Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百十七話

 火曜日、自分は妙な緊張感を抱きながら自室を出た。

 昨日、楯無さんとリハビリにリハビリを積み上げ、なんとかいくつかの単語を聞けば反応できるようにはしたつもりだけどそれでも不安だ。

 

「―――」

(大丈夫だ……自分ならやれる)

「―――!」

(みんなを騙すようだけど……巻き込まないためにも)

「―――! ちょっと!」

「うぉぉっ!?」

 

 突然、腕を強く持たれて叫ばれて思わず驚きながら後ろを振り返ると鈴が立っているが向こうもいきなり叫ばれたためかかなり驚いた表情でこっちを見ている。

 恐らく名前を呼んでいたんだろうけど完全に認識外にあったから聞こえなかった。

 

「な、何よいきなり」

「こ、こっちのセリフだ……焦った」

「焦ったってあたし、さっきから呼び続けてたんだけど」

「え、あ……悪い。考え事してた」

 

 ふ~ん、と鈴は怪しさ全開の自分を見てくるが彼女なりに結論付けたのかすぐに表情を戻すと自分の横に立って一緒に校舎を目指す。

 一緒に歩きながらちらっと彼女の表情を横から見るが普段通りの鈴の表情。

 

(よかった……怪しまれてないな)

「そう言えばあんた、もう体調は大丈夫なの?」

「あ、あぁ。昨日一日休んだから最高だ」

「ふ~ん……ならいいけど……そういえば白式はどうなのよ」

「白式か? まぁ、整備は終わったけどまだ全快ってわけじゃないんだよな。今度、倉持技研に行くし」

 

 この前の学園襲撃の際に全専用機が多大なダメージを負ってしまった。

 特に上級生の専用機の損傷具合はかなりひどいらしくなんでも楯無さん以外の上級生組は本国での緊急整備を余儀なくされてしまったほどらしい。

 一年生組も無傷とはいかないが当面の間の使用禁止命令が出されてしまった。

 

(まぁ、自分の場合はそれ以上の不具合があるんだけどな)

 

 とてもじゃないがそのことは誰にも言えない―――自分というアイデンティティーを失った今、白式の展開は非常に不安定なものになっている。

 一応、展開できなくはないが自分の意思に反して武装が収納されたり、逆に展開されたりと不安定だ。

 自分が自分じゃなくなった以上、白式も困っているんだろう―――こいつは本当に搭乗者なのかと。

 ふと視界にIS学園の校舎がうつり、思わず足を止めてしまう。

 

「……」

「ん? どしたの?」

 

 鈴が不思議そうに見てくる。

 目の前の建物には自分のことを呼ぶ人たちがたくさんいる―――そんな人たちを傷つけずにキチンといつも通りを装えるのかが不安だ。

 

(手が……震えてる……そうか)

 

 怖い―――この校舎に入ることが怖いんだ。

 何もかもを失った自分がこの校舎に入っていいのか、識別外個体(アウト・ナンバー)である自分がここにいて良いのかが分からなくて怖い。

 

「―――?」

 

 鈴が自分の顔を見てくる。

 自分が認識できない言葉を発する彼女は本当に今、ここに立っている自分のことを心配してくれているのかが分からなくなってきた。

 

「ちょっと……あんたまだ体調悪いんじゃ」

「い、いやそんなことないぞ……行こうか」

 

 鈴をこれ以上心配させまいと意を決して校舎に一歩、足を踏み入れた瞬間―――

 

「―――だ」

「―――君、元気になったんだ」

「―――君! おはよ」

 

 必死に周りの人たちに自然を装って返事をしようとするがなんと返事していいか分からないし、そもそも本当に自分に対して話しかけているかもわからない。

 だからどう返事していいか分からないし、自分のことを話していないのに突然話しかけられても向こうも困るだろう。

 自分が認識できない言葉が自分の周りで次々と覆うようにして吐き出されるのがとてつもなく怖く、そして体の奥底から吐き気が上がってくる。

 

「悪い鈴……ちょっとトイレいくから先行っててくれ」

「え、う、うん」

 

 鈴にそう言うと自分は近くの男子トイレに向かって周囲を見向きもせずにまっすぐ走っていった。

 

――――――☆――――――

「……」

 

 トイレに向かって真っすぐ向かっていく一夏の背中を鈴は目で追いかけていたがあまりの不自然さを前に彼女は立ちすくむしかなかった。

 周囲がどれだけ声をかけても不自然なくらいにキョロキョロ周囲を見渡し、反応も数テンポ遅れて、しかもほんの一瞬だけの言葉だけ。

 いつもの彼なら笑顔を振りまきながら挨拶をして少しの会話だってしていたはずなのに今日はそれがない。

 体調不良、という言葉だけで片付けるにはあまりにも不自然だった。

 

「……一夏」

 

――――――☆――――――

「おぇぇぇ! うぶっ……うぉぇぇっ!」

 

 この学園で自分のためだけに急遽、設定された男子トイレで自分は吐き続けていた。

 もう胃の中にあったものはすべて吐き出したがそれでも吐き気は収まらず、奥からすっぱさを感じる液体だけがさっきから出続けている。

 必死に吐き気を抑えようと口を手で押さえるけどそんなこと意味をなさないくらいに嘔吐が止まらない。

 口の隙間から、指の隙間から漏れ出てくる胃液は止まることを知らず、自分の体から栓が狂った蛇口から出てくるかの如く流れ続ける。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 ようやく少し落ち着きを取り戻したので口元を軽く洗って壁にもたれかかる。

