Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百二十三話

「……静かね」

「だね……今頃、みんな地下の避難場で非常事態マニュアルの説明を受けてると思う」

 

 誰もいない静かな学園の廊下に鈴とシャルロットはいつでもISを展開できるように物陰に隠れながらその時を待っていた。

 一夏を除く専用機持ちたちに通達された極秘任務―――IS学園を狙う不穏分子のつり上げと殲滅作戦。

 千冬によれば二度の襲撃によりIS学園の不可侵性は地に堕ちてしまっており、外部組織による襲撃が可能だと知らしめてしまっているという。

 

「出来るかな……あたしたちでIS学園の不可侵性を戻すなんて」

「……怖いよね」

 

 シャルロットは未だに包帯を外せないでいた火傷の腕を軽くなでながらそう呟く。

 あの時の襲撃の際に負った火傷の傷跡は医者によれば傷としては癒えても痕は残ってしまうのではないかという見解だった。

 十代の恋多き乙女にとって火傷痕が残るなど人生そのものに傷を与えてしまう。

 

「鈴はトラウマを乗り越えたんだよね……」

「シャルロット……」

「それに今、一夏はいない……怖いよ」

 

 いつになく弱気な言葉を吐くシャルロットの手は小さく震えている。

 度重なる異常事態に加えて外部組織との戦闘に駆り出されていること自体がおかしな話であり、代表候補生として訓練を積んでいるがあくまで訓練。

 今まで戦ってきたのは人のいない兵器―――しかし、今回の相手は何が来るか分からない。

 

「……あたしも怖い。もし、相手が亡国機業なら全力で行けるけど……これがどっかの特殊部隊とかだったら絶対に全力で戦う前に恐怖が勝っちゃう」

「……鈴」

「でも……あいつが帰ってくる場所は守りたいの。だって外に行って帰ってきたら学園が瓦礫の山だったら今度こそあいつ……精神崩壊するでしょ」

「……鈴は一夏に何があったか知ってる?」

 

 シャルロットの問いに鈴は何も言わずに首を左右に振り、否定する。

 鈴もシャルロットも、この二人以外にも普段接している仲間たちは一目で一夏が不調に陥っていることは気づいた―――しかし、気づいたところでどう接すればいいのかが分からなかった。

 

「きっと……一夏は僕たちのことを想って何も言わないんだろうなって」

「あたしたちを巻き込まないために何も話さない」

「僕たちが困ってるときは有無を言わさずに助けてくれる」

「そういうところが……」

「「大好き」」

 

 同時に同じ想いを口に出し、二人は小さく笑みを浮かべる。

 

「だから絶対に一夏が帰ってくる場所は」

「僕たちで守ろう」

 

 その時、学園内の明かりが一斉に消え、薄暗くなってしまう。

 廊下だけではなく電子掲示板、教室、そのほか全ての明かりが一斉に消えてしまい、学園内は奇妙な冷たさで包まれていく。

 二人が周囲を警戒しているとゴゴゴッと重厚な音を立てながら防護シャッターが下りていき、瞬時に判断した鈴とシャルロットはその場から駆け出し、向こうのフロアへと急ぐ。

 寸でのところをスライディングと同時に隣のフロアへと身を入れた鈴はすぐさま近くにあった消火器をシャッターと床の間に挟みこませ、隙間を作り出す。

 

「シャルロット!」

「鈴!」

 

 隙間から手を指し伸ばした瞬間、メキッという嫌な音ともに消火器が凹み始めるがシャルロットが鈴の手を取った瞬間、全力でシャッターの間を引っ張り、滑らせていく。

 シャルロットが隙間を通り抜けた直後、消火器がぺしゃんこに形を変形させたと同時に消火剤が周辺に爆発したかのようにまき散らされる。

 

「ありがとう……でもなんで急に防護シャッターなんか」

「二秒経ったけど非常電源にも移行しない……」

 

 直後、再び重厚な音が響くとともに窓を隠すように防護壁が降ろされていき、学園内を薄明るく照らしていた日光すらも遮断され、学園は闇で包まれる。

 その時、背後から甲高い金属音とともに何かが倒れる音がして二人は反射的にISの機能を起動し、視界を暗視界モードへと切り替え、振り返る。

 そこには斜めに切り裂かれた防護シャッターが倒れている―――するとそこから箒と簪が現れる。

 

