Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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ショック


第百二十話

「ねえ、やっぱり一夏の様子、おかしいわよね」

 

 実習後のシャワー室は込み合うため、各自五分以内の使用制限をかけられているがすでにシャワー室は専用機持ちたちだけとなっているので実質、使い放題だ。

 彼女たちの話題はもっぱら最近の一夏の様子だ。

 

「そうですわね。朝も遅刻してきましたし」

「話によると保健室に行ってたらしいよ」

「放っておけばいい。やつは我々の心配は望んでいないのだからな」

 

 仕切り越しから聞こえてくるバサッと切り捨てるような鋭い言い方に面々は思わず口をつぐんでしまう。

 

「ラウラ、一夏と喧嘩でもしたの?」

「ふん。喧嘩などしていない。少し気に食わないだけだ」

「……それを喧嘩という」

「簪……一言余計だぞ」

 

 ラウラたちが話す傍で箒は一言も話さず、熱めのお湯をかぶりながらあの日の出来事を思い出す。

 幸せなディナーになるはずだったあの晩に亡国機業の仮面の女の襲撃に遭い、そして大好きな一夏は精神的な不調を訴えるようになった。

 もし、あのときもう一人の亡国機業を抑え込むことができていれば―――もしあの時、一夏をディナーに誘っていなければ―――もしあの時、取材を受けていなければとたらればの選択肢と後悔だけが募っていく。

 

「一夏さんに声をかけてもお返事もワンテンポ遅いですし」

「EOSの模擬戦の時も一夏、全く動かなかったね」

「……まるで聞こえていなかったみたいだった」

「聞こえていないというか……どっちかというと自分に話しかけられてるとは思ってなかったみたいな反応してたわね、あいつ」

 

 しかし、どれだけ彼の心配をしていても直接、彼の症状の改善ができることもないので彼女たちもどのように接すればわからない状態にあった。

 今日半日だけでどんどん暗くなっていく彼の横顔を見るのは非常につらかった。

 

「まぁ、あいつのことだから何日か経てば復調すると思うけど」

「あっ! 鈴さん! いつもいつもわたくしのシャンプーを勝手に使わないでください!」

「いいじゃないの~。セシリアって金持ちのくせしてケチよね」

「一言言ってくださればそれでいいんです!」

「高いシャンプーサイコー!」

「もう……そういえば2年生と3年生の専用機持ちは本国に戻ったそうですわね」

「あ、僕もそれ聞いた。この前の襲撃で大破したんだよね」

 

 IS学園の整備施設も非常にレベルは高く、よほどのことがない限りは学園内の設備で終わってしまうのだが本国に戻ってまで緊急整備をするということがどれほどの重大事項なのかを彼女たちは理解していた。

 現状、機体・肉体ともに万全の状態にあるのはほとんどいない。

 

「今、襲われたら結構やばいんじゃないの?」

「私は内臓損傷。シャルロットもまだ腕の火傷の影響がある」

「セシリアは頭の裂傷、結構深かったのだろう?」

「ええ。お医者様からは激しい運動は絶対禁止と言われましたわ」

「……まともに動かせるのは私と鈴、箒くらい」

「まさに戦力半減、だね」

「……ちなみにお姉ちゃんの機体もダメージレベルは高い」

「楯無さんはそれに加えて傷もまだ癒え切っていないからな」

 

 ほとんど同時にシャワーのお湯を止め、個室から出てきた彼女たちは近くにかけていたバスタオルを手に取って濡れた体をふいていく。

 一部の視線が箒の胸に集中していたのはご愛敬。

 その時、遅れてシャルロットがシャールームから出てくるがすでにその腕には包帯がまかれており、全員が一瞬視線をそれに向けるがすぐに逸らす。

 

「シャルロット。汗がひいてから包帯を巻いた方がいい。傷に悪い」

「……そうだね」

 

 シャルロットはこの面々ならばと考えたのかラウラの指摘に素直に従い、包帯を取り払うとその下からは痛々しい火傷の跡が顔をのぞかせる。

 それは前回の襲撃の際に負ってしまった深い火傷。

 

