Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百十五話

「―――! しっかりしろ!」

 

 箒が聞き取ることのできない言葉を発しながら―――の腕を掴んでいる。

 確かに彼女は―――の顔を見ながら、そして―――の目を見ながら叫んでいるというのになぜか違う人の名前のような単語を叫んでいる―――気がする。

 いったい何を叫んでいるのか、音が飛んでいるかのように聞き取れない。

 

「…ほう……き」

「―――!? よかった……よかった」

 

 箒は声が聞こえたことがそんなに嬉しかったのか―――の手を握り締め、静かに涙を流す。

 隣には少し顔色の悪い楯無さんもいてその表情は心底、安心したかのような表情だ。

 上を見るがすでにスコールとあいつの姿はどこにもなく、ディナーを楽しんでいた時のように静かな空間が広がっていた。

 その時、あいつに切られたことを思い出し、手をゆっくりと動かしながら傷口を確認するがすでに傷は白騎士の生体再生のおかげで塞がっている。

 

(痛みはある……ありがとな、白騎士)

「―――の馬鹿者が……突然、いなくなったかと思えば……寿命が縮んだぞ」

「―――君、立てる?」

 

 楯無さんと箒が何度も聞き取れない何かを発しており、誰に対して言っているのか理解できずにいると二人の手が差し伸べられ、ようやく―――に言っているんだと理解できた。

 手を借りて鋭い痛みを我慢しながら立ち上がる。

 

「箒ちゃん、下に私の家の者が待機しているから合流して車をよこしてほしいの」

「わかりました!」

 

 箒はその場から駆け出し、下へと降りていく。

 支えを失い、立つことが出来なくなった俺はゆっくりとひざを曲げてその場に座り込むと楯無さんも限界だったのか同じように座り込んでしまう。

 

「ねえ、―――君」

(これからどうするべきか……とりあえず状況を整理しないと……)

「―――君?」

(あいつが言っていたこと……識別外個体のこともそうだし……あいつの存在も)

「―――君!」

「っっ!?」

 

 突然、耳元で大きな声を出されてしまい、肩を大きくびくつかせながら驚きを露わにすると楯無さんも――の反応に驚き過ぎたのか目を見開く。

 確かにさっきから何か言葉を発していたのは気づいていたけどこっちに対して発していたとは思わなかった。

 

「ぇ、ぁ……な、なんでしょうか」

「あなたもしかして自分の名前を……」

「……」

 

 この人に隠しても無駄だと察し、小さく頷く。

 あいつに撃墜されて以降、聞き取れない言葉のようなものが存在していること、そして自分を言い表す一人称の言葉が分からないことを楯無さんに告白する。

 そしてはっきりと理解できる単語が―――識別外個体(アウト・ナンバー)だけだということも。

 

「自分のすべてを……奪われた、とでもいう状況なのね」

「……はい」

 

 楯無さんが何も言わずにスマホを取り出したので嫌な予感がして彼女の手を掴むと驚いた表情の彼女と目があってしまう。

 彼女もすぐに意図を理解したのかスマホをなおしてくれた。

 

「ダメよ……これはもう私の手には負えない次元まで来ているの」

「それでも……それでもあの人には言わないでください」

「……あなたもしかして千冬さんまで」

 

 今の自分は何もないからっぽで空虚な存在だ。

 ただでさえいろいろなことで迷惑をかけてきているのに今度は存在のほとんどを奪われたということを伝えればあの人に対してどれほどのダメージを与えるかもわからない。

 

「これ以上、あの人に迷惑をかけるわけにはいかないんです」

「でもいずれ気づかれるわ……いいえ、千冬さんのことならあなたを一目見た瞬間に理解するはずよ……そうなれば千冬さんはきっと悲しむわ……そしてあなたは後悔する」

「それでも……それでもあの人には伝えないでください……この場で起きたのは箒との楽しいディナー、そしてディナーの後に亡国機業の襲撃があって自分がけがをした……それだけです」

 

 自分の懇願を聞き、楯無さんはそれでもなお悩む様子を見せる。

 今までの様子だと間違いなく楯無さんは自分が知らない事実を知っているし、あの人とも自分が知らないレベルの部分で交わっているはずだ。

 それは更識という家が関係しているはず―――だから楯無さんは悩んでいる。

 自分の願いを聞き入れて黙るのか、それともあの人との取り決めを遂行するのか。

 

「もうこれ以上……あの人を悲しませたくないんです」

「……分かったわ」

「楯無さん……」

「ただし、やるからには徹底的に隠すわよ」

「はい」

 

 もうこれ以上、あの人を悲しませないためにもやらないといけない。

 姉さんに気付かれる前に―――すべてを取り戻す。

 

