女性の後ろ姿が見えたがすぐに上階へと上がっていったため、すぐに視界からは消える。

 でも俺はその後ろ姿を見てすぐさま駆け出した。

 

「何が何もしないだ……亡国機業(ファントム・タスク)っっ」

 

 一瞬だけ見えた後ろ姿―――それは間違いなく仮面の女だ。

 

 

 

 

――――――☆――――――

「ふぅ……やっと肩が軽くなった……一夏?」

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