 吐いている途中でチャイムが鳴っていた気がするけどこの場から動ける気がしないし、何より立ち上がる気力する湧いてこない。

 

「……」

 

 さっきから蛇口から永遠に水が出ているので少し手を伸ばせば栓を閉められる―――でも手を伸ばすという行為にすら気力が湧かない。

 これほどまでに自分を失うということがつらいとは思わなかったし、同時にリハビリに付き合ってくれた虚さんや楯無さんにも申し訳ない。

 

「大丈夫っすか~?」

「……あなたは」

 

 上から声が聞こえ、顔を上げてみると個室の扉の上から顔をのぞかせている女子生徒がいた。

 ここは男子用に変更されているはず、と突っ込む気力すら湧かずに顔を伏せるとその女子生徒は扉を開けて自分の傍へとやってきて腰を下ろす。

 三つ編みを結ったぼさぼさの髪を首に巻いているその人はリボンの色が自分の学年とは異なっており、ようやく先輩だと気づいた。

 

「私はフォルテ・サファイアっす。よろしくっす」

「……」

「て言っても挨拶も返せなさそうっすね。保健室いくっすよ」

「いや……ちょっと休めば」

「んな顔面蒼白でげーげー吐かれちゃ放っておけないっすよ」

 

 若干、無理やり気味に腕を持たれて立たせてもらい、肩を借りながらゆっくりと保健室に向かっていく。

 やはりチャイムが鳴っていたのか廊下には人っ子一人見えず、廊下は静まり返っている。

 

「……先輩は教室、行かなくていいんですか?」

「私っすか? 良いんすよ……あ~、よくないか。また怒られちゃうっすね」

 

 先輩は笑いながらそう言うがその表情に反省という二文字は見当たらない。

 

「本当なら朝礼だけ受けてすぐに本国に帰る予定だったんっすけどね」

「本国……国に帰るんですか?」

「そうっすよ。この前の戦闘でコールド・ブラッドが大破しちゃったっすからね」

 

 小耳に挟んだような気がする。

 あの時の戦いで自分たちの専用機はもちろん生身にも怪我を負ったわけだけど上級生たちは自分のISが大破しただけで済んだって。

 やっぱり上級生の実力は違う。

 

「やっば。そろそろ行かないと大目玉食らうっす!」

「も、もう……大丈夫ですよ」

「本当っすか? ちゃんと保健室いくっすよ!」

 

 そう言いながらフォルテ先輩は自分を近くのベンチに座らせると近くの自販機で飲み物を購入し、自分のすぐそばにそれを置く。

 

「それはあげるっすよ! ちゃんと冷えてあるからゆっくり飲むっすよ~!」

 

 フォルテ先輩はそう言いながら自分に向かって大きく手を振り、学園の玄関ゲートへ向かっていく。

 先輩の姿が見えなくなったところでベンチに倒れこむようにして横になる。

 正直、座った体勢を維持するのも辛く、こうやって横になっていても吐き気はマシにならないし、眩暈まで出てきてしまい、自分のコンディションは最悪だ。

 その時、頭の傍に先輩が買ってくれた飲み物が目に入り、触れた瞬間、あまりの冷たさに手を引いてしまう。

 

「……凍ってる?」

 

 缶をよく見てみるとキンキンに冷えているどころか冷気を発するほどに氷漬けにされており、長時間持てば低温火傷をするんじゃないかと思うほどだ。

 こんな芸当ができるのはISしかない。

 

「……冷気が気持ちいい」

 

 冷気が漂ってくるのがちょうど心地よく、徐々に眠気がやってくるがそれに抗うことなく自分は目を閉じた―――意識を堕とす寸前、誰かが傍にやってきた気がした。

 

――――――☆――――――

「お待たせっす!」

「おせえよ!」

「っっ!?」

「時間ギリギリにくんなっつっただろ!」

 

 一夏と別れた後、フォルテは学園の門の前で待っていたダリルと合流する―――しかし、普段は見せない烈火のような怒鳴り声に思わず肩をびくつかせる。

 

「ご、ごめんなさいっす」

「……わるぃ。オレもいいすぎた」

 

 ダリルは申し訳なさそうにそう言うとフォルテを優しく抱きしめ頭を優しくなでる。

 普段見ない怒鳴り声に思わず驚いてしまったフォルテだったがすぐに普段の愛しい彼女に戻ったことで安心し、その胸に顔をうずめる。

 

「さ、行くっすよ」

「おぅ。婚前旅行と行こうじゃねえか」

「何言ってんすか! 専用機の修理っすよ」

 

 フォルテは笑みを浮かべながらそういい、ダリルの手を握るとともに歩き始める。

 ダリルも愛しい彼女の歩幅に合わせて歩き始めるが彼女には見えないようにスマホを手に取り、時間を一瞬だけ確認すると安心した表情を浮かべ、ポケットにしまう。

 

「そう言えばなんで今日から行くんすか? 予定じゃ明日からだったっすよね?」

「ん? ま、気分だ気分」

「ふ~ん」

 

 フォルテはそう言いながらダリルの腕に抱き着く。

 二人はまるで本当に婚前旅行に行くかのような幸せオーラ全快で学園の外へと向かっていく。

 

 

 

 

 

――――――彼女は気づいていなかった。

 

――――――自分のことを強くにらみつける一つの視線が校舎から伸びていたことに。

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