「鈴、シャルロット。無事だったか」

「非常事態……これは作戦外の事案」

「そうね……窓も見えなくなっちゃったし」

『こちらラウラ。応答せよ』

「簪です……箒とシャルロット、鈴と合流」

『こちらにはセシリアもいるが生徒会長は』

 

 ラウラの一言に四人の表情が一変する。

 今の学園の状態は作戦外の異常事態であり、想定している敵以外の襲撃があったことを示している。

 

「まさか……学園最強の生徒会長を孤立させた?」

「お姉ちゃんの機体は……まだ部分展開しかできない……」

「……一夏を戻さないと」

『ダメだ』

 

 箒が一夏へと連絡を取ろうとしたその時、プライベート・チャネルに対して割り込み回線(インターセプト・チャネル)が挟み込まれ、千冬の冷たい声が響く。

 同時に全員の視界にマップデータが送られ、ある場所が示される。

 

『全専用機持ちは地下のオペレーションルームに集合せよ。防護壁の破壊は許可する』

「あ、あのお姉」

『私情は挟むな。以上だ』

 

 簪の声を遮るようにして千冬の冷たい声が叩き付けられ、簪は黙りこくってしまう。

 それと同時に回線が一方的に切断される。

 

「大丈夫だ。楯無さんは強い」

「……う、うん……でも、お姉ちゃん……まだ背中の傷も」

「ここは生徒会長を信じるしかない……我々で学園を取り戻すんだ」

 

 

――――――☆――――――

 専用機持ち全員が合流し、送られてきたマップを頼りにIS学園の地下特別区画に存在する極秘のオペレーションルームで整列していた。

 在籍生徒は一生、知るよしのない子の極秘の場所に一般生徒を集めるほどにIS学園は緊迫した状態であることを示していた。

 

「状況を説明する。今、IS学園は外部からの電子攻撃……つまりハッキングにあっている」

「それにより学園の全システムがダウンしています。現状、オペレーションフロアは独立電源のため、稼働できていますがそのほかのシステムは敵に掌握されています」

 

 普段とは打って変わってひどく落ち着いている真耶の姿に専用機持ちの面々は圧倒されており、なんとか話されている情報を頭にとどめることで精いっぱいだった。

 オペレーションルームには一世代前のデスクトップが設置されており、情報がすべて表示されている。

 

「全員、これを見ろ」

 

 そう言われ、全員がデスクトップに視線を向けると現在の学園内部のフロアマップが表示され、防護シャッターが降ろされている区画が赤く塗りつぶされている。

 その画面を見た瞬間、一番先に簪が小さく「ぁ」と何かに気付いたようにつぶやき、遅れて代表候補背たちが気付くが箒は気づいていない様子。

 

「お気づきの通り……防護シャッターはこのオペレーションルームへの道を作るように降ろされています。外部組織の侵入を許してしまえばまっすぐ向かってくるでしょう」

 

 真耶の補足説明を受けてようやく箒もはっと表情を一変させる。

 

「学園のセキュリティは万全……だと思い込んでいたが相手さんの技術はそれを凌駕するようだ。なんせこの短時間で学園のセキュリティを突破しただけではなく特別区画までの道を作ったからな」

 

 だが千冬の話し方には焦りなどは一切感じられない。

 そんな中、ラウラが静かに手を上げる。

 

「質問よろしいでしょうか」

「なんだ」

「なぜ、我々が一か所に集められたのでしょうか? この秘匿区画を守るのであれば侵入者を生徒会長とともに正面から叩き潰すのが一番かと思いますが」

「襲撃してくる組織が一つだけ、ならばな」

「……まさか別の組織が動いていると?」

「それも不明だ。一つの組織内に凄腕のハッカーと部隊を両立させているのか、複数の組織がいるのかは調べようがない。なんせ調べる術がない」

 

 千冬は淡々と事実だけを述べていくがあまりにも唐突な異常事態を目の当たりにしてまだ十代の少女たちはラウラを除いて動きが鈍化してしまう。

 いくら訓練を積んだ代表候補生とはいえ、所詮は訓練。実戦経験はほとんどない。

 

「ただいまよりお前たちには特殊任務を与える」

「と、特殊任務?」

 

 その説明は私が、と言わんばかりに真耶が千冬の隣に立つ。

 