「医者からは何て言われてるのよ」

「傷としては癒えるけど……跡は残るって」

 

 同じ女性として、そして同じように愛する者がいるライバルとして、そして友人として誰一人としてそのあとに言葉を紡ぐ者はいなかった。

 

「僕は大丈夫だよ。ほら、早く着替えないと風邪ひいちゃうよ」

 

 シャルロットは手を軽く叩き、笑顔を浮かべてそう言い放つがどこかその言葉に力はない。

 

「そ、それよりも……IS学園はこれからどうなるのでしょうか」

 

 話題を変えるためにとセシリアが言葉に詰まりながら話題を出すとラウラが即座に反応する。

 

「どうにもならん。学園は学園だ……と言いたいが情勢的にはまたいつ攻め込まれてもおかしくはない」

「去年まではこんな物騒じゃなかったってよく聞くしね」

 

 シャルロットの一言に全員の脳裏に同じ言葉が思い浮かんだだろうが全員が首を横に振り、思い浮かんだ考えを一瞬で消し飛ばした。

 しかし考えられる要素はそれしかなく、それは彼女たち以外の生徒たちもうすうす気づいてはいるが口には出さないだけ。

 

「……こんなのがある」

 

 簪がそう呟きながらタブレットを全員へと向けるがその表情はあまり芳しくなく、画面を見た箒たちも一瞬で表情が負の方向に変わる。

 簪のタブレットに映し出されていたのはあるグループチャットの履歴。

 そこには学園の平和を脅かしているのは織斑一夏だの、行事がまともに実施されずに正当な評価がされなくて困っているだの、挙句の果てには全てのアクシデントは自分を際立たせるためのマッチポンプだのと陰謀論染みた発言まであった。

 

「酷い……いくらなんでもこれはひどいよ」

「ほんと陰湿よね」

「だが……この連中が言っているのは事実だ。やり方は気に食わんがな」

 

 ラウラの一言に誰もが口を閉じる。

 IS学園の行事はどの学年もほぼすべてが将来の進路に直結しており、学園での評価が自分自身の実力を示す指標であることから熱の入り方はすさまじい。

 特に進路を見据える2年生や3年生、代表候補生などは一般生徒のそれをはるかに凌駕する。

 にもかかわらず評価の指標たる行事がまともに実施されなければそのように考えたくなるのも自然の流れともいえる。

 

「ちなみに……このグループチャットは先生たちによって指導済み」

「というよりもなぜ、それを簪が知っているのだ?」

「……機密事項」

 

 箒の発言に対して簪はタブレットをカバンへと戻しながらにひひっと小さく笑みを浮かべる。

 

「今は一夏さんをそっとしておくことにしましょう」

「ほら、ラウラも機嫌なおして」

「私は不機嫌などではない」

「もうっ」

 

―――ピピッ

 

 その時、更衣室内に複数のメッセージ受信音が鳴り響き、全員がスマホを確認すると同じような表情を浮かべて互いに顔を見合わせる。

 それは織斑千冬からの招集メッセージだった。

 

――――――☆――――――

 夜も更けた二十時ごろ、薄暗い生徒会室では千冬、真耶、楯無の三人が同じ資料を見つめながら会議を行っており、表紙には全学年合同非常事態訓練と書かれている。

 

「既にこの案で承認が下りている。よって明日の早朝より実施する」

「一般生徒は学年別に順次、地下避難場への行動を実施しています」

「更識。内通者のほうはどうだ」

「はい。お昼の便で本国へと出発しているのを家の者が確認しています」

「よし……これであとは私たちが望む連中が釣れてくれれば良いんだが」

 

 表向きは頻発している非常事態へ対応するための避難訓練と銘打っているが本当の目的は学園に害をなす存在のつり上げと殲滅。

 現状、IS学園は二度の襲撃を許している。

 一度目は一学期、二度目は二学期と連続で発生していることから周囲の評価は襲撃しやすいザル警備であり、同時に学園には未登録のコアが二個、保管されている。

 コアは世界が喉から手が出るほど欲しているものであり、それがザル警備のところにあれば襲撃してくるのは明白だがそれが千冬の狙いでもあった。

 

