Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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すみません。仮面ライダー見てたら遅れました。


第百十九話

 その後も校舎に入れない現象が続いた自分がみんなと合流できたのは5時間目から実施される1学年合同の実技授業からだった。

 とはいっても相変わらず体調は最悪で吐き気はするし、周りから見られている視線は感じて不快だし、眩暈はするしで最悪のコンディションだ。

 あれからラウラと視線が合うこともなく、普段とは違うただならぬ空気に仲間たちも気づいているのか敢えて何も話しかけてこない。

 

「先日の襲撃事件で7名の専用機持ちの機体、もしくは肉体面で重篤な傷を負っている状態だ。そのため、当分の間は学年合同で実技授業を再開しようと思う」

 

 ラウラは内臓損傷、シャルは片手の大やけど、セシリアは頭部の傷、そして自分はアイデンティティーの喪失と学年の専用機持ちのうち半数が重症レベルの怪我だ。

 簪の打鉄弐式も完成はしたとはいえ、まだマルチ・ロックオンシステムは完成していないので実質、全開の状態でISが使えるのは箒と鈴くらいだ。

 

「では一般生徒は山田先生の指示に従って訓練機による模擬戦に入れ。専用機持ちは前に集合」

「さあ皆さんはついてきてくださ~い」

 

 山田先生の指示一つで全員が即座に移動を開始する当たりやっぱりIS学園所属の生徒はレベルが高い。

 自分が中学の時なんか――――――

 

「うっ……ぉぇ」

「―――、大丈夫?」

「放っておけ。我々の心配などいらないそうだからな」

「……ラウラ」

 

 突然の猛烈な吐き気に口を押えているとシャルが心配して近寄ってくれるがラウラの冷たい一言に立ち止まり、そのまま元の立ち位置に戻っていく。

 今の吐き気は過去の記憶を思い出したからだろう。

 過去の自分と今の自分は完全につながりが立ち切れている感覚なのか昔のことを思い出すと反射的に強い吐き気が込みあがってきてしまうようになった。

 感覚的に言えば他人の記憶が入っている、そんな感じだ。

 今は意識して昔を思い出さないようにしているけどふとした拍子に思い出してしまうと今のように強い吐き気を感じてしまう。

 

「お前たち専用機持ちにはこいつを使ってもらう」

 

 そう言いながら後方にそびえたっている巨大なコンテナを指さす。

 

「IS……じゃない」

「ISハンガーではないとすれば別の何かですわね。―――先生、この中には何が入っているのですか?」

「そう急かすな」

 

 呆れたようにそう言いながらリモコンのスイッチを押すとゴゴゴゴッ! と重厚な音を立てながらコンテナが開かれていき、その内側に収納されているものを明らかにしていく。

 コンテナ内に収納されていたのはISとは違う金属製のアーマーのようなもの。

 

「これは……最近開発されてるっていう」

「―――、こいつの名称を答えろ」

 

 金属製のそいつは金属のアーマーでありながら凄まじい重厚感を放っており、その原因は背中に取り付けられている非常に大きなボックスだ。

 ISもある意味、金属の塊だけど目の前にあるそれが抱えているでかいボックスは十キロでは済まないのは目に見えて分かった。

 

「―――」

(そういえばなんでみんな黙ってるんだ?)

 

 突然、みんなが黙ったのが気になって周りを見てみるとなぜか全員が自分の方を見ており、さらには先生までもが自分のことをじっと見ていた。

 右からも左からも前からも見られてかなり気持ち悪くなったがすぐに察した。

 

「あ、え、えっと……こ、これってなんですか?」

 

 普段ならここで先生の鉄拳が放たれてみんながずっこけていたはずなんだが全員が何も言わず、何も行動せずただ自分のことを見てくる。

 

「……これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲【EOS】だ」

 

 先生が目の前の金属の鎧について説明を始めてくれるが今はそれどころではなく、ただただ姉さんに自分のことを不審な目で見ていないかが心配だった。

 ただ、今の失態をしてしまった以上、疑いの目を向けているのは確かだ。

 

「ではこれより、お前たちにはこいつの実稼働データを取ってもらう」

「は、はぁ……データを取って何になるんですか?」

「……少し考えてから発言するように」

「す、すみません」

「EOSはまだ開発段階だ。バッテリーパックの性能もフル充電で十数分しか持たないうえに……まぁ、ここから先の特性は自分たちの身で確かめると良い」

 

 先生はそう言うとさっさと装備しろと言わんばかりに目線で訴えかけてきたので自分たちはそれに従ってEOSを装備していく。

 普段、ISの自動展開に慣れていることもあって機動装甲を着るという作業に苦労するがなんとか全員が10分足らずで装備できた。

 ただ問題はここからで―――

 

「な、なんですのっ……この重量は」

「や、やばすぎでしょ……きゅぅっ」

「た、ただの金属の塊……だ」

「こ、これは……ちょっと」

「むきゅっー」

「か、簪―!」

「うむ、こんなものか」

 