「篠ノ之さん、鳳さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんにはこれからISコア・ネットワークを介して電脳ダイブを行っていただき、学園の内部システムのウイルスを破壊していただきます」

 

 真耶が淡々と作戦内容を伝えるが理解が追い付いていないのか面々は目を丸く見開き、きょとんとしたような表情で千冬の方を見るが表情を一つ変えない。

 電脳ダイブ―――それは搭乗者の意識を電子化させ、電脳空間を可視化および行動できるようにすることができるIS技術の一つ。

 しかし明確な弱点があり、それは電脳ダイブ中は搭乗者は動けず、隙だらけということ。

 

「つまり、生徒会長が侵入者を迎撃している間に我々で学園システムを正常化するということですか」

「そうだ」

「じゃ、じゃあ相手も電脳ダイブで学園をハッキングしているということでしょうか?」

「おそらくな。電脳ダイブによる攻撃は電脳ダイブでしか抵抗できん。他に質問がある者は」

 

 千冬の問いに全員が何とも言えない表情を浮かべてはいるが誰も手を上げることはない。

 

「無論、我々もこのオペレーションルームの護衛にあたる。更識は電脳ダイブのバックアップだ。ではこれよりIS学園のシステム奪還作戦を実施する! 各人はアクセスルームへ移動せよ!」

 

 専用機持ちの面々は千冬のあまりにも力強い言葉に若干気おされながらも返事をし、急ぎ足でアクセスルームへと向かっていく。

 大人だけととなったオペレーションルーム内に千冬の小さなため息が響き渡る。

 

「どいつもこいつも……舐めおって」

「織斑先生……織斑君は」

「あいつには何も連絡するな……分かっているな?」

「承知しています……では」

「私が出る。真耶、お前も準備をしろ」

 

 その一言に真耶はごくりと生唾を飲み込む。

 作戦の指揮官に徹底していたあの世界最強とうたわれた織斑千冬が戦場に立つとなればこれ以上に頼りになるものはいないだろう。

 千冬は着ていたジャケットを脱ぎ捨てとある場所へと向かう。

 そこは千冬にしか入室を許されていない特別な一室。

 指紋認証に加え、網膜による認証をパスすると開かれた自動ドアを通り、入室する。

 そこは開けた空間となっており、多数の対IS用兵器が置かれており、ロッカーを開くとそこには漆黒のボディスーツが収められている。

 それを手に取ると慣れた手つきでスーツを纏う。

 そして壁に立てかけられている六本の対IS用武装である日本刀をそれぞれ太もものホルスターに差し込み、さらに両手に刀を二本、握る。

 

「この髪型にするのも何年ぶりだ」

 

 千冬はそう呟きながらヘアバンドでポニーテールに髪をまとめているとふと棚に置かれているアルバムが目に入り、思わず一冊を手に取る。

 目に入った写真は一夏のIS学園の入学式の時の写真だ。

 

「……一夏」

 

 千冬はそう呟きながらその写真を優しくなでるように触れるとその隣の写真へと指をずらす。

 その隣には気恥ずかしそうに少しだけ不機嫌な表情をしながら学ランに身を包んでいる一夏が写っており、ふっと小さく笑みを浮かべる。

 

「このときは反抗期だったな」

 

 一ページ、また一ページとページを繰りながら思い出に浸っているとある時期のページを繰る寸前で千冬の手が止まり、手に力が入る。

 止まったページは一夏がランドセルを背負っている写真のページだった。

 過去に行けば行くほど写真の枚数は増えているがあるページよりも前には決して千冬はページを繰ろうとはしなかった。

 千冬は思い出の写真が詰まったアルバムを閉じるや否やそれを力強く抱きしめる。

 

「…会いたい……今すぐにでも」

 

 精神的な不調に陥っている姿を見た時、どれほど抱きしめたいと思ったことか。

 しかし、教員という立場、そしてブリュンヒルデという肩書がある以上、おいそれと自らの私的感情だけで職務を放棄するわけにはいかなかった。

 

「もう少しだけ待っててくれ……この学園をもう一度……不可侵の場所にしてみせる……お前は私が守る……そのためならばいかなる障害も……この世から消し去るだけだ」

 

 目に灯る決意の炎はどこか―――ある人物の愛憎の炎と似ていた。

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