「もう一度、IS学園を不可侵の場所へと戻す。生徒のためにも教員のためにも……悪しき者は完膚なきまでに叩き潰して学園には鬼がいることを知らしめる」

「ですが現状、学園の戦力は減少です。更識さんの機体も修繕途中ですし」

「更識、機体状況は」

「完全展開はできませんので部分展開での戦闘ならば可能です」

「おそらく今回の餌で釣れるのはどこかの国の特殊部隊だろう。軍人程度であれば部分展開で十分だ……だが油断は禁物だ」

 

 楯無は千冬の言葉に頷きながら扇子を勢い良く開くとそこには油断大敵と書かれており、いつもの彼女の調子に千冬は小さく笑みを浮かべる。

 

「ではこれで会議を終わる。更識、お前も今日は休め」

 

 楯無は千冬の言葉に小さく笑みを浮かべながら頭を下げて部屋から出ていく。

 大人だけとなった生徒会室で千冬がため息をつきながらこめかみを軽く押さえていると目の前のカップに入れられた紅茶が差し出される。

 視線を横に向けると笑みを浮かべる真耶がいた。

 

「お疲れ様です、先輩」

「あぁ……ありがとう」

「明日の作戦……うまくいきますかね」

 

 紅茶を一口飲み、カップを置く。

 

「いくさ……なんせ私が出るんだからな」

「それはそうですけど……生徒たちの方が心配です」

「……なるべく表の連中は前線には出させない。だから連中を後衛に配置したんだ」

「……織斑君は」

 

 真耶の一言に千冬は一瞬だけ何とも言えない表情を浮かべるが目を閉じながら真耶に一枚の書類を見せる。

 

「あいつには自宅待機を命じてある。どのみち、明日に倉持技研に行くからな……それにこの作戦においてあいつは不要だ」

「最近の織斑君、かなり体調を崩しているみたいですが」

「……」

「本当は先輩、今すぐにでも彼の傍に向かいたいんですよね?」

 

 真耶の言葉に千冬は何も言わずにカップを口へと運ぶがほんの少しだけカップが震えていることを真耶が見逃すはずもなかった。

 誰の目から見ても彼の不調は明らかだが今回の作戦は大部分の教師を避難訓練の方に充てなければ大混乱を巻き起こしてしまう。

 それゆえに必要最小限の教師と代表候補生たち、そして生徒会長の楯無と少数精鋭の布陣で挑まなければいけない状況になってしまった。

 

「……私はIS学園を守る使命がある。家族だけに現を抜かすわけにもいかない」

「だから無理やり倉持技研への出向を明日に設定し、今晩から自宅待機処分を課した」

 

 先ほど受け取った書類を真耶はテーブルの上に返す。

 その書類には処分の申し渡し、と大きく書かれており、以下には授業を無断で抜けた指導として自宅待機命令を課す旨が書かれていた。

 もともとそのような指導を課すつもりはなかったが状況が改善しないどころかラウラと一夏の距離が開いたことに気付いた千冬が急遽、下した判断だった。

 

「先輩のことですから自宅にも護衛をかなり付けているんじゃ」

「あぁ、今までの倍の人数を派遣しているし、なんなら自宅にも帰していない」

「?」

「自宅はすでに割れているからな……更識の家に匿ってもらっている」

「じゃあ、そこから倉持技研へ?」

「学園にいるよりかはマシだろう……話はここまでだ。真耶も今日は休め。明日は長丁場になるかもしれん」

「先輩も、ですよ」

 

 真耶は小さく笑いながらそう言うと生徒会室から去っていく。

 

「……もう一度、不可侵なIS学園へ戻す……そうしたら一夏……お前を迎えに行こう……今度こそ、誰からも手を出されない場所でお前を守ってみせる」

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