 見た目を裏切らない凄まじい重量のまえに自分たちは動かすことさえ苦戦を強いられていた。

 総重量で言えばISの方が重いがあちらにはPICをはじめとする様々な補助機能の恩恵があるため、肉体にかかる重さは皆無だ。

 ただこのEOSとやらは比較に値しないほどに重い。

 まず、補助駆動装置はついてはいるがISなどとは天地の差の性能であり、お話にならないレベルだ。

 そのあまりの重さに簪は変な声を出して背中から倒れてしまい、動けない。

 

「ではこれよりEOSを使っての模擬戦闘を行う。防御機能は装甲にしかないため、生身の部分は攻撃しないこと。武器はペイント弾だがあたるとそれ相応に痛いぞ……はじめ!」

 

 突然響く開始の合図と同時にローラーの駆動音のような音が鳴り響き、顔を上げると脚部ランドローラーを使って操作に戸惑っている箒めがけて突っ込んでいく。

 箒は向かってくるラウラめがけてパンチを放つが腰も入っておらず、動きもままならないヘロヘロパンチ。

 ラウラはそれを回転運動で回避しながら懐へと入り、腰を落として足払いをかけて箒の体勢を崩すと同時にEOS用のサブマシンガンを三発撃ち込んですぐさま次の標的に定めたセシリアへと向かう。

 

「やらせはしませんわ!」

 

 セシリアもサブマシンガンをラウラに向けて引き金を引くが射線が全く定まらず、発砲のたびに銃口があらぬ方向へとずれてしまい、そのずれ加減はラウラが回避行動をとらないほど。

 

「なんという反動ですの!? ただでさえ火薬銃だから使いにくいのに!」

 

 不満を口にするものの訓練を受けてきた代表候補生であるセシリアも徐々にその暴れ馬っぷりに慣れ、反動制御をものにしつつあったがラウラはそのすべて上を行く。

 先ほどの円運動による回避ではなくジグザグに動き回り、弾丸を回避していく。

 

「こ、この短時間でここまでの動きを!?」

「甘いなセシリア!」

「このっ!」

 

 ラウラは物理シールドを展開するとそれを壁にしたままランドローラーをフル回転させて最高速度でセシリアめがけて突っ込んでいく。

 慌てて回避しようとするセシリアだったが如何せん慣れていない兵器過ぎてまともに動けない。

 

「そらぁっ!」

「きゃぁぁ!?」

 

 最高速度のまま物理シールドの体当たりを受けて後方へと体勢を崩していく。

 何とか耐えようとするも数十キロもの凄まじいバッテリーパックの重さに耐えきれずに背中から倒れてしまい、起き上がれなくなってしまう。

 すると背部装甲に取り付けられていた背部起立アームが作動し始めるがその動きがこれまた凄まじく遅く、完全に立ち上がる前にラウラの射撃がセシリアにヒットする。

 

「これで二機だな」

「隙あり!」

 

 鈴がランドローラーを全開にしながら突き進んできてラウラめがけて外骨格アームの正拳突きを繰り出す。

 しかし、ラウラは落ち着きながら半回転して正拳突きを回避すると同時に鈴のバッテリーパックに裏拳を叩きこんだ瞬間、鈴のランドローラーがギュルルルッ! と過剰に動き始め、壁に向かって突撃していく。

 

「なんでなんでなんでー!?」

 

 ゴォンッ! という嫌な音ともに壁に顔面から激突した鈴は目をまわして地面に倒れ伏してしまう。

 

「EOSのバッテリーパックは強い衝撃を受けると過剰放電を起こすという不具合が報告されていてな。背中に攻撃を受けると過剰に電力が供給されて暴走してしまうのだ」

「―――! 一緒に行くよ!」

 

 突然、シャルが行動を開始するが真正面から突っ込んでいくだけなのでラウラの良い的だ。

 

「―――?」

「……ぁ」

 

 少し動いたところで不思議そうな表情を浮かべたシャルがこちらを振り向き、彼女と目が合うが直後にシャルの装甲にペイント弾が着弾する。

 恐らく―――いや、確実にシャルは自分のことを呼んでいたと思う。

 だからラウラに向かって一人で突っ込んでいく羽目になったんだ。

 ぽつんと一人だけになってしまった自分はサブマシンガンを抜き取るがどうにも構え方が分からなくなり、あたふたしているとラウラが少しずつ近づいてくる。

 

「構えろ……―――」

 

 まっすぐ自分の目を見ながら近づいてくるラウラを見て自分はすぐさま戦闘態勢を取ろうとするが今までどうやって腕を曲げていたのか、拳はどう握っていたのか、など基本的なことが思い出せない。

 だから今の自分の構えは非常に滑稽なものだと思う。

 

「……馬鹿者がっ!」

「っっっ!」

 