――――――☆――――――

 

 楯無さんの家の車で学園の前まで送ってもらい、自分と箒はゆっくりと歩きながらも一言も言葉を発さずに寮に向かって歩いていた。

 本当だったらディナーの感想を言いながら楽しく、笑顔のはずだったのに自分のせいでその楽しかった思い出すらも壊してしまった。

 

「……悪いな、箒。ディナー、台無しにして」

「……お前は何も悪くない……悪くないんだ」

 

 箒は必死に慰めてくれようとするけど言葉が見つからないのかありきたりな表現が出てくる。

 そんな状況が悔しいのか箒は唇をきゅっと噛み、スカートの裾を強く握りしめ始め、肩を震わせ始めてしまい、終いには泣き始めてしまった。

 自分はそんな彼女を見ていてもたっておれず、彼女を優しく抱きしめる。

 

「ごめん……本当にごめん」

「違う……違うんだ……あの時……あの時私が止めていたら……お前は」

 

 きっとスコールに押し出されて道を開けてしまったことを箒は悔やんでいるんだと思う。

 あの時、道を開けなければすべてを奪われることはなかったのに、と彼女は考えているんだろうけど正直、それはお門違いだ。

 むしろ悪いのは―――自分だ。

 楯無さんの叫びを聞いた瞬間に目を閉じるなり、顔を伏せるなりしてあいつの顔を見なければこんなことにはなっていなかったはずだ。

 自分は―――負けたんだ。何もかも。

 

「箒……巻き込んでごめん」

「お前は謝るな……謝らないでくれ」

「わかった……じゃあ、ここからはお互いに謝るのは無し、だな」

「そうだ……」

 

 箒はそう言いながらより強く自分を抱きしめてくるので自分もそれに応えるように彼女を強く抱きしめた。

 

 

――――――☆――――――

 どこかの高級ホテルのベッドにてスコールはタブレット端末を見ながら紅茶を飲んでいると扉が開けられ、部屋にオータムが入ってくる。

 

「スコール……あいつから通信だ。IS学園に未登録のコアがあるってよ。それも2個だ」

「へぇ……学園は政府にコアはすべて破壊したって報告したらしいけど……ブリュンヒルデね」

「どうする? 動くか?」

 

 オータムの言葉にスコールは顎に指をあて、少し考えながらタブレット端末に表示されている情報にも目を通すがその表情はあまり芳しくない。

 スコールの表情を見ただけでオータムは次に出てくる言葉を理解するが先走らず、スコールの口から出てくるのを待つ。

 

「いいえ、今は動かしている作戦を優先させましょう。コアの情報は適当にアメリカにでも流しておきなさい」

「そう言うと思った」

「流石は私のオータムね」

 

 そう言うとオータムは嬉しいのか顔を赤くし、スコールの隣に座るとベッドが軋む。

 

「聞いたぞ……織斑一夏が崩壊したって」

「しっ……今は識別外個体(アウト・ナンバー)、ね」

「あいつが勝手に言ってるだけだろ。こっちからすれば織斑一夏はあいつであっちがエムだ」

「まぁ、それはあの子にしかわからないこと……一般人が触れてはいけないことなのよ」

「そうか……気持ち悪いくらいに機嫌がいいのも放置、がいいってことだな」

「その通りよ……私たちは私たちがするべきことをするだけ」

 

――――――☆――――――

 学園の地下に創設されている特別権限を持つ教師だけが入室を許可される場所で千冬は二つのISコアを眺めながらコーヒーを優雅に飲んでいた。

 彼女が持つタブレットに表示されているのは大規模非常事態訓練の実施要項だった。

 

「餌は最高級を用意したんだ……しっかりと釣られてくれよ……テロリストども」

 

 前回の襲撃の際に回収された未登録のISのコア。

 それは全世界が喉から手が出るほどに欲しているものであり、世界のパワーバランスさえも一瞬にして変えてしまうほどのもの。

 その情報を千冬はあっさりと前回の当事者たちに流した―――もちろん限定的に、ではあるが。

 

「学園に悪は必要ない……すべて一夏のた―――」

 

 そのとき、パタンという音が聞こえて振り返るとデスクに置いてあった写真立てが倒れており、何気なく写真立てを起こすと指先に鋭い痛みが走る。

 ガラス製の表面は倒れた際の衝撃のためか粉々に砕け散っており、デスクには破片がばらまかれていた。

 その写真立てに収められているのは幼いころの一夏とともに写った思い出の写真であり、不吉なことに一夏の顔の辺りのみガラス部分が砕けている。

 

「……」

 

 不吉な予感に苛まれた千冬は慌ててスマホを取り出すがそこにはメッセージの類は表示されていない。

 

「……一夏」

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