 ラウラが小さく恨めしそうにつぶやきながら拳を突き出してくる―――こんな時にどう対処すればいいのかが分からなくなり、顔を隠すように腕を交差させる。

 傍から見れば喧嘩の経験が一切ない奴がビビり散らかしているときの格好だ。

 一向に衝撃が来ず、目を開けるとひどく悲しそうな眼をしたラウラが自分のことを見ていた。

 

「……何故、言ってくれないのだ」

「っっ」

 

 自分にしか聞こえないような小声でそうつぶやくとラウラはくるりと自分に背を向けて姉さんの方を向く。

 

「教官。もうデータ取りは充分では?」

「織斑先生だ」

「あだっ……申し訳ありません」

「そうだな……データは取れた。そこまで!」

 

 姉さんの声が響き渡り、各々が感想を呟きながらEOSの装甲を解除していくが自分だけがぽつんと立ちすくんだままだ。

 ラウラと対峙して分かったのは自分のアイデンティティーをすべて失ったことで芋づる式に戦い方も不安定な状態になってしまっている。

 それもそうだろう。

 今までの戦闘の経験値や技術などは以前までの自分という意識の上に成り立っていたものなのだからそれがなくなれば不安定にもなる。

 つまり、今の自分は戦い方を忘れている―――いやそもそも戦う理由を忘れている。

 だから白式の展開も不安定だし、戦い方すらも不安定になっている。

 

「それにしてもラウラさんはなぜ、そこまでEOSの操作に長けていたのですか?」

「ドイツ軍時代にこれに似た装備を使ったことがあったのだ」

「なるほど~。どおりで上手いわけよ」

「鈴、鼻血出てるよ」

「おい、簪。しっかりしろ」

「むきゅ~」

 

 みんな集まるが自分だけがその輪に入ることができず、孤独感がさらに強くなっていく。

 理由はもう分り切っているし、みんなも今の自分の異常性に気付いてどう話しかけていいのかわからない状態になっているんだろう。

 その時、姉さんの手を叩く音が聞こえ、全員がそっちの方向に視線を向ける。

 

「これにてEOSの模擬戦は終了だ。今後は量産体制が確立されれば紛争地域などの救助活動で多大なシェアを獲得することだろう。各自、第二格納庫へEOSをなおすように」

 

 そう言い、姉さんは次の授業準備のためか足早にこの場を去っていく。

 姉さんがいなくなったことでこの場には徐々に非常に居づらい空気が流れ始め、全員が視線を右往左往させながらEOSを格納庫へとカートを用いて運んでいく。

 

(……自分のせいだ)

 

 

――――――☆――――――

「ふんふんふふ~ん♪」

 

 目の前で激しく火花が散るも全く気にも留めずに作業を続ける束は鼻歌を歌いながらただひたすら目の前の物を完成させるために常人では動かせない八本もの機械の腕を動かしていた。

 ISを生み出してから十年近くが経過しようとしている今、ずっと彼女の頭の中で漂っていた要素たちが今一つになろうとしていた。

 

「ようやくこの作業には入れるね~。これもそれも全部、箒ちゃんのお・か・げ❤」

 

 日々、束のもとへとやってくる愛してやまない妹の箒の情報は束にとっては最高の材料。

 その時、束のもとへ銀色の長い髪を太い三つ編みにした一人の少女が一枚のトレーをもって向かっていく。

 そして彼女のすぐ近くまで到着した時、まるで後ろに目があったかのように束はぴたりと作業を止めて後ろを振り返り、その銀髪の少女に満面の笑みを向ける。

 

「やあやあ、くーちゃん。どうしたの?」

「束さま、パンが焼きあがりました」

 

 そう言いながらおずおずとトレーを差し出すがその上に載っているのはパンとは言えない黒炭の何かであり、ザクザク食感を通り越して砂のようにサラサラ触感だろう。

 だがそんなものを目の前にしても束は嫌な顔一つせずにトレイを受け取ると口の中へとそれを流し込み、ゴシャゴシャと奇妙な音を立てながら黒炭の何かを食していく。

 

「うん! この前よりはパンの味がした! おいしいよ!」

「嘘です。まずいに決まってます」

「味はまずくないよ? 最初のスライムに比べたらおいしいよ!」

 

 束がひたすら褒めるものだから銀髪の少女は頬を赤くして照れてしまう。

 彼女―――クロエ・クロニクルにとって篠ノ之束という存在は彼女を構成している全てであり、命の存在や救世主などという言葉では言い表せない。

 一度は失った命に新たに命の炎をともしてくれた存在―――それが篠ノ之束。

 

「くーちゃんに一つお使いをお願いしたいんだ~」

「何なりとお申し付けください」

「一つは確認、もう一つは届け物」

「いつ頃向かえばよろしいですか? 場所は?」

「時間は明日指定でお願いしようかな」

「明日、ですか」

「うん。騒がしいときに入っちゃうのが楽だしね~。で、場所なんだけど~」

 

 

 

―――IS学園地下特別区画

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